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4話 第二世代――セカンド――

 



 十年前、俺は勇者として仲間達と共に魔王を討ち倒し、世界に平和をもたらした。


 そんな偉業を成し遂げた俺は周囲からもてはやされ、調子に乗って色々やらかしてしまう。ブチ切れた王様から王都を追放&出禁にされた俺は、他の国でクズニートライフを満喫していた。


 そしたら仲間のクリスが十年ぶりに会いに来て、突然学校の教師になってくれって頼んできやがる。


 そんな面倒臭ぇこと絶対やりたくない俺は勿論断ったのだが、強引に言いくるめられてしまう。今まで溜まっていた借金ツケを肩代わりするからと言われ、それを聞きつけた奴等がここぞとばかりに来やがって、断るに断れなくなっちまったんだ。


 お蔭で俺は教師を引き受ける羽目になってしまい、クリスにも多額の借金をすることになっちまった。ったくよ、毎日ダラダラと酒を飲みながらクズニートライフを楽しんでいたっつうのに、マジで厄介なことしてくれたもんだぜ。


 んで、仕方がなく教師になって一日目の実践授業。

 生徒達の前に立ってクリスが俺を紹介すると、ガキんちょ共は言いたい放題言ってきやがる。まぁそれ自体は何とも思わん。十年前の勇者と別人になっているのは俺が一番よく分かっているからだ。


 生徒達が騒がしくしている中、クリスが慌てて組手を行うと告げる。誰かいないかと尋ねれば、自信満々に手を上げて立候補した女性徒が居た。


 生徒達の会話を聞いた限り、ステラという名前の女の子が【五人の魔女(クインテット)】の一人らしい。


(ほ~う、あのガキがそうなのか。確かに生意気そうな面してやがるぜ)


 そもそもクリスが俺を教師に誘ったのも、【五人の魔女(クインテット)】と呼ばれている五人の天才少女達の天狗になった鼻をへし折って欲しいからだった。


 その五人はめちゃくちゃ強く、教師や生徒が誰一人として敵わないのを良いことに、授業を放棄したり学校を牛耳ったり好き放題している問題児らしい。


 一年前に校長になったクリスは問題児達を更生させようと熟練な魔術師(男)を何人も連れてきたのだが、見事返り討ちに遭ったようだ。その所為で天狗に拍車をかけてしまった。

 そこで白羽の矢が立ったのが元勇者の俺って訳だった。


(あら、結構可愛いじゃねぇの。目の保養になるわ~)


 生意気そうだと思ったが、よく見てみればステラは美少女だった。

 光り輝く銀色の長髪に、目鼻立ちがくっきりした美しい顔立ち。胸も結構ありそうだし、スカートから出ている健康的な太ももも素晴らしい。全くもってけしからん身体だ。


 最近若い美少女を見てなかったから目の保養になる。ありがたや。

 まぁ、美少女だからってガキ相手に何かを思うことはないけどな。


 クリスには恐い笑顔で容赦するなと言われたが、可愛さに免じて手加減してやるか。


 ――そんな考えが甘かった。


 いざ模擬戦が始まったら、俺はステラの一撃にぶっ飛ばされ、初日から半ケツを出すという無様な醜態を晒してしまったのだ。



「痛ててててて! おい、もっと優しくしてくれよ!」

「優しくなんてしないわよ! あんたのせいで私まで大恥かいたんだからね!」


 それからすぐに医務室に連れてかれた俺は、ベッドに横になりクリスに塗り薬を塗ってもらっている。

 しかしご立腹なクリスは治療が荒っぽく、俺は久方ぶりに味わった戦いの痛みに悶絶していた。


「はい、これでお終い! さっさとその汚いケツを仕舞いなさい」

「あひんっ」


 パシンッとケツを叩かれた俺は、しくしくと涙目でズボンを履く。

 まさか三十にもなって仲間にケツを診てもらうとは思わかったぜ。人生って深いや。


「本っ当に情けないわね、何負けてんのよ。ああいう場面は颯爽と勝って「流石勇者は凄い!」って生徒達に見直されるのが相場ってもんでしょ~が! 

