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誘惑のランバダ

 出店を横目で感じながら、僕はチラチラ女史の方を覗く。なんだか気恥ずかしそうな顔をして、黙ったまま僕と列を揃えて歩いている。しかし、デートに続き、せっかく浴衣まで来てくれたのだ。スライムのパズルゲームで例えたら、これは明らかにダイヤキュート並みのコンボである。ここで気まずさに負けて、コンボを断ち切るようなことはしてはいけない。僕の脳内に『ときめきの記憶』ばりの選択肢が発生する。


①「すごく綺麗だよ」


②「すげぇ、似合ってねぇ」


③「オス! おらユウノスケ。いっちょ、やってみっか」



 …なんなんだ、③の回答は。なぜ、この場面でゴクウなのだ? あえて、これにしてやろうか? いやいや、いけない。目指すは『ばよえ~ん』だ。笑いを求める読者には悪いが、③は除外し、ここは無難に①を選択させていただきますよ。


「あの、女史…」


「なっ、なんでしょう」


 今、ビクッとしたぞ。やはり何か、言葉を待っているようだ。けどなぁ、思いのほかこういう言葉は勇気がいるんだよなぁ~。僕は恥ずかしさのあまり、頭をかきむしりたくなった。だが、意を決し、その言葉を言った。言ってやった。恋愛シュミレのごとくね。


「すごく綺麗だよ」


「ななななな!」


 女史はわかりやすく、顔を赤らめて驚く。ははは、照れてる。わかりやすい反応だなぁ、ポイントゲットは固いだろうなんて眺めていると、女史は持っている巾着袋でそう、僕の顔面を殴りつけた。 えっ?


「ぐえっ!」


 イデデデデデ! 顔面にはしる痛みに、思わずその場倒れ込んだ。こりゃ、予想以上に痛いぞ! 中に何が入ってんだ? わかった石だな? じゃなきゃこんな鈍痛はおかしいだろ。


「ちょっとー! 女史ー!」


 顔を抑えながら、起き上がる僕。が、そこにはもう女史の姿はなかった。周りを見回すと通行人たちが『あ~あ…』みたいな哀れな目で僕を見ている。これは、何かがおかしいぞ。勇之助は混乱している。訳も分からず頭を整理してみた。何がいけなかった? 


①「きしょかった」


②「きもかった」


③「とてもきもかった」


 全部ダメじゃん。今回も③は除外したいところだが、もしかしたら③だったかも。イチチ、自分にいい聞かせる意味もあるが、周りにも聞こえるように僕は吠える。


「何なんだよ、そこは喜ぶところだろうが」


 しかし、この反応はさすがに予想外だ。恋愛シュミレだと、明らかに評価が上がるポイントなのになぁ。9人攻略したぐらいじゃ、やはり女心はわからないと反省しよう。よし、今度は30人を目指そう。そう誓う僕であった。

 そんな僕だが、とりあえず今の状況を整理しよう。まず、消えた女史を放って置くわけにはいかない。ならば、捜索しそう。しかし、この広い公園内で、ましてやこんな人ごみのなかで見つけるのはなかなか困難だ。まいったなぁ…などと思いながらも当てもなく駆け回っていると、ふと目の前に『イベント会場はこちら』という看板があった。


「イベント? あ~、そんなのやってたんだぁ~って、ああっ!?」


 しもうた。やってもうた。女史との『デートの様なもの』ばかりに気を取られすぎて、僕はすっかり成海さんのことを忘れていたのだ。


「しっ、しもうたぁぁぁぁぁ!」


 今何時だ? と携帯の時計を見ると、既に7時20分になっている。成海さんのステージを見逃したりなんかしたら、一生後悔もんだぞ。くそ、僕はなんてやつだ! 僕は慌ててステージ会場へと入る。今現在、会場内のステージでは、男子二人組のデュオが歌っている。『ファイブハンデレッドマイル、君に遠すぎて~』という歌詞だ。しかし、まぁ、あまり言いたくはないが…上手じゃないなと心で呆れる。すると…


