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現代日本プレッパーズ~北海道各地に現れたダンジョンを利用して終末に備えろ~  作者: 256進法
第二部:黙示録コンプレックス・in・北海道

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不器用なコンストラクション

先に貰うぜ、魔女の首

取ったら食わしてやるよ、ワン公


~イチカフォートレスシティ(第一段階)~

~イチカハウス・離れのプレハブ~


「……」


「……」


イチカと女親方は互いに5分以上も睨み合っていた。

テーブルには設計図やデザイン図が広げられており、それらが境界線と化していた。

レナは思わずため息を付く。


「ア、アンタ達……子供じゃないんだから……」

「互いに折れないと仕事が進まないでしょ……」


イチカはそっぽを向きながら言う。


「……コイツがさっさと折れて、手を動かせば済むハナシなんだよ」

「手が足りなきゃ人呼んで来れば良いんだよ、カネはあるんだから」


「一体どれだけ人が必要だと思ってんだよ、赤目女」

「それに人手は恒常的に不足してんだ、何処の会社も職人はそう簡単に出せないんだ」

「この設計図通りに造ろうとしたら、最低でも月7000人で8ヶ月は必要だぞ!」

「会社作るって言ったって、人が居なきゃ……」


「まさか横の繋がりとか知り合いの会社とか……」

「無いとおっしゃってる??」

「業界に10年以上居るのに、まさか誰とも関係を築けてないと??」


イチカは少しだけ意地悪そうな笑みを、女親方へ向ける。

レナは思わず頭を抱える。


(うわぁ……会社員時代の嫌われっぷりが容易に想像出来るわ……!)


だが、相手もさるものだった。


「まさか……何処も親しい協力会社が無いと?」

「数年セコカンと設計やってて、1級建築士まで持ってて??」


(こ、こっちも相当イヤな性格……!)

(しょ、正直お似合い……!)


