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現代日本プレッパーズ~北海道各地に現れたダンジョンを利用して終末に備えろ~  作者: 256進法
第二部:黙示録コンプレックス・in・北海道

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冥急エクスプレス(後編)

……乗客の皆様……死なないようお気を付けください……

【冥急エクスプレス】、間もなく発車致します……


観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=lNmFwSzy6kM&list=PLmOx8CVVYfY3kVqnC78iltBk1Cs7QdRXu&index=49


~先頭車両~


窓から最後尾の状況を見たハルカは言う。


「……そろそろ私も応援に行って来るよ」

「敵の数は増え続けてるし、レイカ達だけだと限界が来る」

「黒川君は運転席に隠れてて」


黒川は帽子を目深くかぶり直して言う。


「……死にますよ」

「【にちか】のように痛めつけられて……」


ハルカはサブマシンガンの安全装置を外す。


「それをさせない為に私は行くんだよ、黒川君」

「思えば、私の闘いはあの時から始まっていたんだ」

「この13年、私は過去から目を逸らし、闘いから逃げて来た」

「でも、もう今は違う」


「……!」


彼女は身を入れるようにして、後尾車両の扉を開けて行く。


「背中がガラ空きだぜ、兵隊さん」


ハルカは半グレと戦ってる鬼自衛官の後ろから、引き金を引いた。


「「「ハ、ハルカさん!!」」」


「本番はここからだぜぇ?」


彼女は倒れた鬼自衛官の背を踏みながら、銃口へ息を吹き掛けた。

新手の銃撃に気付いた鬼自衛官達は、分散して先頭車両へ向かって行く。


「うわ!?水の上を走ってるよ!!」

「烈海王じゃないんだからさ……!」


ハルカは割れた窓からサブマシンガンを乱射する。

しかし、鬼自衛官達は銃弾を全て避けきった。


「……っ!!」

「ダメだ!少しでも距離があると当たらない!!」


そして、数人の鬼自衛官達が車両へ飛び込んで来る。


(ヤバい、今度こそ死んだかも)


ハルカは半グレ達にアイコンタクトで撤退を促し、先頭車両へ後退していく。


「……!!」

「数が違い過ぎる……!!」

「でも闘うしかないんだ!!闘うしか!!」


半グレ達は次々と斬られ、撃たれて倒れて行く。

ハルカも左足と右肩を撃たれ、横向きに倒れる。

黒川は思わず運転席から飛び出し、彼女を引きずろうとする。


「それ以上はテロリストの幇助になります」

「隊長は貴方とこの列車をお望みです」


黒川は鬼自衛官に脇を掴まれ、その場から剝がされる。


「一体どういう……!?」


「自分達も理由は存じておりません」

「連れて来い、とだけ命令されています」

「さぁ、急いでこちらへ……」


黒川は見てしまった。

ハルカは血だまりの中で息も絶え絶えになりながら、

尚もサブマシンガンへ手を掛けるのを。


「ゼェ……ハァ……はひゅっ……はひゅっ……」


引き金が引かれ、鬼自衛官の一人に命中する。


「へへっ……油断するから……」


ハルカは震える手で、ファックサインを彼等へ向ける。


「「「貴様!!」」」


鬼自衛官達は一斉にハルカへ照準を定める。


「「「撃て!!」」」


だが、撃たれたのは射線に飛び込んだ黒川だった。

隊員達はショックで驚き、銃を下げて後ずさりする。


「……こ、後悔……しなくて済みました……」


倒れた彼は手すりや座席に手をつきながら、運転席へと向かって行く。


(そう、これで良かったんだ……)

(【にちか】と同じ間違いをせずに済んだ……)

(今度は……助けられた……)


