バイオレンス・ラブトレイン(中編)
観賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=PB9Mi_hf7og&ab_channel=JunoReactor-Topic
~西帯広駅~
「その止まってる電車……」
「貰えんのかい!!」
高っちゃんはポージングしながら駅員に迫る。
「こ、これは売り物では無いので……」
「というか運転再開の目途も……」
半グレの一人が音楽をかけ始めた。
曲名は『イッツ・マイ・ライフ』。
「フフフンフン、フーンフン~~」
「ハッ!」
高っちゃんの部下達から歓声が上がる。
「プラモデルのようなカットォ!!血管浮き上がってる!」
「肩にジープ乗ってる!!」
「でかいよ!仕上がってるよ!」
ハルカはハンドガンのスライドを引きながらレイカへ言う。
「……毎日こんなノリなの?」
「……せやな」
「最早アイツらは筋肉を育てる為にカネ稼いでるようなモンや」
「脳ミソまで筋肉になってしもた(遠い目)」
「ジム経営でもしたら?」
「……あんなのばかり来たら商売上がったりや」
「女性客も一般客も寄り付かん……」
「それはそうかも」
彼女は駅員の前に進み出て、駅員の腕にそのデカパイを押し付けながら言う。
「乗ってみたいな~」
「何にとは言わないけど~」
「だ、だ、ダメですよ……!」
「ふ~~ん……」
ハルカは下半身も駅員へ押し付ける。
「あっ、身体全部が当たっちゃった」
「これは事故だね~」
「事・故❤️」
駅員の脳が萎縮し、下半身に血流が集中する。
彼は背中に、何か固いモノが押し付けられている事に気付いた。
ハルカは駅員の肩に顎を乗せ、耳元で囁く。
「叫んだら撃つよ」
「動いても撃つから」
「もうキミに出来るのは……《イエス》か《はい》と言うコトだけ」
駅員は頷く。
「電車の操作方法をカンタンに教えて」
「その後この電車を使って亀裂に突っ込むから」
「乗客はもう……降ろしてるんでしょ?」
「は、はい……」
「で、ですが……!」
「上に何か言われたら、反社に武器で脅されたって言えば良いよ」
「JR北海道は赤字だけど優良企業だからね」
「キミは責任を取らなくて済む」
「抵抗したって美談にはならず、死体が一つ増えるだけ……」
「……!わ、分かりました……!」
駅員はハルカの顔を改めて良く見る。
「も、もしかして……!あなたは……市原さ……」
「じ、自分は高校の時一緒の学年だった黒川です!」
「な、なんで──」
「──人違いだよ」
「私のコトなんて、皆が見てるハズが無いよ」
「空気に徹してたんだよ」
「イジメで死んだあの子みたいにはなりたくなかったから」
「……今は何を……?」
「探索者」
「……いや、もう活動家と言い換えた方が良いかも」
「あの亀裂の奥にはダンジョンがある」
「私はそこに眠ってるアイテムを取りに行きたいんだよ」
黒川は息を飲みながら言う。
「絵を描くのは……」
「私……才能無かったみたいだね」
「なにもかもに負けて地元に帰ってきて、バイトで食いつないで……」
「気付いたらここまで来てた」
「……!」
「黒川君……」
「私達に運転操作を教えた後は、真っ先に家に帰りなよ」
「敵と戦闘になるから」
ハルカはレイカへ目配せする。
レイカは《烈鬼剣兼定》の刃をチラつかせる。
「敵?」
「敵って……一体……?」
「帯広駐屯地の自衛隊」
「多分北海道各地から増援も来る」
「北部方面隊もダンジョン攻略に精を出してると聞いてるからね」
「私は彼等より先んじて動く必要があったんだ」
「……!!」
「黒川君」
「君は全うに生きて」
「それは私達には決して出来ないコトだから」
「……さ、教えてくれる?」
黒川は頷く。
「市原さん」
「……もっと地元が裕福だったら」
「あの子が自殺しなかったら……」
「そうしたら、貴女の運命は変わっていたんでしょうか」
「……そんなの分からないよ」
「一寸先は闇だから」