レナは机を叩いて立ち上がる。


「結局!どっちが人を集めるの!?」


イチカと女親方は互いに指差す。


「コイツ」


「ソイツ」


「ガキ過ぎる~~!このアラサー共~~!」


レナは二人に詰め寄る。


「ウェブサイト作ってそこで募集するとか!」

「SNSで周知するとか!」

「コミュ力死んでるなら他にやり方あるでしょ!」


「「し、死んでる……?」」


イチカと女親方は互いに顔を見合わせた。


「……アンタ達……」

「互いの名前も知ろうとしてないでしょ」

「もう死を通り越して腐ったゾンビ状態よゾンビ」


「知らなくても仕事は出来るし……」


「そうだ」

「コイツは金と人さえ出せば良いんだ」


「こ、こんな大人達にはなりたくない……!」


レナはイチカの頬を引っ張る。


「とにかく!」

「互いの自己紹介から!」


イチカは頬を引っ張られながら言う。


「ふぁ〜〜ぃ……」

「私は香坂・クリスティナ・一夏」

「ハンガリー人とのハーフで、ご先祖様にはドイツ人もスロバキア人も居る」

「お前は??」


「……窪田文香」

「フミカでいい」

「出身は気仙沼だ。代々大工や職人の家系だ」


「名前だけは可愛い……」

「これからふみふみって呼ぶから」


「あ?」


「は?」


レナは二人に向かって言う。


「争いは同レベルでしか起きない」

「今、その実例を見させて貰ってる、って事を忘れないようにね」

「……で」

「どうなの?人集め。もう時間無いわよ」


イチカは斜め下に目を逸らし、モジモジし始める。


「人を集めるとか、私が一番苦手なコトです」

「だからこうして押し付けてます」

「……ごめん。レナ」


「遂に白状したわね」

「ほ、ホンッットめんどくさいわ、このアラサー……!」


ふみふみはレナの言葉に被せて言う。


「私も専門外だからな」


「しってる」

「しょうがないわね、私がサイトとSNSアカウント作って運用しますか……!」

「デジタルネイティブの私には楽勝な仕事よ!」


ふみふみは何かを思い出したような顔をし、イチカに言う。


「そう言えばあの勝負!フォロワー10万人行ったたら言う事聞くってヤツ!」

「アレ、どうなったんだ!?」


「見てみれば良いじゃん」

「アカウントはハルカが持ってるから私はもうノータッチだし」


「そう言えばあのデカタヌキが居ないな……」


「デカい?まぁ……170後半はあったからなぁ」

「デカいと言えばデカいのかな……」

「他にも色々デカかったけど」


ふみふみはハルカが作ったYのアカウントを探し当て、数字を凝視する。


「……」


「どうした?もう私の負けで良いから」


「10万人超えてる……」


「「ふぁっ」」


レナとイチカはYを見て仰天する。


「……写真がこんなに……」


「ああ、それは富良野でイスラム原理主義鳥と戦った時のヤツで……」

「これはヴェルミーナとの腕相撲……」

「こっちは双子の流星。珍しいからってレイやんがLANEで共有してくれたんだっけ……」


レナはその流星の青い方に目を奪われる。


(まさか……これ……)

(指揮官!??)

(という事はこっちのオレンジ色の光は……あのスーパーバカ!?)


