恨み
卒業試験2日目。
俺はまた雪と会場にきてきた。
「よく眠れたか?」
「まあ、そこそこね」
俺はなんとなく雪に聞いてみると、
そっけない返事をしてきた。
まぁだいたいそうだよな。
俺はだいぶ緊張しているが、雪はそんな事はなさそうだ。
きっと余裕なんだろな。
あいつならまた瞬殺にするんだろな。
しかし、昨日つかさから聞いた、話しが頭によぎる。
あれは何なのだろう。
今は気にしても仕方ない。
とりあえず試合に集中しなきゃ。
次々と試合が終わっていく、つかさペアはもちろん二回戦通過をした。
さすがに強いな、俺でも見たらわかる。
つかさの魔法攻撃、回復能力はとても優れていた。
そして、俺らの番がきた。
ステージに立ち、雪は小声で言ってきた。
「昨日の同じように、私がすぐ終わらすわ」
「……わかった。でも気をつけろよ」
俺はチラリと、近藤の方を見る。
何か笑みを浮かべているように見えた。
そして、試合開始のブザーとともに、
「始め!」
昨日と同様、雪が勢いよく向かって行った。
近藤と相打ちになる。
「よぉ、氷堂。この時を待ち望んでいた」
「何?私はあなたを知らないわ」
「そうだろうな、俺はお前の母親の事を言ってるんだからな」
「私のお母さん!?何を言ってるの!?」
何か話しているのか、あまり聞こえづらい。
雪は何か動揺してる様にも見えた。
そして、少し距離をとり、近藤を睨んでいる。
近藤がいきなり笑い出した。
「俺はお前を殺すんだよ…。南野!!」
「ほ、本当にやるんですか……?」
「当たり前だ!いいから早くしろ!」
「は、はいっ!」
そう近藤が自分のペア南野に命令すると、
南野は、何やら暗唱を、結界を作った。
「なんだ?これは?」
「多分、誰も入れなくなる結界。試験では禁止されているはずよ」
雪は俺の横にきて、状況を説明してくれた。
そして近藤は、自分の小刀を取り出し、自分の腕を切った。
「なっ!?何やってんだ!?」
俺は思わず叫ぶ。
雪も驚き、体が震えていた。
「はぁはぁ、これでやっと復習できる…。お父さんの恨みだ……。死ね!!!氷堂!!!!」
切れ腕の周りに魔方陣が浮き出る。
黒いオーラと共に出てきたのが、妖!
4メートルぐらいある、大物だ。
「おい!!なんで妖が出てきた!?」
俺がテンパっていると、雪も冷静を装いながら説明してくれた。
「あ、あれは妖召喚の魔法。禁忌とされている魔法よ。自分を身代わりになり、妖を召喚できるみたいよ」
「そ、それってあいつは……」
雪は首を横に振る。
そして、妖は奇声を出しながらこちらに走ってくる。
「あなたは、隠れていて!!」
「おい!雪!!」
雪は妖の方に走っていった。
得意とする、氷の異能、その斬撃を一撃食らわす。
しかし、それでは効かず、妖は攻撃してきた。
「雪!!」
俺は思わず、駆け出す。
「ダメ!!」
そんな雪の声が聞こえた。
まだ無事みたいで、少し安心していた時。
妖が、俺に気づき、攻撃してきた。
かわそうとするものの、少し当たってしまった。
「龍児!!」
そんな雪の声がして、俺は倒れる。
このままでいいのか?
また何もできない。
雪はあの妖に殺されるかもしれない。
すると、自然に体が動き、さっきまで痛かった傷もひいていく。
そう言えば雪が危ない!
妖に殺される!
