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いわゆる、ひと夏のスケさん問題

 そんなやりとりを経た翌日、校内のピロティーにはガチな水鉄砲というか水ライフルに近い武器をたずさえた僕と女史が立っているわけだが…


「さて、今日は思い切り遊びましょう」


 張り切っている女史を横目に…僕はかなり不機嫌であった。


「まぁ、遊ぶんですけどね、なんで君はそんな格好してるの?」


「なんでそんな格好…とおっしゃいますと?」


 そんなこともわからないのか、目の前の娘っ子は! こいつは濡れ色香を漂せるであろう制服ではなく、ガッチガチのジャージに身を包んできたのだ。


「ジャージじゃん! ジャージはダメじゃん! そんなの、水に濡れたところで全然いかがわしくないじゃないか!」


「あなたという人は…一体何を想像していたんですか。それで昨日、嫌らしい笑い方してたんですね」


「普通、女の子と水遊びって言ったらさ、誰もが制服を想像するじゃん。こんなジャージなんて、ぴっちりと肌には張り付かないし。何より制服が透けてスケさんにならないじゃん! スケさん!」


「何がスケさんですか、いやらしい! そんなことをすれば感想文なんて書けないでしょうに」


「関係あるか! 僕は男だぞ、男なら周りの好奇な目なんかよりも本能を優先すべきだ。僕は新学期、どんなに周りの連中から冷やかされようともこの感想文を貫き通すつもりだったのに…なのに、なのに君はそんな僕の男心を裏切ったんだぞ」


「あのですね、そんなこと書いたら好奇の目にさらされた上に、生徒指導室送りですよ。伊勢君の脳内は本当に理解に苦しみます」


「生徒指導室送りでもいいから、制服に着替えて」


「お断りです」


「ちくしょう」


 そんなわけで、男子諸君が期待する『スケさん』は女史のジャージ策により、なしとなりました。残念だったな、諸君。はっはっは…はぁ~。すっかりテンションの下がった僕だが、それでも感想文は書かねばならない。なんとか気を取り直して女史の言われるがまま、涼み水撃ち合戦が開始されることとなった。


「じゃあ、伊勢君、撃ち出しのかけ声をどうぞ」


「撃ち出し? 何を言えばいいのさ?」


「好きな言葉で結構です。要はテンションが上がるようなやつで」


「じゃあ…プレイボール!」


 それが正しいのかはさておき、僕は水を天に向かって撃ちだした。


「相変わらずワケがわからないですね」


「好きな言葉でいいって言ったでしょ」


「それじゃ、始めますか。その前に…」


 ここで気になるルールを説明です。ルールは単純にピロティー周辺を戦場とし、頭に巻いてあるトイレットペーパーが濡れ落ちた段階で負けとなります。つまり水に濡れれば濡れるほど敗北に近づくという戦場さながらの戦いなのです。By石嶺鏡花


「誰に向かって説明してるの?」


「さぁ、誰でしょう。そんなことよりも始めますよ」


「よっしゃあ、のぞむところじゃい」


 水鉄砲を携えた僕はピロティーの柱に隠れ、女史はピロティーから体育館に続く階段へと身を潜める。お互い隠れながら相手を攻撃するが、壁に阻まれ互いに水は命中しない。撃っては隠れては、阻まれ、撃って隠れてはまた阻まれ、そんな展開が数分経ったとき、ふとある思いが脳裏のうりをよぎる。


「あのさ、女史…」


 階段の壁に身を潜めたまま、返事をする女史。


「何ですか?」


「これさ、つまんなくね?」


「そうですね、壁に阻まれて水が全く当たらないです。これじゃ、確かにつまらないですね」


「いや、つまらないって自覚するなよ。楽しい思い出書かなきゃならないのに、これじゃあ遊びにならないじゃないか」


「こういう遊びってやったことないんです。私だって、始めるまではこの遊びがどう転がるかなんてわかりません」


 女史が顔を出して反論する。思いのほか盛り上がらない展開に僕らはいさかいをおこし、言い争い、その後に困惑する。子供の様だ…

 しかし、これじゃ肝心の楽しい思い出が書けない。


「誰ですか、水遊びなんて提案した人は」


「オメーだよ! ったく。やったことないから仕方ないみたいな、ご都合主義を見事に貫きやがって。これだから優等生ってやつは好きになれないんだ」


 僕は文句を言う。


「なっ、なんですか。言いたい放題ですね」


「大体ね、ルールが弱すぎるんだよ。頭のトイレットペーパーが濡れるだけで負けだなんて」


「じゃあ、どういうルールが良かったんですか?」


「そうだな…まずゲームが盛り上がるには標的が出てこないことには話にならない。そのためには相手の拠点が陥落したらダメという絶対的ルールが欲しいね。そんでもってプレイヤー自身がやられるのもダメと二つくらいゲームオーバー条件があれば盛り上がるでしょ」


 今ぱっと、頭に浮かんだことを説明すると、女史が目を輝かせる。


「ほぅ、そういう点に関してはゲーム好きの伊勢君の方が適任ですね」


「まっ、まぁあね」


 ふと褒められ、まんざらでもないような顔をしてしまう。すっかり機嫌が良くなったところでゲームを続行することになった僕らであった。


「これでまだゲームが続けられますね」


「なんか言った?」


「いえ、なんでも」


 なんか気になるが、まぁ、いいか。ここで僕は更なるルールを提案した。


「ちなみにさっきみたいなことにならないように、壁に隠れられるのは3秒までにしようよ」


「オーケーです。ちなみに、拠点はどういうものにするんですか?」


「そうだな、絶対に守りたい物が良いから…例えばお互いの着替えとか?」


「ああ、それなら絶対死守しなければいけませんね」


「だよね、はははは」


 笑い合う僕らだったが、その笑い終わる頃…互いの目は鋭い視線へと変わった。お互いの着替えは教室にある。いわば、のんびり構えていれば、散々な目にあることを察知したわけだ。そんな僕らは改めてピロティーで対峙たいじする。


「言っておくけどこれはもう遊びじゃなくてリアルバトルだよ。かわいそうだけど容赦ようしゃはできないからね」


「そんな大口をたたいて勝算はあるのですか? 人の心配よりも自分の心配をしてください」


「なにぃ! まぁ、いいさ。これで心おきなくスケさんの仇をうてるってもんだ」


「またそれですか…。さっきから本当にいやらしいです。私はスケさんよりも印籠いんろうを提示するカクさん派なんですよ」


「やかましい! だったら僕は由美カヲル派だ」


「このネタ…果たして高校生がわかるのでしょうか?」


 現代学生がそんな会話をしているのかは置いておいて、そんな僕にあきれた女史は水鉄砲を再度かまえた。

 だが、ここは男。僕は少しはハンデをくれてやるためにお手上げポーズをした。


「どういうつもりですか? いきなり試合放棄ですか」


「何を馬鹿な。これはレディファーストで最初の一撃だけを君にプレゼントするという意味さ」


「そういう心遣いは持ってるんですね」


「勘違いしないでよ、これは君を容赦なくたたき潰すって意味もあるんだからね」


「面白いですね…ならばお言葉に甘えましょう。ただ、うしろを向いて10秒数えていただけますか?」


「え? どして?」


「いいから」


 女史の思惑を理解できないまま、僕は後ろを向いて数えだした。


「イーチ、ニー、サーン」


 攻撃がくることを想定してはいたが、それに反して女史からのアクションは一切ない。10秒数え終えた僕は振り向くが、そこには誰もいなかった。


「あれ? 撃たないの?」


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