僕らのお昼
「イセユウ、あんた先週の金曜、ウィオンの前でなんかした?」
うっ、山城から痛い言葉が飛んできた。その日のお昼時間、机をくっつけて僕と有善と山城はお昼ご飯を食べていたのだが、不意にそんな言葉が飛んできた。
「うっ、どうしてそのことを?」
「やっぱり、イセユウなんだ。大声で歌ってたのって」
山城が冷たい視線で僕を見る。
「イセユウ、ウィオンの前でそんなことしたの?」
興味津々に有善が聞いてくる。
「いや、あれには、訳があって」
僕は返答に困ったが、そんな僕を遮るように山城がどんどん話を進めていく。
「なんかアカペラでU-MIN(歌手名)熱唱してたみたいよ」
えっ、そこまで知っているの? と僕はこいつの情報網に驚かされる。
「マジかよ、イセユウ。なんで、U-MINなんだよ」
有善が馬鹿にするようにあざ笑う。
「おい、僕はともかく、U-MINは馬鹿にするなよ」
若干半ギレで答える。
「それよりもなんでそんな馬鹿な真似したの?」
うっ、どさくさに紛れてこの話をうやむやにしようとしたが、山城は逃してくれなさそうだ。人の気も知らないで。心底、腹の立つ奴だな。
「僕にも色々あるんだよ」
「なによ、色々って?」
「っつーか、なんで、山城がそれ知ってるのさ!」
僕は機に乗じて、こいつの情報網に探りを入れてみた。
「同じ部活の子が教えてくれたの。私のクラスメイトじゃないかって」
うっ、マジか。どうやら学生たちの行動テリトリーを甘く見ていたようである。そりゃ、デパートの前であんな大声で歌ってりゃ目立つよなぁ。
「だからって、クラスで言うことないだろ」
ただでさえ、傷心なのに朝から成海さんの発言に巻き込まれたり、お説教を喰らったり…その上、放歌高吟ショーの事までいじられたらたまったものではない。
「何よ、私だって信じたくなかったから聞いたんでしょ。まったく、ここまで馬鹿だと、友達として庇いたくもなくなるわ」
くそ、結局馬鹿にされるのか。一方には罵声を浴びせられ、もう一方には笑われ…まったくなんでこんな奴らが友達なんだか。
「今度は歌うときは俺たちも見物に誘えよ。絶対見に行くから」
「あのね、あれは罰ゲームなんだよ。好きでやってんじゃないんだから」
そう、あれはあくまで罰ゲームなのだ。あくまで負けた上での行動なのだ。だからこそ、恥ずべきではないと自分に言い聞かせる意味も兼ね、反論をする。
「何、誰かとなんか勝負でもしてんの?」
「いや、それは…」
有善のヤロー、こいつも深く聞いてきやがった。女史のことを話そうかと思ったが、横から山城が僕の言葉をまたもや遮る。
「どうでもいいけど、あんまり馬鹿するのはやめてよね。こっちが恥ずかしいんだから」
「なんだよ、さっきからさ。大体、なんで山城が恥ずかしがるんだよ」
「だってそれは」
「それは?」
「とっ、友達としてでしょ。まっ、まったく、そんなこともわからないなんて、鈍感すぎ」
「?」
なぜか突然山城の言葉ぎこちなくなる。僕は有善にどういうこと? みたいな顔をしたが、有善はニヤニヤするだけだった。
「あー、もう、喉渇いた。イセユウ、ジュース買ってきて。あたし、コーラ」
「あっ、ついでに俺コーヒーね」
「はぁ? 僕が買いに行くわけ?」
なんで僕がこいつらにパシられなきゃならんのだ? 純粋な疑問が浮かぶ。
「いいから、早く」
「ちぇっ」
ブツブツ文句言いながらも、実は僕もコーヒーが飲みたかった為、仕方なく買いに行くことにした。売店で三人分の飲み物を買い、袋を持って中庭から教室へと向かう。すると、中庭のベンチになんか見覚えのある後ろ姿が…
「あれ、女史じゃね?」
遠目だったが、紛れもなくあれは石嶺女史だ。なんでこんなとこに一人で座ってるんだろうと気になった僕は女史の方へ近づく。色々謎が多い人だからな、僕はなるべく気づかれないようにと背後の方から近づいていく。脅かしてやろうかとも思ったが、弁当を食べているようなので流石にやめといた。
「お~い、女史~」
僕は横から声をかける。するとビックリしたように女史がこちらを向く。
「いっ、伊勢くん!」
僕に気づいた女史は、あわてて弁当をしまおうとする。
「あれ、気にしないで食べてなよ」
「みっ、見たんですか?」
