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8話 何でいんの

 



「痛ててててて! おい、もっと優しくしてくれよ!」


「優しくしてるわよ! まったく、ちょっと戦ったからって身体にガタがくるなんて情けないんだから、このクズニート」


「はい、しゅいません」


 腰に薬を塗ってくれていたクリスがぺちんと尻を叩いてくる。

 十年ぶりに魔族と戦ったら、筋肉痛になるわ腰がイカれるわで散々な目に遭ったぜ。くそ、こんな事になるなら余計なことせずクリスに行ってもらえばよかったわ。あ~腰痛い。


「ちきしょ~、シスコが居たらこんな痛み一瞬で治るんだけどな~」


 共に魔王を討ち倒した仲間の僧侶を思い浮かべながらぼやく。

 あいつの回復魔術はマジで凄くて、数え切れないほど命を救われたからな。


「居ないんだから仕方ないじゃない。薬で我慢なさい」


「そういえばシスコの奴、今どこで何してんだ?」


「確か今は聖教国で司教をしてたかしら」


「へ~、そら随分と出世しましたな~きっと金も持ってモテモテなんだろうな~」


「何言ってるのよバカ。あんただってアホな真似さえしなきゃ今頃この国の王様だったでしょ~が!」


「いひゃい」


 すんごく偉くなっていたシスコに羨ましがっていると、クリスに頬を引っ張られる。

 そういえばそうだったな。でも俺が王様になっていたら多分この国崩壊しそうじゃない? 他の国に借金しまくりそうだし。


「そういえば、ガルはどうしてんだ?」


 昔の仲間を出してなんだか懐かしくなった俺は、最後の一人について尋ねる。

 戦士のガルガンティア。長くて呼び辛いから俺達はガルと呼んでいる。


「世界中を旅すると言って出て行ってからそれっきりよ」


「あ~そういえばガルの奴そんな事言ってた気がするな~」


 魔族と争っている当時、仲間の皆で「魔王を倒して世界を平和にしたあとは何がしたい?」みたいな、夜中に焚火をしながら未来についての話をしたことがある。


 結局俺とシスコとクリスは何も思いつかなかったが、ガルだけはすぐに「まだ見ぬ世界をこの目で見に行くんだ」って言ってたっけな。


「アレンもそうだったけど、どこで何してるんだか」


「ガルのことだ、達者でいるだろ。あいつ程頑丈な人間いね~しな」


「ふふ、それもそうね」


 切り込み隊長でもあり、鉄壁の盾でもあった。

 常に俺達の前に立って戦い、やばい時は殿を務めてくれる。ガルこそが戦士の中の戦士で、あいつほどカッコいい人間を俺は知らない。そんでもって異常に頑丈なんだよな。


「このまま昔の話をしてもいいが、その前に聞きたいことがある」


「何よ、改まって」


「何で魔族がこんな場所に居るんだ?」


「……」


 直球に問うと、クリスは口を閉じてしまう。

 その様子に俺は深いため息を吐きながらポリポリと頭を掻くと、


「な~んか嫌な予感がして様子を見に行ってみれば、二人の魔族とステラが戦ってたんだぜ。しかも負けそうになってるしよ。ガキの手前余裕ぶっちまったけど、実は結構ギリギリだったんだからな」


「そうね……あんたのそういう野生の勘みたいのは昔っから凄かったものね。今回はその勘のお蔭で助かったわ、ステラを助けてくれてありがとう。あの子を失うことはこの国にとっても人類にとっても大きな損失になったもの」


「別にお礼とかいいからさ、本題を聞かせてくれよ。どうして魔族の生き残りが学校に現れたんだよ。おかしいだろ」


 逸れた話を強引に戻すと、ステラは肩を落としてこう言ってくる。


「この際だから話すわ。ついてきなさい」


「あっおい待てよ」


 突然クリスが歩き出すもんだから、俺も慌ててついていく。

 部屋を出てから長いこと歩き回り、薄暗い場所に入って今度は地下階段を降りていく。


「お~い、まだか~」


「あともう少しよ」


 全然着く気配がないので聞いてみるが、クリスの返答はそんな感じ。さっきからずっとそればっかりで困っちまう。

 勘弁してくれよなぁもう~足腰がヤバいんだって~。今気付いたけど、これ帰りは登らなきゃならないんだよな。絶対に浮遊魔術かなんかで運んでもらうぞ。


「着いたわ」


「ほんと? 暗くて何も見えねぇけど」


 やっと着いたと思ったら、辺りは暗闇で何も見えなかった。

 するとクリスが灯りをつけくれて、部屋の様子が分かってくる。何の変哲もないただの狭い地下室だが、その中心地には魔法陣が描かれており、さらに魔法陣の上に何かが浮かんでいた。


「っ!? おいクリス、どういうことだ!?」


 それを見た瞬間、目を見開いた。

 そして隣にいるクリスへ怒鳴るように問いかけると、彼女はそれを見つめたまま口を開く。


「これには事情があるのよ」


「ざけんじゃねぇ、どんな事情があればこれがここにあるんだ。この“魔王の欠片”がよぉ!」


 それを指差しながら告げる。

 魔法陣によって封印されているにも関わらず、悍ましい邪気を漂わせている黒い物体。この黒い物体の正体は“魔王の欠片”と呼ばれる“魔王の魂”だった。


 十年前に俺達が討ち倒した魔王。

 だが、魔王は不死の存在であり本当の意味でこの世から消し去ることは不可能だった。ご先祖様たちが遥か昔から魔族と争い続けて決着がつかないのは、魔王が力を取り戻し復活してしまうからだ。