その通りかもしれない、と黒川は言えなかった。
~15分後~
駅前で見張りをしていた半グレがホームに駆け込んで来る。
「め、迷彩服の男達や!」
「完全武装でこちら向かって来とる!」
「あいつらアカン……!抵抗したら殺す気の眼や!」
ハルカは運転席に乗り込む。
「さ、行こうかレイやん、エレナ、高っちゃん、皆」
「自衛隊は改心したってイチカは言ってたけど……」
「私ら反社は対象外みたいやな」
「外国人は殺さんようになっても、社会のクズはダメらしいわ」
「同じ日本人なのにな……」
「ハッ、笑わせよるわ……!」
レイカの《烈鬼剣兼定》が炎を纏い始める。
高っちゃんは黒パンツに手を入れ、準備万端となる。
ハルカは黒川へ逃げるよう促す。
「さ、逃げなよ黒川君」
「ここに居たら死んじゃうよ?」
しかし、黒川は運転席に戻る。
「運転手はこの黒川が務めさせて頂きます」
「車掌は市原さん、お願いします」
「……何故?」
「……死ぬよ?」
「もう逃げたくは無い」
「もう後悔はしたくない」
「……そう思っただけです」
黒川は出発のベルを鳴らす。
皆が列車に乗り込んでいく。
レイカは言う。
「高っちゃん!」
「最後尾は任せたで!」
「ワイとエレナは列車の上をやる!」
「まーかされた!」
「ハッ(笑顔)」
ホームの階段を自衛隊員が駆け下りて来る。
「止まれ!!そこの電車!!」
「止まらんと撃つぞ!!」
レイカは車両の上からファックサインを自衛隊員達へ向ける。
「止まれと言われて止まるバカがおるかいな!!」
「基地に帰って自分のアレでも磨いとけや!」
自衛隊員達はアサルトライフルを一斉に構える。
エレナは嬉しそうに叫ぶ。
『きゃー!』
『レイカさんかっこいいーー!』
そこへ車掌の声がホームへ響く。
《特急ハルカ30号!》
《ダンジョン行き、定刻通り出発致しまーす!》
電車が動き始める。
自衛隊員達は無線で連絡を取り合い始める。
《平良一尉に連絡を!》
《反社共に先を越されました!》
《了解!》
《射撃を許可する!》
《何としてでも足止めしろ!》
「「「了解!」」」
次々と現れた自衛隊員達は列車と併走し、車両に照準を定める。
「撃て!撃ちまくれ!」
「絶対に行かせるな!!」
銃弾の嵐が一行を襲う。
「マ、マジで撃って来やがったぞ!」
「やっぱり剣崎さんの話はマジだったのか!」
「火炎瓶、持って来て正解だったぜぇ~~!」
モヒカン頭の半グレは割れた窓から、ホームに向かって火炎瓶を投げる。
数人の隊員が炎に包まれる。
「ヒャハハ!!どうだァ~~!」
「特製火炎瓶の味はァ~~!」
レイカはタバコを吹かす。
『……もう私ら完全な悪役やわ』
『でもハルカに付いていく人間が徐々に出始めとる……』
『アイツでなければ救われない人間達も居る、ってコトか……』
『レイカさん……』
『エレナ、オマエの国ではどうなんや?』
『そういう連中居るか?』
『……居るわ』
『でもそういうのは大体……シベリアの奥地か、戦場か刑務所とかだけれど……』
『ただ一つ言えるのは、人生成功した人はそういう所には居ないってコトよ』
『……そやな』
(ただ、革命起こして権力を握ったのはその手の連中や)
電車は加速し、ホームを離れて行く。
自衛隊員達は列車に向かって撃ちまくるが、暴走し始めた車両は止まらなかった。
~ホテル~
~ゲオルグ様の部屋~
『……という訳でワンナイトラブキメました』
「ふぁぁぁぁ~~……!!」
アイカは泡を吹き、両手を前足のように曲げて倒れた。
フェルゼンはニコニコしながらゲオルグへ言う。
『ご感想は?』
『まず見た目が最高』
『具合も最高、俺の魔剣もうエネルギーゼロだわ』
『結構甘えん坊だったのが、ギャップを感じて良かったな』
『後キスが積極的。これはポイントが高いぜ』
『あらあら……❤️』
『随分と気に入ったようですわね』
『おう』
『それと処女だったわ』
『だから……せめていい思い出にしてやろうとは思ったよ』
『ゲオルグ様……』
『ま!』
