決着! 校内陸上
「グァァァ! イッテェェェ」
転倒した僕は叫んだ。
女史を掴んでいたため、手で受け身をとれず、愛すべき地球に熱い口づけをおみまいしたのだ。女史はというと、転んだ衝撃からグラウンドをゴロンと前転していく。あ~あ…優等生とは思えないみっともなさだ。
「けど勝ったぁぁぁ!」
僕は顔を押さえながらも、立ち上がり、またも叫んだ!
根拠はない。だが、勝ったという自信はある。こういうギリギリの勝負だと思いの強さが勝敗を分けると考えた僕は、高らかに叫んだのだ! 勝利したと。
『ワー!』
そんな僕らに対し、周りから大きな歓声が聞こえている。スローから切り替わった直後の現実はえらく騒がしいなぁ。
「っしゃあああ!」
よく見たら山城の方も大きく手をあげて、勝利を宣言している。くそ、奴も考えは同じか。
「いや、僕らの勝ちだろー!」
「いやいや、私達よ!」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
そんな不毛な主張を繰り繰り広げる僕ら。結局、判定がないと前に進まないようだ。
「ちょっと審判!」
不毛な状況を読み取ったのか、有喜が本部に向かって判定を求めた。その言葉と同時、本部で審議が始まる。数名の職員と生徒が真剣な表情で話し合っており、その間に他の組のペアも次々へと帰ってきた様子。僕がそんな様子をじっと見守っていると…
「あいたた、どうなったんですか?」
女史が腰を押さえつつ、足を引きずりながら僕の元へやってくる。
「おお、女史。いたの?」
「いたの? じゃないですよ。なんで最後の最後にコケるんですか、あなたは」
「しょうがないだろ、僕だってあちこち限界だったんだから」
「はぁ、伊勢君と一緒はやはり疲れます…」
「楽しくて疲れる? いやー、それほどでも~」
「褒めてません!」
『えー、それでは二人三脚の判定をお伝えします』
そこへアナウンスの声が割って入ってきた。
『ただいまの結果は…』
ドキドキ…僕らは息を飲んだ。会場も固唾を飲んで行く末を見守る。
『11組の勝利です!』
11組って…僕と女史だ! 勝った、勝ったんだ!
「っしゃぁぁぁぁぁ!!」
色々と疑問が残りそうなもんだが、そこは露骨に大喜びする僕であった。
「やった! やったよ、女史ー!」
僕はすかさず女史の手を取り、はしゃいだ。
「やりましたね、伊勢君! って、痛いです。これでも怪我人なんですよ」
「ああ、ごめん。でも勝ったー」
「納得できない!」
喜ぶ僕らのすぐ横で山城が声をあげるやいなや本部に抗議をしに行く。一部ギャラリーもこの判定に納得できないとブーイングがちらほら聞こえる。おっと、このまま判定が覆ってはいけないと僕らもすぐさまその後をついていった。山城が言い分を本部に伝えると、本部はすぐさまアナウンスで回答した。
『え-、審議の結果、本部は11組がわずかな差で勝利したと判断しました。また、ただいま指摘のありました、そもそも二人三脚をしていないという点ですが、パートナーを抱えて走るのは、ある意味二人三脚よりキツいという事で、本部としてはレースの続行権利を認めます。また、会場も大いに盛り上げてくれたので正式に11組を一位とします』
「やったー!」
「やりましたね! 伊勢君!」
僕らは山城達の事にはなりふり構わず、正式な勝利が認められたことを喜んだ。
「なんでよー! ふざけんなー!」
悔しがる山城。すこし不正をした後ろめたさはあるものの、とりあえず女史の一人ぼっちランチは回避できそうだ。よかった、よかった、一安心っと。
しかし、僕はなぜ、女史が僕と過ごす時間が大切だと言ったときに、あんなに力が出たのだろうか。う~ん…なんでだろう、なんでだろう~とちょっとリズムに乗ってみる。まぁ、細かいことはこの際どうでもいいや。とにかく、これで災難は去った訳だし、凱旋でも決め込むか~と意気揚々とテントへと向かう僕であった。が…
「ブーブー!」
「うっ」
しかし、本当の災難はこれからであった。クラステントに戻ると、クラスのみんなが僕に一斉にブーイングをしだした。サムズアップを下に向けている。これはただならぬ事態だぞと、置かれた状況を理解する。
「イセユウ、お前ひどいな」
「どういうことか説明して」
僕は一気に小さくなった。
「いや、これには深い訳がありまして…一概に説明しろと言われましても」
「ゆっくりでいいから、この場でまとめろよ」
クラスメイトたちの厳しい質問が続く。
「時間がかかるよ~、そんなの」
「どれくらい?」
「う~ん、二日くらいかな?」
「「「大馬鹿!!」」」
笑いでなんとかこの場を納めよう果敢に挑んだ僕だったが、そうもいかない様子。すると、クラスの誰からか『サイテー』というコールが出てくる。それに釣られるように一気にブーイングがマックスとなった。
「「「サーイテー、サーイテー」」」」
「ちょっと待ってよ! クラスに黙って11組助けたのは謝るけどさ、僕の男気がかかってたんだよ。そこだけは酌量の余地に入れてよ」
「「「あーやまれ、あーやまれ」」」
続いてあやまれコール。僕は負けじと言い訳する。
「なんで僕が謝らないといけないのさ。男の尊厳がかかってたんだってば」
コールは鳴り止まず…そんな弾劾を受けてる最中、いつの間にか群衆の中に溶け込む山城と有喜の姿を発見した。くそ、こいつら、一緒になって僕を責め立てるつもりだな。チクショウ、チクショウ。
「すいませんでしたぁぁぁぁ!!」
僕はその場で一気に膝をつき、土下座する。すると、その瞬間、場がシーンと静まりかえる。
「そこは謝っていいの?」
「男の尊厳はどうした…」
思ってたより僕がさっさと非を認めたことに、意外性を感じたのか…クラスメイトが気まずそうに言う。
「いや、一人ぼっちが怖くなっちゃって」
僕は怒りを収めてもらうよう、ヘラヘラと媚びへつらう。
「あー、アホらし」
「早くお昼いこ、お昼」
そんな僕の様子にクラス中が呆れムードに包まれる。よし、どうにか切り抜けたようだ。
「さぁ、まだまだ後半戦があるよ! 次こそ頑張っていこー!」
「「「お前が言うな!!」」」
さぁ、オチもついたところで(?)
これでどうにか勝負を終えることができた。青い空が目に染みるぜ…とりあえず今はしんどい勝負を切り抜けた自分を褒めてあげたい気持ちでいっぱいだった。




