決着、実力テスト
そんなわけで翌日、始まりました実力テスト。5教科を2日に分けて、初日は国語と理科と英語、二日目は数学と社会を行う予定である。
「明日は頑張ってください」
不意に女史の言葉が脳裏をよぎる。その言葉で奮起し、初日、二日目とテストを乗り切る僕であった。悔しいけど女史の指導のおかげで、これまでの僕とは思えない出来になりそう。これなら、持ち点を加えれば女史とも互角以上かもしれない。そんなこんなで終業ベルが実力テストの終わりを告げた。休みにうつつを抜かしていた者ども(夏期講習など一部除く)はかなり苦労したご様子。山城と岸本は机に伏してオーバーヒートしていた。んで、成海さんはというと…
「イーセくん」
「おわっ」
イキナリ声をかけてきた。
「テストお疲れ。出来はどう?」
「まっ、まぁまぁかな」
「とか言いつつ、自信あるんじゃなくて~」
「まぁ、少し手応えあるってのが本音だけど」
「伊勢くん、夏休み頑張ってたもんね」
ああ、なんか幸せ。学年一の美少女が僕なんかに話しかけてくれるなんて。周りはさぞ、羨ましがって…ん?
「ヒソヒソ、ガヤガヤ」
あっ、なんかクラスの視線が痛い。これは羨ましい方じゃなくて、ヤバイ方のざわめきだ。凍りつく僕にうしろから声がする。
「ちょっと、なるみん。いつからイセユウとそんな仲良くなったの?」
「ん? 夏休みにちょっとね」
おお! うしろのヒャクタローならぬ、ヤマシロウが助け舟なのかはわからないが、反撃のチャンスをくれたぞ。この一言に乗っかり、なんとか言い訳をせねば。新学期早々、ゴタゴタは勘弁である。
「実は夏休みに自由研究を手伝ってもらったんだよ。それで、少し実力テストの事とか話して。ねっ、成海さん?」
「そうそう、急接近ってやつかな」
「はぁ!?」
山城だけではなく、クラスの男子全員が驚愕の声を上げる。
「ちょっと、成海さん! 嘘、これは成海さんの嘘だから」
「イセユウ、テメー、俺は許さんぞ~」
いつの間にかオーバーヒート2号の有善が立ち上がり、それと共にクラスの男子たちが僕に攻め寄せてくる。それとは対照的にクラスの女子たちは成海さんに必死の説得を試みる。
「イセユウなんかやめときなって」
「そうよ、そうよ」
そんな声が横から聞こえた気がするが、それどころではない。僕は暴徒と化したクラスメイトを説得するのに必死だった。ったく、なんちゅう新学期だ。翌日からは言わずもがな、成海さんに手を出すなと脅され、肩身の狭い立場に追いやられた。まぁ、それはさておき…
「次、勇之助~」
アンドレから数学の答案が返ってきた。よし、これで全ての答案が返ってきたぞ。今日は金曜日、廊下の掲示板に席次が公表される予定だ。
ところで点数の内訳とか気にならない? 気になるよね、もちろん。よし、ならばお教えしよう。僕のテスト結果はというと、国語84、数学79、社会92、英語72、理科65のトータル500点の内、392点である。これは僕からすればかなりの快挙である。
この点数に、休み時間にさらっとアンドレにも報告したところ、開いた口がふさがらない様子であった。これはもはやコラウタがラウタに進化したような躍進ぶりだ。(テヒモンのネタでゴメン)
「さてさて、女史の結果はどうだったんだろう」
放課後を迎え、ルンルンと廊下の掲示板へとスキップしていく。持ち点が50点あるから、僕の得点はいわば442点わけだ。つまり女史がそれ以下なら僕の勝ちってわけ。500点の内、442点以上取るのはなかなかしんどいぞ~。
そんな中、学年掲示板へと到着。人だかりができている中、僕は自分の名前を掲示板から探す。僕の順位は…おお、89位じゃないか! 初めて学年席次で100番以内に入ったぞ!
「やった、やった! これで母に殺されずに済むぞ~」
って違う違う。今は女史と勝負しているわけで、そんな事に喜んでいる場合じゃない。
(そんなことか? 一大事では?)
