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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

絶体絶命からの逆転劇~転生した私はゲームシナリオ通りに発生した婚約破棄を目の前にしてバカ王子のことはさっさと切り捨て、生き延びるために頑張るお話~

作者: 蒼井星空

「エルシリア、君との婚約を破棄させてもらう。聞けば可憐なマリアに影で嫌がらせをしていたそうだな。僕の愛を得られなかった腹いせに。なんという愚かしい嫉妬心だ。もう愛想が尽きた!」

ついに来てしまった。これはゲーム""の世界だ。間違いない。

本当は優しく真面目で責任感があり自己犠牲をいとわなかった真実の聖女であるエルシリアに、好色で浪費家で我が儘なバカ王子が婚約破棄を突き付ける。

その理由はバカ王子がお気に入りの娘……成り上がりの男爵令嬢を正妻とするため。なんてバカなんだ。


しかも、優秀で実は支援者の多いエルシリアを貶め、あることないこと噂を流して彼女の今後を完全に終わらせにかかると言う非道っぷり。

ただ、バカのやること。詰めが甘く、婚約破棄後にすぐに露見し、高位貴族や騎士たちの離反を招くことになる。


王国としてはこんなバカは早々に廃嫡して処刑してしまいたいが、そこには1つハードルがある。

王妃だ。


彼女はバカ王子に呆れるほど入れ込んでおり、普通にしていては絶対に廃嫡を認めない。

ゲームの中では、国を大量の悪霊が襲い、飢饉が怒り、民衆や貴族の反乱が起こり、王城の周囲を軍に取り囲まれてはじめて『なぜこんなことに』と慌てふためくのだ。

つき合ってられない。


一方でエルシリアは数々の冤罪の汚名を着せられ、地下に投獄される。

そこで彼女は1体の地の精霊・ノームと出会う。


ノームは彼女を励まし、外に出る道を開くが、彼女はありもしない自分の罪を償わないと実家や親しくしていた人たちに迷惑をかけてしまうと固辞する。

そしてバカ王子はあっさりとエルシリアを処刑する。


怒ったのは彼女の実家であるジークルード公爵家。そしてそれに連なる貴族たち。

ジークルード家は建国以前から続く古い家で、その庇護や恩恵を受けたものは多く、さらには優秀な大臣や将軍を何人も出してきた家だ。

先代である将軍に命を救われた、3代前の公爵の支援を受けて財政を立て直した、我が家が今存続しているのはジークルード公爵家のおかげ、などと恩義を持つ貴族や騎士は多かった。

ジークルード家は代々高潔なものが多かったのだ。


そして当代公爵夫妻は人並みにエルシリアを愛していた。

溺愛と言うことはないが、成長していく彼女を見守りつつ、それを粗雑に扱うバカ王子を苦々しく思っていたようだ。

ゲームでは婚約破棄と同時に怒り心頭で抗議してくる。

さらには高額の賠償金請求を受けることになる上、処刑してしまった後は完全な反王族派となる。

当然だろうな。私が公爵でもブチ切れる。


そんなこんなで針の筵となる王家において、ゲームでは王族はバカばっかりだ。

このゲームがあまり注目度は高くなく、むしろザルなガバガバ設定でリリースされた理由は、現実にはあり得ないほど酷い権力者をボコボコにできるという爽快感だけが売りだった。

予算もない状態で企画一辺倒でリリースまで行った無茶苦茶なゲームだったのに、むしろそれが受けた。

ただただバカを罵りながら蹴飛ばすゲーム。やり込み要素は実は用意されていたらしいけど、そんなことを考えるよりも起動→ヘイト稼ぎのエピソードスキップ→ざまぁを手軽に味わうためのお気楽ゲームだった。


結局、反乱が始まったところからプレイが始まり、バカを追い込み、罵り、処刑するのでは一瞬で終わってしまって面白くないから逃がし、追い回し、最後には悪魔に生きたまま喰われるのがバカ王子の末路。

なお、その他の王族は八つ裂きにされたとか、塔から突き落とされたとか、民衆の怒りを鎮めるためにあえて投げ入れられたとかそんなんばっかりだ。


このゲームが好きな奴は頭おかしい猟奇的な思考の持ち主たちなのだろう。


そんなことを考えている間に婚約破棄が実行され、エルシリアは拘束されてしまった。

どうしよう……。



「どうされるのですか?」


迷っていたら処刑される。

なんでこんなタイミングで前世のゲームのことなんか思い出したんだ。

勘弁してほしい。


そもそも前世で死んだ記憶はないし、そもそも成人してなくて素敵な人と結婚もしてない。ハーゲン〇ッツで冷凍庫を埋める夢も叶えてないし、稼いだお金で温泉三昧もしてない。

いつ死んだんだ?

