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27話 任せたぜ

 



「前から思ってたんだけどよ、何で医務室があんのに治療してくれる先生が誰もいないんだよ」


「いたにはいたんだけど、辞めちゃったのよね。ほら、【五人の魔女(クインテット)】にセシルって生徒がいるでしょ? あの子の回復魔法を見て自信を無くしちゃったみたい」


「マジかよ……」


「マジよ。生徒達の怪我もセシルが治療してくれているわ。医務室ここはもう彼女の部屋ね」


「へ~」


 毎回医務室に行っても誰もいなかった理由がようやくわかったわ。

 まぁ自信をなくすのも分からなくもねーがな。セシルって奴、この学校全域を覆うほどの結界を展開していたぐらいだし、ありゃ回復魔法の技術も相当なもんだろ。


「じゃあ何でセシルは俺に回復魔法かけてくれないんだ? 身体が痛たくて泣きそうなんだけど」


 六魔将だとか言っていた若い魔族と四天王クルーエルとの戦いで身体はボロボロ。あの後すぐに気絶しちまったんだよな。今回ばかりはマジで死んだかと思っていたが、しぶとく生き残っていたみたいだ。


 それでも目が覚めたのは戦いから三日経った頃。ビックリしたぜ、目を覚ましたら全身包帯だらけだったんだからな。そんで身体は死ぬほど痛ぇし。


「治療はしてくれたみたいよ。外傷もないでしょ?」


「包帯でわかんねーよ」


「傷が深くてまだダメージが残ってるのよ。あれよ、歳を取ったから昔より回復するのも遅くなってるのね。」


「嫌なこと言うなよ……」


 十年前はこれと同じくらいの重傷を負っていても、シスコに回復してもらって一日寝たら全回復してたんだけどな~。三日寝てんのにまだ全身が痛いってよ、歳は取りたくねーな。


「ありがとね」


「なんだよ急に」


「アレンがいなかったら、生徒達がどうなっていたかわからなかった。やっぱり、ここぞという時は頼りになるわね」


「別に、俺は大したことしてねーよ。頑張ったのはガキ共だ」


「そうね……生徒達はよく頑張ったわ。本当は私も一緒に戦いたかったけど……」


「用事があって学校を離れてたんだからしょうがねーだろ」


「それでも……よ。魔族が大軍を引き連れて本格的に攻めてくるなんて考えもしなかった。私が甘かったわ」


 落ち込むクリスに「しょうがねーよ」と擁護する。

 だってよ、何の前触れもなく魔族の大軍がポンと目の前に現れたんだぜ? 多分転移系の魔法で移動してきたんだろうけど、あんなの予想できる訳ねーじゃねえか。

 俺は話題を変えようとクリスに尋ねる。


「そういや被害はどうなってんだ……誰か死んじまったか」


「教師が一人、生徒を庇って戦死したわ。他にも重傷者は沢山いたけど、セシルが治してくれてる」


「そうか……」


「千の魔族相手に犠牲者がたったの一人なのが奇跡よ。それにクルーエルも来てたんでしょ? よくアレン一人であいつを倒せたわね」


「まぁな……」


 死に物狂いで戦っていたから俺もどうやって勝てたかはっきり覚えてねぇ。でも多分、あいつは本気を出していなかった。十年前に使っていた武器も持ってきてなかったしな。【暴虐】と呼ばれていたあいつがガキ共に手を出さず、俺とだけ戦ったのも不思議だった。


