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3)学歴の価値とは

ベンチャー企業で営業部長を務める四方田研人は3カ月前に採用した部下・柴崎から退職の意向を聞かされた。理由は先輩社員・吉川との確執であり、学歴コンプレックスが原因であるという。採用もマネジメントも「学歴不問」の姿勢で進めてきたが、顛末の経緯を確認し、社内外の様々な人々との対話を通じて、それは「余裕の産物」であり自身の独り善がりであったことに気づかされていく。そして社内で最も学歴の高い四方田に対し、吉川を始め、四方田を採用した實松など古参の創業メンバーの多くは、複雑な感情を抱いていることを知る。

「久しぶり!」


家路を急ぐ多くの人たちが速足で行き交う恵比寿駅の改札で、聞き覚えのある声に振り向いた。学生時代の友人である片野弥生とは4年ぶりの再会であった。紺のワンピースに赤いヒールを履いて現れた片野は、4年前より少し落ち着いた女性に見えた。



駅から少し歩いて、予約していた焼き鳥屋のカウンターに並んで座った。「赤ちょうちんに玉すだれ」という大衆居酒屋風の店ではなく、焼き場の煙は最新の厨房設備でしっかりコントロールされ、飲み物も焼酎や日本酒よりも、ワインとのコンビネーションを売りにした、オープンして数年の比較的新しい店だった。ビールで乾杯して程なく、四方田は自身の現在の名刺を渡した。



「へぇ~営業部長なんだぁ。四方田君がベンチャー企業に移ったっていう話は聞いてたんだけど。」

「気が付いたらあっという間に2年経ってたって感じかな。小さい会社だからまだまだこれからですよ」



 片野は大学卒業後ずっと、人材派遣と転職斡旋の業界で働いていた。いわゆるキャリアアドバイザーという仕事である。日々多くの求職者に会い、様々な求人を紹介し、一つでも多くの採用マッチングを実現させることがミッションの職業である。四方田は現在の会社に移ってから初めて、採用面接をされる立場からする立場になった。片野の勤務する会社を起用することはなかったのだが、それは別として、前々から一度「人材ビジネスのプロ」である片野と話をしてみたかったのだった。



「こんなオレでも今は採用活動を主導しなければならなくて、これがなかなか難しい。ベンチャー企業は知名度無いから、『業界未経験者歓迎・学歴不問』って書くとたくさん応募は来るんだけど、若い人が少ない。年輩者の応募ばかり。さすがに40代や50代はキビシイから、貴重な20代や30代の候補者をうまく採用したいんだけど、適性の問題もあるし、なかなかこちらの思うタイミングで採れない」

「まあ、そもそもベンチャー企業で働きたがる人自体が少ないわよ。学歴の高い人ほどプライドも高いから、どうしても知名度の高い大手企業を選びがちになる。リスクも低いし。だから四方田君がベンチャー企業に入ったの、意外だなぁと思った」

「オレはもう大手企業はいくつか経験してきたから、いつかベンチャー企業で一度自由に働いてみたいっていう思いがあった。実際入ってみて、採用面接やって、営業の組織を一から構築するなんていう貴重な経験をさせてもらっているから、今のところは自分の選択に後悔してないかな」

「まあ、四方田君は比較的アタマ柔らかいからねぇ。高学歴の求職者ほど会社の看板と自分の実力の区別がつかないっていうか。大手の会社なんか、大半は官僚みたいに上司のご機嫌取るかかばん持ちするかで順番待ちして時間を過ごすだけなのに。でも斡旋する立場からすると掲載料とか紹介料を頂いているから『そんなクソ会社に転職しない方がいいですよ』なんて迂闊にも言えないのよ」



 ビールを片手に仕事のグチや裏側について話す片野は、なぜ今夜、4年ぶりに四方田が誘いをかけてきたのかについてはあまり気にしていなかった。会う目的などはどうでもよかったのかもしれない。久方ぶりに会う旧友としゃべって飲めれば、それでよかったのだ。