まぁ、今ここに私がいるということはきっと前世では死んだんだろうし、今さら何を言っても無駄だ。何も変わらない。恋人もいなかったし、ろくな就職ができたとも思えないから気にしないで行こう。


今考えるべきはこの状況をどうやって回避するかだ。

バカ王子はもうどうしようもない。切り捨て決定だ。なんなら王妃もポイでいいや。あいつに愛情なんかない。ただの政略結婚だし、今まで20年近くただただ面倒な人だった。


バカ王子が勝手にやったことにしよう。廃嫡決定な。

きっと明日になればすぐにあの男爵令嬢と婚約させろと言ってくるだろうから、その時に切り捨てよう。

王妃はきっと怒り狂うから、これまで貯めに貯めた不正の嵐を全部暴露しよう。そうだ、隣国に賠償請求するのもいいな。

なに、結婚した時はこっちが帝国を押し返したころで不利な条件で押し付けられたが、今は帝国との関係は悪くないから問題ない。


そうだな。帝国には連絡しておこう。

そう言えばエルシリアは昨年訪れた帝国の第三王子から高い評価を受けていたな。彼は婚約者はいないはず。

どうせ国内には目ぼしい男子はいないから、なんなら嫁いでもらって今後の両国の関係の礎になってもらおう。

エルシリアは王族の血も引いていて、14位と低いながらも王位継承権まで持っている。


今後はバカ王子の弟のリュート王子を王太子にするが、彼も失敗するならなんならエルシリアを立てて帝国の第三皇子を王配になってもらった方がいいかもしれないな。


まぁ、現時点では行き過ぎた考え方だが、オプションとして持っておこう。

バカ王子とあの化粧塗れの男爵令嬢はどんな未来でも邪魔だから魔の森の領主にでもしておこう。

生贄だな。


それからなぜかバカ王子の援護をした宰相の息子。あれはダメだ。

今の宰相には黒い噂があったな。


「陛下? 耳はついてますか? どうされるのですか?」

「うるさいな。今考えている」

この露骨に失礼な女は私の部下だ。公式には存在しない影だ。

存在しないのをいいことに、言葉遣いは最悪だ。

まぁ、私が記憶を取り戻す前の国王自身も最悪だったから仕方がないか。

無理やり抱いたりしてたしな。


今は生き延びることに集中しよう。

謝罪は後だ。


「考えている間にも事態は進行しますよ? 手遅れかもしれませんよ? 馬鹿なのですか?」

「えぇい、うるさい。バカは王子だ」

「おぉ? どうしたのですか? どこかに頭でもぶつけたのですか? まともになったならケーキでも買ってきますよ?」

うるさい……考えに集中できない。


「エルシリアを救出してくれ。可能なら公爵家まで送り届けて欲しい。その際に、例えば帝国の第三皇子と縁をつなぐことについてどう考えるか探ってくれ」

「無理でしょ。どんなどんでん返しなのですか? 悪くはない案ですが、なぜ今になって?」

「バカを断罪することは内密にと言いつつ伝えて構わない。王妃も捨てる。良い機会だ。膿を全部叩き出すのだ」

「膿の親玉が何を?」

「うるさい。行け!」

「わかりました。報酬はちゃんとくださいね」

「ほれ」

私は金貨の入った袋を投げた。それを慌てて受け取る女。


「冗談で言ったのに、あのケチでケチで死んだ部下へのお供えすらケチる王様が!?」

「早く行け!」

「はい~。良いですね。楽しくなってきました♪」

まったく騒がしい。


しかしまず第一手を打った。


やるなら一気にやらないといけない。

バカ王子、王妃、宰相、それに財務大臣とあとは王家を食い物にする悪役商会だな。


「誰か」

「「「はっ……」」」


3人の汚い顔をどう切り刻むか考えながら部下に声をかけたら、ちゃんと3人で来るとは、良い教育がなされているな。


「リジュとのやり取りを伺っておりました。ついに動くのですな」

「あぁ」

あっぶね。いつから見てたんだ?

