19話 訓練
「いいか、お前達はその才能を認められ、国中から集められた原石だ。そんな原石が魔法学校で日々教育を受け、才能を磨かれているんだから優秀な魔法使いであることは間違いねぇ。そこはもっと自信を持っていいと思うぜ」
「「はい!」」
訓練場に集まっている生徒達にそう言えば、彼等は嬉しそうに返事をする。
自信がなさそうにしている男子共は勿論、いつも偉そうにしている生意気な女子共も褒められるのは満更でもねぇって感じだ。はっ、ガキを煽てるのは簡単だな。
「そんなお前達に、魔法のマの字も知らねぇ俺が魔法について教えられることは何一つねぇ。だから俺がお前達にしてやれる授業は、 “魔族との戦いで手に入れた経験をもとにした戦い”を教えてやることにした」
「「おおおおお!」」
「戦いだって!」
「これこれ、こういうのを求めてたのよね!」
「汚いおっさんになったとは言っても、あの勇者から直々に教えてもらえるなら光栄だわ!」
「学校の先生達は魔族との実戦を経験したことがないもんね」
戦い方を教えるというと、生徒達は分かりやすく騒ぎ出す。
勇者から教えてもらえるのが相当嬉しいようだ。今までのような生温い授業ではなく、より実戦的なことを教えてくれると思ってんだろう。
へっへっへ。ところがどっこい、そう甘くはねぇんだなぁこれが。
今からひーこら言わせてやるぜ、覚悟しておけよ。
「よし、そんじゃ早速始めるとするか。確認だが、お前達全員魔鎧は使えるんだよな?」
「勿論です。第二世代にとって魔鎧が出来るのは当たり前ですから」
「ほ~ん、流石だな。んじゃあ全員、魔鎧を使ってくれ」
生徒達にそう頼むと、生徒達は己の身体に魔力を纏う。
魔鎧の発動中は膂力や瞬発力などの全身体能力を強化すると同時に、敵からの攻撃から身を防ぐ鉄壁の鎧でもある。攻守共に優れた万能な魔法だ。
いや、魔法というより魔力を扱う技法の方が近いかもしれない。
魔鎧が十年前から存在していたら、どれだけの人が死なずに済んだだろうと思うぜ。
しかし、万能が故に使用する魔力量が多いというデメリットもあるそうだ。
ここにいる生徒達は全員魔力量が多いからなんなく使えるが、旧世代の魔術師じゃ使えてもすぐに魔力切れを起こしちまうだろうな。それでも使い方次第で戦いでは有利になったはずだ。
さて、魔鎧の説明はこれでいいとして、一丁やるとしますか。
ここから何をするんだろう? とワクワクしている生徒達に、俺は満面の笑顔を浮かべてこう言った。
「んじゃ、俺がいいと言うまで訓練場の周りを走り続けろ。あと走ってる最中も魔鎧を解くんじゃねぇぞ」
「「……へ?」」
「訓練場の周りを走る……だけ?」
いきなり走れと言われて困惑する生徒達。
生徒の一人が手を上げて「先生、戦い方を教えてくれるんじゃないんですか?」と聞いてくるから、「そうだよ」と言い続けて、
「だから走れって言ってんの」
「っ!? 走るだけって……」
「実戦的な戦い方を教えてくれるんじゃないんだ」
「な~んだ、期待して損した」
「嫌なら別にいいんだぜ。強制はしねぇし、自習でもしておいてくれや」
「「……」」
一気にやる気をなくした女子生徒達にそう言えば、彼女達はぞろぞろと訓練場から去って行ってしまう。
マジか……自分で言っておいてなんだがマジで言われた通り帰るとは思わなかったぜ。これが第二世代ってことかよ。
「んで、この場に残ったってことはお前等はやるんだな」
「「はい!」」
幸いだったのは、女子は全員帰ったが男子は全員残ったことだ。
ほう、中々良い目をしてるじゃねぇの。そうだよな、お前達は強くなるのになりふり構ってられないよな。いつまでも形見が狭く、女子達に馬鹿にされんのは嫌だよな。
まぁ、馬鹿にされる元凶となったステラとレオナも一緒に残ってるが。
「よし、じゃあ走れ! いいか、絶対魔鎧を解くんじゃねぇぞ!」
「「はい!」」
「ステラとレオナは特別メニューだ。そこにある重りを両手足につけて走れ。身体に負荷をかけるのが目的だ」