 これは単なる予想に過ぎないが、あいつは死に場所を求めていたんだろう。

 ったく、自分だけ満足して逝きやがってよ。付き合わされるこっちの身にもなれよな。


第二世代セカンドの子供達は凄いわね」


「ああ、そうだな」


 それについては同感だ。

 初めての戦争にも関わらず犠牲者が少なかったのは、ガキ共が魔鎧マギスを使えたからだろう。それに加え、飛び抜けた実力を持ち合わせているステラとレオナの功績が大きい。


「この国の未来の為にも、生徒達をしっかりと成長させないとね。これからもよろしくね、アレン先生」


「痛あああっ!」


 バシッと背中を叩かれ、情けない悲鳴を上げる。


 はぁ……こんなに大変なら先生なんて懲り懲りだっての。


 借金踏み倒して逃げちまおうかな……。



 ◇◆◇



「ありがとうセシル。私がいない間、学校ここを守ってくれたようだな」


「いえ、私は大したことはしていません」


 ゼノビアが感謝を伝えるが、セシルは否定するように首を振った。

 本人は謙遜しているが、彼女の功績は大きい。学校全体に結界を覆ったことで魔族からの攻撃を防いだだけでなく、非戦闘員や怪我を負った生徒達の避難場所にもなっていた。襲われない場所があるというのは、精神的にも助かる部分があるだろう。


 それに加え、彼女は重傷者の生徒達を一人で治療していた。生徒の中に死人が出なかったのもセシルの類まれな治療技術あってこそである。

 豪奢な椅子に深く腰を落とすと、ゼノビアは深い息を吐いた。


「まさか魔族が学校を襲ってくるとはな」


「私も驚きました。勇者様がいなければどうなっていたか分かりません」


「ふっ、あの怠けた勇者がか?」


「はい。私は学校を守っていたので拝見していませんでしたが、勇者様は目覚しい活躍をしたとか」


「俄かに信じられんな」


 セシルの話を信じず馬鹿にした態度を取るゼノビア。彼女が信じられなと思うのもセシルは分かる。

 しかし、あれだけアレンを馬鹿にしていた生徒の皆が今では手のひらを返したように勇者を尊敬している。

 なにより、泣きそうな顔で治して欲しいとステラとレオナが頼み込んできたアレンの身体を見るに、壮絶な戦いを繰り広げたことが窺えた。


「勇者……か」


「どうかしました?」


「いや、何でもない。私がいれば勇者などいなくても魔族を殲滅してやったのに、と思っただけだ」


「それはそうですね」


 自信満々のゼノビアの口ぶりを肯定するセシル。

 お世辞でもなければ、誇張している訳でもない。宣言通り、ゼノビアならたった一人でも先の魔族を屠ることが可能だろう。

 それほどの力を有していることを、セシルだけは知っていた。


「気になったのですが、どうして魔族は学校を狙ったのかしら。勇者様は私達生徒の芽を摘むのが目的だと言っていましたが……」


「有り得なくはないが……どうだかな」


「どういう意味かしら?」


 意味深な台詞に引っかかったのか、セシルがそう問いかけるとゼノビアはこう答えた。



「これは私の推測に過ぎんが、あの校長……生徒わたしたちに何か隠しているぞ」



 ◇◆◇



「おい聞いたか!? アングが死んだってよ!」


「聞いたよ。全く、六魔将の恥さらしが」


「奴は六魔将の中でも最弱だ。本人は気付いていないようだがな」


「気付かずに死んだだけマシなんじゃな~い」


「……」


 遥か北の大地にある魔界。

 魔族しか生きられない過酷な土地に建てられている崩れかけた魔王城の一室で、五人の魔族が集結していた。

 彼等は六魔将と呼ばれ、四天王の代わりに新生魔王軍を束ねる若き猛者たちである。しかし、本来六人であったが【墳虐】のアングが死んだことで今は五人になってしまった。


「んで? アングを殺した奴等は誰なんだよ」


「オルトラール王国にある学校の生徒らしいよ」


「ふ~ん、あの国にも魔王様の欠片があったのか。ったくアングの野郎、人間なんかに負けて六魔将の名に泥を塗りやっがって」


「まぁまぁいいじゃないか。アングと一緒に目障りだったクルーエル様もいなくなったんだからさ」


「へぇ、ついにあのおっさんも死んだのか。そりゃ朗報だぜ」


 若い魔族にとって、四天王最後の生き残りであるクルーエルの存在は邪魔でしょうがながった。クルーエル本人は偉ぶることはなかったが、古参の魔族がクルーエルの名前を一々出してうざったかったのだ。

