表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/45

女史の作戦 パート2

 僕は特に声をかける訳でもなく、二人の(あと)をコソコソとついていく。集合場所へと向かう途中、ふとそんな僕に気づいた山城と有善が不審(ふしん)がった様子。


「ちょっとイセユウ、なんでついてくるわけ? もしかしてアタシ達の勝負を間近(まじか)で見るつもり?」


「僕にも僕なりの事情があるわけ。まぁ、いまにその理由がわかるさ」


「変なやつだな、イセユウは」


 怪しがる二人の(あと)を黙ってついていく僕であった。集合場所へ到着すると参加生徒に(まぎ)れ、女史の姿があった。


「ハーイ、石嶺女史~…って、あんたパートナーは?」


 一人で待機(たいき)している女史に対し、山城が挑発的(ちょうはつてき)な言葉をかけていた。僕はそんなやりとりに関わらないよう、無視するように女史の横へそそくさと行き、スタンバイする。女史から手渡された11組の水色の鉢巻(はちま)きを頭に巻き付ける。


「ちょっと、イセユウ、あんた何してる訳? なんでそっちの鉢巻き巻いてんのよ!」


 山城が驚きの言葉をあげる。だが、そんな山城を他所(よそ)に僕は淡々(たんたん)と答えた。


「見たらわかるだろ、君らと勝負する為だよ」


「ハァ!? あんた正気?」


 山城の痛い言葉が飛んでくる僕だが、そんな僕に、今日だけは味方である女史がフォローに入った。


「正気も正気、大正気です。これはあくまでハンデの代わりというやつです」


「そもそもクラス違うじゃないのよ、あんたたち。その(あた)りどうなってるわけ?」


「まぁ、その点はあれこれ工夫しまして」


 女史と山城が言い争っている。そんな中、ふと肩に手をポンと置かれた。見てみると、有喜が不敵(ふてき)な笑みを浮かべている。


「イセユウ…まさか、おまえが参戦してくるとは思わなかったぜ」


 その表情はどこか嬉しそうだ。


「やっぱ勝負はこうでなくっちゃ面白くないよな」


 嬉しそうな有喜とは対照的に、山城はえらくご立腹な様子。女史とのやり取りをいったん保留(ほりゅう)にして、ズカズカと僕らの方へと詰め寄り、声を(あら)げる。


「有喜、アンタねぇ! 呑気(のんき)なこと言ってる場合? こいつ、私たちの敵になるってことなのよ? それはクラスの敵にもなるってこと!」


 山城が僕の方を指さす。その剣幕(けんまく)に押されつつも、ここまで来たらば、もう引く訳には行かない。


「とにかく、これが僕の答えだ」


 僕はそう答えた。


「ああっ!?」


 山城の怒号(どごう)に思わず逃げ腰ポーズになる。やばい、山城の怒りゲージがどんどん蓄積(ちくせき)されている。このままは勝負の前に、一発ほど鉄拳をもらいそうだ。


「まぁまぁ、落ち着きなって。要は勝てばいいんだろ? そんな取り乱してちゃ勝てるもんも勝てなくなるぜ」


「わかってるわよ!」


 怒り心頭(しんとう)の山城を(さと)すなど、有喜の大人な一面が見えた。助かりはしたが、それよりなにより、こいつは本当に勝負を楽しみにしているという感じだ。肝心の勝負に気は抜けないと、僕も気合を入れ直す。


「とにかく、勝った方が言い分を通す。文句はないよな!」


「ああ。だが、イセユウ、俺らが勝ったらお前は成海さんのファンクラブだぞ。嫌とは言わせないからな」


「それは嫌だ! 山城じゃなくてお前の条件だろうが。だって、成海さんのファンクラブに入ったら交流は一切禁止だし。そうなれば、今の友達としての関係も白紙じゃないか。せっかく雑談できる仲になったのに、今更あと戻りできるか! そんな夢見ることさえ許されない学園生活なんてまっぴらごめん、辛すぎる」


「そもそもテメーが成海さんと良い感じになれると思ってんのか? 現実に帰ってこい」


「わからないだろう、人生なんて!」


 白熱する僕らの言い争いに、山城は首を(かし)げていた。


「あんたら何の話してんの…」


 そんな最中(さなか)、とうとう体育教師から注意が入る。


「ほら、そこ()めてないで、早く入場位置につけ」


 教員に注意され、しぶしぶ列に並ぶ僕らであった。


「っつーか、イセユウさ、そんなにあたし達が嫌な訳?」


 9組、10組を挟んだ列の前から、11組の位置にいる僕に対し、山城が問いかけてくる。そのプレッシャーはなかなかのもの。おいおい、巻き込まれて困ってるぞ、前の組の奴ら。


