斎藤家
佐々木が何か隠してる気がする。
気がするじゃない。隠してると断言してもいい。
何だか
「不愉快だ」
私は人に何かを隠されるのが大嫌いだ。拒絶されてるようで、嫌いだ。
でも、私も人のことなんてこれっぽっちも言えないのだけど。
私は自己中心的で、自分本位。
あぁ、クソみたいな人間だと自覚はしてる。けれど、こういうのは生まれ持ったあれだ。
直らない不死の病。
きっと直らないのだ。これからずっとずっとぞ自己嫌悪しつつ、クソみたいな自分と付き合っていかなければならないのだ。
玄関を開けると、静寂が朝から保たれたまんまだった。誰もいない家というのは気楽。だけど、虚しくなるのだ。
二階に登り、突き当たりのドアを開けると私の部屋だ。やっと、ここで私は力を抜ける。
机の上には祖母の手紙が置いてある。たまに読み返すのだ。読み返す度に祖母は私のせいで死んだのではないかと考える。
私の訳の分からない境遇のせいで、この結果になったとしたら、どんな気持ちで生きていいのか分からない。生きてて、良いほど私にはその価値はあるのか?
価値は、自分ではなく他人が決める。
この世は評価し合う関係で出来ている。評価せずにはいられない悲しい生き物で成り立っているのだ。
「なんて、悲しい」
こんな感傷的な事になるのは、全部佐々木の所為なのだ。
佐々木は悪いやつじゃないことくらい分かる。
でも、それと同じくらい信用ならない事も分かる。
私の潜入感、そうとも言えなくない。
だけど、いつだって私は最良の選択をしなければならないのだ。
そうしなきゃ、生きてはいけないから。
この忌々しい傷を背負うのなら、そのくらいは当たり前だと思うのだ。
ベットに倒れこむと熱くなった頭が冷えていくよう。
「おばあちゃん」
ねぇ、私はどうすればいい。
どんなに風に生きて、どう暮らして、普通になれる?
誰かにこんな弱音なんて吐けないから、もういない祖母にしか問うことしかできない。
「どうすればいい?」
けれど、誰も答えてはくれない。そんなことは分かりきっているのに、聞いてしまう。
つくづく私は愚かな人間だと思う。
そして、また問う。
「誰に頼って生きていけばいい?」
嫌だな。私は誰かに助けを求めているのか?弱い。
あたまに浮かぶ1人の影。
辿ると佐々木で。
「馬鹿みたい」
何かを隠してる人間をに頼るなんて、どうかしてる。
私は本当に自分が嫌いで嫌いでたまらない。
それと同士に我が身が可愛いのだ。
佐々木は、少なく方も誘拐された時あんなに必死に探してくれたその事実は紛れもなく本当のことなのに。
結局、怖いのだ。
親しくしてしまって、得た何かは失ってしまうと分かっているから。
悪いのは全部私だと、悪いのはこの傷だと誰かが言ってくれたら少しは楽なのにね。
暫くするとあたりは真っ暗で、月明かりだけが照らしている。
電気のスイッチをつけると、眩しくて目が痛かった。
ノックする音と「いいか」という父の低い声が聞こえた。
「何か用?」
「出てきてはくれないか?大事な話しがある」
「‥‥‥分かった」
大事な話。
それは私が聞かなければいけない話ということ。
その時にはもう、壊れるのだと分かっていたのかもしれない。
だって、どうしようもなく怖かったのだから。
4人のダイニングテーブル。実際に座るのは3人。私と母と父。
母と父が隣同士に座り、父のの 対極に私が座っている。まだ私は制服のまんまだったが両親は私服だった。
こんな風に家族とテーブルを囲むなんていつ振りだろう。しなくなったのは全部、私の所為だけど。
「落ち着いて聞いて欲しい」
「‥‥‥」
父の顔も母の顔も険しい。
「俺たちは離婚する事にした」
うん、いつかそうなると思ってはいたけど今日とは思わなかったよ。
「桃花、私達はもう一緒にいない方がいいと思ったの。毎日ケンカで、私はもう疲れたわ。分かってちょうだいね」
「‥‥‥」
母の声がとても遠くで聞こえた。
その間、テーブルの模様に視線を落とし、時間を忘れたかった。
「桃花、どっちについて行きたい?」
父がそう言った。
私に向けての言葉なのにまるで他人事のように聞こえた。私はドラマでよくある台詞だと思った。
「桃花?」
名前を呼ばれ、顔を上げ2人を見るといつの間にかこんなにも歳をとったのだと感じた。
両親の顔なんて、ここ数年ろくに見なかったからに違いない。
「どうして‥‥‥」
私が呟くように言っていた。
「何だい?桃花」
「どうして私に相談なく決めた?」
言うな。
「私には決定事項だけ?」
言うな。言う資格なんてないんだから。
「私には、関係ない話だった?」
口が頭より先に動いてしまう。あぁ、私はどうしようもないやつだ。
「そんなことはない。桃花には心配させたくなくてな‥‥‥」
「私の所為?」
分かりきっている事を聞いてしまうて、子供みたいだ。
「そうじゃないわ」
母の声が少し硬かった。
「私の‥‥‥所為だよね。御免なさい」
拳を握る。痛かった。
2人の顔なんて見れなかった。
だって、この生活を壊してしまったのは全部私だったのだから。
苦しい。
辛い。
逃げてしまいたい。
存在なんて消えてしまえばいい。
いっそのこと。
「私はどっちでもいいよ」
私が出した答えは情けないぐらい投げやりだった。
2人は困ったような表情をしているだろう。
見れないから、推測だ。
「ごめん、ちょっと外出てくる」
「こんな時間に危ないぞ」
父が言った。
「大丈夫だよ。ちょっとそこまで行くだけだからさ」
「桃花は女の子よ。危ないから部屋にいなさい」
「‥‥‥放っておいて」
「でも‥‥‥」
「こんな時ぐらい察してよ!放っておいて!1人にさせてよ!」
遂にやってしまった。
バカだ。
私。
両親も驚いていることだろう。こんなにも感情を出したのはいつ振りかさえ思い出せないや。
「行ってくる」
そう言って家から出た。
行くあてもなく走った。夏だからすぐに汗をかいてしまう。
涙が出た。
感情が混ざりすぎて、何に泣いてるのか見当がつかないほどに。
走りながら思い出した。
私が両親に向けた行為は確か『逆ギレ』だった。
佐々木達がそう言ってるのがふと浮かんだのだ。
逆ギレされた相手は、きっと途轍もなく不愉快な気分に違いない。




