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魔王と勇者

 魔族が住む魔界と呼ばれる大陸、そして人やエルフ、ドワーフなど多種多様な人族が住む大陸セイルン大陸の2つの大きな大陸があった。決して混じり合わないこの2つの大陸はある魔族によって支配されることになる。それは力の支配であり、その過程では多くの血が流れ、その魔族を人々は魔帝と呼ぶようになった。魔帝の支配は決して平和な統治ではなく、逆らう者には容赦なく捕らえ投獄された。逆に逆らわない者には、安息が約束された。


 人々は魔帝の支配を安安と受け入れることはできない。100年あまり人族の反乱は幾度も行われ、失敗に終わる。だが、100年間の支配脱却の努力は幾度の失敗により人々に諦めを生ませた。


 だがそれでも、わずかながら魔帝の支配から逃れようとするもの達がいた。もはや一般大衆から見てみれば、それは国家転覆を狙うテロリストであり、反乱軍である。人々の支援どころか侮蔑さえされても。それでも諦めずにとうとう魔帝の居城に侵入することに成功する。侵入した人はわずか3名であり、解放軍の最強の3人。そして、彼らはこの世界の住人ではない。解放軍の召喚によって呼び出された者達なのだ。3人のリーダーであり、召喚された時に与えられた力、勇者の称号を持つ彼の名はキョウ・スズキ。そして3人の支援、遠距離攻撃担当のハルカ・スズミヤ。3人の壁役である、マサル・アダチ。


 3人が居城に忍び無ことは幸運なことだった。建国記念日というもっとも忙しく多くの人が出払った状況。さらに、仲間達の囮作戦。この2つが噛み合い、3人は上手く城に入ることができた。


「さすがにこれはおかしくないか?」


 マサルは誰もいない廊下を慎重に警戒しながら歩く。その後ろに2人は後方を警戒しながら続く。もう王の間はそれほど距離もない。にも関わらず、人一人彼らは見ていないのだ。マサルの疑問の声は当然と言えた。それを肯定するように、キョウ、ハルカの2人は頷く。あまりにも静かすぎるのだ。いくら建国記念日の忙しい中でも無人ということは普通はありえない。数時間前まで魔帝は民の前に姿を現し、祝いの言葉を祝ったばかり。その周囲には当然魔族の強者だけではなく、人族の強者が護衛をしていた。その護衛すらみかけないのはあまりにも変を通り越して異常の一言。


「罠かもな」


 マサルの言葉にキョウは考えないようにしていた事を認識する。3人に冷や汗がながれる。


「それでもだ。もう後戻りはできない。例え罠でも進むしかない。魔帝の支配を終わらせなければ一生人々はこの呪縛から逃れられない」


 キョウの力強い言葉に2人は頷く。


「ああ、そうだな」


「そうね、もう終わらせなきゃ。この世界に来て3年。頑張ってきた、そしてとうとうここまで来た。人々を救って元の世界に帰りましょう」


 3人は覚悟を決め。黙々と進む。わずか2,3分警戒しながらのゆっくりな歩で、目的の王の間に着く。正確には魔帝の間なのだが、反乱軍の人達が王の間で話しているので、自然と3人もそう読んでいる。


 大きな扉、本来ならばそれを開けるには両脇に専属の扉を開ける兵がいるはずなのだが、それすらもいない。


「いくぞ」


 マサルの声はわずかに震えている。ここを開ければ、本当にもう後戻りができない。それでも3人は扉に手を掛け押す。かなり重厚な音を響かせながらゆっくりと扉は開いていく。完全に片方が開ききる前に3人は、罠を警戒し、一度離れ戦闘準備をする。しかし、数秒たってもなにも起きない。マサルが恐る恐る、人一人が余裕で入れる扉の開いた隙間に滑り込む。遅れじと2人も入り込んで目を見開く。


「なっ・・・」


「うそだろ・・・」


 罠だともはや確定していた考えは一気に吹き飛び、困惑だけが支配した。


 王の間に入って映った光景は、誰もいない。そう一人の兵も官吏もいないのだ。あまりにも想定外すぎた。そこにただ呆然と立っていると。

 