「相変わらずいい飲みっぷりだね」

「四方田君こそ。お互い飲む量は減らないわね。最後に一緒に飲んだのは確か、、、ゼミのみんなで飲んだ時かな?4年くらい前に」

「そうそう」

「卒業した後、20代のころは時々サシ飲みしたよね。つぶれるまで」

「うん。気が付くともうお互い40だもんなぁ」



 四方田と片野はお互いが酒好きということもあり、在学中もよく共に盃を重ねた。卒業してからも、時折二人で会っていた。深酒した後は勢いで関係を持ったこともあったが、その後に本格的な交際には発展しなかった。三十代になり、お互い結婚して家族を持ってからはさすがに二人だけで会うことは無かったものの、連絡を途絶えさせることはなかった。



 片野のグチは続いた。



「私たちから言わせれば、キャリアアップとか他にやりたいことがあるからとかいう純粋な転職動機を持っている人は少数派よ。多くの転職希望者は『上司がムカつく』とか『今の会社は転職したばっかりだけど、なんとなく社風が合わない』とか『家から遠い』とか子供っぽい動機ばっかり」

「ふーん。かなりストレスたまりそうだね」

「でも、そういうオコチャマな人たちに頑張って内定取って頂いてナンボの商売ですから。『あなた方みたいな価値の無い人材を採用する会社なんかそうそうないですよ。世の中そんなに甘くないですよ』なんて、これまた口が裂けても言えない。まあでも、こういう人達が多くいるし、終身雇用が崩壊しつつあるから、私たちの業界は成り立ってるんだけど」

「なるほど。以前に比べると『一つの会社でずっと』っていう人は減っているんだろうな」

「ていうか、一つの会社しか経験していない人材はやはり視野が狭いわね。所属している会社の環境が変わったり、看板を外したら何もできないだろうなみたいな。だから看板と実力の区別が大切っていう話よ。まあ学歴もある意味そうだけど」

「ふーん」

「で、またコイツ等が『年収は絶対に下げたくない』とか『福利厚生が充実してないとイヤ』とか『転勤は絶対ダメ』だとか、自分勝手なストライクゾーンを設定してくるのよ。評価は自分じゃなくて他人がするものだっていうのをわかってない」



旨そうなレバーが焼き上がってきたので、四方田はすかさず赤ワインを注文した。片野はすでにビールをジョッキで3杯飲み干していた。学生時代と同様、顔入りが変わることもなく、酩酊する気配は微塵も感じなかった。



「あとね、マトモな書類をかける人が少ない。読む人の立場にたって書かれた職務経歴書っていうのがホントに少ない。だからそういう書類作成の指導も私たちがやらなくっちゃいけないの。若い人ならともかく、年輩の、高学歴でプライドの高い人に限って、『他の会社、他の業界の人が読んでもわかるように書いてください。特定の業界でしか通用しないような専門用語や略語は極力使わないでください』って指導してるわ」

「書類については全く同じ意見。オレも採用基準の一つは読み手を意識した書類が書けるかどうかを見る。しかしオレとは経験値のケタが違うな」

「私が転職希望者に何言ってもいいとしたら、『お金をもらって会社で働いてやる』じゃなくて『会社が認める働きができるからお金がもらえる』っていう、雇用の根本原理をおさらいしなさい!ってブチかましてやりたいわよ」



 旨い焼き鳥に赤ワインで上機嫌なのか、片野は一通り吐き出し終わった感じでスッキリしている様子だった。四方田も片野の正論に関心しきりだったが、関心ばかりしているわけにもいかない。酔っぱらう前に「本題」の方向へ軌道修正を始めた。



