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新学期

 翌日、僕が通う大禄(たいろく高等学校で2学期の始業式が始まる。体育館で校長の退屈な話を聴き終えると、生徒たちは一旦教室に集められた。久々に、見るみんなの顔はどこか懐かしい。日焼けしてる奴もいれば、ちょっとやせた奴もいる。そんな久々なメンツの中、不意に後ろから肩を叩かれた。


「ねぇねぇ、イセユウ。宿題終わった?」


 なんか後ろの席にいる髪の赤い女が僕に話しかけてきた。なんだ、新学期早々れしいやつがいるもんだな。


「あの、オタク誰ですのん?」

 

 みんなを代表して僕はそう問いかけた。まぁ、誰を代表しているかなんて野暮な話はこの際ナシだぜ。


「はぁ? 私よ、私」


「だから、誰?」


「山城志穂よ! ったく」


(あ~! うしろの席の山城か。そういえば、そんな奴いたなぁ)


「なんだ、山城か。びっくりしたなぁ、もう」


「誰と思ったわけ?」


「いや~、髪が長く見えたからさ」


「バリバリのセミショートでしょうが。なに馬鹿なこと言ってんのよ、バーカ」


 いま自己紹介があったようにこいつは山城やましろ 志穂しほうしろの席にいるので、『うしろのヤマシロウ』と僕は勝手に呼んでいる。うしろのヒャクタローもさることながら『うしろ』と『ヤマシロ』のシロもシャレになっているという自分でも感心するあだ名だ。

 ちなみに陸上部に所属してるらしく、噂では走った跡から火が出るほど足が速いらしい。すごいように聞こえるが、要は運動バカというやつだ。まぁ、運動ができる反面、もちろん成績はかんばしくない。席次の上位組から見れば、僕らは同じ落ちこぼれというわけだ。


「ちょっと、イセユウ。ボーッとして、大丈夫?」


「いや、ちょっと、説明モードに入ってたもんで」


「さっきからわけわからん」


 すると、今度は隣の席の男子が話しかけてきた。


「あいかわらずだな、イセユウは。そんなんじゃ、友達なくすぜ」


「そうかな? 気をつけるよ。ところで、お前は誰?」


 すると、そいつはずっこける。なかなか面白いリアクションをする奴だ。


「言った側からお前は! っーか、俺まで忘れたのかよ! 岸本きしもと 有善ありよしだよ」


 そうだ、そうだ、こいつは隣の席の有善ありよしだ。僕と同じ馬鹿なくせに、補習をまぬがれた運のいいやつだ。


「おお、有善! 久しぶり!」


「お前、クラスメイト忘れるにも程があるだろう。泣くぞ」


「冗談だよ、冗談」


 僕はイタズラ顔をする。


「ちょっと馬鹿たち、なに不毛な馬鹿話してんのよ。それよりも、有善、例の話したの?」


「おっと、忘れていた。イセユウもどうせ宿題終わってないだろ? 実は今日の放課後、終わってないメンバー集めて宿題会をやろうと思ってるんだ」


「まぁ、見せ合うための集まり…みたいなもんなんだけどね。イセユウももちろん参加するでしょ?」


 そんな二人のお誘いだったが、僕は含み笑いで答える。


「ふふん、その点なら心配ご無用、織田無道」


「どうしてよ?」


「実は宿題、終わってんだよね~」


 自信満々に答えてやった。


「はぁ!?」


「嘘つくなよ!?」


 山城と有善は互いに顔を見合わせ、驚きの声を上げる。


「本当だよ。それに明日のテスト勉強も順調さ」


「ちょっとイセユウ、あんた暑さでとうとう壊れたの?」


「信じられない、あのイセユウが」


 山城も有善も信じられないという顔をしている。その反応を見るのはなかなか愉快だ。しかしながら、数日前の母の反応は異常過ぎたな…などと思い返す僕。こいつらの反応なんて可愛いもんだ。

 まぁ、普段が普段だから仕方ないか。


「マジかよ~、イセユウは参加確実と思っていたのなぁ」


 すると有善は机にうなだれた。山城はというと


「なんか私、頭痛くなってきた」


 額を天にあげ、右手で押さえつけた。


「それよりも二人とも期末はけっこう赤点ギリギリだったんだろ? 実力テストは大丈夫なの?」


 僕は山城に対して、聞いてみた。


「大丈夫なわけないじゃない。こちとらやっと、陸上部の合宿終わったと思ったら、宿題にお次はテスト。一体、乙女の青春をなんだと思ってるのかしらね、教育庁は」


 山城は半ギレで答える。


「まぁ、君が乙女なのかどうかは疑問だけど…」


「あん? 何か言った?」


「いえ、何も…」


 すると、次の瞬間、何かをひらめいたような顔をする山城。そんでもって、妙な猫なで声を出してくる。


「ねぇねぇ、イセユウくん~。写させて~」


 うっ、これはなかなかの気持ち悪さだ。気持ち悪いだけで見返りがないので、そこは丁重にお断りする。


「キショいわ」


「なっ! 誰がキショいよ!」


「普段はガサツなくせして。キショいわ、はぁ、キショい」


「何回言うのよ! 馬鹿!」


 怒る山城だったが、運良くそのタイミングで我らの担任が教室に入ってくる。


「ホームルーム、始めるわよ~」


「あっ、担任だ!」


 僕はそそくさと正面を向き、山城をスルーした。後ろから『グヌヌ』という声が聞こえたが、聞かなかったフリを決め込み、担任の話に集中した。

 担任から明日からのスケジュールを聴き終えると、ホームルームと共に本日の学校は終わり。僕はホームルームが終わると同時に、山城と有善に捕まりそうになるが、そそくさと教室の出口に向かう。


「なぁ、イセユウ~、参加するだけでもいいから来いよ~。お前がいないと面白くないよ~」


「とかなんとか言って、本当は写す気なんだろ?」


 僕は厳しく突っぱねた。


「なによ、イセユウのケチンボ野郎!」


 背後から山城の文句も聞こえた。少し悪い気もしたが、自分の力でやるという教えに基づき、ここは厳しくいこうっと。僕はそそくさと教室を去った。

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