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あなたの最終章を書き換えるのは私の恋  作者: 畠山ゆな@姉弟で小説共作✏️


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第四章:避けられない「最終章」の足音


「陽菜、ちょっと待って」



大学からの帰り道、美咲が私の腕を掴んだ。



「どうしたの?」



「最近、また顔色悪いよ。ちゃんと食べてる?」



美咲の心配そうな顔を見て、少し罪悪感が湧く。



確かに、この一週間、食事も睡眠もまともに取れていなかった。



なぜなら――。



「物語が、進んでるんだ」



「え?」



「夢の中の世界。どんどん最終決戦に近づいてる」



私は『暁の騎士団』を取り出して、ページを開く。



第十八章。魔王軍との総力戦が始まる場面。



「もう、時間がないの」



声が震える。



美咲は黙って私の手を握った。



「陽菜、無理しないで。あくまで夢なんだから」



「でも!」



言いかけて、言葉を飲み込む。



美咲にとっては、ただの夢。



でも、私にとっては――。



「ごめん。大丈夫だから」



「本当に?」



「うん」



嘘だ。



全然、大丈夫じゃない。



でも、これ以上心配かけたくなかった。




その夜、ベッドに入っても、なかなか眠れなかった。



怖い。



夢の中の世界が、最終章に近づいていくのが。



リアムの死が、すぐそこまで迫っているのが。



「どうすれば……」



本を抱きしめる。



何度も読み返した。



どうすれば、彼を救えるのか。



でも、答えは見つからない。



やがて、まぶたが重くなって。



意識が、沈んでいく。




目を開けると、そこは戦場だった。



空は赤く染まり、地面は血と泥で汚れている。



遠くで爆発音が響き、誰かの悲鳴が聞こえる。



「ここは……」



辺りを見回すと、城壁の上だった。



魔王軍の大軍が、城を包囲している。



おびただしい数の魔物が、城壁に迫ってくる。



「総員、配置につけ!」



「弓兵隊、構え!」



騎士たちの怒号が飛び交う中、私は必死にリアムを探した。



どこ。



どこにいるの。



「陽菜!」



聞き慣れた声に振り向くと、リアムが血まみれの姿で走ってきた。



「リアム様!」



「なぜこんな場所に! 危険だ、城の中に戻れ!」



彼は私の肩を掴んで、城内へと押し戻そうとする。



「嫌です! リアム様の側にいます!」



「陽菜、君まで危険に晒すわけには――」



言葉を遮るように、爆発音が響いた。



城壁が揺れて、石が崩れる。



「っ、くそ! 魔導師隊、防壁を!」



リアムが叫ぶ。



魔法の障壁が展開されるけど、魔物の攻撃は止まらない。



「リアム副団長! 東門が破られました!」



「何だと!?」



リアムの顔が青ざめる。



「すぐに向かう。第三中隊、私に続け!」



「待って!」



私は彼の腕を掴んだ。



「行かないで。お願い」



「陽菜……」



リアムは苦しそうに顔を歪める。



「私は、行かなければならない。これは、私の務めだ」



「でも、死んでしまう!」



「それでも、だ」



彼は真っ直ぐ私を見つめる。



「私が行かなければ、もっと多くの仲間が死ぬ。それを見過ごすことは、できない」



リアムの目には、強い決意が宿っていた。



ああ、そうだ。



この人は、こういう人だ。



自分の命より、誰かを守ることを選ぶ。



それが、リアム・フォン・アーデルハイドという騎士だ。



「……分かりました」



私は手を離した。



「でも、約束してください。必ず、生きて戻ってくると」



リアムは優しく微笑んで、私の頭を撫でた。



「ああ。君との約束は、必ず守る」



彼は剣を抜いて、戦場へと駆けていく。



その背中を見送りながら、私は拳を握りしめた。



このままじゃ、ダメだ。



彼は、また無茶をする。



そして、死んでしまう。



「私にも、できることがあるはず」



周りを見回す。



城壁の上には、弓兵たちが必死に矢を放っている。



魔導師たちが、防壁の維持に集中している。



私は――。



「そうだ」



走り出す。



リアムが向かった東門へ。



彼を、一人にはさせない。




東門に着くと、激戦が繰り広げられていた。



リアムが最前線で剣を振るい、魔物を次々と斬り伏せている。



でも、敵の数は多すぎる。



「リアム副団長、退いてください!」



「まだだ! ここを抜かれるわけにはいかない!」



リアムが叫ぶ。



その時、巨大な魔物が現れた。



オーガだ。



三メートルを超える巨体に、太い腕。手には巨大な棍棒を握っている。



「オーガだと!?」



騎士たちが怯む。



