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現代日本プレッパーズ~北海道各地に現れたダンジョンを利用して終末に備えろ~  作者: 256進法
第二部:黙示録コンプレックス・in・北海道

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湿原のラスタファリズム(中編)

『『『ヤーマン!』』』


観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=rzRqEWJYwX4&list=RDrzRqEWJYwX4&index=1


〜ホロホロ湿原ダンジョン〜

〜大麻の煙流れる沢〜


『……次からはガスマスク必須かな……』

『フィルターマスクだけじゃ限界来るかも』

『そのせいか私達意外は居なさそうだけど』


イチカの言葉にアイカは頷く。


『恐らく……この煙が他の探索者を遠ざけて来たんでしょうね』

『昔は観光地としてはそれなりに有名でしたが、今は湿原がどうなってるか予測が付きませんね』


レナはPCを開いて言う。


『……衛星通信のテザリングが出来なくなってる』

『外部との連絡が出来ないかも』


『衛星通信って……あの【テラリンク】?』


『うん……』

『ホントは余り使いたくないけど、一番通信環境が良くてコストも低いのよね……』


ヨハンは流れる沢の中を歩きながら言う。


『最早それ無しには軍事作戦や、船舶の航行すら成り立たない……』

『【エグレゴール】は今や西側の流通を掌握しかけている、と言っていいだろう』

『いや……ラロシェルがか』


クリチカは、デコレーションされた銃のグリップを握り直す。


『アイツが掌握してるのは……流通だけじゃない』

『人間の命すら弄り回し始めてる』

『指揮官が何故あんな胡散臭い奴に従ってるのか……分からないわ』


ゲオルグは泳いで来たニジマスを手で掬って言う。


『そりゃあ……お前等の為じゃねぇか?』


『……!』


彼はニジマスを【ソード・オブ・グラム】で突き刺し、黄金色の炎で焼き上げる。


『要はお前等が人質に取られてて、その命をネタにカラス野郎が脅されてんだろうな』

『お前等はアイテムを持っている感覚もあるが、持っている感覚がしない』

『うーん……なんか線が繋がらないな、なんつったら良いのか……』


イチカが彼の言葉をフォローする。


『……まさか……人造アイテム』

『いや、そんなモノ作る技術あるのかな……』

『あるとすれば、もう人知を超えた領域に踏み込んでる……』


フェルゼンは軽自動車並みにデカいリュックを、平然と持ち上げながら言う。


『恐らく……その人造アイテムには専門のメンテナンスが必要なのでしょう』

『そしてその方法はデーフェンテル氏だけが独占しているかと』

『そうではなくて?レナさん』


レナは足を止め、立ち止まる。


『……そうよ』

『私達はあの仮面野郎に生かされてる……』

『何処に居ても……アイツの垂らした糸が手足に付いている気がするの……』


アイカは【M99カリュドーンライフル】を下して言う。


『……そのメンテ(・・・)を受けないとどうなるんです?』


『人間じゃなくなる』

『精神と共に体が変質し、急速にアイテムになっていく』

『【実験場】に居た研究員からはそう聞かされてる……』


アイカは僅かに眉間にシワを寄せる。


『……実験で何人犠牲になりました?』


『……100から先は数えるのを止めたわ』

『どれだけの死を見せられたか分からない』

『集められていたのは……皆身寄りのない孤児や、貧困層出身の子供達よ』

『当然……戦災孤児の私達もね』


『かぁ~~……ぺっ!ってカンジですね』

『度し難さ純度100%ですよ』


レナは半ば驚いた薄黄色の目で、アイカを見る。


『アンタ、そういう人だったんだ……』

『意外とい……』


【私は殺し合いさせられましたからね】

【そういうのは心底嫌いなだけです】


『『『……!』』』


一同が驚く中、アイカはレナに言う。


『今、お前が生きているのは誰かが命をくれたお陰ですよ』

『その誰かに感謝して生きると良いです』


『……分かってる』

『分かってるわ……』


アイカは言葉を続ける。


『私はある方から聞きました』

『【人も含めて動物は何かを奪う事、食う事で生きている】、と』

『だけど同時に【相手の命に感謝し、無駄にしてはならない】、とも仰ってました』


『……』

『……その人はどうなったの?』


(そら)で山の神様とハネムーン中ですよ』

『最高の狩人でした(にっ)』


イチカは穏やかな笑顔でアイカの肩を撫でた。

アイカはイチカの胸元に擦り付いた。

ゲオルグとフェルゼン、ヨハンは感心したように頷く。


『こんなロマンチックな事がこのワン公に言えたとは……』

『俺の目もまだまだだぜ』


『アイカさんはやはり可愛げがありますわね❤️』


『フ……狂犬にも五分の魂という奴か』


『オメーら私をバカにしてます??』

『特に最後』


クリチカはアイカに言う。


『それと似たような言葉をオンタリオのクラウン・ランド(※1)で……』

『あるハンターから聞いた事があります』


ヨハンが身を乗り出して反応する。


『ほう』

『面白いな、洋の東西で言う事が似るとは』

『どんな男だ?』


『元々アメリカ軍の兵士で専門の狙撃兵をやっていた、と』

『イラクにもアフガンにもウクライナでも従軍した、と言ってました』

『歳は貴方と近いぐらいです』


『専門の狙撃兵で、歴戦……』

『恐らくは元特殊部隊所属だろう』

『それならその言葉は正確だ』


アイカは3キロ離れた場所から、捕虜を狙撃された時の事を思い出す。


(まさか──)

