運命の対決の予感
ケンカの真っ最中であった僕らの剣幕に圧倒されたのか…山城は驚きのポーズをとった。
「びっくりしたぁ~。あんたら、そもそも仲いいの?」
山城が問いかけてくる。
「誰がですか、こんな人。ふん」
「なにぃ」
「まぁまぁ、落ち着きなさいって」
またもや喧嘩しそうな僕らを山城が制止する。こいつにも喧嘩を止める力量があったのだなといささか感心する僕。
「あっ、そうそう、それよりもなんでここにいるのさ? 山城」
「イセユウの後をつけてきたの」
「なっ、なにを…」
「あんたらの仲を確かめに来たってわけ」
山城がふふんと怪しげなほほえみを浮かべる。そして続けざまに女史の前に立った。
「まさか、あんたとイセユウがお昼過ごしてるとは、予想外だったわ」
「ストーキングとはいい趣味ですね。伊勢君と楽しいランチタイムの途中なんですけど邪魔しないでくれませんか?」
「「いやいやいや」」
僕と山城は息ぴったりで否定する。そんな僕らに女史はムッとした。
「あのさ、石嶺女史、あんた私に言ったよね。私がイセユウに迷惑かけてるって」
「ええ、あなたの独りよがりの感情は伊勢君にとって迷惑以外の何物でもないと、ハッキリと言いました。」
「うっ、あんたねぇ…」
どうも祭りの日より言い方が刺々しくなっているような気がする。どうやらこの二人、犬猿の仲により近づいているようだ。まぁ、山城なんかはお猿さんなんて呼ばれてたし、女史本人もそういう仲だと自覚しているのだろう。
「私からすれば、あんただって十分イセユウの迷惑だと思うけど」
「どこが迷惑だというのでしょうか?」
「あんただって結局、自分の都合でイセユウを振り回してるってこと。あんたたちが楽しそうなら引き下がろうと思ったけど、さっきなんて思い切り喧嘩してるし。結局、イセユウ振り回して、自分が満足したいだけじゃない」
「前も言ったでしょう、あなたに伊勢君を管理する義務はありません。私が伊勢君とどういう時間を過ごそうとあなたには関係ありません」
「関係なくなんかない!」
山城が声を荒げる。
「前は不覚をとったけど、ハッキリ言うわ。私だって、イセユウとお昼とか休み時間を一緒に過ごしたいの。あんたにだってイセユウと一緒にいなきゃいけない義務なんかないでしょう」
「ええ、確かに。でも、それは伊勢君が決めることです。伊勢君は私とお昼を過ごすのがいいと言ってますが?」
「えっ?」
うっ、急にこちらに話題を振られた。思わぬ方向からのパスに僕は戸惑う。
「そうなの、イセユウ?」
「いや、それは…」
なんだ、この僕を取り合うような展開は? 僕は女性が取り合いをするような男じゃないぞ? 若干嬉しさもありつつも、修羅場方向行きの展開に成す術がない。どうしよう、下手な発言は地雷を踏むぞ。まずい、言葉が出てこない。そんな僕をじっと見つめ、山城が
「イセユウ、私たちは友達だもんね。また一緒にお昼食べよ? 今日一日口きかないで寂しかったし、イセユウもそうだったでしょ?」
山城がとても悲しそうな眼をしている。ううっ、確かに一理ある。今日みたいに気まずい一日は正直、ごめんだ。僕は山城や有喜にもこんな思いさせてたのかな? と心が痛くなった。やはり、友達はないがしろにしちゃいけない。
「ですが、その気持ちは私も同じです」
が、すぐさま女史の反論が飛ぶ。う~ん、確かにないがしろにしたことは反省するが、かといって、一人ぼっちの女史を放っておくのも良心が痛む。憎たらしいが一緒にお昼を食べようといった時の彼女は純粋に嬉しそうだったし、今更一人にはしておけない。どうしたもんかなぁ…
「これさ、来週までの宿題じゃダメかな?」
軽いノリで答える。
「「いいわけあるか!」」
息ぴったり、女性二人の声がそろう。申し入れは受け入れられなかった。
「とにかく、あなたに伊勢君の行動を決める決定権はありませんよ。おとなしく引き下がりなさい」
「嫌よ」
二人がにらみ合う。さっきまで僕と喧嘩してたことが嘘のように女のバトルが勃発している。なんか蚊帳の外にいる感があるのは気のせいだろうか?
