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斎藤の諸事情

 それから2日後、斎藤は窓際の席に涼しげに座り、本を読んでいた。

 しかし、俺は声をかけることもなく何時ものように席に着く。だって、そうだろ。今まで話のはの字ぐらいしかしてないのに急に話しかけてきたら、不愉快だ。少なくとも、コミュ障気味の俺が言うから間違いないと思っている。

 前のドアから何やら山田の、ウザいの一言でしか言い表せないニタニタした顔と、鬱陶しい視線は今はスルーさせてもらう。まぁ、後で罵詈荘厳浴びさせてやるがな。楽しみにしとけ、山田。


 さてさて、松葉杖生活にもやっと慣れた頃だった。少しずつ、夏本番が近づいているような雰囲気の天気だ。


「浩史君、今日、日直だよね」

「あ、ーーそうだった」

 今日に限って忘れてしまった。普段ならまだしも、この脚では何かしら不自由だった。俺の教室は2階で、職員室は1階。そう、わざわざ降りて、日誌を取りにいかなければならなかった。

 俺が内心盛大な溜め息をしていたところに、なんと目の前に日誌があるではないか。

「はい、これ。職員室に用事があったから、どうぞ?」

「……すまないな。ありがとう。島嵜」

 この天使のような行為をしてくれたのは、島嵜 美桜(みゆ)だ。島嵜は男子ウケ、女子ウケともに名高い人気ものだ。少し浮世離れした斎藤の容姿とは違って、島嵜は親しみやすいフワフワした可愛さがある。いや、十分を容姿は整っているのだが、斎藤の容姿のせいで少し霞んでしまっていた。うん、なんか、可哀想な気がしてならない。

 茶色がかったショートボムがフワっと揺れ、これまたフワっとした笑顔で「どういたしまして」と言うもんだから、男どもから睨まれたじゃないか。勿論、ジェラシーでな。

 あの笑顔が欲しいならば、ここから飛び降りれば脚を骨折出来るぞ。

 やれやれと、再び席に腰を下ろす。斎藤は変わらずというか無表情であった。あれから俺と斎藤は挨拶どころか、目さえ合っていない。でも、それは俺だけじゃないみたいだった。男女問わず話しかけようとされるものなら、華麗にスルーされてるという。

 それを聞くと、あの病室の件は結構レアじゃなかったのかと思う。

 


 今日は文字を見るだけで全身からダルいオーラが出そうなくらい嫌な体育だった。

 そう、思っていたのは1週間前の話だ。だって、俺骨折、ゲガ人だ。必然的に見学者になるわけだ。

 嬉しくないはずない。

 だから、ここしばらく辛い体育はしてないわけだ。いやぁー幸せだな。 

 体育の授業内容は男子バスケ、女子バレーのようだ。この場合、部活動でしている奴と、運動神経がよく殆どのスポーツをそつなくこなす勝ち組だけが楽しむというのが定番である。ここの学校も例外ではなく、出来る奴は張り切り、出来ない奴等は適当にコートないをランニング状態化している風景が出来上がった。

 見慣れた光景にどう思うこともないが、俺は楽だ。座っているだけも退屈だが、暇言うのは幸せの証拠だと俺の中では揺るがない。



 その刹那、斎藤の姿を見たのは果たして偶然か。




 ぼっち斎藤が今日は誰かに話しかけられていた。その相手とはフワフワ系可愛い女子島嵜だ。

 きっとあれだ。島嵜は常に極小の割合で存在の外面、内面も純粋初の聖母様だ。

 美少女二人を見て和むのもつかの間の時間だった。

「……あれ、おかしいんじゃないか?」

 島嵜が何やら斎藤にしつこく言い寄っている。普段の島嵜なら呆気なく引く控えめな性格の筈だ。 

 しかも、今日の斎藤は右腕に包帯をしていた。怪我でもしたのだろうか。

 何だ、この引っ掛かりは……。

 また、あの感覚だ。斎藤を以前助ける前の焦燥感。毛穴から嫌な汗が吹き出そうだ。

「何だっていうんだよ……」

 訳の分からないこの感覚に戸惑う。

 そうしているうちに、斎藤は島嵜に手を引っ張られ体育館の外へ。その時の斎藤の表情は焦っていたように見える。

 斎藤の表情があんなに変わったのを見るのは初めてかもしれない。

 モヤシのように細い斎藤と島嵜は空手をしていると聞いたことがあるが力の差が大きかったのだろうか。

 呆気なく俺の視界から斎藤は消えた。無理矢理引かれながら。

「おいおい……」

 これは、不味いじゃないか。

 俺の本能みたいなものがそう叫んでいる。

 周りは、試合並みに盛り上がってる女子バスケに魅って二人のことは気づいてなさそうだ。

 俺は一度溜め息をつき、松葉杖を手に取った。

「なわけないよな……。これは確認だ」

 自分にそういって落ち着かせた。

 そして、俺も誰も悟られることもなく体育館を出ることに成功した。

今日、己が影が薄かったことに感謝したことないだろう。


「よいしょっと」

 ゲガ人には辛い階段を上り、下りあの二人を探すが一行に見つかる気配はない。

 使われない資料室、現像室を探し、空き家になっている教室も探した。だが、見つからない。

 そして、あの変な焦燥感は消える気配もないのも事実。

 何のためにアイツらを探しているのか分からなくなった頃、俺の人生の機転となった事件が起きたのは。


 ガチャン‼


 俺は振り向く。後方にある女子トイレの入り口に向けて。

 今は授業中で、ここは使われない教室が多い4階。もう、あの二人しか可能性はないだろう。

 かなり躊躇しながら、女子トイレに足を向けた。



「勘弁してくれよ……」



 








 俺の一言だった。


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