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17話 デレなくていいから




「ふ、ふはははは! 手に入れた、ついにレオナの身体を手に入れたぞ!」


 全てが上手くいったことに笑いが止まらなかった。

 ワタシの計画は、人間の学校に向かっている獣王ライオスとその息子であるシドに目をつけたことから始まった。


 初めは獣王の身体を乗っ取ろうとしたが、警戒心が強く隙がなかっため、仕方なくシドに狙いをつける。シドの身体を容易く乗っ取れたワタシは、シドに成りすまし学校に隠されてある物を探そうとした。


 だがすぐに考えが変わったのだ。

 シドの記憶を読み漁ると、妹のレオナが学校に入学している情報を入手した。部外者のシドよりも、学校の生徒であるレオナの方が探すのに適している。


 そう考えたワタシはレオナに狙いを定め、学校に到着すると獣王に適当なことを言ってからレオナを探した。

 すぐに見つけ、声をかける。兄のフリをして油断させておけば容易に乗っ取れると思ったが、兄と違って勘が良く見破られてしまった。


 しかし、言うことを聞かなければ兄を殺すと脅せば、馬鹿な妹は意外とあっさり言うことを聞いてしまう。この駆け引きは綱渡りでワタシの命も危うかったのだが、レオナが馬鹿で助かった。

 そしてワタシはようやくレオナという最高級の身体を手に入れられたのだ。


「ふはは……素晴らしい。力が漲ってくる、なんと素晴らしい身体なんだ!」


 レオナが途轍もなく強いということはシドの記憶で分かっていた。学校の生徒として潜入するのとは別に、ワタシはこのハイスペックな肉体をどうしても手に入れたかったのだ。


「ありがとうシド、お前はもう用済みだ」


 地面に倒れているシドを見下ろしながら呟く。抜け殻であるシドにもう用はない。

 ワタシの存在を知っているこいつが生きていると計画の邪魔になるので、ここで死んでもらうとしよう。


「くくく、妹の手で死なせてやろう」


(させっかよ!)


「なにっ!?」


 シドを殺そうと手を伸ばすが、身体が言うことをきかない。その上頭の中にレオナの声が響いてくる。

 何がどうなっている。まさか……まだレオナの意識があるとでもいうのか!?


(ああ、その通りだよ! テメエの好きにはさせねぇ!)


「馬鹿な……ワタシの【寄生する魔法(パラサイト)】に抗っているだと!?」


 あり得ん! ワタシのパラサイトは無敵だ!

 一度身体を乗っ取りさえすれば誰も抗えない。今までだってそうだ。この魔法から逃れられた者は一人だっていやしない。


 なのにまだ完全に意識を乗っ取れないだと。

 なんと凄まじい精神力なのだ。マズい……このまだと逆に身体を乗っ取り返されてしまう。なんとか抑え込まねば!


「はぁ……はぁ……クソ、中々しぶとい奴だな」


「お~こんなところにいたのか不良生徒。お前のオヤジが呼んでるぞ」


「ッ!?」


 ええい、こんな時に邪魔が入ってしまった。

 それにしてもなんだこのみすぼらしい人間は? レオナの知り合いなのか?

 いかん……記憶を漁って話を合わせないと怪しまれてしまう。


「おいクソ勇者! オレは今身体を魔族に乗っ取られてる! アニキを連れて早く逃げろ!」


「はぁ? いきなり何言ってんだお前?」


 しぶとい奴め! まだ抵抗するか!

 ちっ、レオナのせいであの男に状況を把握されてしまった。ワタシと倒れているシドを見て訝し気な顔をしているし、ここからの言い逃れは難しいだろう。


「ふ~ん、なるほどねぇ。よくわかんねぇが、マジで魔族に身体を乗っ取られてるようだな。ぶははっ! おいおい、お前あんだけ人にザコだなんだ威張っておいて負けてんのかよダッセェの!」


「ンだとこらぁ!! もういっぺん言ってみろクソ勇者! ぶっ殺してやる!」


「お~お~何度でも言ってやるよ。今のお前超ダサいぞ。ってか身体乗っ取られてるのにどうやって俺を殺すんだよ。やれるもんならやってみな」


「この野郎ッ!」


 こいつ、正気か?

