番外編:妖怪警官の捩じれた一日①
気分&場面転換も兼ねて今回は四十万の一日を。
アラサー警官のおもし……興味深い生態をお気軽にご覧下さい。
観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=jNoVrGOu-dI
~時刻AM5:45~
~東京都・某賃貸マンション(事故物件)~
四十万警視の朝は早い。
お手製のイチカぬいぐるみ(使用済)を脇に置き、カーテンを開ける。
部屋に陽射しが入り込み、部屋が明るくなった。
「……鬱陶しい光ですねぇ……」
「《幻影幻灯幻夜》起動」
アイテムによって、四十万の居るマンションの上空だけ暗くなって行く。
彼女は満足げに、数々のトロフィーに囲まれた写真立てを眺める。
そこには警察官の制服を着た彼女とイチカが写っていた。
無論AIによるコラである。
「絶対に手に入れて見せますからねぇ……」
「クリスティナ……(ニチャァ)」
お人形みたいな綺麗な顔が、気持ち悪い笑顔で汚くなる。
彼女はフラフラと廊下を歩いていく。
廊下には水着やスーツ姿の、イチカのポスターが貼られていた。
これも無論AIによるコラである。
「今日の昼飯は手作り弁当で行きますか」
「【お手製クリスティナ泣き顔弁当】です」
「瞳の辺りを梅干しにするか、ミニトマトにするか……」
「悩みどころですねぇ……あははは……!」
そしてレンジを起動してパック米を放り込んだ彼女は、
藁人形を棚から取り出す。
そこにはアーデルハイドの顔写真(無断使用)が貼り付けられていた。
「今日はアーデルハイドって気分ですね」
「そーれ!」
彼女は金槌を持ち、釘を藁人形へ打ち付けて行く。
壁には無数の穴が開いていた。
「早く!死んで!下さいよぉ!」
「この腐れピーッが!ピーッが!」
もはや敷金とか修繕費用とかそんな事は頭から吹き飛んでいた、四十万だった。
レンチンが終わり、正気に戻った彼女は金槌を放り出し、
パック米を弁当へ詰めて行く。
「今日の朝飯はどうしますかねぇ……」
「朝マックにしますか」
「いや、今マック行くとアーデルハイドの顔思い出すんで止めましょう」
「薄幸系美人で男ウケしそうなツラなのが、余計ムカつきますねぇ」
「……リンをパシらせて、ドトールで何か買わせておきますか」
リンの朝のスケジュールが確定した。
残念だったにゃあ。上司は四十万なんだにゃあ。
四十万はテレビを付け、弁当を作りながら朝のニュースを聞き始めた。
《では次の二ユースです》
《【エグレゴール】CEOのラロシェル・ファン・デーフェンテル氏が、近々来日するとの事で……》
「あの胡散臭いオランダ人、とうとう日本をロックオンし始めましたね」
「穏やかなインテリイケメン顔してますが……絶対性格悪いですよ、あの赤髪」
「《エデンギア》なんて怪しいモノ買わなくて正解でした」
「第一、イチカを泣かせる以上に楽しい事なんて存在しませんよ」
四十万の辞書に【客観性】なる言葉は存在しない。
10数分後、弁当を作り終えた四十万はシャワーを浴びに行く。
彼女は鏡に映った自分を見てニヤけ出す。
「ふぅ……」
「やはり綺麗ですねぇ……私の身体は……」
「あ。毛が伸びていますねぇ。剃らないと……」
数分後、四十万はシャワー室から出て来て身体を念入りに拭き始める。
「いつクリスティナと遭遇するか分からないですからねぇ~~……」
「何が起きても良いように常に準備しておく」
「デキる女の基本です」
彼女の均整の取れた体に、下着が貼り付くようにフィットして行く。
彼女はタブレットを起動し、報告書や各種のデータに目を通し始める。
「……このヨハンってスウェーデン人……」
「要チェックですねぇ」
「強力なアイテムを複数持っていそうです」
「にしても行動がアレなイケメンや美女が多いですね、最近は」
繰り返し言うが、彼女の辞書に【客観性】の3文字は無い。
彼女は報告書やデータをチェックし終えると、化粧を始めた。
「ふんふんふん~~♪」
「わたし~~の~~クリスティナぁ~~♪」
「貴女は美人、私も美人~~♪」