「片野の担当でさ、大卒と高卒、どちらが多い?」

「大卒が多いわ。高卒はお給料の相場が安いから、比例して紹介料も低くなるし」

「さっきプライドの話が出たけど、転職の斡旋やってて大卒と高卒の違いって感じる?」

「うん。やっぱり書類のクオリティもそうだし、英語力なんかは特に顕著ね。高卒でビジネス英語できますっていう人ってあんまりいないし」

「ウチの会社さぁ、9割は高卒なんだよ」

「へぇ。まあベンチャー企業では聞く話だけど。よく院卒の四方田君を採用したわねぇ」

「社内にいないタイプの人間を採りたかったって、採用面接の時に言われた」

「で、かたや四方田君もこれまでにない経験をしたいから、双方の利害が一致したわけね」

「そうそう」

「あと私がキャリアアドバイザーとして高卒の人に感じるのは、約束を守ることにストレスを感じる傾向が強いっていうことかしら。例えば、平気で約束をドタキャンしちゃうみたいな」

「採用面接を?」

「ううん。私たちとの面談とか書類作成指導とかを。締め切り守らない人もいるし。四方田君の会社でそういうことってない?」

「さすがにしょっちゅうはないけど、たまに似たようなことはあるかな」




 四方田は現在の会社に入って、創業メンバーたちの仕事ぶりから感じ取ったのは「予定や計画をしたがらない」ということだった。まったくゼロだとは言わないが、締め切り間際になってお尻に火が付かなければ腰を上げないのである。例えて言うならば、夏休みの宿題を8月30日、31日から慌てて始めるという感じであった。決してヤル気がないわけではない。能力がないわけでもない。


―この先の状況を予測して、段取りを組んで、予め時間をとって関係者に周知して共有し、同意を得て、役割分担をして、締め切りから逆算して、業務の所要時間を確認するー


といったような一連の作業が、とにかく面倒くさくて仕方ない様子なのであった。そしてそれを問題だと感じているメンバーはほとんどいないようであった(唯一の極端な例外は吉川であった)。良く言えば「計画なんか立てなくてもその場しのぎで何とかなるさ」といった逞しさということであるが、大半のケースでは非効率な突貫工事の繰り返しとなっていた。顧客や代理店からは「あそこはベンチャー企業だから仕方ない」と呆れ半分、情けが半分といった評判であった。アウトサイダーである四方田は「よくこれでここまで会社を存続させてこられたな」と思った。ただ四方田は「このようなことも含めて、ベンチャー企業とは若く未成熟なものだ」という前提で入社していたため、特に腹を立てることはなかった。自身の関連する業務から少しずつ、計画性は効率性につながり、やがては生産性の向上につながるのだと、その効用を説き、徐々に改善を図っていった。四方田はその原因のいくらかが学歴にあるとは感じなかったが、片野の話を聞いているとそれなりに関係があるのかもしれないと思い始めた。



 片野は旨そうにハツを食べていた。学生時代の時と同様にワサビをつけて食べていた。片野曰く「肉にとって最良のスパイスはワサビだ」ということらしい。「肉にワサビをつけようって最初に考えた人にノーベル賞を上げたい」とまで言う。塩味のみならず、タレ味の焼き鳥にもワサビを好んでつけていた。二人で飲んでいるうちにワインのボトルは空き始め、片野は躊躇することなくお代わりを注文した。


「四方田君、もう一本余裕でいけるっしょ」



 四方田は話を続けた。



「いや実は先日社内でさ、高卒の創業メンバーが大卒の新入社員を上手く指導できなくて、入って3カ月で辞めるっていう事件があったんだ」

「ふーん。どういうこと?」

「まあ高卒の先輩社員が何かにつけて『大卒のクセにそんなこともできないのか!』って詰ってたみたい。入社早々わからないことだらけなのにさ。偶然にも齢が同じっていうのも衝突してしまう原因の一つではあったんだけど」

「大手の企業でもたまに聞く話ね。新卒のコがメーカーに入社して、初任地が地方の工場で、現場の高卒のベテラン社員にいびられるっていうケース。でも大手の企業だと大抵、大卒と高卒では違うキャリアパスの線路が敷かれているから、そこまで大きな問題にはならないんだけど」