 王の間全体に響き渡る様に、声が聞こえた。


「よくぞ来た勇者達よ」


 3人は声のする方に視線を移すと、かなり離れてはいるが王の座る玉座に人が座っている姿がかろうじて見て取れた。


「魔帝!」


 キョウは叫ぶ。長年の目標である魔帝をみつけたからだ。


「フフフ」


 魔帝は嗤う。まるで楽しんでいるかの様に。


 その声に、3人は苛立ちを覚える。人々を苦しめている相手が、嗤う姿は、怒りを覚えずにはいられない。3人は感情を抑えながら、魔帝の前に進む。そして姿が段々見て取れた。そこにいたのは至って普通の魔族。黒髪、黒目であり目は若干吊り上がっている。恐ろしい姿を想像していたので拍子抜けしそうであったが、すぐに気を引き締める。相手は魔帝ということを何度も心に刻む。


 眼前まできた3人に余裕の構えを崩さない魔帝は、再度同じことを言う。


「よくぞ来た勇者たちよ。この日を待ちわびたぞ」


 キョウの感情は魔帝の言葉に爆発した。


「待ちわびただと、ふざけるな!お前を僕は絶対許さない!」


 キョウの本気の怒りに魔帝はまるでひるんだように、笑顔を崩す。


 その様子に違和感をハルカは覚える。


「そう怒・・・」


「黙れ!


 キョウは魔帝に剣先を突きつけ、いつでも攻撃できる様にする。


「もうお前の言葉は聞きたくない。あれほど大勢の人々を苦しめていて笑うだと。どれだけお前の心は汚れているんだ」


 魔帝は困った表情を浮かべ。


「いくら役柄になりきっているとはいえ、少々怖いぞ」


 魔帝の言葉が3人にはわからなかった。ただふざけているのだとキョウは認識したのだろう。もう怒りでいつ襲いかかってもおかしくはない。だが次の言葉で、ハルカはある確信をする。


