斎藤との帰途
あの騒動からの帰途はお互い疲れ切っていて言葉数が少ない。夕日から差す光が少し眩しくて、目を細める。斎藤の横顔から心なしか不安が見えた。
その理由は分からなくもない。あのオッサン達が言っていることが本当ならば、世の中が騒ぎ立てるか、ただ異常な精神状態の戯言かと思うところ。
だが、斎藤は何も騒ぎ立てず自分の中で整理して飲み込もうとしているよう。俺なら、ぎゃーぎゃー1人で騒いで何も信用せず本当の意味で人生を終わらそうとしそうだ。
でも、少しだけでもいいから俺を頼ってくれても良いんじゃないかと思うのは調子に乗っているだろうか?いや、そうは思わない。当たり前だ。
俺たちの関係はそう、友達なんじゃないだろうか?いや、斎藤に言ったら違うと言われるな。たった少しの付き合いで友達だと言うのは烏滸がましいか。
「斎藤、怪我はないか?」
「あると思う?」
斎藤は決定事項と同じように言う。だが、俺も。
「あるとは思えないな。……あの状況で」
苦笑しながら話す俺を睨む斎藤を見て、さっと表情を隠す。
「それにしても強いんだな。守るとか言った俺って……」
「あんたが思ってるほど、私は強くない。強くありたいと思ってる強情な人間よ」
と、吐き捨てるよう言われる。
「で、でも、大の大人を1人で凄いと思うぞ!異世界転生したらきっと最強だな!」
「あんたって馬鹿なの?」
「一応成績は自分でもいいと思ってるんだけどな」
「やっぱり馬鹿だ」
「なっなんで!!」
「そう言う所が馬鹿って言ったの」
すると、斎藤は何処にでもいる少女のように屈託なく笑う。普通の女の子に見えた。到底訳のわからない事で狙われている悲劇の少女では無く、1人の少女として。
そう分かると俺も何故か分からないが、嬉しくなって斎藤と一緒に笑い合う。
「あんたもしかしてMだったりするの?」
俺が笑ってるのを見て、不思議に思った斎藤は純粋に質問してくる。
「な訳無いだろ!!」
少しの焦って答えた俺に「怪しい」と言ってより笑みを深めた。
こんなに笑った斎藤を見たのは初めてで、ずっと見ていたいとも思う。
こんな平和な日々が続けばいいのに。そう思ったのはきっと俺だけじゃないはず。
「じゃぁ、私こっちだから」
このまま別れようとする斎藤を腕を掴んで、止めた。
「何よ。まだ何かあるの?」
「あんな事があったばかりじゃないか。家まで送るよ」
もう辺りは暗い。そうで無くともこんな夜道女の子1人じゃ危ないに決まってるじゃないか。
「大丈夫よ。だって強いし」
さっきと言ってる事が矛盾してるし。
「分からないだろ?さっきの事もさ、俺すぐそばに居て何も出来なかったけどさ……罪滅ぼしと思って、な?」
「わ、分かったわよ」
こうして一緒に帰る事になったわけだが、道は高級住宅街だった。
斎藤ってかなり金持ちなんじゃ……と尻込みしていた。斎藤は終始眠そうで、疲れているんだと察した。当たり前の事だか俺は斎藤を別の種類の人間と考える癖がある。それは勿論、斎藤を差別する意味では無く何と言うか、運動が苦手な子がスポーツ万能の子を見る目に似てる。羨望と嫉妬と何処かくちゃくちゃな感情と、あいつは恵まれた奴で何の努力をしないで栄光を得る。それに比べ自分は平凡で努力したって勝てやしないと、出来ないことを正当化しようとしてるような感じだ。
実際、その眼差しや言葉を聞くと腹立たしい。そんな事ない。こっちだって、努力したんだよ!と何処かにやりようのない怒りが、沸々と湧き上がる。それを伝えると嫌味にしか聞こえないが。
「着いたわよ、今度こそ。じゃぁ」
目の前に現れた豪邸は誇張し過ぎだが、立派な家だった。白で統一されて、如何にも高級そうな家。
「何、ボヤッとしてんの? あんたもしか早く帰りなよ。親御さんが心配されるでしょう」
「あ、あぁそうだな。帰るとするよ。また明日な。呉々も気を付けろよ。いつでも連……」
そこまで言って思った。俺も斎藤の連絡先を知らない。守るとか言って何してんだろ。
「斎藤、連絡先教えてくれ。いざとなったら呼んでくれ。役に立たないだろうけど」
斎藤が目を丸くしたか、呆れたような視線を送る。
「何だよ」
「いや、役に立たない前提って自分で言って悲しく何ないの?」
ぐさっと刺さる言葉だった。情けねぇ俺。
「ま、いいけど」
このやり取りの後、斎藤の連絡先を得た。
「じゃな、斎藤」
「あ、そうだ」
「何だよ」
玄関の扉を開けた斎藤が思い出したように振り返る。
「迎えに来てくれて感謝してる」
それだけ言って言って今度こそ家の中へ入る。
思わずポカンとしてしまう。その後に、何を言われたのか理解して、微笑が込み上げた。
素直にありがとうと言わないのが如何にも斎藤らしいと思った。
俺はふわふわとした心地よい気分の中、帰途に着く。




