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斎藤と思いでの丘

 それから1ヶ月。

 何か変わったことはない。強いて言えば、バカの山田が新作アニメにはまって、毎日毎日そのアニメのヒロインのことを暑く熱弁していることぐらいか。

 それと、俺の松葉杖生活が終了してました。



 その日の放課後は無性に思い出の丘ていう程もないが、行きたくなった。その丘は町全体が見渡せて、夕日が綺麗なところだ。小学生のとき見つけたあの感動は今でも覚えている。

 今思えば辛いことでも何でもないが、泣きたくなった時にはこの丘まで来てたもんだ。

 暫く来てないせいか、やけに懐かしく感じる。


 

 20分ほど緩やかな坂を登る。

 今日は先客がいて、一人丘に佇んでいた。この場所俺だけの場所ではなかったことを知った時にはショックだった。

 男は誰だって自分だけの秘密の場所を持っていたいものなのだ。

 遠くからは、シルエットしか見えなかったが、それは俺が知る人物だった。


「ーーー斎藤」


 相変わらず綺麗な黒髪を俺は一人しか知らない。

 そんな斎藤はまるでドラマのワンシーンを見ているみたいで、夕日が美しく斎藤をより魅力的にさせているように見える。


 俺の声に気付いた斎藤が振り向く。俺の存在を知ると帰ろうと歩きだす斎藤。俺の横を通り過ぎる瞬間、斎藤の腕を掴む。

「何か用」

 鋭い眼光を俺に向ける。顔が整っているせいか妙に怖い。


「この間の島嵜がトイレで倒れてたことなんだが……何があったのか?」

 ずっと考えていた。でも、どうしても分からなかった。そりゃそうなんだが。俺はあの渦中にいなかった訳だから。

 けれども、事実が変わってしまったのは真実だ。

 すると、斎藤の瞳が揺れ動いた。それは、間違いなく動揺している。

 ハッとしたように俺から腕を取り払い少し距離を取る。

「斎藤、どうしたんだよ」

 明らかに様子が可笑しい斎藤に少々不安にある。俺は何か変な事言っただろうか。

「あんた……の?」

「は?」

 声が小さ過ぎて聞こえなかった。しかし、その声は僅かに震えている気がした。

「だから、あんた覚えてんの! ……そう、言ってるの」

「えっと、まぁ。1ヶ月ぐらい前の事だが流石にあんな衝撃な事、忘れたくても忘れられないぞ、普通」

「そうじゃない! どうして覚えてんのよ!」

 斎藤は話が伝わらないことに少し苛立っているようで。しかし、まぁ、斎藤がここまで表情を変わるのを見たのは初めて見たな。

 今になって斎藤が言ってることが理解できていた。

 つまり、俺の推測は正解だったのだろうか。

「それは、島嵜がその事を覚えていない事に関係あるか? 斎藤」

 斎藤の目は大きく開かれた。

「そうなんだろ? 斎藤。俺はお前の事なんも知らんが可笑しいだろ? 常識的に考えてもこんなこと。違うか? それに斎藤だけじゃない。お前を庇って怪我したことも何もかもが全て変わって、事実が何処にもないんだよ」

 少しだけ時間を置き確信に迫る。

「斎藤、何が起きてるんだ」

「私……やっぱあんたには関係ないよ」

 ようやく聞けた質問への答えがそれだった。いくら俺でも1ヶ月まで及んだモヤモヤ晴れはしない。

「斎藤。お前の顔苦しそうな顔してるぞ。それが、ただ事じゃないって物語ってるんだよ」

「それは……。でも、無駄なんだよ。あんたも痛い目に遭いたくなら、私なんかほっといて」

 そんな風に言われたら余計気になるだろうが。

 何だろう。またあの感覚だ。あの焦燥感。

 ここで斎藤の事を知らなければ、斎藤が何処かに行きそうで、戻ってこない。そんな感覚が俺の身体を巡る。

「その記憶がどうか知らんが、こんな風に覚えてるのは今だけかもしれない。明日になれば忘れてるかもしれない。だから、その可能性に賭けて俺に話してほしい。ーーほら、その事が気になってるから忘れようとしても忘れられないんじゃないか」

 斎藤はこの説得が効いたかは定かじゃないが、風なびいた髪を押さえながら、「きっと、あんたも忘れちゃうんだから。分かった、話すよ」と一応承諾された。




 



ーー私、世界に生きることを許されてないみたい。






  でも、これは推測でしかないの。立証しようがない。






  ただの不運が重なっただけかもしれない。




  

  何処まで信じてくれるかは私は望まない。

















 



 ここまで足掻いてきた斎藤の16年間の物語を俺は信じることが出来るだろうか。




















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