私の地獄には音楽が絶えない(後編)
星の反対側までブチ抜いてやる!!!
観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=MQdhDL3itOo&list=PLmnFad50bvd7DRXCK3O270JPjccX7MheO&index=10
~ルスツリゾート遊園地ダンジョン~
赤と黒の巨大戦闘ロボットは拳を構える。
《《《行くぜ……!!ウツボ野郎!!》》》
《《《殺戮の天使がどういうモノか……》》》
《《《魂で味わいやがれ!!》》》
ウツボロボット野郎は咄嗟に距離を取り、ハニカム型の薄いエネルギーフィールドを張る。
《《《無駄だ!!》》》
《《《殺戮爆愛光!!》》》
【ベリアルナインドライ】から放たれた赤黒い光により、エネルギーフィールドはかき消された。
【【【!!?】】】
【【【アリエナイ!!アリエナイ!!】】】
《《《オラ!!ボサッとしてんじゃねーぞ!!》》》
《《《有り得ない事が起きるのが戦闘なんだよ!!》》》
《《《インフィニティデストロイナックル!!》》》
赤黒い機体はダッシュして跳ぶ。
そしてウツボロボット野郎に上空から殴り掛かり、脳天から拳を叩き込む。
《《《おおおおおおおおっ!!》》》
拳は脳天を押し込み、地面へめり込ませて行く。
ウツボ野郎は抵抗するが、どんどん下へ下へとめり込んでいく。
《《《このまま最下層までブチ抜いてやるぜぇ!!オラァァァァ!!》》》
【ベリアルナインドライ】から放たれる赤黒い光は更に強くなる。
地面はウツボ野郎を楔にして、メリメリとヒビ割れて行く。
《《《感じるぜ!!【ルキフェル】!!【ルキフグス】!!》》》
《《《お前達のエネルギーが流れ込んで来るのを!!》》》
遂に【ベリアルナインドライ】の拳はウツボロボット野郎を地面ごとブチ抜き、伸びて行く。
各層の地面が崩壊して行く音が1層にまで響く。
《《《星の反対側までブチ抜いてやる!!!》》》
ウツボロボット野郎はとっくに潰れたスチール缶みたいになっていた。
だが、【ベリアルナインドライ】の殺戮の拳は止まらない。
《《《ヒャハハハハハハハ!!》》》
《《《ウツボ野郎一名様、宇宙へご案内!!》》》
拳は空間位相のズレをも突破し、地球のマントルを突き抜けて行く。
敵は既に燃え滓になり掛けていたが、無事内核を突き抜けて地球の反対側の成層圏まで吹き飛ばされた。
【ベリアルナインドライ】の腕が元に戻って行く。
《《《モーンケ!!生きてるか!?》》》
モーンケは瓦礫の隙間から這い出て来る。
『ああ!!生きてる!!』
『自分でもビックリだ!!』
《《《道案内再開だ!!》》》
《《《このまま一気に攻略してやる!!》》》
『待て!!俺には移動手段が……』
その時、自称天使達がホバーバイクに乗って逃げようとしていた。
彼はそれを見逃さず、彼等を撃ち殺してバイクを奪った。
『問題ない!!』
『今移動手段をゲットした!!』
《《《お前……私より容赦無いな》》》
《《《出会って2秒でコトに及ぶタイプだろお前……》》》
モーンケはホバーバイクに乗って、大穴に飛び込む。
【ベリアルナインドライ】もそれを追って飛び込んでいく。
降下していく彼は目を見開き、途中の層にバイクを停める。
《《《どうした!?モーンケ!》》》
《《《小便か!?気にするなよ!》》》
《《《男のアレを見たってどうと思わねぇからよ!(嘘)》》》
モーンケは歪んだ扉を蹴り飛ばす。
青色の灯りが点灯する。
そこには──
《《《オイ、コレ……》》》
『……牧場だ』
『但し、飼ってるのは牛や豚じゃない……』
『人間だ』
首に機器を嵌められた、裸の人間達が飼われていた。
《《《ファック!!》》》
《《《ライミー共め……!奴隷貿易の逆をやりやがったな!!》》》
『そして……コイツ等に投資・協力した奴が居る』
『家畜には飼料が必要だ……』
モーンケは思わず銃を壁に叩きつけそうになったが、ギリギリで抑えた。
《《《こんな人間を家畜の様に扱う事業へ出資するなんて……》》》
《《《【セムヤザ】のヤツしか居ねえ……》》》
《《《だが、創造主を崇めてる自称天使達を裏で笑い物にしてそうだぜ、アイツ》》》
《《《毎回呆れる程の性格の悪さだな》》》
『【セムヤザ】……?』
『し、知り合いなのか!?』
《《《ちょ~~と前の世界で世話になったんだよ》》》
《《《最後にはヤツの造った宇宙都市を焼いてやったけどな!!》》》