「ええ」
「おうよ」
男子共は揃って走り出し、ステラとレオナも重りをつけてから走り出す。
あの二人は流石だな。重りをつけて遅れてスタートしたのに、もう男子共を抜かしてやがる。とはいえ男子もそこそこやるじゃねぇか。
魔術師は頭脳派で運動能力は乏しいが、前衛でも戦える第二世代なだけあって並みの戦士と同じくらい体力があるようだ。
(だがそれも、通常ならな)
魔鎧を使っている今はもっと疲れやすくなっている。
あいつらは今、体力だけではなく魔力も消費されているし、魔鎧という魔法を使用し続けながら走っているため、その分の集中力の消費もただ走るだけより激しい。
体力・魔力・集中力を同時に使っているから普通に走っているよりバテるのも早いはずだ。
「「はぁ……はぁ……」」
「十五分ってところか」
一斉に走り出してから十五分、足が止まり膝を着く生徒が出始めた。
十五分か……これじゃ全然足りねぇな。もっと粘れるようになれねぇと。最低でも倍の三十分は欲しいところだ。
俺はバテている男子生徒に近付き、尻を蹴り上げる。
「おい、何休んでんだよ。俺がいいって言うまで走り続けろって言ったよなぁ?」
「はぁ……はぁ……でも先生、もう足が……」
「言い訳すんじゃねぇ! ぶっ倒れるまで走るんだよ!」
「は、はいぃぃ!!」
もう一度ケツを蹴り上げ、弱音を吐く男子を再び走らせる。
他の奴等にも同じことをしていると、ステラとレオナ以外の男子は全員その場にぶっ倒れた。
「もう、もう無理! 一歩も動けない!」
「つ、疲れたぁ……」
「よ~し、じゃあボチボチ本番始めっぞ。今から一人ずつ俺と模擬戦をしてもらう」
「「えっ!?」」
俺の話に耳を疑うように驚愕した男子。そんな彼等は戸惑いながら尋ねてくる。
「今から先生と模擬戦って……そんなの冗談ですよね?」
「冗談じゃねぇよ」
「そ、そんな! そんなの無理ですよ! 魔力だって残ってないし、戦うというより立つことさえでき――ごふ!?」
言い訳を述べてくる男子の腹を無慈悲に蹴り飛ばす。
さらに、蹴られて泣きべそをかきながら俺を見上げてくる男子にこう告げる。
「泣きごと言ってんじゃねぇぞテメエ。無理じゃねぇんだよ死ぬ気でやるんだよ」
「……」
「今、お前の目の前に魔族がいてもそんなことが言えるか? 自分や仲間が殺されそうになってもビービーと泣き言を言うのかテメエはよ。助けてくれって言っても魔族は助けてくれねぇんだぞ。だったら死ぬ気で戦うしかねぇじゃねぇか。違うか? 俺の言っていることは間違っているか?」
「ち、違いません」
「だったら戦え。ほんの僅かでも残っている体力と魔力を振り絞れ。絞れないならそのまま戦え。根性見せろや」
「う、うわぁぁああああああ!!」
「やりゃあできるじゃねぇか。でも遅ぇ」
「ぐへっ!」
突っ込んできた男子の腹を木剣の先で小突く。すると男子は気絶するように倒れた。
その様子を黙ってみていた他の男子を見渡しながら、ガンッと木剣を地面に叩きつける。
「何黙って見てんだ。テメエらもさっさと来やがれ」
「「は、はい!」」
「テメエら何しに学校に来た!? 女子に馬鹿にされて、形見が狭くて悔しくねぇのかよ」
「「悔しいです!」」
「なら強くなって見返すしかねぇだろ。でも強さってのは簡単に手に入るもんじゃねぇぞ。血反吐吐いて限界超えて、死ぬ気で努力してやっと強くなるんだよ。もう立てませんなんて言ってちゃ強くなれねぇぞ、根性見せろ根性!!」
「「はい、先生!」」
男子一人一人を順番に打ちのめしていく。
だが彼等も、ぶっ倒れてからまた俺に立ち向かってくる。
そうだ、それでいい。
戦うことで重要なのは、諦めず立ち向かっていく“強い意思”だ。
「あのセンコー、いつからあんな熱血教師になったんだ?」
「さぁ。でもいいじゃない、昨日までの先生より今の方がずっとかっこいいわよ」
「はっ、それは同感だな」
「おらおらもう終わりか!? 死ぬ気でやれよ死ぬ気で!」




