最終話【大魔術師シルヴィア様】
むかーしむかし、まだ有象無象の魑魅魍魎が蔓延り、人間たちを襲っていた頃。静かな静かな森の奥に、それはそれは美しい娘が母親と二人で暮らしていました。
不思議なことに、母親はどんどん老いていくのに、娘はちっとも年を取りません。
やがて母は亡くなりました。娘が悲しみに暮れていると、空から1つ、キラキラお星様が下りてきました。
そうして、お星様は娘に言いました。
「僕は君のパパだよ。」と。娘はたいそう驚き、母の死に目にも姿を見せなかった奴が今更何を、と、お星様をはたき落としました。
よろめくお星様は、続けてこう言いました。
「君は大きく成長した。魔術の力も申し分ない。どうか、人間たちを困らせる悪いもの達を倒してはくれないか。」
「嫌よ。お母様以外に特別な思いなんてないもの。貴方がやりなさいよ。」
「え。ダメなの?こういうのは素直に聞いてもらえるもんだと思ってたのにな……。どうしよう。それに僕、弱いんだよね……。」
「むしろなんで聞いてくれると思ったのよ。」
お星様のお願いを娘は聞き入れようとはしませんでしたが、毎夜毎夜夢に現れてはお願いをするので、とうとう娘は折れてしまいました。
そうして家を出る前日。お星様は娘に神器を授けました。
「これは…?」
「これは走る家。名前はシルビアさ。見てごらんよ、この低く、美しく、流れるようなシルエットを!エレガントだろう?」
「は、はあ……。」
娘は見たこともない巨大な銀色の機械を目の前に、呆気にとられてしまいました。そんな娘のことなど気にもしないで、お星様は「SR20型エンジンが……、」や「ハンドリングが……、」と言葉を続けました。
どれほど時間が経ったでしょうか。話が暗かった世界は、明るさと色を取り戻し始めていました。娘は、この神が何を言っているのかわかりませんでしたが、とりあえず使ってみることにしました。
ところが、山を下りるときに木々にいちいち当たってしまってまったく進みません。それでも神の与えたもうた神器。何とかして娘はふもとの村にたどり着きました。
その姿を見た村人たちは、これまでにないくらい驚いていました。そして言いました。この文字、『Silvia』はあなたの名前ですか、と。
娘は、母から名前を明かしてはならぬときつく言われていたこともあり「そうだ。」と答えました。
そうしてシルヴィアは、傷とへこみだらけの神器を魔術で灰にし、徒歩と飛行魔術で各地を飛び回り、やがて世界から悪いもの達を一匹残らず根絶やしにしました。こうして大魔術師シルヴィアは伝説となったのです。
平和になった夜、人間たちが見送る中、大魔術師シルヴィアは空の彼方へ飛び去ってしまいました。それからというもの、シルヴィア様の姿を見た者はいません。ですが、彼女は大魔術師。もしかしたら姿を変えたシルヴィア様が、あなたのすぐそばにいるかもしれません……。
「っていう話を考えたんだが、どうだろうか?」
「却下。長い、オチがない、読んでくれた人に謝った方がいい。なんだよ巨大な銀色の走る家って。しかも役に立ってねーし。」
茶色いパスタをフォークを突き立てる。俺たちは今度行く孤児院の子供たちに読み聞かせをする話を作っていた。数日前に隊長から与えられた任務なわけだが、順調には進んでいない。隊長は任せる人を間違えたのだ。そんな中相棒が持ってきたのが、この『大魔術師シルヴィア様』だった。
くるくる巻き付けて口に入れる。見た目は濃いくせに味は薄いが、食堂に来るとなんとなく選んでしまう。相棒といえばパンをちぎろうとして爆発させていた。どれだけ硬かったのかは想像できる。俺はちぎれないからだ。
「すまない。とんだかもしれない。」
「いい。」
とんできたパンの粉をパスタに混ぜると、それはどこかへ消えてしまった。
「それに、神器を燃やしてから終わりまでの展開が早すぎる。子供は悪者を倒す部分の方が好きに決まってんだろ。その前を長くしてどうすんだ。」
「それもそうか。」
相棒はパンの切れ端を口に入れ、また手でちぎろうとしていた。食べるの初めてか、お前は。
「かみちぎった方がいいと思うぞ。」
「そうだな……。この話はだめだろうか。」
「アイディアのわかない俺がとやかく言えた立場じゃないけど、わかりやすく、姫がさらわれて悪を倒してハッピーエンド、とかの方がいいんじゃないか?」
「面白いと思ったんだが……。」
「突っ込むところは多いけどな。」
相棒がシルヴィア様を名乗り始めてもうかなり経つ。それでも、魔術なんて無いというのは変わっていない。
「大魔術師な。」
「俺何も言ってねーよ。」
「あと、実は、この話は……。」
「事実、とでも言いたいのか?」
相棒のスープをすくった手が止まった。こいつの設定上、そういうことらしい。
「信じてくれているのか……?」
「いや、まったく。ずっと前から思ってたんだけど信じたらなんなの?お前ちょっとしつこいんだよ。」
スープは口に運ばれることなく、お皿に戻っていった。
「それは……。」
水を挟んで味をリセットする。 あらためて相棒を見やると、手はまだ止まっているようだった。なんだよ、俺なんか変なこと言ったか?
「それは、だな……。」
どうやら俺は言ってはいけないことを言ったらしい。突然パスタが食べづらくなってしまった。
「っは~。もう!シルヴィア様でもなんでも、相棒は相棒だろ!?俺にとっちゃどんなお前もお前なの!信じる信じないも何もないの!」
「エド……。」
「とりあえず、シルヴィア様は使っていいから、もうちょっと考えようぜ。」
「エドのそうところ、俺は尊敬してる。」
「なんだよ。普通だろこんなの。」
「普通引くだろ。」
「まあ、そうかもな。」
「それに、この話を他の隊員にしたこともないだろう。」
先輩とか同僚に言えば、こいつもろとも笑いものにされるのは目に見えている。だから言わなかっただけなのだが、褒められて悪い気はしない。妙に照れくさくてぐるぐると多めに巻き付けた。
「エド。いつか本物の大魔術を見せてやるからな。」
「いままでのはそうじゃなかったのかよ!!」
顔を上げると、唇にパンのカスを付けたシルヴィア様が微笑を浮かべていた。
短い間でしたが最後まで読んでくださりありがとうございました。
書き続けることって難しいのだと身をもって知りました。毎日投稿されている方はすごいなと尊敬の念にたえません。
またいつかお話を書いて投稿したいです。そのときにはまたよろしくお願いします。
よいお年をお迎えください。ありがとうございました。




