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23話 開戦

23 開戦



「いいかお前等、五人一組だ! 必ず五人一組で戦え! 何があろうとこの陣形を崩すな!」


「「はい!」」


「教師は生徒達のカバーだ! 状況を見てヤバいと思ったところを助けてくれ! 非戦闘員は学校の中に避難だ!」


「「はい!」」


アレンの指示に従う学校の者達。元勇者から勇気をもらった彼等は、魔族と戦う準備をしていた。大講堂から学校の外に出て、生徒達それぞれが陣形を組んでいる。

周囲が慌ただしくなっている中、アレンはステラに頼んで【五人の魔女クインテット】を呼び出してもらった。

集まった四人の少女を見て、アレンは首を傾げる。


「あれ、一人足りねーな」


「ゼノビアは所要で学校を外しています」


「そうか。そりゃ仕方ねーな」


アレンの問いに答えたのはセシルだった。

クインテットの一人がいないと知って内心で舌を打つアレン。学校長のクリスも別件でいない中、最高戦力の一人であるクインテットの一人がいないのは正直痛い。


だがまぁ、いないならいないで仕方ない。

ここにいる彼女達に託すしかない。


「お前達は五人一組に混ざらず、単独で動いていい。その方が身動きが取りやすくていいだろ。好きなだけ暴れ回っていいが、状況を見て動いてくれ」


「わかったわ」


「ハッ! 最初からそのつもりだっての!」


クインテットは一人一人が百人力の戦力を有している。ならば彼女達を一纏めにしておくのは勿体なく、各自の判断に任せた方がいいとアレンは考えた。それに、彼女達も動きを制限されるより自由に動き回れた方がいいだろう。

アレンにそう言われてステラとレオナがやる気を漲せる中、セシルは淡々と断った。


「申し訳ございませんが、私は戦いに参加できません」


「ああ? なんで戦えねーんだよ」


「私はゼノビアから学校を任されています。彼女が帰ってくるまで、学校を守らねばなりません。【聖法結界サンクチュアリ】」


セシルが魔術を扱うと、学校全体が聖なる結界に覆われる。

結界を見たアレンはマジかよ……と驚愕していた。魔を退ける結界を、学校全体を覆うほどの規模で展開できるなんて半端ない魔力量と魔術制度がなくては不可能だろう。

それこそ、かつての仲間であったシスコにしか成し得ない芸当だ。


「御覧の通り、私は学校を守るために結界を維持しなくてはならないのでこの場を動けません」


「ああ、構わねーぜ。つーか逆に助かる。凄ぇなお前」


「いえ、私なんか師匠に比べたらまだまだ未熟です」


素直に褒めるも、セシルは全く嬉しそうそうにしなかった。それどころか、微妙にアレンのことを睨んでいるような気さえする。

えっ、俺なんか悪いことした? と思い出していると、残っているクインテットのパティが踵を返した。


「おいクソガキ、どこ行くんだよ」


「慣れ合うつもりはないの。パティも好きにやるの」


「けっ、そうかよ」


レオナが呼び止めたが、パティは振り返ることなく去ってしまった。

元々クインテットには単独で動いてもらうつもりだったし、好きにしても構わないだろう。


「ステラ、レオナ。お前達にちょっとした頼みがあるんだが」


「「……お願い?」」


突然そう言ってくるアレンに、二人は不思議そうに顔を見合わせた。



◇◆◇



「アング様、出陣の準備が整いました」


「やっとか、待ちくたびれたぞ」


配下からの報告に、【墳虐】のアングは大きく鼻を鳴らした。

オルトラール魔術学校から二キロ離れた草原地帯に、魔王軍総勢千人が集まっていた。この規模の軍勢をどうやって人間に知られずに集められたかといえば、アングと同じ【六魔将】の能力に力を借りたからだった。


「軍の士気はどうだ」


「はい、皆ようやく戦えると滾らせておりますよ」


「だろうな。戦いこそが魔族の本懐であり、オレ達はやっとそれを味わえる」


新生魔王軍は大将のアングを筆頭に、血の気が多い若い魔族で構成されている。ゴブリンやトロールといった魔物から、数は少ないが元獣人や元人間といった兵士も全てが若い。

因みに魔族とは、“魔”に魂を売って“魔”の眷属になった者達の総称である。なので魔族は魔物だけではなく、アングのような元獣人や元人間だった者も多い。逆に言えば、魔族に属さない良い魔物だっているのだ。


アングは戦いたくてうずうずしている兵士達に向け、大声で演説を開始する。


「聞けえ! 同胞達よ! 十年前、我等魔族は勇者率いる人間に敗北した。しかし、十年かけて魔王軍は復活を遂げ、今日ようやく人間共と戦える! だがこれは決してリターンマッチなどではない。何故なら人間に負けたのは我等ではなく、十年前に戦った情けないザコ共だからだ!」