「あれ? イセユウ?」


 聞き覚えある声が聞こえた。これは、よくうしろの席から文句を言う声だ。そう、そこには我がクラスメイトの山城とその他女子数名がいた。


「おおう、山城!」


 驚く僕に対し、山城がなんとも不敵な笑みを浮かべている。


「あんたもなるみんのステージ見に来たの?」


 うっ、どうやらこいつらも成海さんに誘われていたのか。クラスメイトだから仕方ないっちゃ、仕方ないのだが、あまりここでは会いたくなかった。 


「残念だったねぇ。一人だけ誘われてるって思ったでしょ?」


 あいも変わらず鬱陶しいやつだなぁと心が拒否反応を示した。


「別に思ってないよ」


「そんなに嫌な顔しなくてもいいじゃない」


 自分では隠すつもりだったが、どうも顔は正直らしく、あからさまに嫌な顔をしていたらしい。この正直な反応グセどうにかならないものかね。っと、それどころじゃなかった。成海さんのステージは、まだ始まっていないのかなと僕はキョロキョロする。


「心配しなくてもなるみんのステージは今からだよ」


 ほっ、本当かい! やった、ラッキーなことに間に合ったぞ。山城からこんな天から鳴る鐘のごとき言葉が発っせられるなんて。前言撤回、君に逢えてよかった。普段は鬱陶しい小娘だが、この時ばかり可愛い天使様に見えたよ。よし、しばらくは『うしろのヤマシロウ』という背後霊から、うしろの天使様に昇格してあげよう。


「山城、ありがとう! 本当にありがとう!」


 僕は山城の手を両手で握り、もうグワングワン上下に振る。


「ちょっと、イセユウやめてよ。痛いって」


 はっ…我に返る。


「ごめん」


「全く、もう」


 すっかりテンションの上がった僕に、山城がチラッとこちらを見る。


「そんなに嬉しいの?」


「当たり前だろ! 成海さんのステージに間に合ったんだぞ。っしゃー!」 


 僕は歓喜のあまり、我を忘れて叫ぶ。


「やっぱ、なるみんは手ごわいか」


 なんかボソッと山城の声が聞こえた。


「何か言った?」


「べっつに~」


 山城は呆れたような目つきをし、お得意のお手上げポーズでこの話題を放り投げた。毎度のごとくコイツの発言には謎めかされる。そんな会話をかき消すように、短く寂しい鐘の音が聞こえてきた。どうやら、ファイブハンドレットマイルのデュオが不合格に終わったらしい。まぁ、仕方ないなぁと思いつつも、終わりがあれば始まりもある。次の参加者が自己紹介に入った。


「大禄高校一年生の目取真成海です。今日は頑張ります」


 おわっ、なんというタイミング! 噂をすればなんとやらはこの事かとばかりにステージ上には成海さんの姿が。彼女は伴奏が始まると同時に、ふぅと深呼吸をし、歌い始める。


「小さい頃は神様がいて、毎日愛を届けてくれた」


 あっ、この歌は…果たしてそれが偶然なのか、僕が先週ウィオンの前で歌った歌手の違うナンバーを成海さんが歌っている。


「優しい気持ちで目覚めた朝は、大人になっても奇跡は起こるよ」


 その歌声に僕はすっかり魅了された。これが成海さんの歌声なんだ…それはまさにマーメイドと呼ぶにふさわしく、鐘の音はたちまちキンコンカンコンキンコン。当然の如く合格である。これで不合格だったらならば、僕からのソバットが炸裂するところだ。そんなわけで、会場を拍手の渦が包み込み、成海さんも嬉しそうに笑う。僕は手の平が痛くなるほど、精一杯の拍手を送られずにはいられなかった。


「やっぱレベルが違うね~」


 山城は不服そうに言いながらも、その実力を認めているようであった。


「すげー。すげーよ、成海さん! 山城いまの聞いた? 本当、すげーよね?」


 なんなんだ、あの歌声は。思わずテンションMAXで僕は山城に同意を求めてしまった! でも、あの白昼夢のような感覚に感動せずにはいられなかったんだ。


「はいはい、すごいすごい」


 山城はそんな僕を軽く流す。くそ、鬱陶しそうに言いやがって。この感動がわからないなんて、悲しいやつだな山城は。お前なんかホンマに背後霊じゃ。


「しかし、すっかり聴き入ってて、応援なんかできなかったなぁ。しまったなぁ」


 なんて独り言を言ってると、どうもポッケが騒がしい。どうやら着信のようだ。誰だろう? 取り出してみると、それは石嶺女史からの着信であった。

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