表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死への導き手

作者: ぬかづけ

 始まったのは滅びへの道か、それとも幸福への道か・・・





 それは何気ない日常、自宅で本を読んでいる時に突然起きた。

 最初は何が起きたのか理解できなかった。

 私。久世明くぜあきらの身に何が起こったのか簡単に説明しよう。頭の中に何かが話しかけてきたのだ。

・・・

 ちょっと待って欲しい。私は別に頭の弱い可哀想な子という訳ではない。ただ事実として本当に頭の中に声が聞こえたのだ。


 ドンドンドン!ガラッ!


 「お姉ちゃんお姉ちゃん!大変だよ!!麻奈まな、頭の中に変な声が聞こえちゃったよ!?麻奈、自分ではまともな子だと思っていたのに・・・ショックだよ~!!!」

 ノックの返事も待たずに勝手に入ってきた9歳になる私の妹、久世麻奈くぜまなはいい感じに混乱していた。ちなみに私は17歳。花の女子高生である。(この言い方ってまだ有効なのかな?)

とりあえず混乱している麻奈の発言から、私の聞いた声は幻聴ではなさそうだという事と私以外の人もその声を聞いているのだなと言う事は分かった。

 「麻奈、落ち着いて。その声ならお姉ちゃんも聞こえたから。」

 自分で自分をまともじゃない子という考えに至る妹に若干将来への不安を覚えつつ、まずは麻奈を落ち着かせる為その現象が自分だけではない事を説明した。そんな私に妹が返した反応は、

 「お、お姉ちゃんまでそんな・・・。麻奈、麻奈はおかしくなってもお姉ちゃんだけはまともなままだと信じていたのに!?」

 「よし、ちょっと待とうか妹よ!何を勝手に私までまともじゃない子扱いしているのかな~?」

 「ひ、ひふぁいひょほへーひゃん(い、痛いよお姉ちゃん)」

 こめかみに青筋を浮かべながらアホな事を言う麻奈の口を両側に引っ張る。まさか私までそっちの人扱いされるとは思わなかった。頬を引っ張られた妹はそのままの状態で何かを訴えていたが無視して本題に入る。

 「それで、麻奈はどんな声を聞いたの?私はそんな事ありえないって言うような話だったのだけれど?」

 ちなみに私が聞いた声はこんな事を言っていた。



 『この世に生きる全ての者達よ!

  これから語る内容は全て事実である!

  冗談や妄言と捕らえず真剣に考えた上で判断するのだ!

  では本題に入ろう。

  死にたい者は我が名を呼び願え!

  そうすれば即座にその者を冥府へと連れて行くことを約束しよう!

  痛みも苦しみもない!

  ただ【死】という結果のみが現れる!

  繰り返す!

  死にたい者は我が名を呼び願え!

  我が名は・・・【死】だ!



・・・以上が私の頭に聞こえた声だった。

 はっきり言って馬鹿な話である。そして同時にひどい話である。人は願ったくらいじゃ簡単には死ねない。そして、世の中には本当に死にたい人間だってたくさん居るはずだ。そんな人間にほんの数瞬でも淡い希望を持たせるような発言は相手にも失礼である。大体名前が【死】ってそのまんま過ぎるじゃないの。せめてもう少し気の利いた名前にしろってのよ!・・・って、何を私は頭に聞こえた幻聴に真面目に反応しているのだろうか?これでは本当にまともじゃない子みたいじゃない;;

「うん。私もそれと同じ事が聞こえたよ。よかった~。麻奈がおかしくなった訳じゃなくて。」

 もち顔状態から脱出した麻奈も、そう言って頬をさすりながら無邪気な笑みを返す。・・・とその後すぐに疑問顔へと顔の形を変形させた。

「あれ?でもそれじゃさっきの声って結局何だったの?」

 「そんな事、私に聞かれても知らないわよ。」

 実際何でそんな声が聞こえたのかさっぱり分からない。と言うか、この状況をちゃんと説明できる人なんているのだろうか?