 なのに勝つどころかたったの一撃でやられちゃって。外見と中身はクズになっても力だけはあると信じてたのに、あのザマったらないわ。あんたに期待した私がバカだった」

「しゅいません……」


 俺もそうなると思ったんだけど、相場通りにはいかね~もんだな!


「どうしたのよアレン、子供相手に一撃で負けるなんてあんたらしくないわよ。手加減した訳じゃないわよね?」


 確かに手加減しようと考えはしたが、本音を言うと手加減する間もなくぶっ飛ばされちまった。疑わしい目を送ってくるクリスに、俺はヘラヘラと笑いながら言い訳を並べる。


「いや~剣筋は見えてたし反応はできたんだが、如何せん身体が全くついてこなくてな。人間って怠けると全然動けなくなるんだな。はっはっは」

「はっはっは、じゃないわよ。働きも鍛えもせずに酒飲んで寝てばっかりだからでしょ~が。こんなぷよぷよなお腹になっちゃっても~ダラしないんだから」

「摘まむな摘まむな」


 ぷよぷよの下っ腹を摘まんだり揉んだりしてくるクリス。自分では余り気にしなかったが、人に触られるとなんか恥ずかしいな。


 別にデブって訳じゃない。

 立ってる時には服で隠れて目立たないし、座ると少しポッコリするだけ。酒による典型的な中年太りってやつだな。


 いつまでもモミモミしてくるクリスの手を払い除けながら、俺はステラについて話した。


「つ~かよ、あのステラっつうガキ強くねぇか? 俺が衰えたのは勿論だけどよ、あのガキめっちゃ速ぇし細い身体の割りに膂力も凄かったぞ。大人の俺を吹っ飛ばすぐらいだしな」


「それはステラが第二世代(セカンド)だからよ」

「セカンド? 何だそりゃ」


 聞いたことが無い言葉に首を傾げていると、クリスが説明してくれる。


「私達が魔王を倒して世界が平和になってから、魔術師の新しい考え方が生まれたの。今までの魔術師や僧侶が魔術を使った戦い方は、ただ攻撃魔術をぶっ放したり、防御魔術で敵からの攻撃を防いだりしただけでしょ?」

「ああ、お前やあいつみたいにな」


 つうかそれが魔術師や僧侶の戦い方だ。それ以外にないだろ。


「だけど、魔力の扱い方が進歩したのよ。魔力によって身体能力を底上げしたり、さっきステラがやっていた魔鎧マギスみたいに魔力を薄く広げ身体に纏わせたり、魔力そのものを武器にしたりと、魔力の扱い方が大きく進歩したわ。魔術っていうより、最早“異能力”って感じだわ」

「異能力ね~、魔力ってそんな事できるのか。便利なんだな」

「そう、便利なのよ。だから若い世代の魔術師は、魔力の使い道の幅が広がったことで剣士や戦士としてだって戦えるようになった。そういう若い世代の魔術師を第二世代セカンドって呼ぶようになったし、今の魔術師はセカンドが主流になっている。このオルトラール魔術学校の生徒も殆どがセカンドだしね」

「へ~、十年足らずで凄ぇことになってんな」


 成程、そういう事だったのか。

 俺が魔力持ちじゃね~って告げると、生徒達全員が驚いていたしな。あれは戦う上で魔力を持っているのが当たり前だと認識しているから驚いていたんだ。


「魔力持ちってだけでも珍しいのに、この学校にいる生徒は全員才能があるセカンド。その中でもステラは、類まれな魔術センスと剣術を兼ね備えたハイブリッド。第二世代セカンドの象徴とも言っていいわね」