(いや、流石にそれは出来過ぎというモノです)

(けど相まみえてみたいですね。何時か、ですが)


その時、ゲオルグが何かに反応して剣を構える。


『全員止まれ』

『煙の向こうに誰か居やがる』


イチカを始め、皆武器や拳を構えた。

すると、レゲエのBGMが周囲に流れ出した。


『ヤーマン!!』

『歓迎するぞ、バビロンから逃れて来た者達よ!』


青い煙が少しだけ晴れ、ドレッドヘアの黒人男性が現れる。

ゲオルグは首を傾げる。


『バビロン??』


『自分を抑圧するクソなシステム全てさ、プリンス』


『ほーん……良く分からんけど納得した』

『俺は地球上で一番自由な空の男だぜ、ドレッドマン』

『抑圧とは生まれ付き無縁だぞ』


ゲオルグはドレッドヘアの男へ手を差し出し、男は笑顔で握手し返した。

そしてドレッドヘアの男はイチカへ手を差し出す。


『バビロンに虐げられし、混血の娘よ!』

『私はお前を心から歓迎するぞ!』


イチカは恐る恐る彼と握手した。

そして彼女はユンユンからの紹介状を取り出す。


『なるほどな、ユンユンからか……』

『人の縁は異なもの、味なものだ』


彼は笑顔で紹介状を一瞥し、ポケットへ仕舞った。

イチカは彼の顔を覗き込みながら言う。


『えーっと……お名前は?』


『ボブで通ってる』

『私のハウスに案内しよう』

『お前達を歓迎したい』


アイカは晴れた霧の向こうを見つめながら言う。


『ダンジョンに住むとか、考えた事も無かったですよ……』


ボブはレゲエのリズムを取って歩きながら、彼女へ言う。


『バビロンの泥と闇から生まれし猟犬よ』

『新しい主人と土地はお前の視野と人生を広げ、心を救けてくれているか?』


『……ええ』

『私はこの土地に来て救われてます』

『けどこの土地に導かれたのは、イチカさんのお陰です』

『だから私はイチカさんに心から感謝しているんです』


『One Out Of Many(多くの部族から一つの民に)』

『どんな過去や背景を持った人間であれ、一つの場所に受け入れる』

『お前の主人である混血の娘は、それだけの優しさと情け深さを持ち合わせている』

『おお!今日と言う日に感謝したい気分だ!』


ボブは先行して歩き、一行はその後をゾロゾロと付いて行く。


『皆!唱えようじゃないか!』

『ヤーマン!!と!!』


『『『ヤーマン!!』』』


レナ以外の皆はボブの言う取りに唱えた。

彼女は薄い胸を抑えながらボブに尋ねる。


『や、ヤーマンってどういう意味なんですか……?』


『意味を知らなければ、言えない言葉などないさ』

『混血の娘2号よ』


『に、2号……!』


『まぁ敢えて言うとするならば、他者を肯定する掛け声さ』

『さぁ!』


レナに皆からの注目が集まる。

彼女の顔はたちまち赤くなる。


『や、ヤーマン……(小声)』


『これがレナちゃんの今の精一杯です』

『応援ありがとうございました』


『あああああ(頭を抱える)』


レナはイチカの後ろに隠れてしゃがみ込んだ。



~ドイツ~

~ラインラント=プファルツ 州~

~ラムシュタイン空軍基地~


『部隊の準備は順調ですか?クレイエル』

『私の目には問題無い様に見えますが』


場違いなまでに落ち着いて穏やかな声へ、椅子に座っていた黒髪青目の男が反応する。


『……ラロシェルか』

『まだ対マルファを想定した訓練が幾つか残っている』

『部隊全員の休養ローテーションも完了してはいない』

『最終的に【魔女】と事を構える以上、僅かな綻びも許す事は出来無い』


『そうですか。最後の最後まで仕上げ切る積りですね』

『相変わらず非常に真面目かつストイックで、頼りになりますね』

『貴方のような労働倫理と勤勉さを、我が社の社員全員が持てれば良いのですが』


ラロシェルは汗だくになっているクレイエルの隣に座る。

クレイエルは巨大な黒い機体を、じっくりと見据えながら言う。


『……何かあるな』

『話すのなら今の内だ、ラロシェル』


ラロシェルは笑みを崩さずに答える。


『まず一つ』

『ヴェルミーナが覚醒し、【ベリアルナイン】がパワーアップした事』

『そして二つ目』

『日本の政府機関内に、包括的な軍事力を指揮可能な存在が現れた事』


『……』


『そして三つ目』

『レナ及びその小隊との通信が途絶した事』


『──』

『お前はこの状況で私に何をさせたい、ラロシェル』

『国家解体の戦争など仕掛けられる状況では無い』


しかし、ラロシェルは口元を緩めたまま首を横に振る。


『結論を急がないで下さい、クレイエル』

『ヴェルミーナは覚醒し、【降下機甲猟兵大隊】はダンジョンを攻略したものの……』

『消耗からは回復出来ていません』

『更に……』


彼は指で日本地図を宙に描く。


『あの国に柔軟かつ、融通の利く指導者と軍が現れるのは、まだまだ先の事』