彼女は防弾仕様のスーツに袖を通し、カーテンを閉めた。
~時刻AM7:15~
~駐車場~
「……上杉警部からメールですね」
「何々……?」
「《今日は新たにオープンした茶屋に行くので、有給取ります》……?」
「クソ忙しいこの時期にフザけてるんですかねぇ、この天然姫カット女」
四十万は溜息を付きながら黒塗りのSUVに乗り込む。
そしてスマホを弄り、曲をかけ出す。
曲名は彼女が【つくねみく】の人工音声とAIアプリで作った、
《イチカ泣かせ隊けど嬲り隊》。
「■■■■■~~」
「■■■、■■■■……■■■■■~!」
(※諸事情により、歌詞はお見せする事が出来ません)
黒塗りのSUVは駐車場を出て、一般道へ入って行く。
しかし、渋滞が発生し、四十万はハンドルを握りながらイラつき始めた。
「仕方ないですねぇ~~」
「迂回しますか」
四十万のSUVは高速に入り、高速道路を疾駆して行く。
そしてその横を黒いバイクが二台、猛スピードで通り過ぎて行く。
「……警官の目の前でスピード違反、それも二台とは良い度胸ですが……」
「生憎私は交通課じゃありませんので」
「まぁ連絡ぐらいはしておきますか」
「にしてもスゴいバイクテクですねぇ……特に男の方」
彼女はスマホで所轄の交通課へ連絡し、欠伸をしながらアクセルを踏み込んだ。
バイクに乗った二人はハンドサインを交わす。
(流石に飛ばし過ぎじゃないのか?ティフォン)
(今の黒い車に乗っていたのは、多分警官だったぞ)
(いえ!早くヴェルナール氏に会わないと!)
(ユクセル様のお望みを一刻も早く叶える為に!)
(そして、温泉に浮かぶユクセル様のおっぱいを……!)
(……呆れた女だ)
~時刻AM7:35~
~桜田門組本部……ではなく警視庁庁舎~
~駐車場~
四十万は車から降り、ドアを閉める。
そこにはリンが既に待機していた。
「おはようございますにや、四十万警視」
「今日も予定が山積みですにゃあ」
「いつも早く来ててえらいですねぇ、リン巡査部長は」
「ご褒美です」
「今からドトール行って、コーヒーとホットドックを買って来て下さい」
「あとソフトクッキーチョコチップもです」
「にやっ」
「どうしました?」
「早く行かないと始業時間へ間に合いませんよ」
「は、はいにゃぁ……」
リンは肩を落としながら、渋々車に乗って行く。
「素直でかわいいですねぇ、リンは(ボソッ)」
四十万の甘い呟きに、彼女の猫耳がピクッと反応する。
リンの車は猛スピードで駐車場から出て行った。
「さて……」
「ここからは気合を入れませんとねぇ」
四十万はエレベーターに乗り、手すりへ腰掛ける。
扉が開き、数人の男女が入って来る。
「おはよう、四十万警視正」
「……何故それを?」
「既に内定が出たと専らの噂だ」
「あれだけの事件を起こしてるのに……」
「やはり……」
「やはり、なんです?」
「それに人の噂をしていられる程、もうこの職も安泰じゃありませんよ」
「例えキャリアと言えどねぇ」
「……!」
相手は押し黙り、それ以降は気まずい沈黙がエレベーター内を支配した。
四十万は扉が開くと共にエレベーターを出て行く。
「おはようございます、警視」
「東京都現代美術館ダンジョンへの出動、何時でも出来ます」
彼女がオフィスに入ると、一際背の高い男が声を掛けて来る。
「おはようございます、大道警部」
「相変わらずデカいですねぇ」
「今日も頼りにしてますよ」
四十万は身長2mは超している大道を見上げる。
大道は敬礼する。
「は!」
「何時頃お出になられますか?」
「そうですねぇ」
「9時頃にしましょう」
「午後2時には皆で昼ご飯にしたいので」
「それと来週は休暇を取って良いですよ、警部」
「授業参観、あるでしょう」
「……ありがとうございます!」
「しかし、そうなると予定上、上杉警部が10連勤に……」
四十万の目元がピクつく。
「今日、彼女は何処にいると思います?」
「自分の家でスイーツとお茶巡りの準備ですよ」
「流石は資産家のお嬢様、本当にいい御身分ですねぇ」
(……これはかなりキてる……)
(今日は荒れるぞ……!)
