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7)Next step

社長の徳永との直談判を終えた四方田は思案の結果、、、

「皆さん、大変お世話になりました。この会社で過ごした4年半は本当に良い経験をさせて頂きました。今後は会社の外からご発展をお祈りしています」



あれから3ヶ月後、四方田は最終出社日の朝、オフィスにいる社員全員に向かって退職の挨拶を行った。社長の徳永も皆に交じって聞いていた。地方の営業所にはオンラインで配信された。


四方田は思案を繰り返した結果、会社を移ることにした。在籍した4年半で一定の役割は果たせたと感じていたし、徳永との話し合いの後、自身の学歴等が嫉妬の対象になってしまうという状況は、この先も自分の力ではどうにもできないと思ったからだった。

退職の意向を打ち明けた時、實松は必死で慰留した。四方田には何ら非は無い。悪いのは自分達の方だと考えていたからだ。



「四方田さん、何とかもう一度考え直してもらえませんか?四方田さんは何も悪くないんです。了見の狭いヤツラは僕が説得しますから。会社が大きくなるためにはまだまだ四方田さんのお力が必要なんです」



しかし、四方田の決意は固かった。



「實松さん、ありがとう。社長とサシで話してから色々考えました。私には想像も及ばない心境だけど、自分がもし皆さんの立場だったら、やっぱり何らかのやっかみは持ってしまうんじゃないかって。そういうのを忖度しながらっていうのもねぇ。この4年半、大半は私の好きに仕事をさせて頂いて感謝してます」

「僕はもっと四方田さんから学びたかったんですよ。盗みたかったんですよ。仕事のやり方やモノの考え方を。そういう社員は僕以外にもたくさんいますよ」



 四方田は、一回り下の實松と仕事ができて心底良かったと思った。ベンチャー企業に不安はあったが、實松は見えないところで他の創業メンバーとの意見調整をし、四方田がやりたかったことのほとんどをやりたいようにやらせてくれたのだ。大手企業では味わえない経験を確かに積むことができた。

 デスクの整理が終わり、パソコンの中にあるファイルの整理も終わる頃、地方営業所の営業マン達から次々に四方田の携帯に電話がかかってきた。四方田は一人一人に礼を述べ、別れの言葉を述べた。その中には広島営業所・吉川からの電話もあった。



「四方田さん、ホントに辞めてしまうんですね。僕は慰留してもらうよう言ったんですが」

「吉川さん、色々とお世話になりました。吉川さんみたいなタイプの営業マンは珍しいから、私も勉強させてもらいましたよ」

「実は内緒で報告があるんです」

「えっ、何?結婚するとか?」

「違います。30歳過ぎて恥ずかしいから誰にも言わないで欲しいんですけど、通信制の大学を受験しようと思ってるんです」

「いいじゃない!ちっとも恥ずかしくなんかないですよ!吉川さんの人生にとって必ずプラスになりますよ。仕事との両立は大変だと思うけど、『計画性の鬼』な吉川さんなら大丈夫ですよ」


 吉川からの思わぬ告白に、特別なボーナスでももらったような気分だった。吉川はコンプレックスをネガティブな方向ではなく、努力をするためのポジティブなエネルギーにしようとしているのだ。柴崎との一件を、自身の成長につなげようとしているのだ。別れの言葉を交わした後、吉川は尋ねた。



「ところで、四方田さんは次、どこの会社に行くんですか?」

「次の会社もベンチャー企業ですよ。3Dプリンターっていう新しい技術を世の中に広めていく会社です」



 四方田は土橋の熱烈な誘いを断って、新たな挑戦をすることにした。新天地ではどのような出会いが待っているのだろう。餞にもらった花束を手に、皆に深々と頭を下げながら、4年半過ごしたオフィスを後にした。自らの意思で進路を決められるという爽快感が、四方田の全身を支配していた。




―完―


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