数々の写真に驚く二人を他所に、イチカは涙を拭い始める。


【……そうだったよね】

【ハルカ、レイやん……】

【私、こんな所で躓いてられないよね】

【いけないよね】


彼女はレナの方を見る。

イチカの赤い瞳からは限りなく透明な涙が流れていた。


「人集め……手伝ってくれる……?」

「私もダンジョンに潜りながら手立てを考えるから……」


レナは不敵な笑顔を浮かべる。


「……やっと言えたじゃない」

「その言葉、待ってた」


ふみふみはため息を付きながら立ち上がる。


「ふ〜っ……」

「仕方ない、一人だけ何もしない、ってワケには行かないか……」

「この際詰まらないプライドや遺恨は無し!」

「そういうのは仕事が終わった後!」


彼女はイチカへ向かって手を伸ばす。

イチカは彼女の手を優しく握った。


〜プレハブの外〜


『……という事で纏まったみたいですね』

『私の出番が無くて良かったです』


アイカは穏やかな顔で空を見つめる。

ゲオルグはスコップを地面に突き刺しながら言う。


『……大事な話がある、ワン公』

『フェル子や兄貴にも言ってない事だ』


『……聞きますよ』

『その目、完全に竜殺しモードですから』


ゲオルグはプレハブの窓越しにイチカの横顔を見て言う。


『もし……俺が死んだらクリスティナと俺の子供を頼む』

『俺は近々死ぬかもしれねぇ』

『俺がクリスティナに投資した金の管理は、お前に任せる積もりだ』


『……常に死に一番近い場所に居るじゃないですか』

『何を今更……』

『というか一晩寝ただけじゃないですか』

『それで子供なんてあり得ませんよ、フツー』


『……俺の勘だ』

『こんな事、フェル子や兄貴にも言えねぇ』

『そして、今回ばかりは相手が化け物過ぎる』


アイカはしゃがみ、雑草を抜く。


『……魔女のババァですか』

『とうとうヤキが回りましたね、不死身の竜殺し』

『女遊びのしすぎですよ』

『相手があのマルファなのには同情しますけど』


『……ああ』

『キッカケはスマホの取り違えだが、来たるべくして来たって感じだな』

『あのババァは俺と兄貴とフェル子、3人ががりでやっと引き分けに持ち込めるかどうかって奴だろうな……』

『多分核も本気で使って来やがるだろう』


『……お前がそこまで言うならそうなんでしょうね』

『あのババァは闇そのものですよ』

『闇に追われてるだけかもですが』


ゲオルグは笑顔でアイカの肩を軽く叩く。


『先に貰うぜ、魔女の首』

『取ったら食わしてやるよ、ワン公』


『クソ不味そうだから遠慮しておきますよ』

『是非3人でお分け下さい』

『私は……イチカさんから貰うご飯が一番ですから』


『ハハッ!』

『お前以上の忠犬は居ねぇな!』

『せめて骨は拾ってくれよ?』


アイカは土の付いた雑草を放り投げながら、ゲオルグに微笑み返した。



~旭川市~

~第1決戦英雄要塞・【クレポスツ・アサヒカワ】~

~臨時中央司令部~


『稚内港から旭川市までの対ドローンネット、全輸送路に敷設完了しました!』


『良し!警備兵の配置を減らし、港湾の防衛に転換……』

『そして潜水艦基地の整備を……』


戦いこそ起きてなかったが、臨時司令部は戦時の様に慌ただしく人が行き交っていた。

しかしヒールと床がぶつかる音が近づくの同時に、廊下から静寂が迫って来た。


敬礼プリヴェツスチヴィーエ!!』


警備兵が大声と共に扉を開ける。

中央司令部のロシア軍人達は一斉に敬礼する。

兵士は凄い角度へ顎を上げながら敬礼し、大量の勲章とメダルを軍服に着けた女性を出迎える。


『皆、ご苦労様』

『次の目標が決まったわ』

『即座に準備なさい』


軍の制服に身を包んだマルファは、氷の様に固まった表情で言った。

司令部の真ん中に居たヴァヴィロフが敬礼し、質問する。


『スタヴローギナ少将殿!!』

『質問があります!』

『その目標とは何でしょうか!?』


『不死身の男とその婚約者……』

『そしてその男の兄よ』

『2週間以内に彼等を始末し、イーチカを奪取するわ』


『ま、まさか……あの王族達を!?』

『それはスウェーデン王国に宣戦布告するのと同義です!』

『つまり……NATOと2度目の直接対決に……』

『流石にそれは……!大統領に諮らないと不味い案件で……』


マルファは《イジェメック MP-443》を取り出し、ヴァヴィロフの足元に撃つ。

銃声がヴァヴィロフと将兵達の鼓膜を痺れさせる。


【ヴァヴィロフ……】

【これはお願いじゃないの……】

命令(・・)なのよ】

【分かるわね??】


司令部が戦慄に包まれ、女帝の深い怒りを感じ取った兵士や将校達は慄然として硬直する。

だが、ドMなこの男だけは興奮していた。


(て、手加減無しの女帝モード……)

(心から感謝するぞ!不死身の男……!)

(また大きく(・・・)なってしまうじゃないか……!)


マルファは専用の椅子に腰かけると、その長くスラリとした足を組む。


ГЛОНАСС(グロナス)(※1)の軍事チャネル専有許可申請を】

【ジーカの【カチューシャランドセル】と連携、大量のミサイル攻撃を加えた後……】

【【ケストレル】と【ネクスト・ペルーン】をぶつける作戦で行くわ】


『ま、まさか首領(ボース)を……!?』


【そうよ】

【そろそろアレクセイにも働いて貰う時が来たわ】

【ゲオルグとヨハン相手なら、絶対に必要な戦力だから】


ヴァヴィロフは息を飲む。

そして汗を頬に伝わせながら言う。


『もしそれでも駄目な場合は……』


【核を使うわ】

【私自らイーチカを奪取した後でね】


『か、核……!!』


将兵達は核という言葉を聞き、苦しそうに息を呑む。

ヴァヴィロフはマルファの放つ圧と言葉で絶頂しかける。


(戻って来た……!戦争の魔女(バーバ・ヤーガ)が……!)

(お待ちしておりました!!)