こいつら3人はめちゃくちゃ真面目で、真面目過ぎて王城の闇とか暴いてきてしまうから適当に宰相とか大臣とかの権威あるやつらを探らせていたんだ。


最も黒いのは私自身だがな……。


「財務大臣は徴税権を悪用して私腹を肥やし、それを宰相に賄賂として送って便宜をはからせていました。宰相はその金を使って商国と内通し、王国を牛耳る機会を探っていました。バロア商会は商国の手先です」

調べるまでもなく全てそろっていた乙。



くっくっくっく。明日が楽しみだ。

バカには全員思い知らせてやるぞ!


「陛下。あとはエルシリア様を慕っている貴族たちを抑える必要があります」

「いつから私の後ろに立っていたんだリュート……」

そんな気配はなかったはずだろ?

なんだ?

私が何も動かなかったらもしかして刺されていたとかか?

怖すぎるだろう、息子よ。


「いつからもなにも、最初からここにいましたよ? それにしても陛下。ようやく動かれたのですね。てっきりエルシリア様を捨て駒にしたのかと思いましたが、そうではないようで安心しました」

「もちろんだ。あの娘は優秀だ」

「まさか陛下からそのような言葉があるなど。ゴミを見るような目をしていたので、彼女もいつも思い悩んでいたのですよ?」

……まずい。そうだった。


国王は自らの安寧……と言う名の散財、豪遊のために優秀なものを遠ざけていた。

なぜか賄賂だけは嫌いと言う意味不明な性格だったためにそれを行ったものは悉く解雇されたが、正当な豪遊が大好きだった。

つまり予算配分で国王と王妃のものがとても重大なものとして考慮されてしまっていた。


そういえばゲームでもリュートだけは高潔な王族として民衆に迎えられ、王国が滅んだあともリーダーとして活躍するらしかった。

らしかったというのは、ゲームではこれ以降の描写がないからわからない。



「ふん。だからといって婚約破棄に加えて投獄というのはやりすぎだ。そんなこと許していない」

「そうでしたか……」

「聞いていたなら話は早い。あのバカは廃嫡して、お前を王太子にする」

「ありがとうございます。では、私も"内密"に彼女の支援者たちを抑えに行きます」」

「あぁ……」

頼む、とは言えなかった。


その理由が自分の保身だからだ。

なんであいつはあんなに極まった目をしてるんだ?

もしかしてエルシリアに気でもあったのだろうか。

それをみすみす帝国に取られることが気に入らないとか?


まずいな……うまくいってもずっと次代の国王に恨まれるとか、私の安寧が脅かされてしまう……。








翌朝……





「陛下」

「どうしたのだ、朝から」

ゴミにしか見えない息子を前に取り繕う必要も感じない私はゴミに向けるのと同じ視線をバカ王子と男爵令嬢と王妃に向けた。


「エルシリアとの婚約破棄に同意くださりありがとうございます。私は王太子としての責務を果たすべく、このマリアと婚約し、今後王族、王太子としての役目を果たしてまいります」

"同意"という言葉のあたりで周囲は騒然となる。これはまずい。

バカの背後でニコニコしている厚化粧女は気持ち悪いし、その後ろで何に感動したのか涙を流している王妃はもっと気持ち悪い。

どれだけの人間の気持ちを踏みにじってそんなきれいごとを言っているのか。

これを伝えるのは私の役目だな。


「許可などしておらぬ」

「は?」

私の言葉にきょとんとするバカ王子。

誰かこの顔を描いて欲しい。そして代々、バカなことをするなと言う戒めの絵として語り継いでくれないか?


「どういうことですの、陛下。昨日は……」

王妃が慌て始め……たんじゃないな。ただ怒り出しただけだ。


「同意などしておらぬ。なにやら喚いているから王家としての責務を果たせと言ったまで。つまり、正当な婚約者であるエルシリア殿を立てよと言ったのだ」

「なっ……。恐れながらあの毒女はか弱い女を虐め、それを隠し、周囲を脅すような女です。そのようなものが国の母たる王妃に相応しいとは思えません。王妃とはクシャナ様のように暖かく、慈しみを持っていなければ」