四十万は椅子にストンと座り、PCを開く。
お飾りの七課課長は彼女が来たのを見て、怯えながらモニタの影に隠れる。
「さて……先行部隊からの報告は……」
~時刻AM9:45~
~東京都現代美術館ダンジョン前~
「……あのオブジェ、刺激したらヤバそうだにゃ」
「きっとGANTZのイタリア編みたいになるにゃ」
「近接戦闘が多くなりそうにゃ」
「だから上杉警部には休んで欲しく無かったんですよ」
「まぁ、今回はゲストが来てるんでなんとか問題ナシ、ですね」
「張本警視、今日はよろしくお願いします」
壮年の渋いスーツ姿の男がタバコの火を消し、ダンジョンアイテムの拳銃を構える。
四十万は彼に言う。
「あの妖狐はどうしました?」
「討伐されて無残に死にましたか?」
「実の姉だろう……」
「そこまで悪し様に言うものじゃない」
「いや、言って良いぐらいの所業重ねて来てますからね、アレ」
「というかもう絆されてちゃってます??」
「……コメントは差し控えさせて貰う」
「……まぁ、何にせよ正直助かってますよ」
「あの姉は放置しておく方がヤバいですからねぇ」
「長官をペットにしていてもおかしくない女ですから」
「なんというか……流石は《ハリー》ですよ、あの姉が大人しくなってますから」
「まぁなんかあったら私に言って下さい」
「気遣いに感謝する、四十万警視」
四十万は黒い手袋を嵌める。
「さぁ、お喋りはここまでにして……」
「さっさとカタを付けましょう」
「規模も小さいですし、ギミックさえ分かればあっという間のハズです」
~4時間半後~
「上手い事攻略出来ましたねぇ」
「まぁ……またモンスターは発生するでしょうが……」
「一度攻略法が分かって居ればさしたる影響も無し、ですねぇ」
「1か月後を目途に、攻略法を公開しますか」
四十万は弁当箱を開き、【お手製クリスティナ泣き顔弁当】を見てニヤける。
大道が四十万の弁当を覗き込んで言う。
「け、警視……その弁当は……?」
「自分で作って来ました」
「モチーフはクリスティナの泣き顔です」
「赤い眼の部分を梅干しにするか、ミニトマトにするか……」
「結構迷いましたねぇ……フフフ……!」
「(絶句)」
リンは弁当を開きながら言う。
「四十万警視は器用ですにゃあ」
「私のは【にゃんにゃん揚げ物パラダイス】でーすにゃ」
「大道さんも唐揚げをお一つどうぞですにゃ」
「では遠慮なく……」
大道は長い指で唐揚げを摘む。
彼は唐揚げを食べた瞬間、その美味しさに打たれる。
「……!これは美味い……!」
「後でレシピを教えて下さい」
「妻に教えたいので」
「良いですにゃ!」
「ついでに玉子焼きのレシピもお教えしますにゃ!」
四十万は素早く各種の揚げ物を自分の弁当に放り込んで行く。
「あっ!警視!」
「お卑しはダメですにゃ!」
「うるさいですねぇ(モグモグ)」
「上司特権です(ムグムグ)」
リンはがっつく四十万を見て言う。
「……しかし珍しいですにゃ」
「警視がここまで食いつくなんて……」
張本もほっともっとで買ったカツカレー弁を食べながら言う。
「……確かに」
「事前のイメージとも全く違う……」
「皆私をなんだと思ってるんです???」
「まぁ……屋外で食べる揚げ物が好きなんですよ、私は」
「昔食べた唐揚げと玉子焼き、その味が今でも私の舌を支配してるだけです」
「本当に……それだけです」
「……」
四十万の眼には隣で自作の唐揚げを差し出してくる、笑顔のイチカが見えていた。
~時刻PM4:30~
~警視庁庁舎~
「……今日中に処理しないといけない書類が多すぎるにゃ」
「特にマルティーニの件の後始末がしんどすぎるにゃ……!」
「それに新組織の立ち上げも……今日は大残業確定にゃぁ……!」
「上杉警部!恨みますにゃぁぁぁ……!」
泣きながら書類を処理するリンの横で、四十万はハードグミを食べながら呟く。
「あのヤク中イタリアン……お脳の冴えも尋常じゃないですねぇ」
「ヤツの痕跡が何一つありませんよ」
「何より能力が厄介すぎます」
大道は大きな指で、器用にキーボードを叩く。
「分身……じゃなくて、分裂でしたか」
「もし無限に分裂したら、東京中がマルティーニで溢れ返ってましたね」
「考えたくない事ですが……」
「単体でも相当強かったですからねぇ、あのヤク中」
「正直メタ張らないと、こちらが物量で押し潰されますよ」
「出来ればベルナルドやアーデルハイドと消し合って欲しいですが」
「あっ、リン」