「ほ~、そりゃ強い訳だ。ステラだけじゃなくて、他の四人の【五人の魔女(クインテット)】も皆強ぇんだろ?」

「そうね、四人共凄く強いし、これからだってまだまだ伸びる才能がある。だからアレンに天狗になってる鼻をへし折って考えを改めさせたかったのに、何簡単に負けてんのよあんたわ~!」

「いひゃい」


 頬を引っ張られ説教してくるクリス。

 んな事言われてもしょうがないだろ。俺だって今時のガキんちょがあんなに強いとは予想だにしていなかったわ。

 あのレベルの五人を“今の俺”でどうにかするのは恐らく不可能だろう。


 早くも諦めムードになっていると、クリスが俺の背中をバシンと叩いて激励してくる。


「あんたしか居ないなんだから。本当に頼んだわよ、勇者様」

「元だって言ってんだろ。ん……?」

「どうしたの?」

「いや……」


 何か嫌な気配を感じたのだが、すぐに消えちまった。

 戦場ではよく感じ取っていた気配だ。だが今の俺はクズニートだし戦場から離れて十年も経っている。そんだけ経てば勘も鈍るし、単なる気のせいだろう。


「何でもねぇ」

「あっそ。次までに少しでも戦いの勘を思い出しなさい、期待してるわよ」

「へいへい」



 ◇◆◇



 ――アレンが感じ取った気配は当たっていた。



「ここに“例の物”が隠されているのか」

「ああ、ようやく見つけたぞ」


 オルトラール魔術学校の敷地内にある森の木の上に、二つの人影があった。その二人の頭部には角が生えているが、姿は人間に近く、かといって獣人でもない。


 人間でも獣人でもなければ何なのか。

 その二人の正体は、人類の宿敵である魔族の生き残りであった。


 銀色の短髪で生意気そうな顔の魔族がウルガ。

 黒い長髪の利発そうで大人びた顔立ちの魔族がクレベス。

 二人共、勇者一行によって討ち倒された魔王軍四天王【残虐】のアトゥロシティの配下であった。


 魔族の生き残りである二人が、どうしてこんな場所に居るのか。

 それは“あること”をする為に必要な探し物が、オルトラール魔術学校から反応を検知したからだった。

 木の上から学校の様子を窺うウルガは、仲間のクレベスに告げる。


「行こう。さっさと回収して魔王様を復活、そしてアトゥロシティ様も復活させるんだ。オレ達の手でな」

「待てウルガ、行くにはまだ早い。人間の気配が多すぎる」


「何だよクレベス、ビビッてんのか? 雑魚の人間共がいくらいようとオレ達の敵じゃないだろ」

「人間を侮るな。例え雑魚でも、集まれば大魚になり得る。アトゥロシティ様もそうやって勇者一行に討たれたのをもう忘れたか」

「わ、悪かったよ」


 人間は魔族よりも弱い。

 だが奴等は仲間を作り、力を合わせて戦ってくる。一人一人が雑魚でも集まった時には信じられない力を発揮するのが人間だ。


 そのことを主が討たれたことによって痛いほど経験したクレベスが注意すると、ウルガは大人しく謝った。


「じゃあどうする」

「日が暮れるまで待つ。ワタシ達の目的はあくまで例の物の回収だ。人間の気配が鎮まってから、気取られないように奪い去る。無意味な戦闘は控えろ」

「ちっ、戦うのも無しかよ、つまらねぇな。それに日が暮れるまで待つのも面倒だ」

「そうでもないさ、あれを見てみろ」


 退屈そうにするウルガに、クレベスは遠くを指し示す。

 そこには、“銀色の長髪”の人間が一人で剣術の鍛錬をしていた。クレベスはその人間を見ながら、邪悪な笑みを浮かべる。


「退屈凌ぎに、あの人間で遊んでやろう」

「いいじゃん、そういうのがやりたかったんだ」


【残虐】のアトゥロシティの配下であるクレベスとウルガもまた、主に似て性格が邪悪だ。そんな魔族の魔の手が、人間の少女に迫ろうとしていた。


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