 一時は平和が訪れても、長い時を経て魔王が復活し再び戦争の繰り返し。

 折角死に物狂いで倒したってのに、また復活されるなんてたまったもんじゃない。


 だから俺達は、完全に魔王をこの世から消し去るか、復活させない方法を必死に探し、やっとのことで後者を見つけた。

 ある道具を使って討ち倒した魔王の魂を五つに分け、今度こそ完全な平和を取り戻したんだ。


 その五つに分けた魔王の魂が、魔王の欠片と呼ばれるもの。

 五つある魔王の欠片は、もし魔族に襲われても一度に奪われないように五か国で厳重に保管されることになる。オルトラール王国もそうだ。


「これは王城の真下に保管されてあった筈だよな。あそこなら警備も万全だしよ。それが何でこんな守りも薄くてガキ共がいる学校の地下なんかにあるんだよ」


「一年前、私が校長に任命された時に学校に持ってきたのよ」


「んだと? 何の為にそんなリスクしかねーことしてんだ」


「だから言ったでしょ、色々と事情があるのよ」


「そういう含みのあることしか言わねーってことは、言えない事情があるんだな」


 俺の問いに、クリスは無言になることで肯定した。

 ちっ、何でそんな面倒なことになってんだよ。つ~かクリスも変なことに巻き起こまれてるじゃねぇか。あっ、それは今の俺も同じか?


「成程な、さっきの魔族共はこれを奪いに来たってわけか」


「そうね。封印はしているけど、魔族は魔王の欠片の在処ありかがなんとなく分かるみたいなのよね。それに最近、生き残りの魔族達が活発的に行動しているわ。魔王復活を目論んでいるんでしょ」


「おいクリス、まさか俺を教師にするとか言って学校に連れてきた本当の理由は……」


「ええ、私と生徒だけじゃ魔族からこれを守るのには心許ない。だからアレンに来てもらったのよ」


「ですよね~」


 はぁ……やっぱりそうだったか。

 今更何で俺が教師をやらされるんだと疑問を抱いていたが、裏にこういう事情があったわけね。

 くっそ~、だから今まで隠していたのかよ。もし知ったら俺が学校に来ないと思ったんだろう。ズルい奴だぜ。


 胸中でため息を吐いていると、クリスが真剣な眼差しで俺を見ながら告げてくる。


「ねぇアレン、私達の戦争はまだ終わってなかったのよ。この件は、私達が最後まで責任を持たなくちゃいけないわ」


「はっ」


 クリスの話に思わず笑っちまった俺は、「いいや」と首を振ってこう答える。


「それは違うぜクリス。俺達の戦いは終わったんだよ……十年前にな」


「……」


「これからの平和を守っていくのは、“新しい世代”の奴等だ。いつまでも俺達が出しゃばってちゃダメだろ~が。“だからお前はここに俺を呼んだんだ”。そうだろ?」


 ニヤリと笑いながら聞くと、クリスはお茶目に舌を出しながら、


「あら、バレちゃった?」


「お前自分の歳考えろよ……三十越えてその仕草は正直キツいぞ」


「チェストォォオオオオ!!」


「ぐはぁ!?」



 ◇◆◇



「くぅ~かぁ~」


「ちょっと、起きなさいってば。授業に遅れるわよ」


「なんだよもぅ……ふぁ~あ」


 ぐ~すか眠っていたら、突然誰かに起こされる。

 ぐっと背筋の伸ばしながら寝ぼけた頭を覚醒させると、視界に信じられない光景が映ってきた。


「朝ごはん作ったから、食べましょ」


「えっ?」


 俺にそう言ってくるのは、学生服の上にエプロンをつけたステラだった。しかも右手にはお玉を持っている。なんとまぁ可愛いらしいお姿でしょうか。


 はー待て待て。おい、寝起きにとんでもないもんぶっこんでくんなよな。全くもって意味不明なんだが……これどういう状況?

 困惑する俺はステラを指差し問いかける。


「何でいんの?」


 短くそう聞くと、ステラは頬を赤く染めながら恥ずかしそうに、


「な、何でって……助けてくれたお礼にご飯をご馳走しようと思ったのよ。本当は昨日の夕食にしようかと思ったんだけど、留守だったから今日の朝にまた来たの」


「いやいやいや、おかしいって。てか恐いって。百歩譲ってご馳走してくれるとしても、勝手に人の部屋に入って朝飯作るって考えに至ったのが分からねぇよ。不法侵入だからね」


「だ、だってしょうがないじゃない! それ以外お礼の仕方わからなかったんだもん! それに、受けた借りはさっさと返したかったのよ!」


 だもんじゃないよも~。

 今時のガキの考えが分からない。もしかして皆こいつみたいに常識ないのか? それともステラだけがぶっとんでんのか?


 つ~かここ教員専用の寮にある俺の部屋なんだけど、どうやって入ったんだこいつ。俺、カギ閉めてなかったっけ? えっ恐っ。


「もういいから、早く食べなさいよ」


「……へい」


 これ以上詮索するのも恐いし、言う通りにしてさっさと帰ってもらおう。

 食卓に移動すると、美味そうな料理がずらっと並んでいた。十年前なら飛ぶように喜んだが、歳を取った今はもう朝からこんなに食べられない……なんか悲しくなるな。


「……」


「……いただきます」


 緊張した感じでじ~っと見てくるので、ご飯とかおかずを順に手をつけていく。


「ど、どうかしら?」


「うん、美味い。こんな美味いもの食ったのは久しぶりだ」


「そ、そう!? ふぅ~、よかったぁ」


 嬉しそうに微笑むステラ。

 その笑顔がやけに子供っぽくて可愛く見えた。いやでも、本当に美味いな。魔術や剣術だけじゃなくて料理の才能もあったのか。


「おかわりもあるから、いっぱい食べていいわよ」


「勘弁してください」



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