「ウチの会社ではそこは区別してないかな。待遇も原則同じだし」

「大丈夫なの?今後も似たようなケース出てくるわよ。きっと」

「だって創業メンバーが全員高卒だから、区別しようにも現実的に難しいかなと」

「まあ確かに。募集要項に『学歴不問』って謳っている以上は仕方ないとは思うけど、仮にその辞めた大卒の人が、ネットの掲示板とか会社の口コミサイトにそのことを投稿なんかしたら、大卒の希望者なんか来なくなっちゃうわよ」

「でも高卒でも優秀な人は優秀だし、大卒でも片野の話に出てきたみたいにプライドだけ高くて仕事できない人もいるから、あんまり学歴のフィルターばかりで人を見ちゃいけないかなと。粘り強く採用活動続けていきますよ」

「極端な例は置いといて、長いこと人材ビジネスで働いてきた端くれとしての意見を言わせてもらうと、高卒の人は当たり前のことができない人が多いわよ。今からでも遅くないから大卒中心の採用活動に切り替えていった方が、四方田君の会社的にもいいんじゃないかと思うわ」

「当たり前のことって?」

「じゃあ聞くけど、高卒の人が大学を受験しない理由って何だと思う?」

「うーん、親の経済的な事情とか専門的な技能を身に着けたいとかかな」

「確かにそういう人たちは常に一定数は存在するわ。でもそれ以外はどうかしら?」

「お勉強が嫌いなんじゃない?」

「お勉強、だけかしら?」



 四方田はしばらく考えた。すると片野は違う質問を投げかけてきた。



「四方田君が面接官だとして、面接という限られた時間の中で、高卒の候補者に『受験勉強は嫌いだったけど、仕事はなんでもやります』って言われたら、それをどのくらい信用できる?」



 またしても四方田はすぐに返答することができなかった。が、一つの事例が頭に浮かんだ。



―四方田は営業部長として全ての営業マンに毎週報告書の提出を義務付けていた。開始した当初はとにかく期限を過ぎての提出が多かった。期限直前に「すみません。提出遅れます」というドタキャン的なものも散見された。四方田も各営業マンの報告を基に、売り上げの数字等をまとめて上層部に報告をしなければならないため、提出期限を守ってもらう必要があった。注意を繰り返していくうちに状況は改善されていったが、確かに柴崎をはじめ、大卒の社員は遅れることはほとんどなかった―



「結局のところね、努力することそのものが嫌いなのよ。いつもできない理由ばかり探して逃げてるのよ。大半の高卒の人たちは」



ハツの後に出てきた手羽先をゆっくりバラしながら、片野は冷静に語り始めた。



「これまで四方田君がやってきた仕事とか乗り越えてきたことと比べたら、受験勉強なんて大したことないでしょ?まして四方田君は大学院まで出ているのよ」

「まあ確かに。」

「道徳的に問題があるものは別として、仕事の大半って楽しくないことばかりでしょう?自分の好き嫌いをコントロールして、仕事をするからこそ周囲は信頼するし会社も評価するのよ」



 片野の話を聞いているうちに、四方田が現職でぼんやり感じていたことの何割かがあぶり出されるような心持ちになってきた。片野は冷静に続けた。



「受験勉強ごときから逃げていて、何に立ち向かえるっていうの?就職の選択肢のみならず結婚とかでも差別されるリスクがあるっていうのは十分知っているはずなのに、それでも逃げてる人たちをどこまで信用できるの?」

「まあ確かに。仕事に好き嫌いを持ち込みすぎるきらいは感じるね。いまの会社では」

「若いうちに、自分のやりたいことをいったん脇に置いて、嫌でもやらなければならないことに打ち込む経験って大事よ。そういう経験をちゃんとしている人は他人から一定の信頼を得られるように当たり前のことを当たり前にできるの。私も長くこの仕事をやっているからこそ感じることだけどね」



 片野の話にロジックがあるのかないのかはハッキリしなかったが、何ともいえない説得力だけは感じることができた。数えきれない転職希望者や採用企業と向き合ってきた経験値に裏付けられていると思えたからだった。