「黒川……く……ん……」


そして彼は運転席にもたれ掛かりながら、スピーカーを取る。

車両の内装がありきたりな吊り革と広告から、近未来風の幾何学的な内装へと変わって行く。


《……乗客の皆様……死なないよう吊り革にお掴まり下さい……》

《【冥急エクスプレス】、間もなく発車致します……》


黒川は吐血する。

黒いスピーカーが、赤く染まる。


《市原さん……私は……》

《貴女が……好き……でした……》

《でも……言えなかった……言う勇気も無かった……》

《【にちか】の事で悩んでいた貴女に、声を掛けてあげられなかった……》

《けど……今度は違う……!》


黒川の命の灯が消えて行くのと同時に、列車は青い装甲に覆われ砲台が生えて行く。


《【冥急エクスプレス】起動……》

《無賃……乗車して来た……厄介者を……追い出して下さい……》


砲台が回転し、機関砲が上下する。


(──!?マズい!!)


キリエは跳んで後退し、部下達に無線で呼び掛ける。


《全員撤退!!》

《それか水に飛び込んで!!》


キリエはヘリから垂らされたロープに掴まり、

車両からは次々と鬼自衛官達が水へと飛び込んで行く。

それを見たレイカは怒声を上げる。


「おどれら!!」

「ここまでして逃げよるんか!!!」

「オマエ等のお陰で何人死んだと思うとるんや!!」


そしてキリエを追い掛けようとしたレイカを、高っちゃんが羽交い絞めにする。


「レイやん!!!」

「冷静になるんヤー!!」


レイカの手足から力が抜けて行く。

彼女の火傷で覆われた頬を涙が伝う。


「なんで……なんで止めるんや……」

「ここで追うの諦めたら……部下のアホ共にも……黒川にも……」

「私……ホンマもんのクズになるやんけ……」

「今まで……気張って来たのが……全部……全部……」


嗚咽するレイカを高っちゃんはそっと抱える。


「そう思うのなら……このダンジョンを完全攻略してやるんヤー!」

「それにハルカさんやエレナはまだ生きとるハズ」


「──」


「まずはハルカさんの様子を見に行くで」

「どうなんだい!?ワイの大腿四頭筋!!」


高っちゃんの大腿四頭筋が躍動する。


『見に行った方がイイヨー!レイやん!』


「高っちゃん……」


その時、アパッチ戦闘ヘリが【冥急エクスプレス】へ照準を定める。


「ダンジョンアイテムだろうが……所詮は列車!!」

「上から焼いてやる!!」


キリエは無線で操縦手を制止する。


《ちょっ待っ……!》

《どんなアイテムかも……》


「待てません!!今このタイミングしかない!!」

「対空兵器を持っていたら、こちらは終わりです!!」


戦闘ヘリから複数のミサイルが、【冥急エクスプレス】に向けて発射される。

血塗れのハルカが、既に事切れた黒川の手を握り、スピーカーを口元へ近づける。


(……アイテム使うって……こういう感覚なんだ……)

(この列車が私に語り掛けて来る……黒川君の声で……)


そして彼女は黒川の頭を自分の胸に寄せ、静かに言う。


《【冥急エクスプレス】第二段階起動》

《【誘導霊子キャノン】発射》


全車両の砲台がぐるりと回転して、戦闘ヘリの方を向く。

そして青色のレーザーが発射される。

レーザーはミサイルを追い掛けて撃墜し、爆発を突き抜ける。


「なっ──」


レーザーは戦闘ヘリを追い、操縦手は回避しようとする。

ハルカは息も絶え絶えに呟く。


《またの……乗車をお待ちしております……ってね》


戦闘ヘリを無数のレーザーが貫き、ヘリは爆発した。



~アメリカ合衆国・テキサス州~

~州都オースティン西郊外~

~巨大総合ハイテク企業・《エグレゴール》アメリカ支社~


【ははは……】

【感謝……まさに感謝という言葉しかない】

【このアイテムには命の強い輝きを感じますよ……!!ははは……!!】

【これだからダンジョンに関わるのは止められない……!!】


『昔好きだった女性を護る為に……素晴らしいですわぁ……』

『死ぬ間際に想いを伝えたのは、とてもポイントが高いですわよ!!』

『想いが決して成就し得ない事も含めて……非常に美しい光景ですわ……!』

『やはり報われぬ悲恋こそ、人の心を動かすのですね!』


オランダ式庭園風のオフィスに、ラロシェルとヴィナの拍手が鳴り響く。

女性記者は思わず嘔吐しそうになる。


(あんた等は人間じゃない……!)

