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18話 婿候補

 



「この度は息子と娘の命を救ってもらい誠に感謝する」


「俺からもお礼を言わせてください。勇者様がいなかったら今頃どうなっていたか……」


「気にすんな。別に大したことしてね~よ」


 獣王ライオスとその息子シドからの謝罪を、耳垢を吹き飛ばしながら適当に答える。

 あれから一日経ってシドは目覚めたが、魔族に身体を奪われていた間の記憶はないそうだ。いつ身体を奪われたのかも身に覚えがないらしい。国からずっと同行していたライオスも全く気付かなかったそうだ。


 中身が他人に成り変わっているのに親であるライオスさえ気づかなかったとなると、あの魔族の擬態能力はかなり優秀なんだろうな。

 その分、その魔法に抗っていたレオナの魔法耐性と精神力がずば抜けて高いことが分かるが。


「一つ気になっているのですが、あの魔族はオヤジではなく何故俺や妹の身体を奪ったのでしょう?」


「それは恐らく――」


 シドの疑問にクリスが推測を話す。

 魔族はシドに成りすましこの学校に保管されている“魔王の欠片”を探して奪おうとしたのではないか、てな。レオナに乗り換えたのは、生徒の方が学校内で長時間自由に動き回れるからだと。

 それを聞いたライオスは驚きながら「ふむ」と納得したように頷き、


「そうか……今は王国ではなく学校に“魔王の欠片”があったのか。それなら魔族が狙ってくるも頷ける」


「アナタは平和な時代がやってきたって言っていたけど、実際の所は全然終わってないのよ。確かに戦争からこの十年は平和だったけど、近頃魔族が活発に動き出しているわ。今回のようにね」


「そうだったのか……獣王国キングダムには“魔王の欠片”がないので魔族の動向に気付けなかった。奴等もこの十年で傷を癒し、体制を整えていたということか。うむ、今後はこちらも警戒するとしよう」


「そうしてもらえると助かるわ」


 話しの流れが一度止まると、ライオスは身体を深く椅子に預け大きなため息を吐いた。


「それにしても、折角魔族との戦争に勝利したというのにまた戦争を繰り返すことになるのか」


「仕方ないわよ……魔族が手を取り合わない限り、争いは永久になくならないわ」


「魔族と手を取り合う……か。それは永久にないだろうな」


「争いがなくならねぇのは魔族だけの話じゃねぇけどな」


「「……」」


 横から茶々を入れると、クリスもライオスも深刻な顔で黙り込んじまう。おいおい、適当に言っただけなんだから真面目に受け取るなよな。俺が悪いみたいじゃねぇか。


「今回のことも含めて、この国の国王とは今後について話さなければならんようだな」


「ええ、お願いするわ」


「うむ。では我々はこれで失礼する。短い間だったが世話になったな」


「あら、もう行っちゃうの? もう少しゆっくりしていけばいいのに」


「そうしたいのは山々だが、魔族の話を聞いたからにはゆっくりとしていられん。二人共、また会おう」


「行くのはいいけど不良娘はどうすんだよ。連れて帰らないのか?」


 そう言って椅子から立ち上がる獣王に、あれ? と問いかける。

 元々の目的はレオナを国に連れ帰るためだったろうに、やけにあっさり引き下がるなと思っていると、獣王はニヤリと牙を見せるように笑って、


「その話はもう済んだ。どうやらレオナは婿候補を見つけたようだからな」


「へっ? そうなの?」


「うむ。それではな、“婿殿”」


 最後に満面な笑みでそう挨拶すると、ライオスはシドを連れて校長室を去って行った。


「なぁ、あれどういう意味?」


「さぁ、私は知らないわよ」


 ライオスが放った言葉の意味がわからずクリスに尋ねるが、ぶっきらぼうに返されてしまう。


 なんだろう、嫌な予感がするな。



 ◇◆◇



「うぅ……暑い……」


 なんかやけに暑いな。暑いというか暑苦しくて寝苦しい。

 何かに身体を抱きしめられているような気がする。その上、妙な感触が二つあるんだ。両手には柔らかくモッチリとした感覚があって、両足にはふわふわでモフモフな感触が纏わりついている。


