人生限界突破
初投稿に初投稿の作品になります。短いので読んでいただけたら幸いに思います。
太陽が昇るにはまだ2時間ほどある夜明け前、一台の車がスカイラインを軽快に走行している
「・・・・・」
このスカイラインの昇りは序盤に多くのヘアピンや1回転などがある中速コーナ区間でスピードを出すことは難しい
しかし後半は真逆と言っていいほど長く勾配のあるほぼ直線が2㎞伸びている高速区間である
車体のわりに排気量の多い外車のターボ付き2.0ℓエンジンが勾配のきつい上り坂を軽々と押し上げる
圧倒的な回数でシリンダーの中でガソリンが圧縮され爆発する、気持ちの良い低い炸裂音が車内に響く
今は聞き慣れた音楽も聞く気にはならない
ただひたすらに最速で頂上を目指す
道幅の広くないきつめのヘアピンを回れる限界のスピードで侵入する、
急ブレーキでABSが作動し車体沈み込む
一気にハンドルを切りガードレールギリギリを攻める、
慣性の力で重心が外に向かうので一層ハンドルをきつく絞る
コーナが開ける直前1秒前、アクセルペダルを底まで踏み込む、
半秒でエンジンが全開で回り出し、半秒遅れてターボが掛かり一気に車体を押し上げ
最高加速でコーナを飛び出し次のカーブへ突っ込んでいく
6つのヘアピンを限界ギリギリで攻め終え、
緩い直線に入ると詰めていた息を肺から一気に吐き出す
これまで何度かアタックしてきたが、これで最後だという気持ちで挑んだためか、
これまでに体験したことのない快感で体が震えた
ここまで車を接触させてないことが不思議なくらいだが、
たとえガードレールに衝突してもエンジンさえ動いてくれれば
問題は全くない
頬を釣り上げにやりと笑った
「もっとだ」
平日の夜明け前にスカイラインを走る人間など自分のほかにはおらず、
山頂から降りてくる車がないことを確認し
一気に全開までエンジンを開き緩いカーブをスピードを落とさずに突っ込む、
ガードレールギリギリのオーバー気味に侵入するがスピードが出過ぎているため
少しずつアンダーが出てくる
白線を踏むか踏まないかのところでカーブを抜け再度直線で限界加速する
このスカイラインで一番の難所である一回転のカーブがこれまでで最高速で肉薄してくる、
あまりの速さに笑いが込み上げてくる
恐怖は皆無で快感を求めてアクセルペダルから足が離れない
しかし、そうもいかないのでブレーキペダルを思い切り踏み込む、
ABSが作動し車を滑らせないようにシステムが働くが、
気の狂ったような突っ込みのせいで
全く意味が無い
タイヤが横を向いてしまわないギリギリでハンドルを左に切るが、
車体は少しづつ滑り
1周の半分を過ぎたあたりですでに白線を跨いでいた
わずかな時間が限りなく引き伸ばされる感覚、
ガードレールとの距離がみるみる遠くなるが
カーブは終わらない
「くっ・・・!!!!」
角度のある湾曲のため前がろくに見通せない、
かろうじて見えているところも1秒後にはもう通り過ぎている
「まだか!!!!!!?????」
すでに白線を跨ぎ対向車線に完全にはみ出している
走行車線側のガードレールからは遥かに遠ざかり、
もう一方のガードレールが接触寸前まで切迫している
同時に車と道との角度も広がり視界が見通せるようになっていく
{見えた!!!!!!!!!!!!!}
視界の端から永遠とも思えた湾曲が終わっていく、
息を吐くにはまだ早い
≪バギィ!!≫木の砕ける音
突然の衝撃と強烈な破壊音が右方向から襲い咄嗟に体を屈めた
≪パギッッ!!!バァーーァーンン≫
肩に何かが触れたと感じた時には
もう後部座席はめちゃくちゃになっていた
{何だ!!!!}
何が起きたのか全く理解できなかったが
すぐにそれすらも吹き飛ばす衝撃が襲った
ついに車体右前方がガードレールに接触し激しく火花を散らす、
直ぐに側面も接触し次元の違う激震が走った
{っ!!!!!!}
視界が真っ赤に染まり
感情が爆発した
{{{{ははっははっ最高♡}}}
いつの間にか踏み変えていたアクセルペダルを底まで踏み込んだ
車体は完全にガードレールと密着し
運転席側全面から火華が派手に舞っている
シリンダーが弾けピストンを押し上げクランクシャフトを回し車体を加速させる
車はガードレールを沿って無理やりカーブを曲がっていく、
もうすべての他の音は聞こえない
唯一聞こえるのは自分の高笑いだった
「あれ、開かない?」
ドアを開けて外に出ようとするが
運転席側は壊れてしまったようだ
仕方ないので助手席側から外に出ようと
右手を伸ばしナビ上部にを支えに立ち上がろうとした時、
真っ赤な血が腕を伝って来るのが見えた
「ん?まぁいいや、とりあえず出よう」
助手席ドアすら少し開きづらくなっていたが
なんとか外に出ることは出来た