「二人ともそんなケンカしないで。そうだ、ここはひとつ、みんなで一緒に食べるっていうのはどう?」
「あのね、仲良しクラブじゃないの。なんでこんな奴とお昼を共にしなきゃなんないのよ」
「こちらこそお断りです。あなたみたいなお猿さんが一緒だったら、うるさくてかないません」
「あんたねぇ!」
「なんですか!」
女史と山城が火花を散らしている。女史も今日はヒートアップしている様子。一応、この人、今日ケンカ二戦目なんだよなぁ。タフだよなぁ…すっかり第三者に成り下がってしまう僕であった。すると、あたふたする僕を見て、山城が我に返る。
「そう、そうよ、あんたと低レベルなケンカしてる場合じゃなかったわ。私はあんたに勝負を挑みに来たのよ」
女史の眉がピクッと動く。
「聞くところによると、あんたたち、よく勝負してるそうじゃない。しかも罰ゲーム付きで」
「山城なんでそれ知ってるの?」
「ふふん、私の情報網なめないでよね」
あいかわらずこいつの情報網には驚かされる。いったいどんなネットワークを持ってるのだ?
「だったら私とも勝負しなさい、石嶺女史! 勝負内容は来週の陸上競技! そして罰ゲームはイセユウとの今後の交流の一切を禁止!」
山城は指をバシッと決め、僕は唖然とする。
「おい、山城…ちょって待てよ」
イキナリの展開に僕は戸惑う。
「何よ?」
「交流の一切を禁止って、ちょっとイキナリすぎるだろ。そんなの困るよ」
「なんで困るのよ。じゃあ、イセユウは明日もそのお弁当食べたいわけ」
「いや、それはアカンけど」
こちらを睨む女史から赤いバトルオーラが…
「ひっ、すいません」
女史のオーラに圧倒され、弱腰になる僕。しかし、そんな僕らを置いていくように山城は話を推し進めていく。
「この際ハッキリさせようじゃない。勝った人が友達、負けたら絶交」
「なるほど、単純明快でわかりやすいですね。まぁ、あなたの考えにしては上出来といったところでしょうか」
「いちいち皮肉言って、本当にムカつく奴ね」
「ですが、この勝負…あなたこそ伊勢君との交流を断ち切る覚悟はあるのですか?」
「もちろんよ。私だってそれ相応の罰ゲームを受ける覚悟でこの勝負を挑むわ。どう、この勝負受けるの? 受けないの?」
女史は黙ったまま答えない。きっと彼女のことだ、この勝負の損得を考えているのだろう。しかし、このまま何もしないというのは男らしくない。一応、喧嘩の原因は僕の様だし、収集つけなきゃ。そう思い、僕は女史の耳元でつぶやく。
「ねぇ、この勝負受けても勝ち目ないよ。内容が陸上競技だろ? 山城、めちゃくちゃ足早いし、体力も相当なもんだよ。こいつはあとで僕が何とかするからさ、この勝負断りなって」
すると、僕の言葉を聞くやいなや女史はこう答えた。
「この勝負、受けて立ちましょう」
「おっ、おい。女史」
慌てる僕に、彼女はこう返す。
「断ったところで、何の解決にもなりません」
「ふーん、意外と骨があるじゃない。そうじゃないと面白くないわ」
僕は目の前で大勝負が始まろうとしていることにあたふたする。
「待て待て、二人とも落ち着いて。こんな大切なことを罰ゲームにするなんて馬鹿げてるよ。やめなよ、勝負なんて」
すると、そんな僕を止めたのは女史の方だった。
「伊勢君、大切なことが懸かっているからこそ勝負するんです。いつの時代も人は戦い、大切なものを勝ち取って来たんです。だから、この勝負逃げるわけにはいきません」
女史がそう言うと、先ほどは睨み合ってた筈の二人が、今度は不敵に笑い合う。
「そんなぁ、僕の今後の生活も懸かってるんだぞ…選ぶ権利は僕にもあるだろう」
「さて、陸上競技で勝負とのことですが、種目は何にするんですか?」
僕の力なき言葉を無視するように、勝負の内容を進めようとする女史。挑まれた相手がこうなのだ、もはや僕にはこの勝負を止めることはできない。いや、だが、なにかまだ方法があるはずだ。あきらめてはいけない。なんとか丸く収める方法を探さなくては。
「そっ、そうだ! 山城、君は陸上部だったろう。そんな君と女史が戦って不利なだけじゃないか。この勝負は公平じゃない!」