お前の母が暖かいのは自らの希望、野望、プライドを満たしてくれる相手だけだ。

慈しむのはおためごかしを喋り続けるやつらだけだ。


「まったく。謝罪にでも来るかと思えばなにをバカな夢を見ているのだ。お前はもう廃嫡だ」

「廃嫡ですと!?」

「陛下! なんということを仰るのですか!? それはまさか公国の血を排除したいがため、ということでしょうか? それなら私にも考えがありますわ」

さらにこの期に及んでこちらを脅してくる始末。

こちらはもうすべての準備が終わっているのだ。


「陛下……」

そうこうしているうちに3人が戻ってきたようだ。

この場で見えているのは1人だが、彼だけは表向きの役職もあるからだろうな。


「無事終わらせたか?」

「はい。宰相は逮捕。財務大臣は抵抗したため両腕を切り落としましたが無事確保しました。商会についても数々の不正の証拠を商務大臣に渡して処理を始めております」

"両腕を切り落としましたが無事確保"というパワーワード。笑ってしまうからやめろ。


「「「なっ」」」

一様に驚くバカ(王子)と、バカ(王妃)と、バカ(男爵令嬢)。


「それからエルシリア様についても無事に公爵家に送り届け、謝罪をし、一応はおさまっております」

「うむ。ご苦労」

「「はっ」」

1人しかいないはずなのに2人の声がするのは怖いからやめろ。


「どういうことですか陛下!」

バカはいまだに理解できていないバカだな本当に。


「エルシリアは聖女であり、とても優秀で献身的な女性だ。彼女との婚約を破棄したお前に価値はない。だから廃嫡する。王妃は長年不当に金を使い続け、様々な不正に手を染めている。だから商国に着き返す。宰相は商国と内通している。だから罷免する。財務大臣は徴税権を悪用して真面目な貴族や商会や民を苦しめ、さらに宰相に賄賂を贈っていた。だから罷免する。バロア商会は商国や宰相、財務大臣や王妃の手先となって動いていたから営業許可を剥奪する。そこの男爵令嬢は王子を篭絡して無用の混乱を引き起こした。だから貴族籍を剥奪する。以上だ。ちなみにすべてに証拠があるから抵抗は無駄だ」

「「「なっ……」」」

どうしようもないと崩れ落ちる3人。

おいバカ王子。せめて足掻くとか言い返すとかそれくらいの気概は見せろよ。そうしないと少なくともそこの男爵令嬢は可哀そうだろ?


「ただ廃嫡しても周囲に迷惑をかけるだけだろうから、貴族籍は残してやる」

「えっ?」

打てば響くバカ。全く理解できていないのに嬉しそうなのはなんでだ?


「そこの男爵令嬢との婚約は認めてやろう。というか既に認め、教会の書類は作成して提出済みだ。良かったな。おめでとう。で、お前の任地はパトリアだ。魔の森に封じられて来い」

「「いやだ~~~~~~~」」


まぁ1年くらいは生きてられるんじゃないか?

2年生きてたら凄い。凄いだけで何もしてやらないが。









なんとか無事に収められた。


その後、王国を訪れた帝国の第三皇子とエルシリアとのお見合いは私が全力で支援し、無事成立した。


「おめでとう」

私は心の底から祝意を伝えた。


帝国とは新たに同盟を結び直した。

なんとエルシリアの返礼として、帝国の高位貴族の娘がリュート王子の伴侶となった。


近年帝国では悪霊の出現が増えており、それの対処ができる聖女であるエルシリアはとても重宝されることになった。

それを快く送り出した王国と仲良くなるのは当然だった。


ゲームの世界では悪霊に苦しめられた帝国が対処する武器を作り出し、それによって押し出された悪霊が王国を魑魅魍魎の世界に変えてしまうんだ。

それが端から対処された。

喜ばしいことだ。


そして帝国は感謝のしるしを最大限に示してくれた。

助かった……。


ホッとした私はこれまで迷惑をかけたものたちに謝罪し、リュート王子への禅譲を企図し、実行した。

あまりに早い交代となったが、こうでもしないと覚悟を示せないと思ったからだ。


思い出せば思い出すほど、以前の私は酷かったからだ。

バカ王子と一緒に処刑されてもおかしくはなかった。


それがのうのうと生きていくなんて許せない。

そう思うやつがいてもおかしくない。

だから逃げたんだ。


そうして今は……











「元陛下。早く起きてください。二度寝ですか? 永遠に?」

「おぃ!」

「早く行きますよ。今日はファーニの丘でピクニックです」


責任を取って、影の面倒を見ているよ。案外楽しくな……

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