第三話 秘密クラブ
「やっと着いた〜」
瀧島がそう言って、到着したのは大亜達の通う高校。
「え、ここって俺たちの高校だよね? ここにその人達がいるの?」
大亜は素直に驚きを口にした。
この高校に自分達と同じアプリ保持者がいるとは思ってなかったから。
だとしたら、自分だけが瀧島と秘密を共有していると、そう勘違いしていた自分が馬鹿みたいだった。
「そうね、皆それぞれの事情があるから全員は揃ってないけど、今はここが私たちのアジトよ」
瀧島と共に、校舎の中に進んでいく。
まさか部活にも入っていない自分が、下校してから再び学校に戻ってくるとは思ってもいなかった。
そして辿り着いたのは校舎の隅の隅。入ったこともない空き教室だった。
「ここよ、入りましょう」
瀧島が扉を開けると、二人で足を踏み入れる。
アジトと言う割りに、なかなか質素でがらんとした、生活感のない部屋だった。
「遅かったじゃないか、待ちくたびれたよ」
そう言ったのは、奥の方から出てきた黒縁眼鏡の男。長身で、歳はそれはりに若い方だと思う。
「すいません、桐崎くんに結晶体を見せてたら、途中でモンスターに襲われて……」
瀧島が言うと、男が初めて大亜に視線を向けた。
「おぉー、君が桐崎大亜くんか。初めまして、かな? 私はこの学校で教師をしている早乙女総司だ。私たちの部室へようこそ」
早乙女は、歓迎するよという感じで、両手を広げてみせた。
「部室、ですか?」
「楓ちゃんから聞いてないのかい?」
二人の視線が瀧島に向くと、いつの間にか椅子に座っていた彼女は、凛とした声を響かせた。
「こっちに来てから、説明すればいいと思ったので」
「そうか、じゃあ私から説明しよう」
早乙女はコホンとわざとらしい咳をはいて、
「ここは、表向きはボランティアなどを活動とした課外活動部」
「表向きは、ですか?」
「そう。そして裏の顔は、異世界からくるモンスターを迎撃する、アプリ保持者の集まり。通称、ハンターズギルド」
「……なるほど、それで部室なんですね」
そういうこと、と早乙女は満足気に微笑んだ。
「楓ちゃん、ちょっと男同士の大事な話があるから、席を外してくれるかな?」
「……私が聞いちゃまずいことなんですか?」
「うん、聞かないでくれた方がありがたいかな」
瀧島は長考した後、分かりましたと言って、教室を出て行った。
夕日の差し込む教室に、男が二人。
不本意だ。
大亜は早乙女のことを胡散臭い男と評価している。
何しろ底が見えない。本音を隠しているような、そんな気がずっとしていた。
「さて」
そう言って振り向いた早乙女の顔は、瀧島のいた時とは違う真剣な表情だった。
「桐崎くん、君には覚悟があるか?」
早乙女の顔には突き刺してくるような敵意があった。
「正直、私は君を歓迎していない」
そうか。だからずっと感じていたのか、この違和感を。
「半端な覚悟なら、あの子の隣に立って欲しくないんだ」
なるほど、歓迎されていない。
早乙女は自分を目障りだと、そう言っている。
自分を敵視している人間に、わざわざ丁寧な口調で喋ってやる必要なんてない。
幸いなことに、今は瀧島もいなかった。
今まで意識して丁寧にしてきた口調を少し崩してみようか。
「どういうことだ」
大亜の口調の変化に気づいた早乙女が、少し戸惑ったような表情を見せた。が、すぐに平静を取り戻した。
「半端な覚悟なら、すぐに死ぬよ。私はそういう人を見てきた」
死ぬ。
その言葉は予想よりも重たくのしかかってきた。
少し前の自分なら、死なんて遠い未来の話だと考えもしていなかった。
しかし今はどうだ。アプリを持ち、異世界からくるモンスターと戦う。常に死と隣り合わせの日常に変化した。
死ぬのは、怖い。
けど、その日常を選んだのは他でもない、自分だ。
「君が彼女と共に戦うというなら、絶対に死んではならない。もちろん彼女を守りながらだ。もう一度聞くよ? 君に彼女を守り、モンスターと戦う覚悟はあるかい?」
自分が瀧島を守る、か。
今のままならきっと、守られる側なんだろうな。情けないことながら。
けど、いつかは。自分が瀧島を守り頼られる。そんな存在になりたい。いや、なる。
「ああ、絶対に死なない。そして、瀧島のことも全力で守ってやる」
しばらくの静寂の後、強張らせていた顔をふっと緩めて早乙女は笑った。
「ふふ、いい返事だ。楓ちゃんをよろしく頼むよ」
その後少ししてから瀧島が帰ってきて、今日はお開きとなった。
瀧島は家に帰ってからベッドに横になり、ずっと天井を見上げていた。
聞き耳を立てていたのは悪かったと思っている。けど、気になってしまったものはしょうがない。
「絶対に守ってやる……か」
桐崎くんらしくないと思った。あの口調も。いつもの彼はもっと弱々しい。
そんな彼に男らしく守ってやるなんて言われたら、少しドキドキしてしまうのはしょうがないと思う。
今思い出しても少し顔が熱くなる。あの時は、顔を冷ますのに時間がかかってしまってすぐに部室に戻れなかった。
「なんか、ますます『アイツ』に似てるなぁ」
呟いて、瀧島は布団を力いっぱい抱きしめた。