《《《アイツはおちょくりまくるとキレて人格変わるんだ!面白れぇだろ!?》》》
【ベリアルナインドライ】は拳を突き上げる。
モーンケは言う。
『……俺にはアンタが至極まともなヤツに見えて来たよ』
『しかし……宇宙都市……』
《《《ソレを作る為に、ヤツは30億人の貧民を犠牲にした》》》
《《《英知の結晶だか科学の粋だから知らねぇが……》》》
《《《溢れまくった問題を解決せずに、宇宙へ逃げただけだぜ!》》》
《《《良いか!モーンケ!問題は解決しなきゃならねぇ!どんな方法でもな!!》》》
モーンケは息を呑みながら返答する。
『……最終的解決か』
《《《そうだ》》》
《《《私はそれを創造主へ迫ったが為に、地獄という名のダンジョンへ堕とされた》》》
《《《マジでクソばかりだ》》》
《《《【カリュドーン】があそこまでイカれたのも頷けるぜ》》》
《《《……で、お前はこの家畜達をどうしたい?》》》
彼は【ベリアルナインドライ】の問いに目を丸くする。
『お、俺が決めるのか……!?』
《《《お前が第一発見者だろ》》》
《《《なら、どうするか決めるのもお前だろうが》》》
モーンケは家畜を眺める。
最早ソレ等は人間としての言葉も意志も奪われ、彼を見ながら手を伸ばすだけだった。
彼の脳裏に、かつて実家の牧場で見た光景が甦って来る。
『俺は……俺は……』
彼は誰よりも家畜の世話をしていた。
だから引き金に指をかけた。
彼は誰よりも知っていた。
家畜は家畜としてしか生きられない事を……
『うおおおおおお!!!』
『おおおおおおおおっ!!!』
彼は雄叫びを上げ、家畜達を撃ち殺して行く。
彼の眼にはかつて廃業に伴って処分されていった、牛や羊達の姿が映っていた。
『こうするしか……こうするしか無かったんだ!!』
『生き延びる為にはこうするしか無かったんだ!!』
彼は泣き叫びながら、尚もマガジンを交換して撃ちまくる。
『俺は親父みたいに自殺したく無かったんだ!!!』
突如、銃弾は巨大な紅い指に防がれる。
彼は肩で息をしながら、その場に座り込んだ。
《《《もういい!お前は良くやった!》》》
《《《後は私に任せろ!》》》
紅い光が牧場を包んでいく。
家畜となった人間達は、迫りくる光を呆然と眺めていた。
《《《恨……いや、そんな感情も無くしちまったか》》》
《《《じゃあな、来世ではもっと人間らしく生きられる事を願ってるぜ》》》
紅い光が牧場を焼き、光の柱が1層まで突き抜けた。
~同時刻~
~オランダ王国~
~アイントホーフェン・《エグレゴール》本社~
『……お兄様』
『【ベリアルナイン】が覚醒したのを確認しましたわ』
『……質量保存の法則すらをも、完全に無視した戦闘を繰り広げています……!』
『……私の名と力を借りたからには……もう少し頑張って欲しかったですね、MI6には……』
『元より大して期待などしていませんでしたが』
『寧ろ……アーデルハイド達を強化してしまったとさえ言える……』
ラロシェルとヴィナは専用オフィスへ入って行く。
(やはり……紛い物共では彼女達を止められませんか……)
(まぁ創造主なんぞを信仰し、天使を自称している時点で多寡が知れてますがね)
(本物の天使ならば……一つの文明をいとも簡単に滅ぼせるし、ヒトなど喰う必要性もない……)
ラロシェルは椅子に座り、窓に向かって回転する。
『そろそろ……クレイエルとその配下達には本来の仕事をして貰いましょう』
『【企業連合国家】の旗揚げ……そして、各国戦力の殲滅です』
『予定より少々早いですが……【ベリアルナインドライ】に横腹を突かれては堪らないので』
『……出来ますか、彼等に』
『【ネクスト・ペルーン】や【ケストレル】が絶対に立ちはだかって来ますわ』
『ははは』
『空軍の殲滅自体は出来ますよ。1年位は掛かると思いますが』
『後者2つは状況次第でしょう』
『問題は、その2つともをあの魔女が抑えている事です』
『何かに付けても、あの魔女が問題になりますわね……』
『ロシア軍との戦闘は最後に回した方が良いでしょう』
『彼がずっと言う事を聞いてくれれば、のシナリオですが……』
ヴィナはソファーに座り、クッキーを砕いてコーヒーカップに入れる。
『であれば……』
『まずは自衛隊から、ですか』
『彼の能力を測るにも丁度良い対象かと思いますわ、お兄様』
ラロシェルは珍しく考え込み始める。
そして数十秒後、いつになく真剣な口調で語り始めた。
『……日本政府……いや、その実力組織の動きに違和感があります』
