第1話
佐川響子、十七歳。女子高生だ。
「文花おばさんって、メンヘラ地雷女って言われているの本当?」
「うるさいわね、響子。家から追い出すわよ!」
親戚の川瀬文花と会っていた。アラサーの専業主婦だが、夫の愛人調査が趣味という変な女だ。ついつい響子は文花を揶揄うが、相手の逆鱗にふれてしまったらしい。文花の家から追い出された。
「ほんと、文花おばさんって変わり者だわ」
ぶつぶつ文句を言いながら、そういえば最近、テレビドラマでサレ妻ものが流行っている事に気づく。響子の親もよく見てる。といっても響子はオタク寄りの女子高生。どちらといえば、WEB小説のほうが好きだ。
道を歩きながら、スマホで「作家になろう」にアクセスし、適当に新着欄をチェック。
「はあ? まじ、なろうでもサレ妻ものあんの? っていうか、『毒妻探偵』って作品だけど何これ。サレ妻が夫の愛人調査能力で殺人事件を解く話? は? なんか文花おばさんっぽいけど、なろうで推理ってwww 推理なんてやめろー!」
思わず笑ってしまう。
「なろう小説だったら溺愛異世界恋愛でしょー。溺愛されるとか、探偵に求愛される話にしてよー。まじ、この作者、マーケティングわかってないなwwww」
そう嘲笑った時だった。
ドッカーン!
前方からトラックが突っ込み、歩きスマホをしていた響子はあっという間にお亡くなりになった。
そして目覚めると……。
「は!?」
どこかの邸宅にいた。どうも近世ヨーロッパっぽい部屋の作りで、自分はひらひらしたパジャマを着ていた。天蓋つきのベッドとか存在する事を初めて知ったが。
「え、自分!?」
驚いた。鏡を見たら佐川響子でなくなっていた。そこにいるのは悪役女優風のキッツイ顔立ちの美人。ホリの深さに惚れ惚れするぐらいだが。
思い出す。「自分」はフローラ・アガターという公爵夫人だった。優等生のフローラは誰からも祝福されて公爵家に嫁いだが、相手の男は浮気三昧で帰ってこない。いわゆるサレ妻。作中ではサレ公爵夫人と笑われていた。
「ま、まさか!?」
死ぬ直前に読んでたいたWEB小説・「毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜」を思い出す。あの世界だ。あのヒロインのフローラ・アガターだ。
「もはや私、あの小説のフローラに転生してしまった!?」
そうらしい。どう考えてもそれしかない。
頭の中はフローラと佐川響子の記憶は混乱し、正気を失いそうになるが、あの小説、確か夫の愛人が殺され、殺人事件調査に乗り出すという展開だった。事件の結末も知っていたが、あの小説通りに転生世界も進む?
「こうしちゃいられないわ。事前に公爵の不倫を防がなきゃ。というか離婚してこの家から逃げよう! まずは探偵に依頼よ!」
さてフローラ、いや、佐川響子の転生人生は如何に。