 自分でも言うのもなんだが、味方の身体が敵に乗っ取られているのに腹を抱えて笑う奴がいるか? 人間って頭おかしいんじゃないか?


 いや待て。レオナは今この男をなんといったか。クソ勇者だと言わなかったか?

 まさか俺の目の前にいるみすぼらしい男があの勇者アレンだというのか? 


 信じられんが……レオナの記憶を漁ったところどうやら本物のようだ。しかも今の勇者は大戦時と比べてかなり衰えている。レオナの身体を操るワタシなら十分勝てるだろう。


「くっくっく、まさかあの勇者アレンと戦える日が来るとはな。丁度良い、この身体の性能を試すには持ってこいの人物だ」


「あん? これもしかして俺が戦う感じ?」


「殺してやるぞ勇者!」


「ぐへ!」


 レオナの身体を操り、衰えた勇者に襲撃する。

 見ろ、ワタシの攻撃に勇者は全く反応できていないぞ。やはりレオナの身体は素晴らしい。パワー、スピード、魔力、どれを取っても一級品だ。


「ふははは! どうした勇者、手も足も出ないか!」


「痛ってぇな。もうちょい手加減しろや」


「なんという素晴らしい日だ! このワタシが勇者を殺せるだなんて! 四天王……いや魔王様ですら殺せなかったあの勇者をワタシが殺すんだ!」


(どうしてだよ……)


「何で逃げねぇんだ! このままじゃ死んじまうぞ!」


 ちぃぃ! またレオナに身体の主導権を乗っ取られてしまった。後一歩で勇者を殴殺できたものを……この、邪魔するんじゃない!


「テメエ言ってだろうが! 負けそうになったら逃げてもいいってよ! 戦略的撤退だとか調子の良いこと言ってただろが! だったら何で逃げねぇんだ!!」


「ぺっ……おい不良生徒、先生の授業は最後まで聞くもんだぞ。俺は分が悪かったら逃げろとは言ったけどよ、こうも言ったはずだぜ。“大切な人を守る時は、例え死んでも逃げちゃいけねぇってよ”」


(っ!?)


 レオナの意識が弱まった。この隙に再び主導権を手に入れたワタシは、今度こそ勇者に引導を渡す。


「ふっ、腐っても勇者といったところか。なら望み通り、生徒の手で殺してやろう!」


「バ~カ、テメエじゃ無理だよ」


「何だと!?」


 ど、どうなっている!?

 さっきまでワタシの攻撃は全て勇者に当たっていたのに、今は全て防がれてしまっているぞ。


「バカな、この身体は最高級のものだぞ!? 何故こうも容易く防がれる!?」


「バカなお前に教えてやるよ。武器が最高級でもな、使ってる奴が三流だと宝の持ち腐れなんだよ。それにテメエの攻撃はワンパターンだし、タイミングを合わせれば余裕で捌けるっつうの。まぁ、ちょっと合わせるのに時間はかかったけどな」


「ワタシが三流だと!? 舐めるなぁ!」


「煽り耐性も三流で助かるぜ」


「ぐは!?」


 訳もわからず投げ飛ばされ、背後から両腕を差し込まれ首を絞められてしまう。抵抗しようにも勇者は背後にいるので攻撃が当てられない。

 く、苦しい……! やめろ、やめてくれ!


「は……な……せ……」


「イヤだね。ほらほら、このままだと死んじまうぞ? 身体が死んだら中身のお前も死ぬのかな?」


 恐らくはったりだろう。勇者にレオナを殺せるはずがない。

 だがこのままだと本当に死んでしまうかもしれないし、実際今まで味わったことがない苦しみを味わっている。


(ええい、仕方ない!)