「ヘ? 弁当を食べてるとこ?」
「…」
なぜか女史は僕と目を合わそうとしない。
「まぁ、見たけど。なにかいけなかった?」
「いけないことはないですけど、見られたくはなかったです」
「あっ、そう。それは悪いことしたね」
なんで? と疑問はあれど僕は軽く謝罪する。
「きっ、今日はたまたま、自分の席に知らない人が座って他の子とお昼食べてて、いつもここで一人で食べている訳ではないですからね」
ほぅほぅ、つまり女史は一人でお昼を食べているところを僕に見られたくなかったわけだ。確かに友人といえども、いや友人だからこそ見られたくない場面はある。例えば母と一緒にお出かけしているところとかね。なんだかんだ、心臓に毛がありそうな女史もぼっちなところ、意外と気にするんだなぁと僕はニヤニヤする。
「まぁ、でも気持ちはわかるよ。ああいう時って、友達同士で楽しそうなとこ邪魔するのも気が引けるし、声かけづらいよね」
そう言いながら僕は女史のとなりに腰掛けた。
「なんですか、馬鹿にしているんですか?」
「馬鹿になんかなしてないよ。馬鹿にするのもされるのもうんざり。ただ、女史もそういう細かい所気にするんだなぁと思ってさ」
「何言ってるんですか、非常にデリケートな問題です。」
だけど、僕が妙にニコニコしていることに対し呆れたのか。女史は観念したように、またお弁当を広げた。
「でもここって、けっこう景色いいし、こんなとこで静かに食べれるなんて羨ましいけどね」
僕はふとそんなことを言う。
「はぁ?」
女子が怪訝な顔をしたので、僕は失言だったかな? とあわてて取り繕う。
「いや、だってさ、僕なんかうっとうしい同級生にあーだこーだ悪口言われながら食べてるんだよ? 女史は静かにご飯食べられるし、いいなぁ~と思ってさ」
「そんなこと考えたこともなかったです」
「そうなの?」
「ええ」
はぁ、良かった。てっきり恐ろしい言葉が返ってくるもんだと思っていたが、それに反し女史は寂しそうにお弁当を食べるだけだった。こんな女史の顔は初めてだ。そこまで気に障るような事言ったのかな? ちょっと悪い気がした僕はこういう提案をしてみた。
「じゃあさ、明日からここで一緒に食べない?」
「えっ?」
「ここなら僕は同級生に文句も言われないで食べれるし、女史も話相手ができるし、一石二鳥じゃん」
「本当ですか!」
その言葉に女史が大きな声で返してくる。
「うっ、うん」
僕は驚きながら返事する。その言葉を聴き終えると、女史は嬉しそうに笑った。う~ん、笑った顔は可愛いんだよなぁなんてふと思う。
「あっ、でも」
「なにか問題ある?」
考え込む女史に僕は問いかける。
「伊勢くんと二人のところを見られるのは嫌ですね」
「なっ、なんだよそれ! ここにきて世間体気にすんのかよ!」
「ふふっ、冗談ですよ」
全く、こいつはと思いながらも、僕はいつもの女史に戻った事に少し安心した。この世間体を気にする部分を、成海さんにも少し分けてやってほしいななんて思う僕であった。
「おっといけない」
ふとジュースを頼まれていたことを思い出す。
「どうかしたんですか?」
「山城たちにジュースを届けなきゃいけないんだった」
山城たちという言葉に、女史は少し疑問をもったようだが、すぐにそれが僕の同級生だと解釈したようである。
「伊勢くんは幸せですね」
「なんで?」
「ふと、そう思っただけです」
女史の意味深げな発言に、そうなのかなぁ? と思う。まぁ、確かに今朝の占い2位だったし、成海さんからもまぁ、トラブルはあったけどイベントのお誘いとかあったし。なんだかんだ幸せなんだろうなぁ、きっと。
「それよりも、早く行ってあげてください。同級生さん、待っているのでしょう?」
ボヤボヤしている僕に対し、女史がそう促す。
「じゃあ、まぁ、行くけど」
そう言う僕に対し、女史はまたもやさっきのように少しさみしそうな顔をしている。僕は教室へと向かって歩き出すが、しばらく歩いたところで、ふと女史のいるベンチが気になり振り返る。
「明日忘れないでよー」
僕は女史のいるベンチへ向かって叫んだ。彼女は片手をあげ、こちらを向かなかった。今日の女史はなんかいつもよりさみしい感じがしたな。その日はその事が少し気がかりだった。