 どちらも悪くないというかどちらかというと男としてそそられる感触なんだが、如何せん暑苦しい。

「うぅ……」と唸り声を呟きながら瞼を開けると、目と鼻の先にレオナの寝顔があった。


「ぐ~が~」


「なんだ夢か」


 これは現実じゃないとすぐに察したね。

 だって考えてもみろよ。あれだけクズ勇者と俺を毛嫌いしていたレオナが、俺の部屋の寝床の隣でぐ~すかといびきをかいて寝ている訳がない。

 しかも一糸まとわぬすっぽんぽんの裸で、だ。ありえねぇ、こんなの夢に決まってんだろ。


 ……。


 ……でも、夢にしてはやけに感触がリアルなんだよなぁ。

 おっぱいも柔らかいし。ってかこいつ意外とデカいな、制服の上からだと全然わからんかったわ。


「っておいぃぃ! マジで寝てんじゃねぇかよ! 何やってんだよお前、生徒が先生に夜這いするってどういうことだよ!?」


 一気に頭が覚醒し、気持ち良さそうに寝ているレオナに突っ込む。

 何考えてんの!? 何でお前俺の隣で寝てんの? つ~かどうやって部屋に忍び込んだんだよ先生恐いよ。


 やばいって、これはやばいって。


「もしこんな光景誰かに見られでもしたら……」


「失礼しますってどうせ寝てるわよね。今日の朝ごはんは軽いものにしよ……えっ?」


「……」


 部屋に入ってきた……というよりいつもの如く無断で侵入してきたステラとバッチリ目が合っちまった。

 数秒の沈黙の後、ステラは俺と隣で寝ている全裸のレオナを交互に見て驚愕し、次第に顔が真っ赤に染まる。


 お……終わった。

 いや、まだ諦めるには早い。とりあえず誤解を解かねば。


「待てステラ、これは誤解だ」


「ハ、ハ、ハレンチ! アナタ生徒を連れ込んでナニしてんのよ!?」


「ナニもしてないよ!」


「何が誤解なのよ! レオナが裸なのが動かぬ証拠でしょ! ヤリ〇ンとは聞いてだけど、教師が生徒に手を出すなんて信じられない! 見損なったわ!」


「だから誤解なんだって!」


「ふぁ~あ。うるせ~な~、朝っぱらから耳元で喚くんじゃねぇよ」


 俺達の大声で目を覚ましたのだろう。

 犬のように口を大きく開けて欠伸をし、背筋を伸ばして両腕を伸ばす。その行為でおっぱいが前に出て強調されているが本人は全く気にもしねぇ。


 違う違う、おっぱいに気を取られているところじゃなかった。

 俺は慌ててレオナにこの状況になった経緯を尋ねる。


「お前こんなところで何やってんだ」


「あん? テメエはオレの婿になるんだから、一緒に寝るのは当たり前だろうが」


「「婿ぉぉ!?」」


 俺とステラの絶叫がハモる。

 俺が婿ってなんだよ、何で勝手に婿にされてんだよ。


「婿って……アナタ自分より強い男じゃないと婿にしないって言ってたじゃない」


「昨日、あれ一昨日か? オレはこいつに負けちまったからな。だからこいつはオレの番いになる権利があるんだよ」


「いやいやいや、負けてねぇだろ。負けたのはお前の身体を乗っ取っていた魔族であってお前自身じゃねぇだろ」


「乗っ取られようがオレの身体で負けちまったんだ。言い訳するつもりはねぇぜ」


 いやいや、そこは存分に言い訳してくれよ。

 よくわかんねぇ所で漢気出さないでくれよ。


「因みに何で裸なんだ?」


「オレは寝る時はいつも何も着ねぇんだよ、ウザってぇからな」


「あっそうですか」


 全裸で寝るの気持ち良いしね。特に獣人族は寝る時だけでも全裸がいいって奴結構いるし。

 人間でいう裸族とは違って獣人の習性のようなもんなんだろう。こっちは目に毒だが。いや、目の保養か?


「つ~かよ、そういうステラは何でここにいるんだよ」


「そ、それは……」


 いきなり問われたステラが答えれずもじもじしていると、勘付いたレオナは俺の肩に腕を組んでニヤリと悪戯な笑みを浮かべながら話す。


「はは~ん、まさかお前もこいつのこと狙ってんのか。それともお前等既にデキてんのか?」


「そ、そんなんじゃないわよ! 私はただこの人が不健康でだらしないから朝食を作りに来てるだけ!」


 朝食だけじゃなくて夕食もほぼ毎日作りに来てるけどな。その上部屋の掃除までしてくれるしよ。

 家政婦のようなことを無理にやらせているみたいで悪いし居たたまれないからやらなくてもいいと断ってはいるんだが、全然やめる気配ないんだよね。

 まぁ俺としては何もせず飯は出るし部屋が片付くから凄く助かってるんだけど。


「じゃあ問題ねぇよな、オレがセンコーと子作りしてもよ」


「そ、そんなのダメに決まってるじゃない! 先生と生徒がハレンチなことするなんて絶対に許さないわ」


「許さなくて結構。オレはオレがしたいようにするだけだからな。それともステラも一緒に子作りやるか? オレは別にいいんだぜ、強ぇ雄に複数の雄が群がるのは当たり前のことだからな」


「だ、誰がするもんですか!」


 朝っぱらかギャーギャーと人の前で喚くステラとレオナ。

 話しを聞いていて思ったのは、俺の意思ってないの? 拒否権なさそうなんだけど。


 別にいいんだけどさ。

 俺から言うのは犯罪というか気持ち悪いがレオナ本人がしたいってんなら是非ヤってやろうじゃないか。


 けど一つだけ問題がある。

 俺が生徒に手を出したとなるとクリスに殺されるんだよなぁ。


「こら、いい加減離れなさい!」


「へっ、やってみろよ!」


 はぁ……考えるの面倒だな。

 こいつら放っておいて寝るか。


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