「そうだそうだ!」


「ロートル共に教えてやろうじゃないか、お前達が負けたのは弱かったからだと! そして人間に再び思い出させてやるのだ! 魔族の力と恐怖を!」


「ひゃっはぁ! 全員ぶっ殺してやる!」


「大将、早く戦わせてくれ!」


「いいだろう、好きなだけ暴れてこい」


軍の士気が最高丁にまで達したところで、アングは兵士達に命令する。


「人間共を蹂躙しろ」


「「オオオオオオオオオオオオッ!!!」」


千の魔族が天を劈くような雄叫びを上げ、一斉に学校へと駆け出す。そのおぞましい光景を遠くで見ていた百人近くの学生達は恐怖で顔を青ざめさせているが、先頭にいるこの二人だけはなんの微塵も臆する様子がなかった。


「おいステラ、ビビッてねぇだろうな」


「誰がビビるもんですか。レオナこそ大丈夫? 身体が震えてるじゃない」


「おいおいわかんねぇのか、これは武者震いってやつだよ」


千の軍勢を前にしても、ステラとレオナは落ち着いていた。いや、落ち着いているどころか魔族を見て闘争心が湧き上がってきている。

心臓に毛でも生えているんじゃないかと他の生徒達に思われている二人は、魔鎧マギスを纏い、身体能力を強化する。ステラは鞘から剣を抜き放ち、レオナは腰を低く構える。


「いくわよ」


「一丁カマしてやるか!」



そして二人は、激しく地を鳴らして向かってくる魔族目掛け一陣の風の如き速さで突撃した。



「おい! すげー速さで人間が二人こっちに向かってくるぞ!」


「ゲヘヘ、バカが! 最初の生贄にしてやるよ!」


「残念だったなァ、最初の生贄になんのはテメーだよ!」


「ふぇ? ギャアアアアッ!!」


拳一閃。

瞬く間に距離を詰めていたレオナが拳打を放つと、ゴブリンの頭部がパンッと乾いた音を鳴らしながら吹っ飛んだ。


「はぁぁ!!」


「ウワアアアッ!?」


剣一閃。

ステラが斬撃を放ち、オークの首を刎ね飛ばす。


「疾風斬!」


「ウルファング!」


「「ギャアアアアッ!!」」


「な、なんだこいつら!? めちゃくちゃ強ぇぞ!」


魔力を込めた技を放ち、周囲の敵を一掃する。

魔族相手に一歩引くどころか大暴れする二人に、敵だけではなくアレンや生徒達も驚愕していた。


「とんでもねぇな……あの二人」


「というか、【五人の魔女クインテット】だけで勝てそうじゃない?」


(うん、俺もそう思う。やっぱあいつら半端ねぇわ)


女子生徒の呟きを聞いていたアレンが胸中で頷く。

十分理解していた。魔鎧マギスを主軸とした第二世代セカンドの申し子である【五人の魔女クインテット】のステラとレオナがとんでもなく強いことは。


それでも少し心配はあったが、たった二人だけで魔族を蹴散らしているところを改めて目にすると心配は杞憂だったようだ。彼女達はつい先日魔族の搦め手にしてやられたが、それは実戦の経験値が足りなかっただけ。本来の力量でいえば圧倒していてもおかしくなかった。

あんな下っ端のザコ魔族なら、どれほどいようが相手にならない。


「最高のスタートだぜ、二人共。お前達のお蔭で、ガキ共の顔色も良くなった」


開戦する前、アレンはステラとレオナに頼み事をしていた。

頼み事の内容は、二人に先陣を切ってもらいたいということ。初めての実戦で緊張し、さらに恐怖で身体が固まっている生徒達をいきなり戦わせても死ぬ確率が高いため、二人が先に暴れ回って希望を抱かせたいと考えたのだ。


「頼んだぞ、お前等」


「任せて」


「余裕だぜ」


アレンが頼むと、二人は自信に満ちた顔で了承してくれた。

そしてアレンが考えた通り、二人が魔族を蹂躙していく光景を見て生徒達の緊張も解れる。行くならここしかないと判断したアレンは、生徒達に大声を放った。


「あの二人を見ただろ! 魔族なんか恐くねぇんだ! お前等が力を合わせれば余裕で勝てる! さぁガキ共、ぶっ飛ばしてこい!」


「「おおおおおおおおおおおお!!」」


アレンが号令を下すと、待機していた生徒達も一斉に魔族へと駆け出す。いくらステラとレオナがとんでもなく強いとはいえ、二人で千人の敵を倒すのは不可能。魔族に勝つには生徒全員の力が必要だった。


「さ~て、敵さんはどう出てくるかな」


生徒達と魔族の戦いを後方で眺めながら、アレンはいつでも助太刀に入れるように戦況を見守っていた。









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