『俺のナンバーワンはフェルゼンだけどな!(声:諏訪部)』
(本当は甲乙つけがたいんだが、こう言っておかないと拗ねるからな)
『きゃうんっ❤️』
アイカはふらりと立ち上がる。
『遺言はそれだけですかね、クソバカ王子……』
『これから常に命を狙うので悪しからず』
『おう狙え狙え』
『寂しくなったら何時でも抱いてやるぞ』
『おファッキュー&お断りですよ!!』
そこへシャワーを浴びて着替え終えたイチカが出て来る。
アイカは刮目した。
なんとイチカは朝から化粧をしていたのだった。
「ふぁっ……美しすぎる……!」
「何かを失わずして、何かは得られない……」
「この苦しみは愛ゆえの苦痛ですね……!」
(結構面白いなこのワン公……)
フェルゼンはスーツケースから自分の服を取り出し、イチカへ当てて行く。
『や~~っぱり似合いますわ!』
『超楽しいですわ~~!』
ゲオルグは二人を見て言う。
『女ってこういうの好きだよな~~』
『何着ても一緒だろうがよ』
『服を着てから言ってくれませんかね、このクソバカ王子』
『クソバカは余計だ』
『こう見えても俺はウプサラ大学(※1)出てんだぜ』
アイカは目を丸くして、ゲオルグに詰め寄る。
『そ、そんなの……お、おかしいですよ……!』
『何かが狂ってます!』
『こんなおバカが……』
フェルゼンは手を口に当てて微笑む。
『私が論文とか面接対策とか、諸々を手伝ったんですのよ』
『ゲオルグ様は高校を卒業するのも一杯でしたから』
『まぁ結局はそれでも足りず……』
『裏口ですか』
フェルゼンはアイカから目を逸らす。
『え、ええ……』
『公爵家の恥を晒すワケにも参りませんので……』
『ヨハン様とお父様に協力して貰い……』
アイカは鼻で笑う。
『ハッ』
『これからは裏口バカ王子って呼びますね』
『デケェ態度が更にデカくなったな』
『これが犬の順位制ってヤツか』
『犬よりバカな主人に対して、態度がデカくなるのは当たり前だと思うんですが』
『そもそも飼い主でもないですけど』
アイカはリモコンを机からひったくり、テレビを点ける。
そして英語字幕に切り替えた。
《それではお昼のニュースです》
《今朝千歳空港で北欧系の男が警察を振り切り、空港のガラスを割って逃走した事件で……》
『ハハハハ!!』
『一体何処のバカだよ、ソイツ!』
『北海道まで来て何やらかしてんだ!?』
ゲオルグは大笑いし、コーヒーを飲み始める。
《これが容疑者の映像です》
《警官のボディカメラには『我が弟ゲオルグ』とスウェーデン語で……》
彼はコーヒーを吹き出し、液体がアイカに掛かった。
アイカはゲオルグの顔をフォークで刺した。
ゲオルグは顔にフォークが刺さったまま言う。
『なぁ、フェルゼン……これ……まさか……』
『聞いてません』
『聞いてないですわ』
《そして次の映像です》
《空港に青い巨大ロボットが現れ、男はコクピットへ飛び込んで去って行きました》
《読唇術の専門家によると『さあ!いざゲオルグ探しの旅だ!!』と意味不明な事を男は……》
イチカはフェルゼンに言う。
『これ……まさかゲオルグのお兄さんじゃ……』
『他人の空似』
『空似ですわ』
『偶然おかしい人が偶然ゲオルグ様の名前を口にしただけでしてよ』
アイカはゲオルグを見る。
『……AIが作った合成映像じゃねぇかな(震え声)』
『へぇ~~』
『何処の企業がそんなAIアプリ開発したんでしょうねぇ』
『ア、アイドンノウ』
イチカはゲオルグの前まで来て言う。
『……このネッカチーフ』
『似合ってる?』
『に、似合ってるぜ』
『だから早く行こうや』
イチカの優しく、そして甘くなった赤い瞳がゲオルグを見つめる。
『何処に……?』
『そうだなぁ~~』
『お、小樽とか……』
『と、途中でクリスティナの家にも寄ってみたいしな!』
『そう?』
『私は何処かでゲオルグと一緒に昼ご飯食べたいけど……』
『ま、まあそれは道中考えようぜ』
(早くしねぇと兄貴が……兄貴が来る……!)