すると競技内容の書かれているプリントを僕らに山城が突き出す。
「イセユウの言う通り、私は走ることなら絶対に負けない自信がある。でも、悔いのないように自分が満足できる分野で戦いたいの。その代わりと言っては何だけど、石嶺女史が選ぶ種目で勝負してあげる。そして、提案するハンデをなんでも飲むわ」
マジかよ、本気じゃんかよ。部活以外でこんな本気な山城を見るのは初めてかもしれない。僕は彼女の決意に恐ろしさを感じた。どんなハンデがあろうと、女史は負ける。そう確信した。一方、女史は黙ったまま、突き出されたプリントを見つめている。
「それなら文句ないわよね」
「二人三脚…」
「はぁ?」
「長距離二人三脚で勝負です」
「長距離二人三脚? そんなものあるわけ? なんでそんな面倒くさそうなもの」
山城は自分が付きだしたプリント、慌てて見直す。
「何でもいいって言ったじゃないですか」
「もっ、もちろん、いいわよ」
山城の持っているプリントを僕も見てみると、競技項目に確かに二人三脚はある。そっ、そうか!さすがは女史だ。これならパートナーによって勝敗が分かれる。そこに勝機を見出すわけだな。でも、この二人三脚…長距離というだけあって校外一周って書いてあるぞ。
「ねぇ、女史…いい提案だとは思うけどさ、これけっこうキツそうじゃない?」
「いいえ、これしかありません。短時間で結果が出てしまう競技では山城さんに勝てませんからね。ならば、長期戦で勝負です」
「ふん、ようやく苗字で呼んでくれたわね。目論みがあるようだけど、それだけじゃ足りないわ。ハンデも決めてよ。じゃなきゃ、相手にならないからね」
「ハンデなんていりませんよ」
「なっ、あんた本気で言ってんの?」
「ですが、負けたときはそれ相応の罰ゲームを覚悟してください」
「ふん、最初からそのつもりよ。負けるつもりなんてないけど」
互いのボルテージが高まっていく中、予鈴が鳴り響いた。
「それじゃ、来週、忘れないでよね。それとイセユウ」
「なっ、なに…?」
山城はビクつく僕を見ると、何か言いたそうな、でも
「なんでもない!」
そう叫び、ダッシュで走り去っていく。その後ろ姿はまさに韋駄天であった。それを見ながら僕はこういった。
「あれと戦うんだよ、女史。二人三脚とはいえ、かなり厳しい戦いになるよ。」
「…そんなの、わかってます」
「認めなくはないけど、喧嘩の原因の根底は僕にあるわけだし、僕が何とかするよ」
「なんとかするって、どうするんですか?」
「僕が山城のパートナーになって、わざと君を勝たせる」
「それだけはダメです」
意外な答えに僕は驚く。
「えっ、どうしてさ? そうすりゃ、またランチ一緒にできるんだよ」
「ですが、それでは伊勢君が友達をなくすでしょう。それでいいんですか?」
「いいことはないけどさ。でも、山城は友達多いし、僕と友達やめたからって、そんなに困らないよ。そう考えたら君の勝たせるのがいいのかなって思ってさ。だって女史は友達いな…あっ」
いけない、女史のためとはいえ、これ以上の言葉は彼女傷つけてしまう。一瞬にしてそう思った僕は口を紡ぐ。
「伊勢君は優しいんですね。でも、その優しさじゃ誰も救われません。それに、余計あなたに迷惑がかかってしまいます。それだけはどうしても嫌なんです」
女史の真剣なまなざしに僕は何も言い返せない。
「ですから、自ら不利になるようなことだけは絶対にしないでください。絶対ですよ」
「わっ、わかったよ」
僕の言葉を聞いて安心したのか…女史は弁当の包みを片付け始めた。結局、お昼時間はケンカと果し合いだけで終わってしまい、満たされない腹を抱えたまま僕らはお互いの教室へと戻っていった。そのせいで、午後の授業は力が入らなかったのは言うまでもないだろう。空腹か、面倒な勝負事のせいか…鬱蒼とした気持ちのまま、ようやく帰りのホームルームの時間が訪れ、やっと一日が終わったと僕は救われたような気持ちになる。そこへ、りんりんが教室へと入ってくるやいなや
「帰りのホームルームを始める前に、来週の校内陸上の選手決めをするわよ~。はい級長、種目を黒板に書きだして~」