オーガが棍棒を振り上げて、リアムに向かって叩きつけようとする。



「リアム様!」



叫んだ瞬間、リアムの隣にいた若い騎士が前に飛び出した。



「副団長を守れ!」



若い騎士が盾を構えて、オーガの攻撃を受け止めようとする。



でも、力が足りない。



盾が砕けて、騎士が吹き飛ばされる。



「エドガー!」



リアムが叫んで、倒れた騎士を庇うように立つ。



ダメだ。



この展開、知ってる。



本では、ここでリアムがエドガーを庇って、オーガの攻撃を受ける。



それが、致命傷の始まりになる。



「させない!」



私は無我夢中で走った。



リアムの前に飛び出して、両手を広げる。



「陽菜!?」



リアムの驚いた声が聞こえる。



オーガの棍棒が、私に向かって振り下ろされる。



死ぬ。



そう思った瞬間――。



「陽菜ああああっ!」



リアムが私を押し倒して、体で庇った。



ゴォンッ!



鈍い音が響く。



リアムの背中に、棍棒が直撃した。



「リアム様!」



彼は口から血を吐いて、私の上に倒れ込む。



「う、ぐ……」



「嘘、嘘でしょ……?」



私の手が、血で濡れる。



リアムの血だ。



「リアム様、しっかりして!」



「陽菜……無事、か……?」



「私は平気です! それより、あなたが!」



涙が溢れる。



ダメだ。



救おうとしたのに。



運命を変えようとしたのに。



結局、彼は私を庇って傷ついた。



「副団長!」



「衛生兵! 早く!」



騎士たちが駆け寄ってくる。



リアムは私を見つめて、血まみれの手で私の頬に触れた。



「君を……守れて、よかった……」



「何言ってるんですか! 私なんかより、あなたが!」



「いいんだ……これで、いい……」



リアムの目が、ゆっくりと閉じていく。



「嫌だ、嫌だ! 死なないで!」



叫んだ瞬間、意識が引き戻された。




「嫌ああああっ!」



叫びながら、目が覚めた。



全身、汗でびっしょりだ。



心臓が、うるさいくらいに鳴っている。



「夢……夢だった……」



でも、リアムが傷ついたのは本当だ。



私のせいで。



私が余計なことをしたせいで。



「どうして……」



枕に顔を埋めて、泣いた。



運命は、変えられないのか。



何をしても、彼は傷つく運命なのか。



スマホを手に取って、時計を見る。



午前三時。



まだ夜中だ。



でも、もう眠れなかった。



怖い。



また夢を見るのが。



リアムが死んでいく姿を見るのが。



「どうすれば、いいの……」



誰にも聞こえない問いかけが、静かな部屋に響く。



本を手に取って、最終章を開く。



魔王との決戦。



リアムの死。



そして、物語の終わり。



「変えられない、のかな……」



弱気な言葉が、口から漏れる。



でも、諦めたくない。



諦めたら、全部終わりだ。



「まだ、時間はある」



自分に言い聞かせる。



最終決戦まで、あともう少し。



その間に、何か方法を見つける。



必ず。



「待っててね、リアム様」



本を抱きしめて、涙を拭く。



窓の外では、夜明けが近づいていた。



でも、私の心は、まだ暗闇の中にいた。




翌日、大学で美咲に会った。



「陽菜……大丈夫? 顔色、すごく悪いよ」



「……うん」



嘘だ。



全然、大丈夫じゃない。



「昨日、また夢見たんでしょ」



美咲の言葉に、頷いた。



「彼、怪我したの」



「え……」



「私を庇って。私のせいで」



声が震える。



美咲は黙って私を抱きしめた。



「陽菜のせいじゃないよ」



「でも……」



「陽菜は、彼を救おうとしただけじゃん。それは、悪いことじゃない」



美咲の優しさが、胸に染みる。



「でも、運命は変えられないのかもしれない」



「そんなこと、ない」



美咲は真っ直ぐ私を見つめた。



「陽菜が諦めなければ、きっと道は開ける」



「本当に……?」



「うん。だって、陽菜は本気で彼を愛してるんでしょ? なら、その気持ちが奇跡を起こすかもしれない」



美咲の言葉が、少しだけ心を温めてくれた。



そうだ。



諦めちゃダメだ。



まだ、終わってない。



「ありがとう、美咲」



「うん。いつでも相談して」



美咲は笑顔で私の背中を叩いた。



でも、不安は消えない。



最終章の足音が、すぐそこまで迫っている。



リアムの死が、刻一刻と近づいている。



残された時間は、少ない。



「急がなきゃ……」



呟いて、『暁の騎士団』を握りしめた。



今夜も、会いに行く。



そして、必ず。



運命を、変えてみせる。

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