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10話 グレた不良少女




「あ~恐かった~。今時のガキは野蛮で困っちゃうよ」


「何情けないこと言ってんのよ。あんた勇者でしょうが、舐められてないでガツンと言い返しなさいよガツンと」


「だから元だって言ってんだろ~」


 初授業でのことをクリスに愚痴っていた。

 教師としてイイ感じというかいい気分で締めくくれそうだったのに、最後の最後で不良少女に台無しにされちまったよってな。


「元でも何でもいいけど、子供相手に言い負かされてどうすんのよ」


「だってよ、あいつめっちゃヤバい奴だったんだぜ。ただでさえ意味も分からずキレてるしよ、ガチギレして襲い掛かってこられたらどうすんだ。まだ死にたくねぇぞ俺」


「大体見当はつくけど、どんな生徒だった?」


「犬種の獣人だ。金髪で、顔は整ってるけど常にキレてる感じの態度がデケー女」


 つらつらと特徴を述べていく。

 他の生徒達と違って凄く目立つから鮮明に覚えている。


「やっぱりね、その子の名前はレオナ。【五人の魔女(クインテット)】の一人よ」


「だろうな! なんかそんな感じしたわ!」


 やけくそ気味に声を出す。

 一人だけ浮いてるし、他の生徒達から避けられてるし、態度デケーし、そうなんじゃないかとは薄々感じ取ってはいた。


 そっか~、あいつも【五人の魔女(クインテット)】なのか~。


「ってことはあのガキんちょも相当強ぇんだよな?」


「ええっ、めちゃくちゃ強いわよ。レオナもステラと同じタイプの魔術師で、魔力を扱ったゴリゴリの前衛。身体能力だけでいえば【五人の魔女(クインテット)】の中でも随一よ。本気のパンチを喰らったらあんたの内臓なんかぐちゃぐちゃね」


「おげ~」


 想像するだけでお腹痛くなってきた。


「因みに彼女は犬種じゃなくて、獣人の中でも希少種の金狼種。しかも獣王国キングダムの獣王の一人娘よ。実は私達も一度会ったことがあるわ」


「えっマジ!? あいつ獣王の娘なの!?」


「マジよ」


 いや~驚いた。そうだったのか。

 獣王国キングダムは獣人による国だ。

 小国ではあるが、獣人は人間よりも遥かに身体能力が高いため凄まじい武力を誇っている。魔王軍による侵略も自力で防衛していた。


 十年以上も前。

 俺達は魔王を討ち倒す為に、屈強な獣王国と協力を結ぼうとその地へ訪れたんだ。だけど門前払いをくらったり、寝込みを襲撃されたりと中々話の席にもつけなかったが、色々あって協力してもらうことになった。本当に苦労したぜ。

 そん時に、俺達は当時の獣王と会っている。


「そっか~、獣王の娘か~。あれ、でも待てよ? あの人に娘なんか居たっけか?」


 首を傾げながら当時を思い出す。

 十年前のことだし記憶は曖昧だが、確か獣王には息子しかいなかった気がする。子供は沢山居た覚えはあるが、娘なんか居たか?


「私も分からなかったけど、一人だけ娘がいたみたい。それがレオナだったのよ。多分小っちゃくて男の子だと勘違いしちゃったのよね」


「へ~そうだったのか、ダメだ全然思い出せねぇ。でも何でまた獣王の娘が学校になんかに入ったんだ?」


「詳しい事情は私にも分からないけど、何でも婿探しに来たそうよ」


「婿探し~~!?」


 はっはっは、旦那を探し求めて学校に入ったってのかよ。あの不良少女からは想像もできない理由だな。いや~面白え。


「でも、彼女は自分より強い男じゃないと旦那候補として認めないみたい」


「なんじゃそりゃ」


「私はその時居なかったから知らないけど、入学初日に片っ端から男子生徒に勝負を申し込んだらしいわよ。それで、たった数日の間に男子のほぼ全員をぶっ飛ばしちゃったらしいの。因みに生徒だけじゃなくて教師もよ。実際にやられた教師から聞いた話だから間違いないわ」


「うわぁ……」


 想像するだけで恐ぇな。

 カツアゲするノリで「おいお前、今から喧嘩しようぜ!」って絡んでくるんだろ? それで逃げたり断ったりしてもぶっ飛ばされるんだろ? どこにも逃げ道がねぇじゃねえか。なんて迷惑な奴なんだ。


 ふと思ったんだが、教師や男子生徒が【五人の魔女(クインテット)】にビビッてる原因ってほぼレオナなんじゃね~の?


「でもよ、この学校に自分より強い男がもう居ないんだったら、いつまでも学校に留まる必要はなくね~か? さっさと他の場所に行って自分より強い男を捜せばいいじゃねぇか」


「他ってどこよ。これでもオルトラール魔術学校はね、若くて才能に溢れた第二世代セカンドが集まる国内でも最高峰を誇る魔術学校なのよ。ここに居なかったら、他はもっと見つからないわよ」


「う~む、言われてみればそうか」


 クリスの意見に納得すると、彼女はどこか悲しそうに話し出す。


「多分、レオナ自身もそれは分かっているんでしょう。だから幻滅して、あんな感じにグレちゃったのよね。あの子に同情する部分もあるわ。自分より強い男が沢山いると期待して学校に来たのに、蓋を開けてみれば大したことない人ばかりだったんだから。話が違うだろって怒るのも無理はない」


「そんでずっとイラついてんのか。授業にも出ないで、周りに威嚇して。子供だね~」


「そう、まだ子供なのよ。誰かが導いてあげないといけない。このままじゃ折角の才能を腐らしてしまうわ。レオナのポテンシャルはまだまだこんなものじゃない、それはステラも同じだし他の【五人の魔女(クインテット)】にも言える。あの子達はもっと伸びるのよ」


「ほう、じゃあ頑張って」


 適当に返事をすると、クリスは俺の頭をパシンと叩いてくる。

 なにすんだよ、という意味の目線を送ると、彼女はおっかない笑顔を浮かべながら頬を抓ってきた。


「しょうもないことを言うのはこの口かしら?」


「いひゃい」


「あんたがやるのよ! あんたが教師として彼女達を導くの! その為に連れてきたのを忘れたのかしら!?」


 頬を摘まんでいる手をペチンと軽く払いながら、俺は反論する。


「バカ言ってんじゃねぇ、俺に死ねってのか!? あんな不良を相手にしたら身がもたねぇよ」


「大丈夫よ。あんたって何だかんだ丈夫だから、なんとかなるわ」


「ならないよぉ……」


 ええ……マジで俺があの不良少女を更生させなきゃいけないの?

 嫌だな~、噛みつかれて死んじまうよ


 はぁ……死ぬ前にできるだけ美味いもん食っておこ。




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