任務(読書)
現在3人がいるところは王宮の最奥、王妃や妾がいないため後宮ではないが、それに近い場所に今はいる。1週間も同じところにいれば慣れもくるというもの、最初のころビクビクしてたのが嘘のようだ。ただ、3人の立場はいまだなにも変わってない。それどころか悪化してるといえるだろ。魔帝の話では、今までなんとか活動を見逃していた反乱軍はもうない。今回のことで、さすがに見逃すことはできないと、すぐに捕縛されたらしい。もはや彼らには帰る場所もない。それどころか、日本に帰る術がいまのところないと言う話だ。魔帝というこの国最高の権力者がそう言うのだから、この先も見つかる可能性は低そうだ。そもそも異世界召喚はかなりの代償を払っての術で、今では禁忌に属している。
ただ、暗いことばかりではない。1週間広い部屋にこもりっきりで何もしてないわけではない。この世界の文字を覚えるべく勉強をし、ハルカに至ってはほぼマスターしている。キョウもそんなに時間がかからず覚えられるだろう。ただ、マサルはかなりの苦戦をしているようで、少々機嫌がわるい。
ここの暮らしはなにも怯えることはない。メイドはさすが王の部屋に入る事を許されているだけあって、とても優秀で魔帝の指示には絶対に従う。勉強も知らないこともメイドに質問すればすぐに教えてくれる。親衛隊も自分達を捕まえる素振りを見せないどころか、とても気を使ってくれる。何でも親衛隊は軍とはまた別なのだそうだ。王の為にだけ存在し、王だけを守る、それが親衛隊の役目。彼らに一度、不思議で聞いたことがある。その答えは「例え世界が陛下の敵になっても、我ら親衛隊は陛下をお守りする」との答えにさらに不思議になり聞いてみた、魔帝が魔帝でなかったらどうするのかと、それにはかなり考え込んでいた。だが、親衛隊の大半の人は生まれた時から、魔帝は魔帝だったのだ。それ以外を知らないのだから、無理はないのかもしれない。
確かにここにいれば平穏無事に過ごせる。しかし退屈なのも限界に達しようとしている。なので、魔帝に城の図書館に行ってもいいかと訪ねてみた。答えは即決だった「無理」と一言で言われて、3人は目を丸くしたものだ。その理由を尋ねると、次はもう助けられないかもしれないと言うかなり重い返事。なにせ大臣達や軍部は、今回のことをこの国始まっての事件としてかなり重要視している。魔帝の度々の懇願とも脅しともいえる、3人の罰をなくす意見は無下にも却下されている。だから、もし次見つかり捕まれば、容赦なく処刑される可能性もある。つまりはもうすでに、法廷での罰は決定され、あとは身柄を確保する段階になっている。さすがにこれを聞いては、もう一度頼み込むのはためらわれる。
2週間がすぎ、退屈は頂点に達している。そんな彼らに魔帝は3人を集める。
「どうやら退屈のようだな?」
にやける魔帝を訝しい表情で見る。
「でもどうしようもないからね・・・。死にたくないし」
魔帝はそれを待っていたとばかりに親指上げる。
「ふふふ、そんな君らにプレゼントだ。これを着けてみてくれ」
そう言って魔帝は小さな箱を3つ取り出し、一人に1個ずつ手渡す。
中を開けてみると、指輪が入っている。装飾自体は対してされてないが、かなり大きめの鉱石が埋め込まれているのがわかる。
「これは?」
「つけてみればわかる」
3人はお互いを見て、少し視線を交わし。恐る恐る付けてみる。なんてことはない。ただの指輪だ。力が沸くとか不可思議な現象は全く感じられない。
「なにもおきないけど・・・」
そうキョウは呟き、顔を上げギョッとする。
「え、誰?」
魔帝はわかる。でも他2人は明らかに知らない人だ。
「あなたこそ・・・だれ?」
「キョウやハルカはどこいったんだ?」
3人が混乱しているのを、魔帝は声を出して笑う。
「フフハハ、それこそ幻影の指輪だ。王宮の宝物庫から盗んで・・・、借りてきた物だ」
3人は呆れ顔で魔帝を見る。こいつ今盗んできたよと言ったよ・・・と心の中で思いながら。
「それを着けていれば、まず他者には別人に見える。見破る方法もほとんどないという国の最重要に位置する代物だ」
そう言い、まるでひと仕事終えたかのようにかいてない汗を魔帝は拭う。
笑顔の魔帝とは対照的に3人の表情は暗い。
「えーと・・・、これ着けてもしばれたらもっと罪重くなるんじゃ・・・?」
ハルカの恐怖に染まった声に、魔帝は親指を上げる。
「バレないさ、言ったろ国の最高峰の宝なんだって。魔族の中でトップクラスの名工が作った代物だぞ。そこにドワーフの技術まで入っているという、まずばれない」
もしの話をしているのに、なぜこの魔帝にはそれが通じないのか、なぜこうも楽観的なのか、質問の答えをもらえないことをハルカは諦める。
「それを着けて図書館にいくといい。いい暇つぶしになるだろう」
「うん・・・ありがとう」