「な、なんですにゃぁ……?」
「お仕事追加です」
「防弾ベストの発注先コード間違えてますよ」
「決裁、イチからやり直しです」
「うにゃゃぉぉぉぉん!」
~時刻PM11:30~
~警視庁庁舎・地下駐車場~
「リン」
「今日は疲れたでしょう」
「送って行きますよ」
「あ、ありがとうございますにゃ……」
「でも家が反対側ですから新宿まで送って頂ければ、ですにゃ……」
「……私に気遣いは無用ですよ」
「だから飛ばして行きます」
「警視ぃぃぃぃ~~!」
リンは四十万に泣きながら抱き着く。
四十万は迷惑そうに眉を顰めながらも、満更では無さそうに口元を緩めた。
~時刻AM0:30~
~四十万の家(事故物件)~
「この物件幽霊が出るとか言いながら、出た事一度も無いんですよねぇ」
「化け物ばかり相手にしてますから、幽霊ぐらいじゃもう何ともない気がしますよ」
幽霊らしきモンスターは四十万のアイテムから漏れ出る妖気に怯え、
哀れベランダで丸くなっていた。
「さて……シャワーは庁舎で浴びて来ましたし、湯船に浸かるのは今度にしますか」
四十万は服をソファーに脱ぎ捨て、下着のままベッドに入った。
そしてお手製イチカぬいぐるみに抱き着きながら、天井に貼り付けられた少女時代のイチカの写真を見て、下腹部を撫で回し始めた。
「……大人になったクリスティナの写真が欲しいですね」
「私の心は未だあの時の輝きに囚われている」
「いえ、今はもっと輝いてますよ……クリスティナ……」
「そう、私の暗くて汚い部分でメチャクチャにしたいくらいに……」
四十万はイチカぬいぐるみを抱きながら寝返りを打つ。
(結局……夜はファミマのサラダと松屋の豚丼でしたね)
(北海道産の素材を使って、いつでも美味しい手料理が食べられる貴女が羨ましいですよ、クリスティナ)
彼女はカーテンの隙間から夜景を捉える。
(今日も……私は自分を騙し切る事が出来ました)
(クリスティナ……貴方ならこうするって、事を今日もやり切った積もりです)
(貴女には決して伝わらないでしょうけれども……)
彼女は目を閉じる。
そして静かに呟く。
「何故……何故……私から離れて行ってしまったのですか、クリスティナ……」
「好きで好きで愛して病まないから、イジワルするんじゃないですかぁ……」
四十万はイチカぬいぐるみ(お手製)に顔を埋める。
「それがあんな得体の知れないシリアルキラーや半グレ、おっぱいたぬきなんかと……」
「でも……しーちゃんって呼んでくれたのは本当に嬉しかったですねぇ……」
「本当に……」
彼女は引き締まった太ももで布団を挟み、そして目元から一筋の涙が枕へ染みて行った。
なお、この1日も特に反省自体はしなかった。
余談ですけど、つくねとネギって合いますよね。
スイカに塩レベルです。
②はまた何処かのタイミングで。
今度はアーデルハイドか九子、アインの一日ですね。
クレイエルかロベール、上杉ちゃんでも良いな……
戦友とドMも面白いかも。
マルティーニはヤク吸ってるか人殺してるか悪さしてるホープレスな生活なんで、どうしようかな……
ただコイツの過去とかが気になる人は居るかも。
悪さしてないと、タダのカッコ良くてスタイリッシュなイタリア男になってしまう。
話は変わりますが、近所のほっともっとは潰れて無くなってしまいました。
助かってたのになぁ……
張本さんの食生活はかなりリアル。
独身生活長いとこうなるよ。
多分これから餌付けされるんでしょうけれども。
>うにゃゃぉぉぉぉん!
昔リアルで聞いた言葉です。
うにゃゃぉぉぉぉん!
上杉ちゃんは当日いきなり有給取るタイプです。
しかも私用で。
色んな意味で宮仕えが向いてない女なんだ。
ただ、警官としても探索者としても、能力は超一級品です。
ただし明日から10連勤な。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「またこのシリーズ見たい」
「初っ端から中々の気持ち悪さ」「イチカの事しゅきしゅき大好きじゃん、四十万」「お手製は草」「弁当の名前で草」「上杉ちゃんが自由すぎる」
「大道さんがまともな人過ぎる」「リン可愛がられてるなぁ」「張本さんの食生活が心配」「うーんこの歪んだ愛」「普通に良い上司やってて驚いた」「イチカさえ絡まなければ……」「なんか憎めなくなった」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します。