(人間の命を見世物や玩具にしてる、神の如き怪物共よ……!)


ラロシェルは上機嫌でルービックキューブを手に取る。

彼の素早い指捌きにより、あっという間にキューブの面は揃った。

彼は指先でキューブを回しながら言う。


【そして嬉しい事に……まだ見所は尽きていません】

【ハルカ・イチハラは、このダンジョンが課してくる試験に合格し掛けている】

【私が試験作成担当者なら、次を最終試験にしますね】

【にしても……】


ラロシェルはヴィナへキューブを投げて渡す。


【レイカ・ケンザキ……油断のならない女です】

【頭のキレるはみ出し者程、私の創る世界に取って厄介な存在は居ない】

【あの忌々しいベルトランや、性根が腐り切ってるクラリスと同種の人種ですね】

【いずれ始末したい所ですが……】


ヴィナは素早くキューブの面を入れ替えて行く。


『【魔女】とのチェスが先ですわね、お兄様』

『まさか持ち駒ほぼ全てを投入して旭川を奪取するとは……』

『それにマルティーニの行動が全く読めませんわ』


彼女は一旦キューブの面をランダムに入れ替えた後、また綺麗に揃えて行く。


【CIAはもっと踏ん張れると見込んでいましたが、見込み違いでした】

【しかも《ティアマトの残滓》の輸送に失敗した、と……】

【やはり官僚主義とイデオロギー的幻想の中で生きて来た愚物共は、アテにならない】

【数十年も生きて来て、この世界が公平でも合理的でもない事に、未だ気付けない愚か者共です】

【そろそろ手を切るべきですかね】


『ではあの計画を……?』


【ええ】

【そろそろ私も直接動きます】

【そして……最後のピースを再びこの手に収めに……】


『まさか……』


ラロシェルは琥珀色のギターのレプリカへと手を掛ける。


【《ロックハッカー》】

【そして、この使い手であるミューゼ……】

【その二つを取り戻せば、私の計画を脅かす物は消え去る】

【その後は《黙示録》でも《魔女》でも、料理し放題です】

【アーデルハイドやマルティーニの如き病人共は、勝負にもならない】


彼は指を鳴らす。

シャッターが自動で開いて行き、テキサスの強い陽射しが部屋へと入り込む。


【この世界が私の手に入り掛けている……】

【新しい人類史の輝きは直ぐそこまで迫っています】

【さぁ……引き続き、前夜祭のイベントを楽しみましょう】


ラロシェルは陽射しをバックに手を広げる。

そして人ならざる翼の影が、彼の影から延びて行った。


黒川の想いと念はハルカへしっかりと伝わりました。

こういう人の感情や想いを無碍にしない所が、ハルカを好きな理由の一つです。

だからこそ、イチカにはメッチャキレたんだけども。

人間って難しいなぁ。そして面白い。


ラロシェルは人間以外の何かが、人間の真似をしているだけかもしれない。

この世の支配者に一番近い場所に居るヤツです。

だけどまだまだレースは途中だぜ。油断していると足元掬われるぞ。


ベルトランは兎も角、クラリスちゃんもラロシェルに何かやっちゃいました。

この娘を心底愛してるのはアーデルハイドくらいじゃないかな。

従姉のヴェルミーナにすら嫌われてる、ってよっぽどやぞ。

案外懐が深いんですよ、あのアラサーゴスロリ堕天使。


ここまでお読み下さりありがとうございました。


「面白かった」「次も期待している」「黒川……」「レイやん……」「こういう高っちゃん好き」「ハルカのしぶとさとタフさが凄い」「色々と凄まじかった」「エクスプレス強い」

「なんだこの兄妹……」「感性がもう人外」「一体ナニしたんだ、ベルトラン」「性根が腐りきってるは草」


と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。

宜しくお願い致します。



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