なんて自分で突っ込む。まぁ、とにかく、石嶺女史の名前を席次表から探そう、今は勝負が優先事項だ。ランボーがごとく女史の名をサーチする。
「伊勢くん」
すると、少し離れた場所からどこか元気のない女史が声をかけてきた。
「やぁ、女史」
元気がないってことはイマイチ出来が良くなかったのか? 人ごみをかき分け、女史が僕の横へ歩いてくる。
「どうだったの点数は? ちなみに僕は392点だよ。それのプラス50点だから、442点以下なら、君の負けだね」
「うううっ、悔しいです」
その言葉に僕は歓喜した。
「うそ…嘘だろ? 僕の勝ち!? マジ、イヤッフォー」
だが、女史は何を言ってるのだ、こいつは? みたいな顔で首を傾げる。
「何を勘違いしてるんですか」
「えっ、違うの?」
僕の反応に女史の冷たい言葉が飛んでくる。勝ったんじゃないのかと表情が固まる。
「もう一度、席次表を見てください」
僕は掲示板に貼られている席次表を再度見てみる。言われてみれば、僕の周辺に石嶺女史の名前はなかった。席次は下の方から見ていったので、僕の勝ちだった場合、先に石嶺女史の名前を見つけるはず。しかし、なかった。
(ええ~?)
だったら必然的に女史の勝ちなわけだが、さっきの『悔しいです』は一体なんなの? 理解できないまま、僕は席次を遡り見ていく。いよいよ順位が一桁になる。まだまだ、女史の名前は見つからない。そして、逆ラスト…
1番…目取真 成海 488点
2番…石嶺 鏡花 484点
ガーン! 見つけた。そして、その順位に僕は愕然とした。
「2位!?」
「悔しいです! あと、2問でマーメイドさんに負けるなんてー」
負けたって、そっちかよ。僕と勝負してたんじゃないのかよ。僕との勝負は? 負けたのベクトル先が明らかに違うじゃないか。天上界の方で戦いやがって…せめて接戦で勝つとかなら展開的に面白いのに、一蹴って。50点もハンデがありながら、全く相手になってないじゃないか。
なんなんだ、あの夕日の展開は。僕の努力とあの感動は。だんだんと意識が遠のく感覚がした。僕は廊下に倒れこんだのだ。
「伊勢くん? どうしたんですか、しっかりしてください!」
アッパーを食らったボクサーのように倒れる僕。倒れた後も放心状態のまま、立ち上がれないままでいると、何事かと教員が数人やってくる。一瞬の出来事に、周りの生徒たちがざわついた。結局僕は教員と生徒数名に抱えられ、保健室に運ばれていく。
「伊勢君!? 大丈夫?」
抱えられる僕に、成美さんが驚いたように声をかけてきた。
「ははは…笑ってよ、成美さん。僕は悲しいピエロさ…」
その言葉を最後に、完全に意識は消えた。
そして、その日の放課後…僕と女史はデパート・ウィオンの周辺までやってきた。
「あの、伊勢くん…今回は伊勢くんも頑張ったことですし、無理して罰ゲームをしなくてもいいんですよ?」
「いや、僕はやる。馬鹿な自分に対するこれは戒めなんだ」
「ですが、100番以内に入っていたのでしょう? そんな悪い順位ではないと思うのですが…」
「いいや! やるったらやるの!」
「そこまで言うなら、もう止めませんけど」
「早く物陰に隠れなよ。君まで好奇の目に晒されるぞ」
「その前に、曲目だけ聞いていいですか?」
「『あの日に帰りたい』さ」
「YUMINですか…」
そういうと女史は笑いを堪えるのを隠しながら物陰に隠れた。それを確認し終えた僕は、放歌高吟の歌謡ショーを始める。宿題が終わっても、テストが終わっても、結局、夏の終わりは気がかりなままだ。
「泣きながら~、ちぎった写真を~♪ 手のひらにつなげてみるの~♪ 悩みなき~、昨日の微笑み♪ わけもなく~、憎らしいのよ♪ 青春のぉぉぉ、うしろ姿をぉぉぉー♪ 人はみなぁぁぁ♪ 忘れてしまうぅぅ♪ あの頃の~、私にぃぃぃ、もどってぇぇぇ♪ あーなーたにぃぃ、会いたぁぁいぃぃ♪ かぁぁえるわぁぁ♪ あぁぁのぉぉ日にぃぃ~♪」
今日の夕日は涙で滲んでいやがるぜ。