『そしてレナですが……』

『彼女はダンジョンに潜っています』

『衛星画像で湿原に至る林道に入った所まで、こちらで確認出来ています』


『……何故通信が途絶している』


ラロシェルが指で四角形を描くと、そこに立体映像が表示された。

彼は森の中の、青い煙に覆われた部分を指さす。


『この青い煙が原因です』

『推測ですが、この煙には外部からの波動干渉を弾く効果があります』

『彼女はそこに居るのでしょう』


『……一応の納得はした』

『【魔女】は?』


『核戦力の移動を極秘裏に始めています(私には筒抜けですが)』

『しかし、合理的な理由も蓋然性も認められない』

『彼女は【感情】で核を使おうとしているのだけは確か、かと』


クレイエルは海の様な青い目を、ラロシェルの極めて整った横顔へ向ける。


『その情報を鵜呑みにする事は流石に出来ない』

『そこに至るまでの経緯(プロセス)が判然としない』

『ラロシェル。お前は重大な何かを見落としている可能性がある』


『私が……見落としている……』

『いや、いいでしょう』

『あの【黒い鳥】の意見なら、聞く価値が大いにある』


クレイエルは水を飲み、汗を拭きながらラロシェルへ言う。


『レナは自分が信用しない人物、信頼しない人物へ付いて行く事はまずない』

『彼女は私や仲間以外信用などしないし、それ以外へ向ける言動は全て作り物だ』

『分かっているとは思うが、お前も信用されてはいない』


『……』


『レナは自分の弱さや幼さを知られる事を、極端に恐れている』

『生き延びるには……』

『自分が一番苦しく辛い選択肢を取るしかない事も、あの歳で理解してしまった』

『だが……レナは初めて、私以外の人間へ付いて行き、身を預ける事を選択した』


『──!』


『そんな人物が並の存在である筈が無い』

『私の直感に賭けて言う』

『その人物はマルファにも関わっている可能性が高い』


ラロシェルは目を大きく見開く。


『ハハハ……面白い……』

『実に……面白い……!』

『その話、詳しく聞かせて頂けませんか?』


紫色の瞳は驚きと知性、そしてタガの外れた好奇心に満ちていた。




※1 

カナダオンタリオ州にある王領の狩猟地。しかし王領というのは名目上で、実質的には連邦政府の所有する土地となっています。

クマやヘラジカのハントで有名な土地です。


クリチカは射撃の腕を磨くため、度々バイクでこの場所を訪れています。

やはり宵越しのカネは持たないタイプだなぁ。

彼女が会った元アメリカ軍兵士のハンターとは、クエイドの事です。

彼はカナダで一時期隠遁生活をしていました。


そして胡散臭いジャマイカ人ご登場です。

【バビロン】の意味には幾つか解釈がありますが……

基本的には自分達を抑圧して来る、警察や政府や支配システムクソ!みたいな意味があります。

一番端的かつ象徴的な例を挙げると四十万ですね。バビロンの象徴みたいな女です。

やっぱおもしれー女……


ボブはラスタファリアンの直系で、自身もラスタファリアンです。

無論、大麻ガンジャも吸いますがあくまでも瞑想や儀式、友と語らう時しか使いません。

メタンフェタミンやフェンタニルなどは邪道中の邪道として、嫌っています。

あくまでもナチュラルなブツを尊重しています。

これは食品や医薬品に関しても同様の姿勢です。

またこの話は次回に。


そしてまたまたラロシェルです。

ここまで来るともうただのちょっかいですね。

何故ならほぼ事情が分かってるのに、態々来るんですから。

クレイエルの事が気に入ってるんでしょうか。


イチカはとうとう彼に存在を知られてしまった。

面談の途中で服を脱ぐリクルーターが、イチカハウスにやって来るかもです。

やっぱり自ら足を運ぶのは重要かも。


インテリ系イケメンとアスリート系イケメンの組み合わせ……

最高だぜ。

水面下でバチバチにやり合ってると、尚良い。

ここからでしか得られない栄養は確実にある。


ここまでお読み下さりありがとうございました。


「面白かった」「次も期待している」

「ソード・オブ・グラム便利だな」「ラロシェルは一線からスタートなのか?」

「果汁100%みたいに言うな」「レナは頑張ってるな……」「アイカはマジで成長してる」

「スナイパー対決は見てみたいかも」「相変わらず王子はコミュ力高い」「ヤーマン!」

「ラロシェル楽しそうだな」「相変わらず四十万の評価が高い」

「ラロシェルの情報力が高過ぎてビビる」「確かにマルファお姉さんの敵だわコレ……」

「遂に見つかってしまったか」「最高だぜ」


と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。

宜しくお願い致します。




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