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あなたの最終章を書き換えるのは私の恋  作者: 畠山ゆな@姉弟で小説共作✏️


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序章:一冊の恋、二つの世界


カフェのテーブルに置いたスマホが震える。また友達からの「飲み会どう?」っていうLINEだ。



「ごめん、今日はバイトで……」



嘘だ。本当は、早く家に帰りたい。



私、桜井陽菜は、今年で大学三年生。ごく普通の文学部生で、ごく普通の友達がいて、ごく普通の毎日を過ごしている。



でも、一つだけ。



誰にも言えない秘密がある。



バッグの中で、いつものように『暁の騎士団』の文庫本が私を待っている。表紙は何度も触ったせいで少しすり減って、栞代わりの付箋がたくさん挟まっている。



この本の世界に、私の初恋がいる。



リアム・フォン・アーデルハイド。



魔王討伐を目指す騎士団の副団長で、銀の髪と蒼い瞳を持つ、完璧な騎士。でも、物語の中盤で致命傷を負って、仲間を庇って死んでしまう。



私がこの本を初めて読んだのは高校二年生の夏。図書館で何気なく手に取った一冊が、私の世界を変えた。



最初はただの推しキャラだった。



かっこいいな、って。守りたいものがある人って素敵だな、って。



でも、ある日、夢の中で彼に会ったんだ。



それは、まるで本当にそこにいるみたいだった。焚き火の匂い、風の音、彼の声。全部、リアルだった。



「君は……誰だ?」



彼が私を見つめて、そう言った。



夢なのに、挿絵よりもずっと格好良くて、驚くほど優しい目をしていた。



それから何度も、夢の中で彼に会いに行くようになった。



でも、問題がある。



リアムは、死ぬ運命にある。



作者が決めた結末は、変わらない。どれだけ読み返しても、彼はあの場面で倒れて、仲間に看取られて、静かに息を引き取る。



「リアム様……」



ベッドに入って、本を抱きしめる。今夜も、また会えるだろうか。



目を閉じると、いつもの感覚が訪れる。体が軽くなって、意識が沈んでいく。



そして――。



「また来たのか」



焚き火の前で剣を研いでいる彼が、顔を上げて微笑む。



「……はい」



私は頷いて、彼の隣に座る。



これが、私の秘密。



本の中の推しが、私の初恋でした。




「陽菜、最近ちゃんと寝てる?」



翌朝、大学の講義の合間に、親友の美咲がジト目で私を見てくる。



「寝てるよ?」



「嘘。クマ出来てるし、ぼーっとしてる時間多いよ」



美咲は心配そうに眉を寄せる。優しい子だ。だからこそ、言えない。



夢の中で、本の世界の騎士に会ってるなんて。



「大丈夫だって。ちょっと読書にハマっちゃって、夜更かししただけ」



「またその本?」



美咲が私のバッグから顔を覗かせている文庫本を指す。



「うん。何回読んでも面白いんだよね」



「でもさ、その推しキャラ、死んじゃうんでしょ? つらくない?」



美咲の言葉が胸に刺さる。



つらい。



とてもつらい。



でも、夢の中で会える今は、まだ彼は生きてる。笑ってる。私と話してくれる。



「……大丈夫。慣れたから」



嘘だ。



慣れるわけがない。



物語はもう終盤に差し掛かっている。魔王との決戦まで、あと数章。



リアムの死まで、時間がない。



「ねえ、陽菜」



美咲が真剣な顔で私を見る。



「もし、その推しを助けられる方法があったら、どうする?」



「……え?」



「だって、陽菜、本気で悲しそうだもん。架空のキャラだって分かってるけど、大切なんでしょ?」



美咲の言葉に、胸が熱くなる。



もし、助けられるなら。



もし、運命を変えられるなら。



「……助けたい」



小さく呟いた私の声を、美咲は優しく受け止めてくれた。



「じゃあ、頑張って。陽菜の恋、応援してるから」



恋。



そうだ。これは、恋なんだ。



本の中の人を好きになるなんて、おかしいかもしれない。



でも、この気持ちは本物だ。



だから今夜も、私は夢の中で彼に会いに行く。



刻一刻と迫る、彼の最期を止めるために。

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