夏休みの一日II
山田の代わりに少女が現れて数分経った。
しかし、数分というには些か濃い時間だ。
「私の用件はこれだけだ。これからも関わるというのなら、佐々木浩史。少しは貴様の命もなくなると思った方がいい」
「待てよ。おまえ何者なんだ」
そう、お前は誰なんだ。急に現れて、意味のわからない言葉を並べて、斎藤と離れろとか理解できないことばかり言いやがるお前こそ誰なんだ。
「私は……」
小さな口が動く。
「栗原ユイ。厳密には栗原ユイとなっている」
「は?」
思わず唖然となる。
「栗原ユイなんだろ?」
「私は栗原ユイ。詳しくは言えないが栗原ユイは私のものではない。そんな事はどうでもいい。」
意味が分からない。こいつは一体何を言っている?
栗原ユイは身を翻し、人混みへと紛れこむ。俺は後ろ姿を見送るしかなかった。
「何なんだよ」
腹の底が冷えるような、何故か歯痒い気持ちだ。
町は夏休みの所為かいつも以上に賑わいを見せ、俺だけ一人ぼっちになった気分で、虚しかった。
気がつくと、あれから10分ぐらい経っていてある人物に電話をかけた。
数回のコールのあと出てきたのは最近聞き慣れた凛とした鈴のような声。
「何よ」
相変わらず愛嬌がなくて、安心した。
「いや、少し確認したいことがあったから」
「さっさと言いなさい。私は忙しい」
「斎藤、栗原ユイっていう奴知ってるか?」
「くりはらゆい?知らない。こういうのも何だけど高校で名前を知ってるの数人しかいないから」
「そうか、ならいいんだけど。悪かったな。忙しいところ」
少しは間が空き「ねぇ、何かあったの?気になるから話して」と斎藤が珍しく興味を持った。
しかし、確証がないのに話すのは無責任だと感じた。だから、俺は、
「いや、何でもないよ」
「何でもないわけないでしょ?」
「その子可愛いなぁと思って、知ってるかなと思っただけ。悪いな、忙しいところ」
我ながら何とも苦しい言い訳。逃してはくれないかと思ったが「そう」と、呆気なく引いた斎藤に驚きつつも電話を切った。
何だろう。あいつ。
急に現れて、変なことを言う。俺だって戸惑うし、なんか怖い。
ポケットの中に入れた携帯が震えだした。
相手は山田だった。
深いため息み吐きながら、電話に応じる。
山田の第一声は「どうだ、ドキドキ初デートは!」だった。
「デートなんだそりゃ。そうだ山田。あいつは何なんだよ」
「何って、まぁ本人の前で言うのも何だけどさぁ」
そう、前置きして必要以上に声を潜める。
「なんかーお前に会って話したいことがあるからって頼まれてさぁーだからー、分かるだろ」
また一つ俺はため息をした。
「残念だったな。お前が思うような事は微塵もなかったぞ」
あったほうがよっぽどよかった。理解不明な言葉だけ置いてかれて俺はどうすればいい?
「まじかよー、お前にも春が訪れるって思ったのにぃ!」
「ま、俺を騙した罰として本当に課題手伝わないからな」
「お待ちくださいっ!親ぶーーーー」
ブチッ。
容赦なく切った。これくらい報いとしては軽いほうだ。
昨日は、色々あって、ムシャクシャする。
空を見上げると相変わらず青くて、入道雲が白すぎて、綺麗で、暑苦しくって、少し鬱陶しかった。