 結局その後、その声はどこかの家で放送されていたテレビの音が偶然聞こえただけと言う事で納得する事にした。

 でもそれが間違いであった事を私は夕食の時に思い知らされる事になるのだった。




 「ねぇねぇ明ちゃん、麻奈ちゃん。お母さん今日会社で変な声を聞いたの。」

 仕事から帰ってきた母が、事前に作っておいた夕食をテーブルに並べながら私にそんな話をしてきた。私は持っていた取り皿を置いて母へと向き直る。

 「変な声?まさか【死にたい奴は俺に願え!】とかじゃないわよね?」

 変と聞いて昼のテレビの声の事を思い出したので何気ないつもりで口に出たのだが、

「あら?やっぱり明ちゃんも聞いたのね。そう、それよ!実はうちの会社の人もみんな同じ声を聞いたみたいなのよ。」

 「え、嘘!?」

 「お母さんもその声聞いたんだ。」

 まさかの回答に私達は驚いた。それはつまり、あの声がテレビの放送などではなく事実私達の頭の中に聞こえた声だった事を証明しているではないか。

 「それでね、会社の人の一人が面白がって冗談半分に試してみたのよ。【死さん、俺を殺してくれ~】ってね。そしたら何と!」

 「し、死んだの!?」

 麻奈が私の袖をぎゅっと掴んで後ろに隠れる。そんな麻奈に母はおかしそうに、

「何も起きなかったの。本当にたちの悪い冗談よね~。」

 あっさりとオチをつけてそう語った。まったく、くだらない冗談で麻奈を驚かせないで欲しい。その会社の人も不謹慎な人だ。そんな人でも社会人やっていけのだから世の中なんてたかが知れているわよね。

 「でも結局その声がどこから聞こえたものなのかまったく分からなかったのよね~。会社にはテレビやラジオなんて付いていなかったし・・・不思議よね~。」

そう言いながら母はテレビの電源を入れた。すると、テレビには緊急速報の形でニュースが流れていた。内容はつい今まで話していた例の声の話であった。まさか本当に全人類にあの声が聞こえていたとは驚きである。だがニュースの続きを聞いた瞬間、私は本日何度目かも分からない、そして最大級の驚きを感じる事となった。


『―――と言うような声の後、全国各地で原因不明の変死体が相次いで発見されるという事態が発生しております。死体は外傷がない事から薬物・感染症の線で現在調査中とのことですが、現状薬物もウィルスも検出されていないとの報告が入っております。各専門家の先生にお話を伺った所―――』


 っ!人が、本当に死んでいる!?

「嘘でしょ!?だって会社の人は何も起きなかったわよ!?」

 母もさすがにそのニュースには驚いたようで、ニュースに聞き入っている。私もそのニュースを聞きながらスマホのニュースサイト等をいくつか確認した。案の定、ニュースサイトは例の声の事と変死のことで溢れかえっていた。それらの情報によると、この事件は日本国内のみでなく、全世界で起きているらしい。後どうでもいい事だが、各国での声の主は名前が違っているらしい。と、言っても【death】、【mort】、【morte】、【Tod】のように【死】と言う単語が各国の言葉に置き換わっているだけのようだが。

 やがてかかっていたチャンネルでの速報が終わり通常通りの番組が再開されたが、食卓にはなんともいえない微妙な空気がただよっていた。

「こ、こんなのきっとどこかの変質者が起こしている事件に決まっているわよ!早く犯人が捕まるといいわね!」

 若干うわずった声で母が言うが私にはとてもそんな風には思えなかった。一部地方でならともかく、全世界中で同じような事件が起きているのだ。仮に便乗犯が居たとしてもこの数はありえないと思う。

 そう思ったが私はそれを口には出さなかった。隣には麻奈も居るのだ。むやみに恐怖を煽っても何もいいことなどあるはずがない。そもそも私の考えが合っている保障もないのだし。

 「うぅ・・・お姉ちゃん・・・」

「麻奈、大丈夫だよ。あの声の人は【死にたいと願え】って言った人しか殺さないって言っていたでしょ。それとも麻奈は死にたいって思っているの?」

 「う、ううん!そんな事思っていないよ~。」

 「ならきっと大丈夫だって!」

 「うん・・・」

 実際には仮に真犯人が居るのであれば、その言葉がどこまで信用してよいものか分からない。でも気休めでも麻奈が安心できるなら今はそれで十分だ。

 その説得にようやく落ち着きを取り戻した妹に安堵しつつ、私は夕食へと手を伸ばし始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  生きたいと願うようになると、不幸になったりするのかなと思いました。
2017/01/11 18:24 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