運転席側に回り込むと
艶ありの黒塗装は所々剥げ落ち地の鋼鉄が露わになっている
「あー、結構云ったなー 大丈夫かなこれ??」
「まぁいいやなんとでもなるだろ」
ポンとボンネットを軽く叩き
「ありがとな、お疲れ様」
丁度いい具合に日が昇ってくるので
この為だけに用意しておいた少し高いカメラを取り出すために
後部座席のドアを開けようとするが
こちらも壊れて開かない
「こっちもかよ」
反対側に回り込みドアを開けてこの日一番焦る
{げ!!!まじか}
「無事であってくれよカメラ~~」
さっきの最終アタックの時に木にぶつかったサイドミラーが折れて
ガラスを突き破って車内に飛び込んだので
後部座席は見るも無残に破壊されている
幸いなことにカメラは
助手席の下に入り込んでおり破壊されずに済んだようだった
「危ない危ない」
危うく台無しになるところだった
来ないとは思うが他の人が来てしまっては、
これまたご破算になってしまうので
急いでカメラを手に取り
日の出の写真を10数枚撮って、
ついでに街の景色も収めておいた
満足な写真が撮れ、足早に車へ戻る途中
少しふらついた
{あ~急がないとな}
助手席のドアを左手で開け運転席まで移動し
エンジンに火を入れた
≪ブォオーン≫
エンジンスタート時の一瞬の高回転の響きが心地よい
「楽しかったなー」
これまでの記憶が全て思い出に変わった気がした
「終わりにしよう」
壊れかけの車に鞭打って頂上駐車場を出ると、
雨が降って来た
雨はたちまち強くなり、土砂降りとなる
{いい雨だ、やっぱり運がいいんだな、俺って}
昇りの序盤がコーナー区間で終盤がストレート区間であったので、
今からの下りは序盤からストレート区間が始まり
昇りとは比べものならないくらいのスピードが出るわけだ
アクセルペダルを踏み込んでいないが、
徐々に加速していく第一コーナーまでは500m強のストレートである
車の壊れ具合を見るために軽く流していく
「・・・・・」
第一コーナーをゆっくりと回り続けざまに
第二コーナーもなんの問題も無く走り切り、
この山で一番長い1.5㎞のストレートが現れた
「・・・・・」
一度、車内灯を付け一つの思い出を飲み込んだ
全てのスイッチを切り、
車は徐々に加速を開始し、ターボからも力が加わった
山は登山より下山が危険というのはどこの世界でも言えることだろう、
もっと言えば下り坂では、簡単には止まることは出来ないし
長い直線では縦断勾配錯視という錯覚すらあり特に危険だ
このスカイラインの第二ストレートは中でも群を抜いて危険と言えよう、
ほぼ真っ直ぐな長い直線の先に緩やかな第3左コーナー、
直後にきつめの第4右コーナーが待っている
これまでの荒く激しい走行もなかったかのように
軽快に加速を続け最高速で1.5㎞の直線を突っ切っていく
第3左コーナーを視認しアクセルを緩め、
左に徐々にハンドルを切っていく
ブレーキを使わなかったためスピードを落とさずに
左旋回をやり切り視界が開けハンドルを元に戻した時には、
山壁が切迫していた
ブレーキペダルを人生最大の力で蹴り抜き
減速を図るが雨に濡れた路面で、
どうにかなる速度ではなかった
≪≪≪激突≫≫≫
車体左前方から接触した車は凄まじい衝撃で反対方向へと弾き飛ばされる
助手席は完全に潰れその勢いで飛び出した鉄塊が運転席に襲い掛かる
「あぁ...」
鉄塊を胸に受け大量の血が噴き出す
意識が薄れていく
「・・・・・」
車だったものは運転手を乗せたまま対向車線を跨ぎ
そのままガードレールを突き破った
≪衝撃≫
一度は失った意識が衝撃により浮き上がり覚醒した
「っ!!・・・・」
意識は戻ったがもう体はピクリとも動かない
突き破っても勢いは衰えることなく
そのまま断崖から放り出された
{もう何秒たったのだろうか}
真っ白な視界、体の感覚は皆無、何も感じない
はずなのに胸の下あたりから、
とても切なくやるせない感情が溢れ出してくる
{ごめんなぁ~、ごめんなぁ~ぁ...}
目があったら涙をぼろぼろと流していただろう
{ほんとに辛かったが悪いことばかりでもなかったよな}
自分に言い聞かせる
{母さん、父さん、みんな}
{{{・・・・・。}}}
長々と降り続ける雨が
衝突直前のブレーキ痕をにじませ
抉られた山肌を整地し
爆走した際に飛び散った車の塗装を
右肩がえぐれて垂れた頂上駐車場の血を
疲れ果て汚れた心を
洗い流した。
最後はなんとかなるもんだ
読んでいただきありがとうございました。
今回は短編として投稿させていただきましたが、私の頭の中では長編の中の一番最初の部分であると考えています。この先を書いていく上での問題点などが分かればと思っています。
感想意見などがありましたら、よろしくお願いいたします。