そして、彼女の背後から闇が広がって行く。


【当然でしょ?】

【あのおバカ王子が使って良い、って自ら啖呵を切ったのだから】

【覚悟を示して貰わないと不公平ではなくて??】


闇が彼女を包み、その中で黄金色の瞳が妖しく……そして歪んで煌めいた。

※1 

ロシア政府とロシア軍が運用している、全地球測位衛星システム。

平たく言えば、ロシア版GPS。英語名でGRONASS。

マルファお姉さんは人工衛星群の軍事的能力を全部使わせろ、と仰っています。

無茶苦茶やでもう。


クレポスツ → ロシア語で『要塞』という意味。


バカ王子のお陰で第三次大戦が起きそうです。

ぴゃぁぁ……王子が起こす事件は毎回スケールが違い過ぎて眩暈がしそう……

アーデルハイドの場合は案外綺麗に完結するんだけど、

王子の行動はバタフライエフェクトを起こしていく感じ。

最早楽しい。


そしてマルファお姉さんは旭川侵攻の時より更にマジモードです。

些細な口答えすら許さないのは、相当にお怒りです。超こわい。

お姉さんの軍人としての超絶スキルが、100%発揮される戦いになると思います。

その時は優しい『マルファお姉さん』では無く……

冷酷無比な超精鋭ベテラン軍人『スタヴローギナ少将』として、イチカ達の前へ姿を現す事でしょう。


バカ王子のお陰で、穏便かつ遠回しなルートは取れなくなりました。

でも、こうなるのは時間の問題だった気もする。

それが早まっただけ、という見方も出来ます。

しかし、レナとクレイエルの存在がお姉さんの計算からは外れています。


ただ、ゲオルグを殺すという事はイチカの子供の父親(現段階では可能性)を殺す、という事です。

ここまで来たら、それはもうお姉さんの完全なるエゴです。

ただ、お姉さんはそれを【愛】と認識しているのが厄介です。

父親を早くに失ったイチカがどうなったか……母親が彼女にどういう扱いをしたか……

それらをしっかり認識しているのに、敢えて誤魔化してスルーしている。

イチカは代用品、とマルファに指摘したゲオルグは流石に慧眼です。


果たしてイチカはマルファお姉さんの【愛】を受け切れるのでしょうか?

お姉さんの【愛】は母親の独善的な愛に極めて近い。

つまり彼女と戦う事は、亡くなった母親と再び向き合うに近い事だと思います。

でもその振り返りはもう避けられないなって、同時に思いもします。


味方が敵になったり、敵が味方になったり……

イチカは間違いなく自分の人生を生き始めた、という証拠です。

この繰り返しが彼女にとって良いかも。

誰かがずっと味方である事は有り得ないし、誰かがずっと敵である事もあり得ない。

不器用な彼女らしい人生で好き。


もし、マルファと戦うとすれば、それは彼女が母親としてやっていけるかどうかのテストになる。

彼女の心はやっと13歳の少女から卒業したばかりなので、相当しんどい闘いになる。

ただ、結果はどうあれ、彼女はそういう葛藤や試練からもう逃げない……

そういう姿勢を見せてくれると思います。


さて……何処で仕掛けてくるか。

お姉さんのお手並みを拝見致しましょう。


ここまでお読み下さりありがとうございました。


「面白かった」「次も期待している」「ガキ過ぎる~~!このアラサー共~~!」

「レナちゃんが一番大人ってどういう事だ」「ふみふみもかなりアレだな」

「ふみふみと和解して良かった」「イチカ、成長してるな……」

「SNS更新してくれてるんだな、ハルカ……」「一発必中とはたまげたぜ」「アイカとゲオルグのやり取り好き」「案外関係性悪く無いな、この二人」「覚悟の決まってる王子好き」

「軍人モードのマルファカッコ良いな……」「今回のマルファは本気で怖い」「母親は母親でももう毒親の領域だろコレ……」「変態はやっぱ強ぇな……」「本気で核使う積りなんだな……」「一体何が始まるんです!?」


と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。

宜しくお願い致します。

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