ゲオルグはベッドから跳び起き、服を着ようとしたその瞬間だった。
《ゲオルグーーゥ!!》
《ここら辺に居るのは分かってるぞ!!》
《お兄ちゃんと一緒にサウナへ入るんだ!!》
上空からヨハンの声が一帯に鳴り響く。
『フェルゼン』
『はい』
『クリスティナ達を隠せ』
『兄貴はもう本気モードだ』
『これは……本国での仕事を全部放り出して来てる』
『うわぁですわ』
『さ、イチカさんアイカさん、こちらへ……』
フェルゼンは二人を別の部屋へ連れて行こうとする。
《ははははは!!》
《相変わらず恥ずかしがり屋だな!!ゲオルグ!!》
《お兄ちゃんとかくれんぼか!?》
《探し当ててやるぞ!!ゲオルグ!!待ってろ!!》
アイカは若干引き気味にフェルゼンへ言う。
『……色々と極まってますねアレ……』
『幻聴』
『幻聴ですわ』
『お聞きになさらぬよう』
そしてフェルゼンがドアを開けて二人を別室へ押し込もうとした、その瞬間だった。
『はははは!!』
『ここに居たか!!ゲオルグ!!』
割れてない方の窓ガラスを割って青髪の男が飛び込んでくる。
男は華麗に回転して着地する。
『全く……探してしまったぞ、ゲオルグ……』
『中々スリリングなかくれんぼだった……』
『隠れざるを得ないだろこれは』
ヨハンはいきなり上着を脱ぎ始める。
『しかし……サウナ付きのホテルで待ってくれて居るとは……』
『私との約束を覚えていてくれてお兄ちゃんは嬉しいぞ……!』
『そんな約束をした覚えは無いんだが……』
『細かい事は良い』
『さぁ、兄弟水入らずで親交を温め合おうじゃないか……!』
『ダメだ』
『完全に脳内でストーリーが出来上がってやがる』
そこへフェルゼンが現れる。
『お義兄様』
『ご無沙汰しておりますわ』
『……フェルゼン』
『我が超カッコいい&可愛い弟を北海道まで連れ出したのはお前か』
『全く、お転婆な婚約者だな……!』
『もう会話についていけませんわ(泣)』
『私の領域に早々立ち入れるとは思わない事だ』
『まぁいい』
『ゲオルグをサウナへ連れて来たその働きは評価しよう』
『これから私とゲオルグはサウナへ行って来る』
『さぁ行くぞ!ゲオルグ!』
そう言ってヨハンはシャツを脱ぎ始めたが、ある事に気付く。
『む……!?』
『なんだ、フェルゼン以外の女の匂いがするぞ……!』
(ま、マズいですわ……!)
『《ミーミル・アイ》起動!!』
ヨハンの片目が光る。
彼は素早くフェルゼンの横を走り抜け、別室の扉を開けた。
『ど、どうも……』
イチカの赤い瞳が、半裸のヨハンを捉える。
ヨハンの橙色の瞳が鋭くなる。
『女』
『なんの企みがあって我が弟へ近づいた』
『な、成り行きで……』
『本当は温泉入りに来ただけなんですけども……』
『その後ゲオルグとの勝負に負けて……その……』
『その?』
イチカは恥ずかしがりながら、頬を染めて言う。
『しょっ、処女をあげました……』
『そ、空の上で……』
ヨハンは後ろを向く。
そして叫ぶ。
『ゲオルグーーぅ!!』
『説明してくれぇ~~~!!』
『お兄ちゃんは泣きそうだぁ~~!!』
ヨハンの嘆声が部屋に響き渡った。
※1 北欧最古の大学。ノーベル賞受賞者も多数輩出。間違ってもゲオルグ様が行けるレベルの大学ではないです。本来なら。
今回は狂人濃度高いですね
高っちゃんもヨハンお兄ちゃんもかなり狂った部類の人間ですが、多分一番狂ってるのは黒川だと思います。
超安定路線を即座にクソヤバ路線へチェンジしました。
一見普通な人が一番狂ってたりするんだよね。
『起終点駅 ターミナル』や、『鉄道員』は大好きです。
雪と鉄道とローカル駅ってなんであんなにもマッチするんだろうか……
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「次も期待している」「駅でボディビル大会すな」「ハルカの過去重そう」「黒川は堅気のレールから外れたな……」「レイやん今回は荒れてるな」「イチカがゲオルグに依存し始めてる」「アイカ面白いな」「平良まだ病院だぞ」
「フェルゼンかわいそう」「なんだこのお兄ちゃん」「完全に脳内ストーリー出来上がってて草」「叫ぶな叫ぶな」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します