 クルーエルが死んだことで、古参の魔族達も少しは大人しくなるだろうとほくそ笑む。


「おい、どこに行くんだよテメエ」


「ボクはボクの好きなようにするよ。後のことは君達に任せるさ」


 これからのことを話し合っていたら、六魔将の一人が突如席を立つ。仲間が引き留めるが、席を立った魔族は踵を返して出て行ってしまった。



「君達はまだ適当な国を相手にしていればいいさ。ボクの狙いは勇者だからね♡」



 魔族は思い出す。

 アレンとクルーエルが繰り広げた死闘を。あの素晴らしき光景を。


「アア! やっぱり勇者は最高だ♡ 強き眼差し! 身体が震えるような剥き出しの闘志! 十年前と何も変わっちゃいない! あの頃のアナタをもう一度見ることができてボクは涙を流すほど嬉しかったよ!」


 恋する乙女のように頬を赤く染めながら、魔族は歓喜に身体を震わす。

 十年前の勇者アレンに脳を焼かれたのは、ステラとレオナといった子供や、クルーエルや古参の魔族だけではない。

 若い魔族の中にも、勇者アレンの鬼気迫る姿に脳を焼かれた者が少なからずいるのだ。


「もっと見たい♡ 勇者様とヤってみたい♡ でもまだだよね、まだ早いよね。楽しみはとっておかないと♡」


 そして彼、いや彼女かもしれない六魔将が一角【嗜虐】のサディストも、十年前に勇者アレンに脳を焼かれた一人だった。


「さ~て、今度は誰と戦わせようかな♡ ねぇ、ボクの勇者様?」



 ◇◆◇



「はっくしょい! 何だ、誰か俺の噂でもしてんのか?」


 ぶるりと背筋に悪寒が走ったが、この感じは風邪じゃなくて誰かに噂されてんな。ただ、俺を噂している奴は身に覚えがあり過ぎて誰だかはわからん。


「ほら先生、リンゴ剥いたから食べて」


「そんなもんじゃ栄養になんねーだろ。こういう時は肉を食うんだよ肉をよ。センコーもそう思うだろ?」


「何言ってんのよ。体力戻ってないのにそんな消化に悪い物ダメなんだから」


「ああん? 肉食えば体力なんか戻るんだよ」


「それはアナタの場合でしょ」


「何でもいいから静かにしてくれ」


 ステラとレオナが勝手に俺の部屋に入ってくることにはもう慣れたが、目の前でニャーニャーと喚かないでくれるかな。こちとら重傷人なんだからさ。

 介護してくれるのは助かるけど、こんなんじゃ気が休まらないって。


「先生はリンゴが食べたいわよね? はいあ~ん」


「肉だよな!? 口開けろ口」


「ほが!?」


 二人に無理矢理詰め込まれ、口の中がリンゴと肉で溢れ返る。

 あれ? 思ってたよりイケるな。サッパリとしたこの味……悪くない。


「早く元気になってよ先生。教えてもらいたいことが沢山あるんだから」


「そーだぞ!」


(先生……か)


 クリスに頼まれた時は、何で俺がガキ共の面倒なんか見てやんなきゃなんねーんだと思っていた。

 どいつもこいつも生意気だし、言う事なんか全然聞きやしねーし、この二人のように手に負えねぇ問題児はいるしで、やってられっかってな。


 でも、こいつら見てるとなんだか放っておけねーっつうか、俺の意志に反して身体が動いちまってんだよな。

 ユーリを筆頭に、頑張る男子生徒や成長していってるこの二人を間近で見ていると、先生ってのも悪くねぇって柄にもなく思っちまった。


「ステラ、レオナ。強くなれよ」


「何よ急に。そんなの当たり前じゃない」


「オレは最強を目指してるからな」


「そうかい、そいつは頼もしいね」


 勇者の役目を終えた俺は剣を置いた。

 だからこれからのことは、お前達若い世代に託す。


 任せたぜ、二人共。


ご愛読ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
残り3人娘も攻略していくのかと思ったんですが、ここで終わりなんですね。怪しい魔族も出てきたので、物足りなさも感じますが、おおむね満足な読後でした。
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