「ゲームの世界なのだから、楽しくやろう」


 キョウが一気に進もうと足を一歩踏み出して


「待って!」


 ハルカの大きな声でキョウは止まる。ハルカに視線が集まる。


「ゲーム?あなた本気で言ってるの?あなたも異世界人?」


 話が通じる相手だと魔帝は認識したのか笑顔で答える。


「本気とか意味がわからなけど、本気でゲームはやっていたぞ。異世界人とか本の読みすぎじゃないのか?」


 ハルカは首を振る。


「質問を変えるわ。あなたも日本人?」


 魔帝は首を傾げる。


「ん?日本人だが、外国の人に見えるか?ああ、この姿じゃわからないよな」


 一人で納得し、うんうんと頷く。


「今では、ネットは当たり前だしな。確認は大事だよな」


「やはり・・・」


「ハルカどいうことなんだ?」


 暗い表情をしたハルカに冷静さを若干とりもどしたキョウは質問をする。


「・・・彼・・・いえ、魔帝も同じ日本人ということ。それも・・・」


 ハルカは唾を飲み込む。


「この世界をゲームだと勘違いしてる」


 マサルとキョウは驚愕する。ただひとりを除いては。


「なにを言っているんだね。えーとハルカさんと言ったかな。ここがゲームの世界じゃなければなんだというんだ。それでは魔王役をやっていた・・・」


 そこで魔帝は右手で口を塞ぐ。何かに思い立ったかのように。


 そこには魔帝の威厳も尊厳ももはや感じられない。

 ぶつぶつと独り言をつぶやいている。かすかに聞き取れるのは、どうりで長い訳だ。とかではわたしがやってきたことは?とかが聞き取れた。


「そうよ!ここはゲームの世界なんかじゃない。この世界も現実。私たちがいた世界みたいに人々は生きているの!」


 考え事をしていた魔帝は視線をハルカに写し。


「そうか・・・、では本当に私は悪なんだな。私を倒してゲームクリアではなく。ハハハ、ゲームのやりすぎだな。やってもいないのにゲームだと思い込むなんて」


 魔帝はそう言って立ち上がり。


「終わりにしよう。その聖剣なら私をいとも簡単に倒せるだろう」


 キョウの持つ剣を魔帝は見る。魔族である魔帝は、闇属性だ。闇属性と聖は相反する。つまりは聖属性は魔族にとって弱点ともいえる。その逆もしかり。さらに属性は魔法の習得次第で増えたりもする。いまの魔帝は、ほぼ全ての属性を兼ね備えている。これは単純に魔帝がゲームだと思い込み、やりこんだ結果。


「言われなくても終わりにする。お前が例え同じ日本人でも、やってきたことは帳消しにはならない。いや、むしろ同じ国の人だからこそ許せない」


 魔帝は目を閉じる。キョウの言葉を純粋に受け入れ、罰を待つ罪人のように。


 キョウは踏み出す。ハルカがなにかを言っていたが、それを聞く余裕はもうキョウにはない。なぜならキョウは今から人を殺すからだ。魔族ではなく、同じ国の人を。魔帝は転生したのだろう。ここで生まれ変わった。記憶を保持しながら・・・。どうしてそうなったかはキョウにはわからない。キョウたちは召喚された者たちであり、転移してきたのもの。ここで転生したわけではない。だから理由はわからない。同情しないでもない、それでも彼のやってきたことは許されるわけではない。だから早く終わらせる。魔帝も自分たちもこの世界も救われる手段として。


「うおおぉぉ!!聖剣よ!!」


 キョウは聖剣の力を最大限に発揮し、一気に魔帝の胴を貫く。眩しい輝きが辺り一面を覆い。光が静まる頃には全てが終わったと、マサルとハルカは確信していた。だが、次の瞬間キョウの悲痛の声でそれは違うと判断する。


「なんで・・・。聖剣で貫いたはずなのに。なんで・・・」


 キョウの持つ聖剣に目をやると確かに剣は魔帝を貫いている。しかしただそれだけだ。出血もしているし、怪我を負っているのは確実だが、大魔族となればそれは致命傷にはなりえない。それをキョウもマサルもハルカも知っている。


「うそ・・・」


「ばかな!」


 それは異常、聖剣は聖属性でも最高峰。それに貫かれれば大魔族でもほぼ致命傷。キョウが使った最大火力の聖剣の一撃は大魔族ですら消滅させるほどの一撃。だが現実は刃物で貫いただけと変わらない結果だった。


「なんで・・・」


 よろよろとキョウは後方に下がり、崩れ落ちる。聖剣の一撃が失敗に終わった衝撃と力の解放で体力を大きく消耗した為である。


 魔帝を見ると彼もまた驚いているので、どちら側にとっても想定外の出来事。


「ハルカ、聖属性で魔族が倒れない理由ってあるのか?キョウの全ての一撃が効かないなんて、そんなことあるのか?」


 マサルの言葉にハルカは考える。今までの3年の魔道の知識を総結集して考える。そして一つだけ、魔族でも聖剣に対抗できる手段があることを思いつく。ただし、絶対に魔族にはできない手段として。


「ある・・・。でも・・・、それじゃ私たちがしたことって」


 明確な答えを出さないハルカに再度、マサルは声を張り上げる。


「ハルカどいうことなんだ?」


 ハルカは数秒の沈黙のあと、答える。


「人々の救済」


「ハァ?」


 ハルカの言葉にマサルは間の抜けた声がでる


「もう一つだけあるの。属性の加護を身に付ける方法・・・。魔法の属性の習熟度で加護を得られる。大小はあるけども。それ以外に得られる方法は、その属性の行動をすること。ただこれは魔法の習熟と比べて、並大抵のことじゃない。聖属性の加護を得るには人々を救済、それも1人や2人じゃなく、数千人、数万人規模の救済。さらに言えば、人々がそれに対して救われたと思うことも大事なの」


 キョウの信じられないといった目がハルカを見る。それはマサルも同じ。もうひとり魔帝もだが・・・。


 ハルカは目を伏せる。


「私たちは思い違いをしていたのかもしれない。私たちは反乱軍に呼び出された。知識だけじゃなく、考え方も反乱軍よりになるのは当然よね」


「だけどよ・・・、実際魔帝はたくさんの人々を殺したんだろ?