「学歴って深いね」

「深くないわよ。シンプルよ。人が人の素性を、限られた短い時間で評価して採用不採用の判断をする際に、全てとは言わないけれど、間違いなく確かな基準の一つになるのが学歴よ。それを証拠に四方田君の会社だって、四方田君の学歴が採用理由になっているじゃない。四方田君の仕事ぶりがいくら優秀でも、もし四方田君が高卒だったらいまの会社は絶対採用しなかったとさえ思うわ」



 四方田は自身の内にある「矛盾」をしかと見抜かれた気がした。四方田は上司の實松に、自身の直接的な採用理由を聞いたことは無かったが、片野の見立ては大きくは的を外れていないだろうと思えた。



「片野からこんなにいい話が聞けるとは思ってなかったよ」

「ちょっと~どういう意味よぉ?タネを明かすとさ、ウチの甥っ子が全然勉強しなくって、『勉強なんかしていいことなんかあるの?』って姉貴が質問された時、うまく答えられなかったんだって。それでこの話で対抗しろって仕込んであげたの」

「なるほど。甥っ子君、勉強好きになるといいね」



 気が付くと2本目のワインも空になっていた。さすがにもう一本はキツイということで、最後にハイボールを一杯ずつ注文した。



「四方田君、このお店よく来るの?なんかおしゃれでいいお店じゃない」

「いやいや。今回片野と久しぶりに会うからネットで探した。せっかくだから美味しいもの食べたいじゃない。昔と変わらない食べっぷり、飲みっぷりだな」

「でも今日話聞いてて感じたけど、四方田君いいキャリア積んでると思うよ。会社はまだまだ足りないとこだらけでしょうけど、四方田君がやりがいを感じるのはわかる気がするな。長く勤めるつもりなの?」

「まあもう何年かは。先のことはわからない。状況に応じて考えてやっていきますよ。これまでもそうだったし、これからもね」

「色々な会社を見るってホントに大事よ。時々大手の会社に長く勤めてた人が相談にくるんだけど、転職しなかった理由を聞いてみると、だいたい大した理由なんか無いのよ。家族の事情がどうのこうのっていう人も多いけど、結局いまの会社を辞める勇気がなかっただけなのよ」

「なるほど」

「職務経歴書に『他の応募者よりも忠儀心には自信があります。だってこれが初めての転職ですから』って書いてた人がいて、それはさすがに削除させたわ。大石内蔵助じゃないっていうのよ」

「へぇ、忠義心ねぇ」

「長いサラリーマン人生で、会社が望むことと自分自身がやりたいことが一致する確率って高いと思う?高い人なんかいないのよ。大切なのは『このままここにいてもその確率は上がらない』って見極めたら、次の仕事を探すべくスパッと切り替えができるかどうかよ。時間は有限なんだから。職歴とか学歴はそういう時に選択肢を増やすための、いわばパスポートよ」

「なるほどねぇ、って、今日『なるほど』しか言ってないなぁ」

「四方田君もこの先転職を考えることがあるだろうから、その時は私に手伝わせてよ。履歴書と職務経歴書をメールしといてくれたらデータ登録だけはしておくわ」

「なんか同級生にキャリアアドバイザーやってもらうのも気乗りしないなぁ」



気が付けば時計の針が12時を回ろうとしていた。四方田と片野は店を出て恵比寿駅に向かった。それなりの量を飲んではいたが、四方田の頭は妙に冴えていた。駅に到達するまでに煌めいているいくつかのバーの灯りが、四方田に帰宅を躊躇させた。



「もう一杯だけ飲んでいかない?」

「ううん。終電で帰る。だってもう一軒いっちゃったら、また前みたいに勢いでエッチしちゃうといけないから」



 片野は小走りに別のホームに向かい、先に電車に乗っていった。四方田には「そういうつもり」はなかったのだが、20代の頃、片野と二日酔いで共に朝を迎えた時のことを懐かしく思い出しながら家路についた。


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