 苦痛に耐えられなかったワタシは、やむを得ずレオナの身体を手放した。



 ◇◆◇



「かはっ……はぁ……はぁ……」


「大丈夫か」


「ああ……なんとかな」


 クソ魔族がオレの身体から出ていったことで自由になる。

 危なかったぜ……クソ勇者が来てくれなかったらオレは死んでいたかもしれねぇ。乗っ取られてから根性で魔族を殺そうと賭けに出たが、あのままじゃ成功していたかわかんねぇしな。


「一応礼は言っておくぜ。ありがとよ」


「デレなくていいからあいつぶっ殺してくれない?」


「で、デレてねぇっつうの!」


 この野郎、折角オレが礼を言ってやってんのにふざけやがって。

 わかってんよ。この黒い煙みたいのが魔族の本体なんだろ?


「こいつは魔力の集合体みたいなものだ。魔力を持ってねぇ俺じゃ倒せないから、後は頼んだぞ」


「おうよ」


 クソ勇者に頼まれたオレは、拳を打ちつけて気合を入れる。

 あの魔族だけは絶対に許さねぇ。ぶっ殺してやる!


「クソ……後もう一息のところだったのに! こうなったら再びシドの身体に乗り移って――」


「させっかよ!」


 アニキの身体に乗り移ろうとした魔族に追いついたオレは、右手に魔力を付与して思いっきり振るう。


「ウルファングッ!!」


「ギャアアア――……」


 オレの一撃を喰らった魔族は、耳障りな叫び声を上げながら消滅した。

 けっ、本体はてんでザコだったな。あんなザコに遅れを取っちまったのが我ながら恥ずかしいぜ。

 情けねぇ自分自身に腹が立っていると、それに追い打ちをかけるようにクソ勇者がこう言ってくる。


「少しは勉強になっただろ。肉体だけの強さだけが勝敗を分ける訳じゃねぇってことがよ。他人に寄生することしか戦えねぇあんなザコが相手でも状況次第では負けることだってあるんだ」


「ああ……反省してるぜ」


「……」


 ぶっきらぼうにそう言えば、クソ勇者は何故か驚いた顔を浮かべた。「ンだよ、文句あっか」と聞くと、奴は楽しそうに笑って、


「いや、もっと言い訳がましいこと言ってくると思っていたから、お前が素直に反省して驚いたんだよ」


「うるせぇ、負けは負けだ。言い訳する方がダセエんだよ」


「そうか。しっかり反省できるなら、お前はこれからももっと強くなれるぜ」


「……うっせぇ、先生センコーみたいなこと言ってんじゃねぇよ」


 ちっ、なんか調子狂うぜ。


「そういえばテメエ、どうして反撃してこなかったんだ」


「あん?」


「オレの身体から魔族を追い出すなら、オレをぶっ倒した方が早かったんじゃねぇのか?」


 クソ勇者は途中からオレの攻撃を見切っていた。

 なら近付いて首を絞めるよりも、ぶっ飛ばした方がリスクも少ねぇだろ。

 気になったことを聞くと、クソ勇者は踵を返しながらこう言ってきた。


「バ~カ、生徒を殴る先生がどこにいんだよ」


「ッ!?」


「俺は先に行ってっから、気絶してるアニキの身体おぶってこいよ。あ~身体痛ぇ」


 肩を回しながら去っていくクソ勇者の背中を見たオレは、四天王からオレを守り、勇敢に立ち向かっていったあの時の勇者の背中が重ねて見えた。



「へっ……なんだよ。変わってなかったんじゃねぇか」



 外見も性格も変わっちまったが、中身だけは勇者のままでいるあいつにオレは凄く嬉しかった。


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腐っても勇者なんですねぇ。
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