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プロローグ

 ポケットに入れていたスマホから、奇妙な警告音が鳴った。それを桐崎大亜(きりさきだいあ)は荒々しく取り出す。

 画面には目的地が赤いカーソルで表示され、忙しなく点滅していた。

 大亜は目的地に向かって、数分前から走り続けている。体力は限界に近いが、少しでも遅れると酷い扱いを受けるのは目に見えていた。

 横断歩道の赤信号を無視し、ビルの路地裏へ。

 決死の思いで走り抜け、大通りに出た時、そこに少女は立っていた。


「……ギリギリ遅刻。後日ケーキバイキング奢ってもらうから、そのつもりで」


 整った顔立ち、腰まで伸びた黒髪、不機嫌さを隠しもせず言い放った少女は、瀧島楓(たきしまかえで)


「人払いはしておいたから、後は『奴』が来るのを待つだけね」

「……いつもいつもすいません」

「いいのよ。あなたがのろまなのは、もう随分前から知っているから」


 興味がないと言わんばかりに顔を逸らした瀧島を見て、大亜は苦笑いを浮かべた。

 瀧島の視線の先には何もない。瀧島の実行した人払いによって、今この場所には大亜と瀧島の二人しかいなかった。

 しかし確かに瀧島は、何かをその両眼に捉えている。

 ピリピリとした緊張感に耐えきれず、大亜が口を開こうとした時、異変が起こった。

 大通りの真ん中に禍々しい黒い渦が生まれ、中から異形の生物が現れた。

 背中に翼を生やした人型の狼。口から見え

る鋭い牙を輝かせ、獰猛に笑っている。


「来たわね……化け物っ!」


 そいつを一瞥した瀧島が、無謀にも丸腰で突っ込んで行く。


「ちょっと、待ってよ瀧島っ!」


 呼びかけるが、こうなった瀧島は止まらない。


「はぁ、しょうがねーなぁ」


 大亜は溜め息をついて、制服のポケットからスマホを取り出す。

 軽く操作し瀧島を見ると、片手にスマホを持ち、準備万端のようだった。


「……今日も頑張ろうか」


 一人呟き、スマホの画面をタップする。

 瞬間、体が赤い光に包まれた。

 初めての時と変わらない不安と高揚感を抱きながら、大亜は叫ぶ。


武装解放(アームズ・オープン)


 大亜の叫びに応じて、光が右手に収束する。

 顕現したのは漆黒の銃。

 大亜の思いを乗せて、弾丸はどんな敵をも撃ち抜く。


 瀧島の手には、自身の背丈をも超える荘厳な蒼き槍が握られている。

 それを縦横無尽に振り回し、敵を殲滅する姿はまるで戦鬼の様。


 瀧島が化け物の元へと辿り着く。

 化け物から振り下ろされる鋭い爪を躱し、相手の胴を一突き。更に無数の槍を叩き込む。

 体格の差を感じさせない圧巻の戦いっぷりだ。

 最後に、瀧島は化け物の胸元を貫いた。

 膝から崩れ落ちる化け物を見て勝利を確信した瀧島は、スカートの裾を翻し、優雅な足取りで大亜の元へ。

 そして大亜は違和感に気づく。

 奴らは絶命した場合、塵になって消える。だが、大亜はまだそれを確認していない。


「瀧島…………伏せろっ!」


 弾丸を放つ。

 狙いは瀧島の後ろ、化け物の転がっているであろう位置。

 半ば予想していた結果ではあったが、乾いた金属音から察するに弾丸は外れた。


「ごめんなさい。あまりにも弱かったから油断したわ」


 大亜の横に来た瀧島と共に、上空を見上げる。

 ——空に浮かぶ狼。

 常識的に考えて、ありえない。

 だが大亜は、一週間前からそういう存在がいるということを知っている。

 憔悴しきった化け物に憐れみの視線を向けた。


「後始末よろしく、桐崎くん」

「……任せろ!」


 意気込み、照準を合わせる。

 化け物といえど、命を奪うという行為に遠慮がないわけじゃない。

 この一発、これを撃てば終わる。


 (……ごめん)


 心の中で手を合わせ、大亜はゆっくりと引き金を引いた。




 ——そう。大亜が異世界から来るモンスター達と戦う『狩人(ハンター)』となった一週間前。全てはその日から始まった。










 



 

 










 

 

 


 


 

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