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ブルー・スプリングなジェネレーション

『さぁ、最初のペアが帰って参りました。最初のペアは~? 緑色の鉢巻き! 8組です!』


「ふっふーん。余裕過ぎてあくびが出るわね、有善?」


「まぁな。しかし、イセユウとペアの子は大丈夫だったかな?」


「あんな奴ら放っときなさいって。それよりもゴールが近いからって油断しないでよ」


「そうだな。よし、さっさと残りグラウンド一周を走り終えて、ゴール決めようぜ」


「あたぼーよ」


『さぁ、続いてのペアが帰って参りましたー…って、おおっと! なんと次のペアは男子が女子をおぶさっているようです』


『ワー!』


 校内アナウンスと歓声が耳に入ってきた。現在、僕と女史はようやく校外を回り終え、グラウンドへと戻ってきたところだ。背中に男の意地と女史を抱えつつ…

 そんな僕らをアナウンスが解説すると、それに反応するようにテント中の視線が一斉にこちらに向く。女の子を背負った状態に少し照れはあったが、恥ずかしがってる場合じゃない。解説を聞く限り、どうやら山城達に続いて2番手は僕らのようだ。ならば標的は一つしかない。


「このまま一気にいくぞー!」


 僕は気合いを入れるがごとく雄叫びを上げ、足を精一杯動かした。


「さぁ、いきなさい、伊勢くん!」


 背中で女史が山城達めがけて指を差す。


「って女史! うしろでラクしているくせに、なに威張ってんだよ! 僕の気持ちになってみろよ!」


「うるさいですね。背中で私が少しでも消耗を減らすドライビングテクニックがあったからこそ、トップ争いにおどり出られたのでしょう」


「あのね、僕は車じゃないんだぞ!」


「さしずめヨッシーと言ったところでしょうか」


「なにぃ!」


「そんなことよりも標的が見えてきました! 気を抜かないでください」


 くっそ~、一組一組を追い抜くごとにテンションと減らず口も回復しやがって、この娘っ子は。あー、チクショウ。きついぜ、ブルー・スプリング(青春)ってのは。


「うっ、うそでしょ…あれ、イセユウ?」


「あいつ、マジか…」


 山城達の驚いた様子がうかがえる。僕らのマリオ&ヨッシースタイルに驚いたのか、チラチラとこちらを振り向きつつ、走りに乱れが生じたようだ。少しづつ距離を詰め、前方、あと少しのところまで山城達に迫る僕と女史。


「良い調子ですよ、伊勢君。ですが、あまり焦らないで下さい」


「いや、もうキツいって。早く抜き去ろうよ」


 そんなやり取りをしつつ、ちょうど自分のクラステント前を通りがかった。


『ガヤガヤ、ザワザワ』


 おや? クラスの連中が何かを叫んでいる。それにえらく騒がしい。気になり、耳を澄ましてみると…


「コラーーー! イセユウ、テメー!!」


「なんで、オメェが11組で走ってんだよ!」


「ふざけないでよね、イセユウー!」


 うわぁ~…恐るべき罵声ばせいの嵐。って、そりゃそうか。クラスの勝利を自クラスメイトが遠ざけようとしている訳だからな。罵声の嵐が吹き荒れるのも十分頷ける。

 しかしなぁ、僕だって頑張ってるじゃないか…もうちょっと味方的な人はいないもんか。意気消沈する僕に対し可憐なる声が…


「伊勢くーん! 頑張れー!」


 おおおお! この声は! な、成海さぁ~~ん。思わぬマーメイドの励ましに、闘志が再燃する僕であった。成海さーん、もっとエールをおくれ~!


「ちょっと、なるみん。そこはイセユウを応援する所じゃないって」


「え? そういうものなの?」


 だが、すぐさま成海さんの隣にいたクラスメイト女子が優しくそれを制止する。


「ちっ、余計なことを」


 舌打ちしながらぼやく僕だったが、背中の人から頭を軽く小突こづかれたのだった。そんなやりとりを最後に、僕らはクラステント前を駆け抜ける


「相当な批判でしたね」


 ふと、うしろから女史の気遣いの言葉が聞こえてくる。


「しばらくはクラス中が敵だぜ…とほほ」


「まっ、別に良いですが」


「良くないだろうが! 今後の高校生活に関わるわ!」


「ふん。マーメイドさんの声に浮かれちゃう人なんて、どうでもいいです」


「うっ、それは、その…」


「そんなことよりも最終コーナーです!」


「わかってるって。全力で行くぞー!」


 いよいよコーナーを曲がり、その直前で山城ペアに追いついた。

 山城ペアとマリオ(女史)&ヨッシー(僕)が併走する形となる。


「イセユウー! 絶対負けるもんかー!」


「お前も今日からファンクラブだー!」


「僕のブルー・スプリングを見ろー!」


「伊勢君、いきなさい! どこまでもー!」


 四者四様、思いのたけを叫ぶ。泣いても笑っても、残す距離は直線数メートル。


『さぁ、残りラストスパート! 勝つのはどちらでしょうかー?』


 熱の入ったアナウンスも叫ぶ。もはやそこからは言葉を発する余裕のない、ガチとガチのぶつかり合い。僕らは残りの数メートルをがむしゃらに駆け抜け、ゴールテープを切った。


「「おおおお!」」


 互いのチームの雄叫おたけびが止んだ瞬間、決着は着いた…はずだった。

 しかし、最後の最後に少し油断が出た為、ゴールテープを切った直後に僕は体勢を崩した。あちこちが既に限界だったのだろう。体勢を崩し、転ぶまでの時間がかなりスローテンポで進んでいる。あまりにも速いものが迫った場面で、速すぎて逆にスローモションのように感じる瞬間があるとは聞いたことがあるが、今、まさにその瞬間を味わうとは夢にも思わなかった。


(そういえば、山城達はどうなったんだ?)


 僕は目の前に起こったスロー現象をいいことに、ふと横で併走していた山城達の様子をうかがう。


(あっ)


 どうやら山城達も最後の最後で足がもつれたらしい。僕らは二組とも体勢を崩しながらのギリギリゴールとなっていたのだ。転んでゴールというの格好良くはないかもしれないが、互いに本気でぶつかったのだ。悔いはない。

 しかし、この瞬間…すごく絵になるなぁ。僕の脳内ではこの瞬間、浜田省吾の『偽りの日々』のサビ部分が再生されていた。昨日見た『浜省だらけの野球大会』が尾をひいているなぁ。


 グッバイダーリン~♪ グッバイマイラブ♪ いつわーりの日々ぃ~♪ さて、そろそろ現実に戻るとするか。


「「ドォゴォォォ」」

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