すると、体が動き、妖に攻撃をいれる。
「あなたそれは……?」
「こ、これは!?俺の異能??」
俺は雪に言われて初めて気付く。
俺が手にしているのは、黒い刀。
これが俺の異能なのか。
「雪!大丈夫か!?」
「え、えぇ私は大丈夫だけど、あなたは?さっき攻撃を受けたんじゃなかったの?」
「ん?俺は平気だ。それよりあの妖をどうにかしようぜ」
なんだろう。
今ならあの妖を倒せる気がする。
体が軽く、力が溢れ出てくる。
そして、勢いよく走り出し、妖に攻撃をいれる。
どうやら効いているようだ。
俺は夢中で切り刻んだ。
すると妖の攻撃に気づかず、危ないと感じた時。
氷の結晶が止めてくれた。
「ちょっと!気をつけなさいよ!」
「雪!ありがとう!」
俺は余計に力が入り、刀を振りかざす。
すると、斬撃がでて、妖を切り裂いた。
その斬撃は妖だけじゃなく、結界すらも、キリ砕いていった。
「や、やったな!雪!」
俺は満面な笑みを浮かべながらそう言った。
雪は疲れたのか、その場に座り込んでしまった。
「だ、大丈夫か?」
「少し、力が抜けたわ…。」
そして、急いで先生方や、上級者達が駆け寄り俺たちを医務室に運ばれていった。
医務室で、状況の説明、どうやって倒したのかとかを2時間近く事情聴取をされていた。
どつやら、結界があった為声すら聞こえていなかったらしい。
「はぁー、疲れたな」
俺たちは、その事情聴取をやっと解放され、医務室で休んでいた。
「……ごめんなさい。私のせいで…」
「なんでお前が謝るんだよ」
「きっと私のせいだから」
「どうしてこうなったかわかるのか?」
「確かあの近藤という人のお父さん、私のお母さんと、妖退治のグループだったわ。あの時もね」
「あの時って、Sランクの妖相手にした時か?」
「知っていたのね」
雪はうつむき、少し悲しそうに続ける。
「私のお母さんはそこのグループのリーダーだった。たまたまSランクの妖を相手にする事になって、必死に戦ったけど、負けてしまった。生き残りの人もいるわ。その人達は、お母さんと近藤さんに助けられたって言ってた。近藤さんはとてもお母さんに崇拝していた人だから、きっとお母さんについていったのね」
「でもそれで、お前を殺す理由になるのか?」
「そんな事わからないわよ」
逆恨みってやつなのかな。
よくわらない、結局雪を殺しても何も変わらないのに、それは近藤のお父さんの意思を無駄にしてる気がする。
でもこれだけはわかる、とても近藤はお父さんが大好きだったんだな。
俺には少しわからないが。
「それより、あなたは大丈夫なの?」
「さっきも言っただろ?俺は平気だ!」
「それならいいんだけど」
雪はどこかほっとしている顔している。
「ってかもう「あなた」じゃなくて龍児って呼んでたじゃねーかよ」
俺はあの時の事を思い出す。
そう言えば確か龍児って大声で呼んでたよな?
すると、雪は頬を真っ赤に染めている。
「そ、それはとっさに出てしまって!!あの、いつも夜練習しているとかそんなんは絶対にしてないから!!」
なんだこいつ!?色々キャラ崩壊してるじゃねーか!
でもなんか可愛いよな……。
「練習してたのか……?」
「___!し、してないわ!!」
「それは別にいいんだけど、これからはちゃんと龍児って呼んでくれよ?」
やっぱり仲良くはなりたいからな。
ただでさえ、1人でこの世界にきて心寂しいのに、仲のいい友達はいっぱい欲しいもんな。
「わ、わかったわ……」
まだ顔も赤く照れている様子。
「じゃあ、今試しに呼んでみてくれよ」
「えぇ!?今!?」
俺はそんな雪を見るのが楽しくてついいじめてしまった。
雪は余計顔を赤くし、少し体を震わせながら、
「りゅ、龍児……」
小声ではあるが、はっきり聞こえた。
改めてこいつと仲良くなった気がした。
「あぁ、雪!これからもよろしくな」