帰る場所は
制服のポケットに入っていた小銭で自動販売機で炭酸飲料を買った。
キャップを捻ると、空気が音を立てて飛んで行くあの音がなった。口をつけ一気に飲む。喉がごくりと音を立てる。
炭酸が苦しくて、数秒しか一気に飲みは叶わなかった。炭酸を飲んだせいか、心なし色々軽くなった。
ペットボトルで火照った母を冷やす。
冷たくて気持ちかった。
やっと冷静になって、また感情がこみ上げる。目尻が熱くなることを感じて、涙を零さないよう目を閉じた。
深呼吸して、落ち着くように自分を促す。
大丈夫大丈夫と自己暗示しながら。
何が大丈夫か分からないけどそうしないと壊れて行きそうだった。
ううん、もう壊れてる。
壊れちゃったんだ。
全部全部、自己責任で自業自得。
分かってるけど、理解してるけど、感情が追いついて、追い越してしまう。
手頃のベンチに座り、通勤ラッシュのせいか人が多い。私は背景になってる。ちっぽけな存在であることに気づけば何もかもどうでも良くならないだろうか?
「ならない」
何も変わらない。
時間は私を置いてくれはしなかった。置いていけば何もかも無になってしまうのにね。
それと、同時に待っててもくれない。
時間は生きることを急がせる悪魔なんだ。
そんなくだらないことを考えてたら、時間が経った。
帰らないと。
「お嬢ちゃん、お一人?」
話しかけてきた1人の青年。明るい茶髪に印象的な切れ目。背も高くて圧倒されそうだ。
これは世に言うイケメンといたやつだろうか。
「お兄さん、暇しちゃってねー遊んではくれないかい?」
「‥‥‥結構です」
イケメンというのもナンパするものなんだろうか?あまり必要性が感じない。
「もしかして、泣いてた?」
イケメンが言った。私は肯定も否定も出来ず黙ったまんまだ。
他人に話す義理なんてない。
「フラれたとか?」
見当外れだけど、ズカズカと人のテリトリーにズカズカと入り込んでくる。
デリカシーの無い人だと思った。
「お嬢ちゃん、結構可愛いのにどうして振っちゃたのかなー」
冷やかすように言ったイケメンに腹がった。
「まぁ、俺もなんだけどねー」
笑っていたのに、寂しそうな笑顔。
痛々しかった。
「あの、私そんなんじゃ‥‥‥」
途中で否定するのをやめた。男の癖にというのは差別みたいだけど、言わせてもらうと今にも泣き出しそうな顔していて、弱々しかった。
だから、否定するのを躊躇った。
「そうですか‥‥‥」
どう反応していいか分からない。
「あはっ‥‥‥ごめんね。気を遣わせて」
「いえ」
イケメンは勝ち組と思ってたけど、フラれるとかあるだな。
「まぁ、ごめんね」
「何がです」
「ナンパみたいなことして。なんか俺と同じ境遇のやつかなって勝手に思ってさ」
視線を外しながら、頭を掻く仕草はなかなか様になっていた。
「良ければお話聞きましょうか?」
何やってんだろ‥‥‥私。
一瞬イケメンは驚いた顔したけれど、「お願いしようかな」と頷く。
「別れた原因をお聞きしても?」
「あぁ、うん。えっとね、なんと言うか彼女が好きな人ができたってさ」
「‥‥‥」
こう言う場合なんて言うのが正解?
「ははっ、反応困るよねぇー。俺も困ったよ。彼女は好きな人が出来たから貴方を愛せないってさ」
それはつまり‥‥‥。
「俺、何一つ悪いこともしてないのに。‥‥‥理不尽だよな」
「好きなんですね、彼女さんのこと」
「まぁな。高校時代はずっと片思い。卒業式で告白して成功して嬉しかったなぁ。今となっては苦い思い出だよ」
「気の利いた事言えなくてすみません。私はあんまり恋愛はしたことはなくて」
「いいよ、気にしてない。年下に恋愛のアドバイス貰ったらそれこそ終わりだし」
傷ついた顔。
本当にさっきフラれたばかりなんだと思う知る。
「聞いて貰ってありがとな」
「いえ、大したこと出来なくて」
「大分すっきりしたよ!感謝してる。俺よりお嬢ちゃんは大丈夫かい?恋愛の事ではなさそうだし」
言うか言わないか迷ったが、少しだけ話したい気分だ。
「私は両親が離婚することになって感情に任せて出てきた感じです」
「そっか。どんなに理解するのに時間がかかっても最後にちゃんとわかり合えば大丈夫。俺も親が離婚したけど、そんなショックじゃなかったなぁ。他にもしかして理由とかあるの?」
「どうしてそう思うのですか?」
「いや、お嬢ちゃん高校生だし、その制服って頭いいとこじゃん?離婚でそんな取り乱しそうにないって感じかなぁー」
なんだか全てお見通し感。
「実はその離婚が私が原因なんです。理由は言えませんけどね」
忌々しい傷のせいだけど。
「あぁ、なるほどね。罪悪感ってやつ?」
「まぁ、そうなるでしょうね?」
罪悪感。うん、なんだかしっくりくるような気がする。すると、頭に重量感を感じた。
「えっ」
イケメンはスマイルだった。とても穏やかな。
「別に、下心があるわけじゃぁない。ただ、もう少し楽になれ。そんなに辛そうに呼吸してたら体か持たなくなっちまう。何事も適度にだ。罪悪感って結局自分を悲観してしまうだけだ。責めて、頼れる誰かに全部吐いちまえ。いるだろ?そういうやつ。こんな会って数分のフラレ野郎じゃなくて、少しでもここ許せる誰かが」
私にいるかな?そんな人。
「何やってるんです?女子高校生に?」
私の頭の上に乗っていたイケメンの手がなかった。声の方向をみると、私服姿の佐々木だった。
イケメンも呆気に取られていていた。
「ナンパですか?いい歳して」
「失敬だなぁー。俺まだ22の大学生だけど」
笑いながら、キレ気味の佐々木に話す。
「違うのよ。佐々木。これは、ナンパじゃなくて」
「いいよ、お嬢ちゃん。俺は退散するよ。良かった、居たんだな。そう言うやつ」
「そうですかね」
「大丈夫だ。少しは信じてやってもいいんじゃないか?」
「少しだけなら」
イケメンはハニカムと手をひらひらさせて、人混みへと消えていった。
「名前聞くの忘れてた」
「おい、さっきのやつ誰なんだよ?」
そこには勘違い野郎がいた。
「何って、通りすがりのイケメンよ」
「いや、他にあるだろう」
佐々木は困ったような顔をしてる。
いいえ、本当にそれだけよ。
きっとまた会うかどうか分からない、一期一会な存在よ。
「それより、ナンパと勘違いしたわけだけど」
「‥‥‥ごめん」
「謝る必要なんてないわ。勘違いしただけだもの」
「強調すんな。恥ずかしいだろ」
いつの間にか、笑いが出てくるようになった。正直佐々木といてまともに笑ったことなんてないけど。不思議な気分だ。
言葉とは偉大だ。
話すとは手段だ。
そのことに気づいた気がした。
向き合おう。
家族と。
自分の弱さと。