確かにこれを着ければばれないかもしれない。ただ不安だけは重くのしかかる。
「ヒューリ、入ってくれ」
魔帝が呼んだのは親衛隊の一人。
「彼に案内させる。一応部外者立ち入り禁止も多いから」
「えーと、今すぐ?」
なにを言っているんだと不思議そうな表情を魔帝は浮かべながら。
「当然だろ?」
不安が解消されないまま、強制イベントが発生したそんな心境。断るのは魔帝に悪い気がして、3人は仕方なくヒューりの案内の元、部屋を後にする。
図書館の入口が見える。そこには兵隊が一人一人、確認をしているが見えた。
「まずいんじゃない?」
「いくら別人でも、確認されたら・・・」
ヒューリは笑顔で大丈夫と答える。
ヒューリが入口に立つと、流れ作業の確認に近い兵隊が急にかしこまる。
「これはヒューリ様!」
笑顔でそれに答え。
「陛下からのご命令です。調べ物があります。中にはいらせていただきますよ?」
「ハッ、・・・後ろの方達もですか?」
「そうです、彼らは陛下のお仕事で使う資料を調べに来たのです。私はその付き添いです」
兵士は頷き。
「どうぞ、お入りください」
道を開ける。その横をゆっくり進み図書館の中にはいる。
すんなり入れたことに拍子抜けしたと同時に、ヒューり様と呼ばれたことに疑問を持つ。
「ヒューリさんって、・・・結構偉いんですか?」
小さな声でキョウはヒューリに質問する。
少し困った顔を浮かべ。
「そうですね、親衛隊自体特殊ですからね。一応、立場的には一人一人が将だと思ってもらえれば。といっても実際にほかの兵士に命令は非常時以外に行いませんがね。ほら、基本私たちは陛下の命令で動いていますので、だからですよ」
キョウは首を傾げる。先ほどの兵士はもっとこう違う気がした。
3人は図書館を散策する。今まで覚えた文字で色んな本を見て回るのは新鮮で、楽しい。マサルはまだ完璧じゃないので、こども向けばかりの本になってしまうが。
夢中になって本を読んでいると、ヒューりが近くに寄ってきて、耳元で話す。
「バルバトイ様が来ております。なるべく私の近くで」
驚いた顔でヒューリを見る。そこにはすでにハルカとマサルの姿があった。
「今日のところは終わりにしましょう。また後日」
3人は頷く。バルバトイの話は、魔帝から嫌というほど聞かされている。またヒューりもバルバトイ相手ではどうしようもないのだろう。少し焦った表情を浮かべている。
少し急ぎ足で、図書館を出ようと出口に差し掛かった時、後ろから声がした。
「ヒューリではないか、珍しいなこんなところで」
ヒューリは笑顔で振り向き。
「これはバルバトイ様、バルバトイ様は調べ物ですか?」
たくさん蓄えたヒゲをしごきながら。
「うむ、若いのに軍をまかせているからな。今はもっぱら陛下の補佐ゆえ、何でも答えられるようこうして通っておる。ヒューリはどうしてここに?」
「左様ですか、私は陛下のご命令で立ち寄った次第です」
「ほう・・・、陛下のご命令か・・・ほう」
ヒューリの頬を汗が伝う。答え方を間違えたと。
バルバトイの表情が一気に肉食獣のような表情になる。
「陛下はあまり、調べ物をなさらない方だと思ったがのう。それで、後ろの3人も同じか?」
ここで否定しては話がおかしくなる。
「左様です」
短く答える。
「なるほどのう・・・。見ない顔だ。どこの所属だ?」
ヒューリが後ろを隠すように前にでる。
「ここは図書館です。バルバトイ様。あまりお話にふさわしい場ではないかとおもわれますが?」
ヒューリがバルバトイの言葉を無視して、前にでる。つまり、ヒューりはバルバトイを前にして、引かないと意思表示をしたに近い。
「それほどか・・・?」
ヒューリは答えない。
ひげをしごくのをやめ
「わかった、ここで話すのはやめよう」
3人とヒューリは心から安堵する。
ただ次の言葉でまだ終わってないと教えてくれる。
「では、場所を変えよう。儂の政務室ならどうだ?」
ヒューリがなにかを言いかけ、バルトレイは手で制する。
「ヒューリ、お主は王室に戻れ。儂が責任を持って返す。わかったな?」
「しかし!」
「儂が責任を持って返すと言っておるのだ。お前の覚悟はわかっておる。安心しろ何もせん。ただ、少し話がしたいだけじゃ」
バルバトイほどの人物がここまでのことを言う。つまりは安全は確実に保証されたと言っても過言ではない。
「畏まりました」
ヒューリの言葉に、3人は名前を呼ぶ。
「ヒューリさん!!」
笑顔で安心させるように
「バルトレイ様が身の保証をしてくれます」
軍人の顔を浮かべ。バルバトイに向き直る。
「ただ、夕方までにはお返しするようおねがいします」
鷹揚にバルバトイは頷き。
「安心せい、このバルバトイ言葉に嘘はない」
ヒューリは急ぎ足で王室に戻る。現状を報告するために。かといってここは王宮、駆け出して許されるのは魔帝くらいなものだ。なので失礼がないよう、できるだけの速さで戻る。