『ここ数日、組織間で人とパケットの往来が頻繁に見られるようになりました』
『が、まるで何かに化かされたように実態を掴めない……』
『油断ならない人物に、あの国の武力は統率され始めている』
『……アイテムの力による可能性が高そうですわね』
『警察や軍隊、もしくは省庁に探索者が居て、その人物が……?』
『しかし……日本の官僚組織は縦割型で、他部署や他組織の干渉を嫌いますわ』
『もしかして……組織の統合が始まっているとか……?』
『恐らくそれが正解です、ヴィナ』
『そして可能性として高そうなのは、警視庁の対ダンジョン専門部隊の実質的な指揮官……』
『ヨウコ・シジマです』
『動機も経緯も能力も不明ですが、行動には対処しなければならない』
ヴィナはスッと立ち上がり、上着を脱いで言う。
『……先に東京支社へ行ってますわ、お兄様』
『やはり現地に居なければ、このスピード感には対応出来ませんわ』
『なら護衛としてヤーフェルを連れて行って下さい』
『彼女なら、必ず貴女を生かして帰す事が出来る』
『私はクレイエルとラムシュタイン空軍基地で会って来ます』
ヴィナは続いてなぜかシャツも脱ぎ始める。
『……お気をつけて、お兄様』
『クレイエルは何を考えているか分からない男ですわ』
『最近の彼は特に……』
『服を着て下さい、ヴィナ』
『過剰な露出は寧ろ色気を損ないます』
『年齢を弁えない恰好をしているなら特に……』
彼女はしぶしぶ服を着る。
『私の露出趣味をまだご理解頂けないのですか?』
『魂で理解出来ません』
(私は風が吹いて、足や首元が見える程度で丁度良いんです)
『そ、そんなに拒絶なさらなくても……!』
『しかし……私の身体にも靡かないとは、流石のお兄様です……!』
ラロシェルは身を捩るヴィナをスルーする。
『……クレイエル』
『世間は彼を英雄や勇者と持ち上げますが……』
『彼の本心を、一体何処まで理解している積りなのでしょうか』
ヴィナはシャツのボタンを留める。
『……古代中国にはこういう諺があると聞きましたわ』
『【燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや】、と』
『屋根を飛び交う小鳥には、大空を駆ける大鳥の気持ちや考えは分からない』
『私達が彼の考えを少しでも理解出来るのは、天の眼を持っているからに過ぎないのかもしれませんわね』
『……言い得て妙ですね、ヴィナ』
『彼は地に這う者全てを見下ろせますが、私達はその更に上から俯瞰出来る……』
『しかしその黒い鳥が何を考えているのか……そこまでは読めなくなって来ている』
『折角ユートピアを築いても、襲撃され墜とされては意味がありません』
『……もしそのユートピアが人類最後の安住の地になるとすれば……』
『彼は人類史上最も多くの人間を殺した人物になるでしょう』
『当然、そんな事は避けたい』
『だからこそあのラットがキーなのですよ』
『黒い鳥の心と思考をハックするパスは、一人の……いや二人の少女でした』
ラロシェルはサーバーの群れを眺める。
『ハッキングでもビジネスでもですが……』
『重要なのは、まず対象の心理を理解する事……』
『例え専門的知識が無くても、対象に精通していればそれだけでパスが割り出せる』
『ケヴィン・ミトニック(※1)が数々のハッキング行為で示した事実なのですが……』
『どうにも忘れ去られている気がします』
『だからビジネスでも成功出来ず、失敗し続ける者が増えて行く……』
『皆映画の見過ぎなのかもしれませんわ』
『重要なのは発想の転換と柔軟性……』
『そして徹底的なリサーチですわ』
『然り』
『そしてそれは普段の地道な努力無しには成し得ない』
『更に重要なのはその努力のサイクルを如何に効率的に……如何に早く回すか、という事です』
『だからこそ、その辺りを完全に理解しているマルファは手強いライバルです』
『そして……アーデルハイドを排除したい理由でもあります』
ヴィナは紅茶をカップへ注ぎ始める。
『……人間がアイテムを選ぶように、アイテムも人間を選ぶ……』
『【堕天使原理】や【ベリアルナインドライ】を観察して理解出来てきましたわ……』
『積み重ねやプロセスを無視して、一気に目標へと到達出来るその願望達成能力……』
『それこそが……アーデルハイドという脅威の本質だと』
『そして……私が最も嫌う所でもあります』
『もしアーデルハイドが世界の支配権を握れば、人類は二度と進化する事など叶わなくなる……』
