敵に送られた塩 ~夕日の丘で~
本日の半ドン授業を終え、明日のテストに向けてのおさらいでもしようかと図書館に向かった。図書室に着くと…
「うわぁ、こりゃ無理だ」
明日のテスト勉強の為、図書室は生徒でごった返していた。
(仕方がない、場所を変えるか)
高校近くにあるファーストフード店にでも行くかと考え、僕は帰宅する生徒たちに紛れて校門へと向かう。すると、正門のところに見た感じ女教師のような、見覚えのある女生徒が立っている。
(あれ、石嶺女史じゃね?)
校門に立っている様子からすると、待ち合わせでもしてのかな? あんな奴に友達がいるようには思えないが…
だとしても素通りする訳には行かない。これでも、夏休みに一緒に補習を受けた仲だ。一言声はかけねば…と思い、僕は彼女に呼びかけた。
「女史~」
すると、その声に反応し、女史がこちらを振り向く。
「いっ、伊勢君!」
どうやら僕に気づいた様子で、僕はそんな彼女に歩み寄っていった。
「やぁ、何してたの? こんなところで」
「いえ、べ、別に、い、せ君を待ってた訳ではないですよ」
「えっ? 僕がなんだって?」
「何でもないです!」
「校門の前に佇んでるって事は、誰か待ってたんでしょ?」
「べっ、別に待ってましぇんよ!」
僕の質問に対し、女子の声が上ずる。しかも語尾変だし。
どうも様子がおかしいな…とは思ったが、あんまり触れない方が良さそうだ。なんか、真っ赤な顔で睨まれてるし。
「いや、邪魔したんなら、ごめんよ」
「いえ、じゃ、邪魔なんかじゃないです。そうそうそう! 人間観察をしていたんです。帰りゆく生徒たちの表情や動向を観察して、これからの行動を予想して楽しむというものです」
「そうなの?」
「ええ、そうなのです!」
「ふ~ん」
明日はテストだというのに、なんとも反応に困る事しているのだな。優等生の考えることはよくわからん。
「それよりも伊勢くん。 本日の予定は?」
「図書館で勉強しようとしたんだけど、混んでたからファーストフード店にでも行こうと思ってたんだ」
すると珍しく女史が感心したように答える。
「ほう、復習とは関心ですね。しかし、ファーストフード店という雑音だらけの場所をチョイスするとは、なんとも伊勢くんらしいというか」
「それ褒めてんの?」
「さぁ、どうでしょうか。それよりも、もっといい勉強場所がありますよ」
「どこ?」
「ついてくればわかります。さぁ、いきましょう」
「えっ? 今から?」
「当たり前です。その為に…って、なんでないです!」
「さっきから、変だよ? 女史?」
「気にしないで下さい! それよりも早く行きますよ!」
女史に言われるがまま、僕はあとについていくことにした。学校から歩くこと15分くらい歩いた辺りか…案内された場所は僕らの街でも大きい部類に入る市立図書館だった。
「市立図書館か。そういえば、ここ入ったことなかったなぁ~」
「ここなら静かですし、平日は思いのほか空いてるんですよ」
「逆に静かすぎて、よけい集中できないかも」
「勉強の効率アップを図りたいなら、この静けさに慣れることが重要です。これは、私からの教えと受け取ってください」
そんな会話をしながら、僕らは図書館の入り口へと向かう。
「女史はいつもここにくるの?」
「ええ、よく来ますよ」
「流石は女史。僕には真似できないや」
「グダグダ言ってないで、テストの追い込みかけますよ。先日から教えた教えたヤマも完璧にしてください」
「へいへい」
図書館内へと入り、僕らは丁度良い席を見つける。鞄から教科書やノートを取り出し、早速本日の勉強を始めた。
夏休みの終わりからずっと女史から指導を受けている。僕もそろそろ容量を掴んできた。女史の指導方法は、出来た問題は飛ばして、出来なかったところをできるまでやるというものだ。出来た問題には上に印をつけておいて、できないところには何も書かない。そしてできたら丸をつけ、またできなかったところに集中する。その勉強方法は意外と確実性があり、僕はずっとこの方法でテスト勉強をしてきた。流石に今日あたりになると、丸がついてない部分を探すのが一苦労である。それに丸がたくさんついていると『頑張ったな~』と気分がいい。
女史が言う勉強のコツとはこういうものなのかな? と思ったりした。
「ゴーンゴーン」
それから、どれほど勉強したのだろうか、図書館内の中央にある大きな時計が時刻を知らせる。見てみると午後6時を指しており、僕らはここで切り上げることにした。
「じゃあ、先に帰るね」
すると、荷物をまとめる僕に、女史がこんな提案をしてきた。
「伊勢くん、この裏手に夕日が綺麗に見える場所があるんです。この後、行ってみませんか?」
「へぇ、そうなんだ」
「ええ、ぜひ、をお勧めしますよ」
なんだか妙にイキイキしてる女史に促され、あとをついていくことにした。図書館の裏手にあるちょっとした丘をのぼるとちょうど夕日が沈みかけているところだった。
「おわぁ~、本当に綺麗だね」
「でしょう? 私もお気に入りの場所なんです」
「なんでこんな場所知ってるの?」
「私はなんでも知ってるんです、ふふん」
いつもと変わらない自慢顔なのだが、なんだか今日に限って不快な気分にはならなかった。この綺麗な景色が僕を癒したからか、それとも勉強の満足感からか…ただ言葉なく女史と夕日を見つめた。
「私、試験に落ちたり、辛いことがあったりしたらよくここで夕日を見るんです。すると、なんだかまた頑張ろうって思えてくるんです。伊勢くんにだけ、特別に教えてあげるんですよ、だから…」
「だから?」
「明日は頑張ってください」
「ありがとう、女史。なんだか悪いね、僕のリベンジに付き合ってもらった上に、こんな励ましまでもらって」
「ちょっ、マジな感じの言葉はやめてください。これはあくまで、『敵に塩を送る』という意味ですよ。明日からのテスト、容赦しませんからね」
「わかってるよ。よーし、頑張るぞー!」
感動的なシーンだなぁ。この調子で明日のテスト、うまく実力が発揮できますように。僕は夕日にお願いをした。




