サンデーモーニングに…
『ジリリリリリリリッッ』
目覚ましが鬱陶しい音を立てながら、騒ぎ出している。今は何時だ? 枕のそばに置いていたであろうスマホの画面を確認してみると、時刻はまだ六時半…今日は確か日曜で、学校は休みのはず。一体なんでこんな時間に目覚ましをセットしてるんだ僕は? 馬鹿馬鹿しい、もう一眠りしようっと…そう考えながら目覚ましを止め、再度寝床に着いた瞬間、今度はスマホのコールが鳴る。
「あぁ~、うるさい」
誰だこんな朝っぱらから…寝ぼけながらも、再度スマホの画面を見てみると、画面には石嶺女史の文字が。
「…まずい」
慌てて通話の画面ボタンをタッチする。
「おはようございます…」
「おはよう、女史…」
「朝の鯨公園はとても清々しいですよ、うふふ」
寝ぼけ眼だった僕の表情が一気に青ざめていく。今日は朝から女史と二人三脚の練習をするのだった。
「ごっ、ごめーん! すぐに出ます!」
しまったー! 寝過ごしたー! っつーか、今は何時だ…? ゲッ、もう六時半を回ってるじゃん! 確か集合時間が六時だったから既に三十分の遅刻、今から約束場所に急行したとしても20分はかかる。となるとトータルで約一時間の遅刻だ。
「ヤバイよ、ヤバイよ~(ダミ声)」
そんなこと言う余裕があるのかと思われそうだが、当然そうでもない。あわてて高校指定のジャージに着替える僕だったが、立ったまま無理にズボンをはいたせいで思わず体制を崩す。すると箪笥の角に足の小指をぶつける感覚が…
「あっがぁぁぁぁぁぁぁぁ」
いっだぁぁい! あまりの痛撃に思わずうずくまり、悶える。しかし、時は待ってはくれない。痛みをこらえつつ、身支度の続きを始める。幸い必要最低限の物は昨晩で準備していたようで、僕はそれらが入ったリュックを背負い、自分の部屋がある二階からドタドタと一階へと駆け降りる。
「勇之助、何時だと思ってんの? 朝から騒がしい子ね」
母・小百合が不機嫌そうに部屋から出てくるが、僕は靴を履くのに一生懸命で、母には構っている暇がない。
「朝ごはんは?」
「いらない!」
僕はそういうと、勢いよくドアを開けてマイ自転車へと飛び乗った。まずいまずい、あの女史を待たせると何を言われるかわからない。焦りと不安はあれど事故にだけは気を付けるのが僕のモットーだ。車の動向に気を付けつつ、自転車を飛ばす。幸い日曜の早朝ということもあり、車はまばらだ。これなら、20分もかからないな…少し気持ちに余裕が生まれつつ、僕は学校近くの鯨公園へと急いだ。
公園に到着すると、女史が腕を組みながら既に待機。僕はすぐさま自転車を停め、女史に駆け寄った。そんな僕をいつものような呆れた眼差しで迎えてくれる女史である。
「あの、女史様…この度は私の至らなさ故、大変お気を悪く致し候。心よりお詫び申し上げまする」
「丁寧な感じで謝れば良いということではないと思いますが…」
「とにかくゴメン! いや、昨日早く寝たつもりなんだけどさ、なんで起きれなかったのか自分でも原因を探ってまして」
言い訳をしつつも、火に油を注がないよう平謝りする僕。だが、そんな僕に対し、女史は…
「別に怒ってませんよ。私が少し時間を早く設定しすぎたというのもありますし」
「えっ、怒ってないの?」
「そんなにオドオド謝られるのも気分がいいものじゃないですね。伊勢君とはもう少し打ち解けた気でいましたが…そんなに私のこと怖いですか?」
「怖いですねぇ…下手な教師よりもずっと」
「遅刻とは別の件でキレていいですか?」
「いや、嘘、嘘! だからもうこれ以上怒らないで」
懇願する僕に女史はブツブツと文句を言う。
「全く何なんですか。それよりも時間が勿体ないです。早く練習しますよ」
「そっ、そうね」
長ったらしいやり取りを終え、ようやく僕らは準備運動へと入った。まずは体をほぐす意味も込めて、軽くストレッチをする。体が起きてきたところで、二人の片足をタオルで縛り、呼吸を合わせながらウォーキングをする。
「1、2、1、2」
そんなことを数分続けると、だいぶ呼吸が合ってきた。よし、もうそろそろ走り出してもいい頃だろう。そこからは若い男女が期待するような展開も会話もなく、ずっと、ずっーと「1、2、1、2」という掛け声を繰り返す。一体何が楽しんだろうか…と思うほどに繰り返す。アホみたいに繰り返す。そんな感じで鯨公園周辺を一体何週回っただろう。気が付けば時刻は10時を回っていた。
「すっ、少し休みませんか?」
正直、僕もそろそろ限界だったのだが、隣の女史を見てみるとかなりキツそうである。
「そうだね、少し休もう。女史、大丈夫?」
走るのを止めると、すぐさま女史はその場にへたり込む。
「気分が悪いです。二人三脚とはいえ、昨日の今日での持久率を上げるのはキツいですね」
「確かに。それにまだまだ暑いからね。日ごろの運動不足を痛感するよ」
そんなことを言いながら、僕は互いの足を縛っていたタオルをほどく。
「しかし、猶予はありません。休んだら、また練習を再開しましょう」
ヘトヘトなくせに女史はまだまだやる気の様子。意外と根性あるよなぁ、この人。だが、こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか・・・
僕らが一緒に走ることを決意した日から数日、あれが確か水曜日だったから木金土と少しづつ練習はしてきたものの、正直調子がいいとは言えない。明らかに文化系な女史に体力はあるはずもなく、僕だってそれをカバーできるような体力は持ち合わせていない。昔からゲームばっかりやってて、まじめに部活なんてしたことがないからなぁ。そんな運動神経ゼロに近い奴らが現陸上部員と元サッカー部員に勝たねばならないのだ。その勝利がいかに無謀なのかを感じずにはいられない。
「女史は少し休んでて。飲み物でも買ってくるから」
僕はそういうと近くの自販機へと向かう。目の前にそびえたつ壁の高さを考えると思わずため息が出た。なんでこんなことになってんのかなぁ~…そんなことを思いつつ、お茶を2本買い、女史の元へと戻る。公園に戻ると、女史が芝生にレジャーシートを敷いて何かの準備をしている様子が見えた。
「お待たせ~。何してんの?」
「少し早いですけど、お昼にしましょうか。早朝からの練習でお腹空きましたし」
思わずギョッとする。背筋が凍り付く感覚というものを僕は今日、初めて体験したかもしれない。まさか、まさかとは思うが・・・とりあえず聞いてみよう。
「あの…お弁当とか、作ってきてないよね?」
「ふふん、これを御覧なさい」
僕は思わずフリーズする。




