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12話 ちょっとタンマ

 



 ステラに指導を頼まれた俺は、彼女を連れて訓練場を訪れた。トントンと木剣で肩を叩きながら対面している彼女に攻撃を促す。


「ほれ、どっからでもかかってきなさい」


「いくわよ。はっ!」


 宣言と同時に踏み込んできては、鋭い袈裟切りを放ってくる。今回は身体能力を強化する魔鎧マギスを使ってねぇのかこの前の模擬戦より速度は出ていない。が、それでも尚剣速、身体速度はべらぼうに速かった。


 が、防ぎきれないかと言われるとそうでもない。

 その原因は恐らく、あれによるものだろう。それを教えるためにストップをかける。


「ちょっとタンマ」


「えっ」


 俺が手を止めてそう告げるとステラは疑問気に首を傾げる。それから驚いたように口を開いた。


「というか先生、やっぱり凄いじゃない。私があれだけ攻め立てたのに一本も取れなかったわ。ちょっと……うんうん、かなり悔しい」


「一本取れなかった理由わけを教える為に止めたんだよ。ステラの攻撃は滅茶苦茶速ぇ。じゃあ何で俺に一太刀も浴びせられなかったと思う?」


「それは……先生が強いからじゃないの?」


「違う。お前の攻撃が“素直でわかりやすいからだ”」


「――っ!?」


 答えを言うとステラははっとするように目を見開く。そんな彼女に俺はもう少し具体的に説明する。


「攻撃時の目線、足の運び方、剣の構え方。それらを見てみると攻撃する場所がなんとなく分かるんだよ。要は揺さぶりや陽動のような相手との駆け引きが何一つねぇんだ。剣を振るのがいくら速くたって、事前に攻撃が来る場所が分かればそれなりに対応はできる」


「私って、そんなにわかりやすい?」


「まぁな。フェイントとかも全然ないし結構わかりやすいぜ」


「そうだったの……」


 自分の攻撃がわかりやすいと教えられて落ち込んでしまう。

 こいつがそのことに気付けないのも無理はないだろう。そもそもスペックだけでも他者を圧倒できるんだから駆け引きなんてする必要がない。駆け引きってのは相手と同等か弱者である場合が多い。圧倒的な強者はわざわざ駆け引きなんてしなくても余裕に勝てるしな。


 ステラは強者側だ。駆け引きなんてする必要はない。

 まぁ、それも“今までは”の話だがな。


「この前魔族と戦ったろ」


「ええ」


「その時魔族が使った消える魔術に対し、お前は一度は見破ったと思ったよな」


「ええ。あの魔族の消える魔術は、攻撃する時は姿を消せないと思った。そこを狙ったんだけど……」


「実際は、攻撃する時も関係なく消えることができた」


 話しを被せるように言うと、ステラは「ええ……」と肩を落とし気味に頷いた。


「それが駆け引きだ。あの魔族は姿を消すっていう一つの魔術を二通りに工夫して使った。相手を油断させ、欺き、確実に殺す為にな。あの野郎がいたぶるのが趣味じゃなくて本気で殺しにかかってきていたらお前は死んでたぜ」


「そうね……」


「いいかステラ、戦いってのは単に力と力のぶつけ合いじゃねぇ。如何にして “相手を倒す方法を考えるかだ”」


「方法?」


「そうだ。仲間と連携したり、相手の弱点を突いたり、隠していた切り札をここぞという時に使ったりな。自分と相手の情報を頭ん中に入れて、それからどう戦うか戦略を組み立てる。戦いってのは意外と頭を使うんだよ。それも瞬間瞬間でな」


「そうね……でも先生、戦略ってどうやって身に着けたらいいの? この前みたいに魔族が襲ってくるなんてないだろし、といってこの学校の教師や生徒じゃ相手にならないわよ」


「そこなんだよな~」


 俺が戦争をしていた頃は毎日が戦いだった。生きる為にどう戦うか必死に考えていたから、戦略ってもんは勝手に身についていった。

 これは持論だが、戦略は個々の鍛錬で身に着けるのには限界がある。実戦による経験が大事になってくるだろう。


 普通の生徒ならば、授業での訓練や模擬戦で十分こと足りると思う。

 が、ステラに限っては全然不十分だ。


 この学校には生徒が沢山いるが、こいつとまともに張り合える生徒はいない。じゃあ実力が拮抗している【五人の魔女(クインテット)】と呼ばれる他の四人と訓練すればいいが、それじゃあバリエーションが足りねぇんだよな。

 ステラも【五人の魔女(クインテット)】とは模擬戦をしているだろうし。


 できれば、色んな奴と数多く戦わねーと経験値にはならねーからなぁ。


「そうだな……今できることといったら沢山の生徒とひたすら模擬戦することだな」


「でも、それじゃ前と変わらないわよ」


「ハンデをつけれりゃいいんだよ。お前は魔術無しで相手は有りだとかな。全力を出せねーのはストレスが溜まるかもしれねぇが、戦略は磨けるはずだ。生徒の数だけ得意な魔術も戦い方も違うんだ。相手より自分が不利な状況で片っ端から戦っていけば、それなりの実戦経験は積めるはずだぜ」


「そうね……その手があったわ。うん、そうしてみる。ありがとう先生、私行ってくる」


 閉ざされた道がようやく開けた顔を浮かべて、ステラは意気揚々と訓練場を去って行った。


 よし、これでもうあいつに構わなくて済むな。俺は自由時間を確保できたし、ステラは修行の旅に出た。お互いwinwinってことだ。

 さ~て、天気も良いことだし昼寝でもするか~!


