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2話【ほんとにわかってる?】

ベアリアス領中央都市の騎士宿舎グラウンド。そこでは男たちが鍛錬を積み、日々切磋琢磨しながら己を磨き上げている。

 俺にとっちゃ、鍛錬がしんどいだけじゃなくて、妙に暑いわ臭いわで、決して楽しい場所じゃない。そんな男ばかりのむさ苦しい場所だが、意外にも壁に沿って植物が植わっていたり、筋肉もりもりの初代騎士大隊長の像があったりと景観には若干の気遣いがなされている。にしても、あの像の筋肉は盛りすぎだと思う。肩の筋肉がデカすぎて首が無くなっているし、もはや体と顔のバランスがあってない。

 ぼんやり遠目に像を眺めている俺とは対照的に、相棒はせっせと上腕の筋肉いじめに励んでいた。

 

 「なあ、相棒。」

 「26……27……なんだっ……?」

 「18」

 「19……で?なんだ?……18……。」

 「ぷっ……。あははっ!」


 ノルマは1セットにつき35回になっているが、こいつは一体何回するつもりなんだろうか。


 「コラァァァァァ!!!エドワードッ!!貴様!!」

 「げ、ばれた!」


 上官がすっ飛んできた勢いのままラリアットをくりだし、鬼の形相で1セット追加を宣告していった。かといってすぐに取り組むでもなく、俺は立ち上がれず呆然としていた。


 「まじめにやらないから……。」

 

 35回し終えたのか、相棒の哀れみの目を向けてくる。俺は……、ノルマ+1セットしないといけないのか……。


 「カウントは引き受けた。」

 「くっ……、お前まで……!」


 さすが俺の相棒。回数のサバを読ませまいと策を講じてきた。そんな相棒のおかげで、無事にやり終えさせられてしまったわけだ。


 

 そんな訓練のわずかな休憩時間。壁沿いのベンチに座っていると、すぐ左後ろの植木に、薄黄色の花が1輪咲いているのを見つけた。この木、たしかよく似た木が合ったような……。俺からすれば何が違うのかよくわからない。そのくせ花言葉が正反対で、間違えて店の女の子に渡して出禁になった苦い記憶がある。思い出してだんだん腹が立ってきた。


 「なあ相棒!」

 「どうした?」


 隣では、相棒が水をがばがば飲んでいた。


 「この木なんの木?」

 「気になる木なのか?」

 

 俺が親指でくいっと植木を指さすと、相棒もそちらを振り向いた。相棒は小さく「ああ。」とつぶやいた。


 「間違えると大変なことになる木だな。」

 「そうなんだよ!俺、前に店の女の子が『植物が好き』って聞いたから、ちっさい植木渡したわけ。そしたらすんげー怒られたの!!出禁になったの!」

 「それはそれは。花言葉は『大切な人』と『傷物』…。間違えたのは痛いな。それもそうだが、魔術を使うときに取り違えるとどこかの誰かの男性器が犠牲になるから、かなり危険だ。」

 「怖っ!!可哀そすぎるだろ!」

 「どの魔術にどっちを使うんだったか……。」

 

 自分の股間がヒュッと縮こまった。日常を送っているだけで突然無くなるなんて恐ろしすぎる。決して間違えないでほしい。


 「ていうか、魔術の話まだ続いてたのかよ。」

 「何を言う。私は大魔術師シルヴィア様だぞ。」


 相棒はこちらに向き直り、胸に手を当てて大真面目に答えた。汗で髪の毛が張り付いているのでカッコよくはない。

 

 「ハイハイ。」

 「わかったならいい。それで、その植物は間違えないようにするために精霊に聞くんだ。」

 「はあ?精霊ぃ?」

 「そうだ。宿っている精霊に礼儀正しく聞くこと。これが一番確実なんだ。」

 

 俺はぐびっと水をあおった。また相棒がよくわからないことを言い始めたわけだが、どう返すのがいいか……。


 「フーン……。魔術師は精霊の声も聞こえるわけか。」

 

 とりあえず乗ることにした。もし、見分けるのに有効な方法があるなら、俺も知りたい。

 

 「大魔術師な。」

 「はーい。大魔術師シルヴィア様ー。」


 相棒はふっと口元に笑みを浮かべた。

 

 「精霊はあちこちにいるからな。今も聞こえているぞ。例えば『あら、社会の窓が開いているのに気か付かないなんて、なんて間抜けなエドワード様』って」

 「は!?いや俺かよ!!お前早く言えよな!!」


 社会の窓を慌てて閉じた。こいつ……っ、いつから気が付いてたんだ!?キッと相棒を睨みつけた。丁寧に裏声まで使っちゃってさあ、俺初めて聞いたわ。


 「お前が像を見ているときからかな。精霊達もざわざわしていたし。」

 「それは本当に早く言ってくれ…!もう、わかったから……!さっさとあの木に聞いてきてくれ……!!」


 恥ずかしくて穴があったら入りたい。いや、今から自分で掘ってもいい。周りに見られていた恥ずかしさで顔が上がらない。

 

 「ん?ああ。ちょっと待ってろ」 


 相棒は席を立った。ちらりと横目で見ると、植物に向かって「ごきげんよう」と美しく挨拶をしていた。お前は令嬢かなんかか。


 「頭がおかしくなっちまったのか……?」

 

 左後ろから「~〜……へえーそうなんですの。それは困りましたわね。」と聞こえてくる。植物に向かってひとりでに女言葉で話す相棒を尻目に、俺はそっと目を閉じて耳をふさいだ。

 

 しばらくして相棒が戻ってきた。仲間だと思われたくないので距離を置きたいが、言い出しっぺは俺なのでぐっとこらえた。それに相棒だし。


 「聞いてきたぞ。あれはエイブラだ。マグラと間違えられるのが不満そうだった。」

 「へえー……。」


 ふと、それ本当か?と思った。だって正解を俺は知らないわけだし。ていうか、正解がわからなかったら、こいつが本当に精霊に聞いたのかもわからなくないか?

もしかして、この時間は不毛だったんじゃないだろうか……。

 

 「エイブラなのかあ。ほんじゃ今度、タグ作って持ってくるかー。(棒読み)」


 どうせもよくなってきたので、てきとうに反応して自ら訓練に戻った。

 後日、タグがかけられたエイブラの植木だけに沢山の花が咲いていたという。相棒はなぜか誇らしげだったけど……。お前のおかげじゃない、よな?

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