 ハルカは頷く。


「そう、魔帝はたくさん人を殺した。同族すらも。でも私たちが知っていることはそれだけ、支配する前のことだけ。では今どうなの?解放してほしいって叫んでいるの?」


「それは・・・、魔帝に怯えて諦めてしまっただけなんだろ?」


「マサルそれは違うの。それは反乱軍から得た知識で、私たちが見たことじゃない。私たちはずっと3年間言われたとおりの行動をしてきた。私たちが外で見て得た知識なんてほとんどない。違う。目を背けてきたの。町で人々が笑顔で笑っていても、見て見ぬふりをしてきた。だって私たちはそうしなければここで生きる目的がなかったのだから。反乱軍は過去にとらわれた集団で私たちはそれを盲目的に信じる狂信者」


 ハルカの言葉に反論の意図が見いだせず。


「だけどよ・・・、魔族が人間を救うなんてよ・・・」


「勘違いしないで、魔帝は日本人。私たちと同じ国の人よ。魔族であって魔族じゃない。よく考えてみてよ、100年間も反乱軍が存続できる理由がある?最初は規模がでかくて、あちこちにいたかもしれないけど、現在は私たちの組織だけ。吹けば飛ぶような組織。それがなんで今も残ってるの?本当に力で支配してるのなら、そんなのとっくに壊滅してるじゃない。なのに残ってるのなぜ?」


 マサルは言葉がでない。


「簡単だ・・・、魔帝は殺戮者じゃないからだ」


 ハッとして声のした方を見る。遣る瀬のない表情でキョウは口を開ける。


「わかってた、わかってたんだ。本当は間違ってるんじゃないかって。僕さ、時間の合間を見つけて、色々調べてたんだ。倒す相手をしらないとまずいと思ってね。でも、やってることは至極当たり前のことばかりで笑っちゃう。集団で武器を持って国に剣を向ければ投獄される。盗みや殺しをすれば投獄される。領主や官吏がわいろを受け取れば捕まる、どれも当たり前の事なんだ・・・。だけど、やはり、世界を支配しようとして起こした戦争は許せなかった。許せなかったんだ」


 シーンとして静まり返る。


 ゴホンと咳をして。


「私は退位をするつもりだ。理由はどうあれもう魔帝はできない。夢は終わりだ。すまんな死んでやれなくて、それと、なんで反乱軍が残っていたという質問だが、簡単だ。反乱軍を完全に潰すと、勇者がでてきても魔王役である俺のところまでたどり着けないと思ったからという理由だ。城は閑散としていただろ。演出として人払いしたんだが、どうだっただろうか」


 魔帝は寂しそうに笑う。


「すまなかった。これからは人目のないところで隠遁生活する。そんなことで謝罪になるとは思わない。実際魔王役やってて、ひどいこともしていたしな。そこで一つ頼みがある」


 3人は魔帝を見る。


「この国の王になってはくれまいか。俺を倒した勇者として」


 魔帝の言葉に驚く。


「いくらなんでも王なんて・・・」


「側近には協力するよう言っておく。頼む」


 魔帝は頭を下げる。


「なんで王になれなんて?」


「俺の跡を信じるに値する者に託したい。俺のただのわがままだ」


 ハルカは焦る。


「ちょっとまって、魔帝を信頼してる人大勢いいると予想できるんだけど、倒したってことにしちゃうと、色々問題になるんじゃ?」


 魔帝は少し考え込み。


「では、普通に退位し、後継者として俺より強い勇者として紹介しよう。それならば問題はないと思うのだが」


 3人はお互い見比べ。


「少し考えさせてくれ」 


 魔帝は笑う。


「良い返事を期待してる」


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