桃色の雨宿り
その日は僕の人生で不幸と幸運が連続で起こった日だった。
「げっ、ついてないな」
高校の下校時間。突然降りだした雨に僕は昇降口の開け放たれた扉の前で立ち尽くしていた。
そんな僕を他の生徒達は次々と追い抜き、傘を広げていく。
「せめて涼しければいいのに、なんでこんなに暑いんだよ」
六月の酷暑に八つ当たりをするように舌打ちをした時だった。
「傘持ってきてないよ。どうしよ~」
鈴のような高く澄んだ声に振り向くとクラスメイトの渡辺美穂が外を見ながら靴を履き替えている所だった。
「ん?あはは、佐藤君も傘忘れたの?」
花のように微笑む彼女はまるで太陽のように僕の心を温めていく。
美人でスラっと背が高いクラスのアイドル。僕みたいな平凡な男子にとっては、まさに高嶺の花と呼ぶに相応しい存在。
「その様子だと渡辺さんもみたいだね」
「佐藤君が傘持ってたら入れて欲しかったのにな~」
「あっその、ごめん」
くっそ~!何で傘忘れたんだ僕は!
渡辺さんと相合傘する千載一遇のチャンスだったのに。
「そんな暗い顔しないでよ。冗談だって!」
彼女が僕の隣に立ち、しばらく無言が続いた。
ザーザーと降りしきる雨は弱まる気配を見せない。
「美穂じゃん。もしかして傘忘れたの?なら俺と相合傘してけよ」
野太い声に振り返ると茶髪に染めた体格のいい男子が軽薄な笑みを浮かべていた。
「あ、和弘先輩。私のことは気にしないで大丈夫です」
「こんな雨の中、傘もささずに外に出たら隣の男子に透けブラ見られちゃうよ?」
急に渡辺さんが僕を見るものだから思わず視線をそらしてしまった。
なんてことを言いだすんだこの男は。
カ~と頭に血が上る。
「佐藤君は先輩みたいに変態じゃありませんから」
「いいから俺の傘に入れよ」
和弘と呼ばれた茶髪の先輩がにやつきながら近づいてくる。
一歩後ずさる渡辺さん。
「彼女は僕と一緒に帰るので、そんなに心配なら傘だけ置いていってください」
僕は彼女を庇うように前に出た。
「は?お前ら付き合ってんの?」
「そ、そうだが?何か問題でも?」
思わず声が上ずる。
「ちっ。男持ちかよ。つまんな」
先輩は僕に肩をぶつけて強引に外へ出て行った。
僕は恐る恐る彼女の顔を見て勢いよく頭を下げる。
「ごめん!つい頭にきて変なこと言って」
「変なことって?」
「え?」
「ほら一緒に帰ろうよ。私のボーイフレンド君」
彼女に手を引かれ雨の中、僕達は一斉に飛び出した。
その日の雨は人生で一番気持ちの良い雨だった。