「おい、なにコソコソ楽しそうことしてんだよ。オレにも相手してくよ」


「あん? げっ……」


 背後から話しかけられたと思って振り返ってみれば、そこに居たのはレオナっつう不良少女だった。

 おいおい勘弁してくれよ……ようやくステラから解放されて一人になれたってのに今度はこいつかよ。


「さぁ、何のことかわからねぇな。生憎今日は店じまいだ」


「はっ! ステラ(あいつ)はよくてオレはダメなのかよ! まさかあいつ、股でも開いたんじゃねーだろうな。女好きのテメエにはそれが有効だろ~からな~」


 うわ~、こいつ結構ゲスいこと言うじゃん。

 本当に獣王の娘なんだよな? 王族が股とか下品なこと言って大丈夫なん?


「残念だな、オレは股を開く来はねーぜ」


「いや、別にいいから。頼んでもないし……」


「だったらオレと戦え、勇者!」


「ちょ、ちょっとタンマ!」


「問答無用!」


「うお!?」


 レオナは地を蹴り上げ、凄まじい勢いで迫りながら拳を叩きつけてくる。間一髪木剣で防御したが、衝撃に耐えきれず根本から折れてしまい、そのまま殴り飛ばされちまった。


「痛ってぇ~! なんつ~馬鹿力だよ!」


「オラオラァ! まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」


「クソったれ!」


 殴打のラッシュにきりきりまいで、なんとか凌ぐだけで精一杯だ。拳撃の一発一発が重たすぎる。こんなのまともに喰らっちまったらクリスティーナが言ったように内臓をぐちゃぐちゃにされちまうぞ。

 いやマジで、冗談じゃないから。


「どうしたよ勇者! 守ってばっかいねーで反撃してこいや!」


(そうしたいのは山々なんだが、マジで身体が追いつかねぇんだよ)


 魔鎧を使ったステラほどとはいかないまでも、こいつの攻撃速度はかなりのもんだ。魔鎧を使ったステラの速さに全く反応できなかった俺は、レオナの速度にはギリギリ反応できるぐらい。とてもじゃないが反撃する余裕なんてこれっぽっちもありゃしねぇ。


 それに加えて……。


「ちょ、マジでタンマ。はぁ……はぁ……もう限界、少しでいいから休ませてくれ」


「はぁ?」


 すぐにスタミナ切れを起こしちまう。

 そらそうだ。こちとら十年間まともに運動もせず食っちゃ寝てのクズニート生活を続けてたんだ。そんな怠けた身体を動かせるなんて一分持つかどうかって話だ。


 俺が膝をついてお願いすると、レオナは呆れた顔を浮かべた後にしかめっ面になる。


「……舐めるのも大概にしやがれ!」


「ごふっ!?」


「ウルファング!」


 激怒したレオナにおもっくそ蹴り飛ばされると、あいつは跳躍しながら拳を振りかぶる。右手の指を鉤爪のような形にすると、落下と同時に魔力を付与した衝撃波を放ってきた。


 ズンッ! と轟音が鳴り響く。

 間一髪防御したものの、衝撃をまともに喰らった俺は地面にぶっ倒れていた。身体が痛すぎて立ち上がることさえままならない。そんな情けない俺に近付きながらレオナが近づいてくると、突然腰の上に馬乗りになって襟元を鷲掴んできた。


「……ざけんじゃねぇ。ふざけんじゃねぇぞテメエ! なにやってんだよ、もっと本気を出しやがれ! 真剣に戦えよ!」


「悪いな……真剣にやってこのざまだよ」


「嘘吐くんじゃねえよ! アンタはもっと強かっただろーが! こんなザコなんかじゃねーだろ!」


「ザコになったんだよ……」


「――っ!? クソったれが」


 身体が震えていた。

 レオナの顔色を窺うと、怒りと悲しみがごちゃ混ぜになったような、期待を裏切られた子供のような顔をしている。


「はっ、もうどうでもいいわ。その面、二度とオレに見せるんじゃねぇぞ」


 投げやりな感じでそう告げるレオナは、俺の上から起き上がりこの場を去っていく。一人の女の子の期待を裏切ってしまった俺は内臓じゃないけど朝飯を吐きたくなるぐらい最悪な気分に陥っていた。


 身体は痛ぇし、心も痛ぇし。


「はぁ……やってらんね~ぜこんちくしょう」


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