「そうじゃないよ。でも僕は…」


「僕は何よ! ゆうてみなさい!」


「僕はね、ただ自由でいたいんだ。行動をイチイチ君に決められたくない」


「うーわ…もう完全にアッタマきた。あんた、マジでぶっ潰すからね!」


 うっ…山城の目が鋭く光る。この目は獣の目だ。嗚呼(ああ)、競技が始まる前からこんなんで本当に大丈夫だろうか。

 そんな不安を()めながらも入場曲が鳴り、僕らはグラウンドのトラックへとスタンバイした。僕と女史は互いの片方の足を鉢巻きと同じ水色をした布で(しば)り、スタート位置へとつく。


「あの、伊勢君」


「なに?」


「私達、めちゃくちゃ睨まれてますよ」


 女史が少し前方の方角へと目配(めくば)せする。


「おわっ!」


 前の8組スタート位置から山城の恐ろしい眼光が…先ほどより一層、(するど)さを増しており、むき出しの闘気を惜しげもなくこちらへと向けている。気を抜けば吹き飛ばされそうな程のプレッシャーだ。


「あれはもう、今更どうにもなんないよ」


「それもそうですね」


 弱気に答える僕に対し、女史も納得する。そんな僕らを他所(よそ)に、勝負は無情(むじょう)にも戦いの時を待ってはくれない。


「それでは位置について、ヨーイ…」


 スターター(がかり)の声がグラウンド内を一気に沈黙の空間へと追いやる。数秒の沈黙があった(のち)


『パンッ!』


 (はじ)ける音と共に沈黙は破られ、音と同時に僕らは駆けだした。いよいよ、僕らの対決が始まったのである。始まるやいなや、沈黙を保っていたグラウンド内にやかましいBGMがかかり、どことなく闘争心を(あお)られる。


「1、2、1、2」


 この一週間と少し、下手をすれば雑談よりも互いにかけ合ったであろう、リズムを合わせる言葉。それをただひたすら繰り返し、僕らは走る。まずはグラウンドのコースを半周してから外周に出るのだが、パッと見た感じ、順位はあまりよろしくない。既に前方に数組のペアが見える。山城達はというと…げっ、先頭を突っ走っているじゃんか。


「女史、このままでは山城達には勝てない。適当なところでペースを上げていこう」


「了解です。では、ある場所から一気にペースを上げましょう」


「ある場所ってどこから?」


「場所に着いたら指示します」


 そんな会話をしている間に校外へと出て行く僕ら。学校周辺を指定されたコースを矢印に沿って走っていると、右折指示(うせつしじ)の立看板が見えた。


「女史、次を右に曲がるよ」


「いいえ、真っ(まっすぐ)ぐです」


「えっ? でも右に曲がれって書いてるよ?」


「実はですね、これ」


 看板の手前で立ち止まり、右に指示されている矢印の先端方向(せんたんほうこう)を女史が上へと向けた。


「ええぇー!?」


「わざわざ、考えもなしに陸上競技の運営活動をしていた訳ではありません。こういった裏道工作が出来るのが実行委員の特権です」


「これ、矢印が動くんだ…よく作ったね、こんなの」


「手先が器用なもので」


「実行委員がこんな不正していいの? それに追い抜かれたという実感がない状態で、僕らが前走ってたらクレームつかない?」


「コースの設置ミスだとか(あと)からなんとでも言えます。ともかく今は勝つことに専念してください」


 つくづく恐ろしいやつだよ、君は…と口に出さないまでも、心がそう(つぶや)く。どうやら、表情がそんな心情を語っていたらしく…


「何です? 文句ですか? 勝つための苦肉の策です。大体、勝者でなければ優位に立てません。いつの世も勝者が…」


「はいはい、わかった。ともかく、せっかく稼いだ時間を無駄に出来ない。いくよ」


「了解です」


 ここで言い争いをしている時間はない。僕らは前の組が右折していったコースを真っ直ぐに進む。右に行けば密集(みっしゅう)した住宅街に入り込むため、前の奴らはかなりのタイムロスになるはずだ。僕らの方も体が温まってきて、かなりペースが上がっている。よしよし、思わぬところで光明(こうみょう)が見えてきた。この調子で一気に勝利だと思えた…のだが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