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家に着いたのは夜10時頃だった。

家の明かりはついている。ドアノブに手をかける。少し緊張しながらも、いつも通りドアを開く。

「ただいま」

とても小さな声だ。

かすかに震えている。

「良かった帰ってきたのね。お帰り」

「ごめん」

無意識のうちの掌を握りこんでしまう。

母は真っ直ぐ此方を見ていて、何か言いたげなそんな表情だった。

「私‥‥‥話がある。話したいことがある」

母は私が話を切り出したことにギョッとしたようなきがする。いつからか私は母を怖がらせていたのか。今では分からなくなった。

「お父さん読んでるから、先に座ってなさい」

「うん」


数時間前までいたダイニングテーブル。

そこにまた家族が揃った。

父は不機嫌そうに「なんだ、話というのは。離婚の件は悪い桃花に思っている。だか。それは取り消せない」

「違う。話したいのはそこじゃないよ。もっと別なことで私のこと」

あぁ、唇が震える。手が震える。

これから私はどうなる?

「私が不登校で、人との関わりを切ってしまった理由」

「そんなの今は関係ないわよ。もう、終わったこと」

「話をさせて、お母さん。私の所為で2人が不仲になったこと、上手くいかなかったこと、心配させたこと。今から話すことはその全ての元凶のはず。それを話すから」

2人には反応がない。

「2人に話したいことは‥‥‥」

話したら拒絶される?

「意味がわからないかもしれないけど、右腕に定期的に傷が浮かぶの」

精神患者と思われたりするかな。

よくある厨二病とか思われて笑い者にされる?

「その傷があるときは、私は死に近くなるの」

なんて言えばいい?

なんて説明すればいい?

「何いってるんだ?」

その通りだ。

けど。

「例えば、外を歩けば誘拐されそうになったり。ううん、この前誘拐されたわ」

両親はギョッと目を見開く。

それはそうだ。いきなりだもの。

「でも、生きて帰れた。助けてくれる人がいたから」

大丈夫、落ち着け。

「中学の頃は、担任に絞め殺されそうになった」

顔が見れない。

「担任は確か、私を殺さないといけないみたいなこと言ってた」

そう、はっきりと言っていた。

「小さい頃、おばあちゃんがずっと守ってくれた。交通事故に遭いそうな時、隣の犬に足を食い千切られそうになった時、助けてくれたのはおばあちゃんだった」

私はおばあちゃんからの遺書とも言える手紙を机の上に置いた。

「きっと、これを読んでくれたらわかると思う。お母さんもお父さんも今はわたしが何言ってるかわかんないと思う。けど、読んでほしい。お願い」

父が手紙を手に取る。

きっと分かってもらえるはずさ。そう、思うけど不安だ。

ただは無表情で、手紙の文を読む。

少しの時が過ぎ、父は母に手紙を渡し、口を開く。

「読んだが、到底信じきれん」

「‥‥‥」

「しかし、桃花がそんな戯言を話すとも思えん」

「じゃぁ」

「しかし、傷については俺にとっては幽霊と同じような不確かなモノとし認識出来んのだよ」

それは仕方ないこと。想像したよりは大分ましな反応だ。

「桃花」

「えっ」

父が私を抱きしめた。何年振りかな親の体温は心地良かった。父のワイシャツからは、少しだけお酒の匂いがついている。

「不確かなものでも、俺は桃花を信じたい。それが本当ならば、桃花を苦しめてるのがそれならば親として桃花を助けたい」

顔は見えないけれど、きっとしわくちゃな気がした。

「うん」

「今まで、気がつかなかった愚かな俺はどうすればいい?桃花」

「何も望んでなんかないよ。でも、信じてくれてありがとう。それだけで私は」

ガタッと音を立て、立ち上がる母。手紙は力強く握られていて、「寝るわ」ただ、一言言って帰った。ドアもピシャリと音を立てて、苛立ってる様子がよく分かる。昔からそうだった。母は態度が出やすく、わかりやすい人だ。

それから父が「お母さんには、俺が言っておくから」と言われた。

私は頷くだけだった。

正直どうすればいいかわからなかったのだ。それは、母からは私を拒絶されたからだ。

血の繋がった母から拒絶されるとこんなにも辛いとは思わなかった。

怖いことだとは思わなかった。

私はしばらく立ち尽くしてリビングから出た。



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