『理性と学術の楽園は崩壊し、暴力と狂信と混沌が世界を支配するようになる』
『完全なる中世への逆戻り……それは私の到底許容出来る所ではありません』
ラロシェルは飴が大量に入った瓶の中へ、その白い手を突っ込む。
『……ご同類も次から次へと湧いて出てくるでしょう……』
彼は大量の飴を掴むと、粉々に握り潰して行く。
飴の破片が瓶の中で飛び散る。
『……全く堪らない』
『少し疲れました』
『……私は少し休みます、ヴィナ』
ラロシェルは目を閉じてソファーへ横になった。
※1:アメリカの伝説的なハッカー。ソーシャルエンジニアリングの達人。
簡単に言えばラロシェルやミューゼ、レナ達の大先輩です。
というワケで自称天使の人食い種族は、絶滅が確約されました。
【ベリアルナインドライ】は静かで落ち着いていますが、かなりキレています。
人間牧場はやりすぎだけど、穀物や家畜食うなって言う様な感じだし、難しい。
そして普通に超高レベルダンジョンですね、ここ。
MI6はスタンピードをコントロールしつつ、向こうの産物や兵器を輸入していました。
無論対価は人間です。あと麻薬。
大西洋奴隷貿易の逆バージョンみたいなもんです。
前科はあるから楽勝よ。まあいつものブリカスです。
というのはさておき、ロボ系アイテムとしては最強クラスです。
潜在能力は【レイヴンズマハト】や【ベイヤードセイバー】に劣りません。
何よりヤバいのは、精神合体で物理法則を軽く超えて来る所です。
前者二つもまともなロボじゃありませんが、【ベリアルナイン】程では無いです。
【ベリアルナイン】は、限りなく創造主に近いロボ系アイテムだと思って良いです。
それでも【レイヴンズマハト】や他のロボ系アイテムに負ける世界があったので、このレースは怖い。
【レイヴンズマハト】は技量と思考が人外染みた人間を選ぶ傾向がある、とだけは言っておきます。
ネクストAC 対 ユニコーンガンダム 対 アクエリオンみたいな戦いが、何処かで発生するかも。
北海道どころか世界がこわれる。作者もこわれる。
物語どころか神話創ってるよ。
ラロシェルはアメリカどころか、既存の体制そのものへクーデターを起こす積りです。
クレイエル達を使って。
ただ本人も言ってますが、クレイエルの深層心理までは把握し切れて無いのがリスクです。
クレイエルはヴァヴィロフとヤストレブ同時に相手にして、ヤストレブを撃破までしているので、
戦力としては世界最強クラスです。
彼より上はもうベルナルドとかラインバウトとかそんなんです。
マルファお姉さんでも正面から止めるのは難しいかも。
四十万は思わぬダークホースになりそうです。
本当の姿を隠す事に関して、妖怪は超一流なんだ。
ラロシェルに今まで気づかせなかったのは、本当に褒められて良い。
本人としてはイチカに褒められたくてしょうがないだけですが。
愛の勝利ですねぇ。歪んでるけど。
ラロシェルに比べたら、四十万はまだネジくれたお嬢さんって感じです。
彼は愛とか美しさを囁きながら人間を実験動物に出来る奴なんで、比較にならない。
必要とあらば自分ですら実験対象にする。もうしてるかも。
ただ、マルファお姉さんやハルカ、アーデルハイド、ベルナルド、ゲオルグ、マルティーニ、ラインバウト、リヴァとやり合うにはこれくらいでないと無理だなぁ、と。
四十万はこんな人外達とも戦わないといけません。あぁ、妖怪だから平気か。
聖女は向こうで雪萌えパフェでも食べてて下さい。
四十万は本当に面白いな……てか最近可愛くなって来た。
彼女にとってはイチカを自分の隣に据える事が出来たら、絶頂モノでしょう。
その場合は多分同棲になる。
別々の場所に住む?んなワケが無ぇ。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「次も期待している」「アイテム自体が質量保存の法則に反してるだろ」
「もうムチャクチャだな、【ベリアルナインドライ】」「モーンケ……」「悪魔と言うには優しすぎる」「もう絶滅しかないだろ、この生き物達は」
「やっぱ覗いてやがったコイツ等……」「ラロシェルはさぁ……」「レナちゃん大丈夫か、コレ」
「マジで何考えてんだクレイエル」「四十万に対する評価が結構高くて草」「雪萌えパフェ食べたい」「ラロシェルの性癖は理解出来る」「コイツ寝るんだ……」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します。