バイオレンス・ラブトレイン(前編)
穴の奥まで線路が続いているなら……
電車で突っ込むしかないでしょ?
~昼~
~帯広某所~
「……というワケで」
「臨時でパーティーに入った高っちゃんや」
「皆仲良くしてくれや」
エレナはいきなり現れた黒光りする男に対し、椅子からひっくり返る。
『なっ、なにこの生き物!?』
『高っちゃんや』
『この世で一番頑丈な男や』
『ひぁっ』
『け、けど盾役としてはこの上ない程最高に見えるわ……!』
高っちゃんはいきなりフロントバイセップスのポーズを取った。
「おい!この銀髪ギャルは大丈夫なのかい!?」
「どうなんだい!?左大胸筋!」
彼の巨大な左大胸筋がピクピクと動く。
『ダイジョウブジャナイヨー』
彼は右大胸筋へ尋ねる。
「なにっ、大丈夫なのかい!?」
「じゃあ君はどうなんだい!?」
右大胸筋(声:高っちゃん)は答える。
『ダイジョウブダヨ!』
高っちゃんは両方の大胸筋へもう一度尋ねる。
「大丈夫じゃ大丈夫じゃないのか……」
「どっちなんだい!」
『『ダイジョウブダヨ!!』』
彼は胸を張りだし、笑顔をエレナへ向けた。
「それ中山きんに……」
「ハルカ、まだネタの途中や」
「邪魔したらアカン」
「スベるまで待てないんだよね」
「っていうか……エレナがもう大ウケしてんだけど」
エレナは手を叩き、腹を抱えて笑っていた。
「笑いの感性が全く違うん……」
「ヤー!」
「……ハッ(笑顔)」
「「「……」」」
レイカ渾身のネタに場が静まり返る。
笑いも起きなかった。完スベりである。
ハルカですら気まずそうな顔をした。
「……レイカ、お笑い向いてないよ」
「もうおうち帰って寝てええか?(涙)」
レイカがいじけてる横で、高っちゃんがポージングしながら言う。
「おい!これからどうすんだい!」
「ハルカさん」
「ヤー!」
「取り敢えずドローンを上空に上げて状況を見たいんだよね」
「多分徒歩で入れる所あるかもだからさ」
ハルカは当然のように、半グレの一人からコントローラーとディスプレイを受け取る。
レイカはスベりの衝撃から立ち直り、彼女の横顔から見る。
(もうウチの連中を手足のように使うてるわ……)
(ヘタな事言うと自分の頭が撃たれると思うて怯えとる)
(マフィアや半グレ、不良達とはまた違う種のアウトローや、ハルカは)
ハルカは街を南北に貫く巨大な亀裂を、ドローンで追っていく。
「……」
(千切れた線路が穴へ入り込んでる)
(農地も家屋も壊滅……)
ドローンを亀裂の上で制止させ、突入しようとする。
だが、映像に障害が起きる。
『電波妨害……』
『けど亀裂からまだ離れているのに……』
更に映像の砂嵐は酷くなる。
そして──
『きゃあっ!?』
蔦が意思を持ったようにドローンを追う。
エレナはディスプレイから逃げ出した。
ハルカはドローンを逃がそうとしたが、ドローンは蔦の集団に捉えられる。
「──ここまでだね」
「自分達で入って来い、って事なのかな」
映像は亀裂へ向かって回転しまくり、そこで途切れた。
エレナはもう車に入っていた。
『アレ?エレナどうしたん?』
『帰りましょう』
『帰るわよ』
『帰りたい』
『……もしかしてエレナ……』
『怖いの苦手か?』
『……そ、そんな事ないわよ?』
彼女の手足と肩は震えていた。
レイカはエレナの肩へ手を触れる。
『……大丈夫やエレナ』
『いざという時はオマエだけでも逃がしたる』
『合理性とか損得とか、そんなのもう関係無い話になっとるからな……』
『……レイカさん……』
『やっぱりハルカは何処かアーデルハイドに似とる……』
『あの二人の根幹にあるモノは狂気や』
『西の果てで生まれた狂気と、東の果てで生まれた狂気……』
『似ているのは皮肉やが』
レイカはエレナの手を握って言う。
『けど……今逃げたいのなら、逃がしたる』
『もう私の危険センサーが『これヤバい死ぬ』と言っとるからな』
『……ハルカの頭の中はいっちへの対抗心で一杯や』
『必ずそれでムチャをやらかす』
エレナは喉を鳴らし、何かを呑み込もうとする。
『私は……私が先生に見て貰えるのは……先生がパーパの部下でもあるからよ』
『そうでなかったら、私なんてとうに放り出されてるに違いないわ』
『……そんな事ないと思うけどな』
『あのおb……お姉さんはそんな冷酷なお人やないで』
『というか、エレナのオトンは何やっとる人なんや』
『マフィアの首領よ』
『私は二代目かな……』
『……全然人望も実力も無いけど』
レイカは禁煙飴を取り出し、舐め始めた。
『……だからいっちの事があまり好きやないんやな』
『自分に無いモノばかり持っとるから』
『そうよ』
『その癖ウジウジしたり、しょうもない事ばかりやったりするから……』
『もっとしゃんとしなさいよ!ってなっちゃうのよね……』
『それ私が欲しかったのに!もう私に寄越しなさいよ!って……』
レイカは微笑みながら、エレナへ言う。
『……ならこれから手に入れればええよ』
『お前はまだ時間があるんや』
『私が協力したる』
『ここから逃げないならな』
『──!』
『……レイカさん、ホント上手い』
『アナタは死んではならない人だわ』
『ふふっ。ありがとな』
『で、どうするんや?エレナ』
『逃げるのか逃げないのか……』
『どっちなんや?』
エレナは明るく微笑み、左胸を叩く。
『にーげない!』
『よし!』
『行こか!』
レイカはエレナを連れて車の外へ出た。
ハルカは腰に手を当てて、二人を待っていた。
「作戦、決まったよレイやん」
「線路を使う」
「線路!?」
「一体どないする積もりや?」
ハルカは路線情報アプリで、運航情報の画面を出してレイカへ見せる。
「根室本線は地震の影響で運行を停止中……」
「そして線路復旧の調査中」
「つまり、鉄道会社は動かない」
「──まさか」
「そう、頂くよ」
「車両を」
「線路はどうやら亀裂の内部へ続いてそうだしね」
「で、電車乗ってあの穴中突っ込む気か!?」
「ちょい待ちや、先がどうなっとるのかもわからんのやで!」
「帰還の目途も……」
ハルカは軽く口元を歪める。
「大・丈・夫」
「私は絶対にアイテムを手に入れて、皆を地上に返して見せるから」
「それに……」
彼女の瞳が狂気的に光る。
「穴の奥まで線路が続いているなら……」
「電車で突っ込むしかないでしょ?」
レイカはある種の神々しさを、ハルカに対して感じてしまった。
狂気的な作戦を語り、タクティカルベストを着込んで遠い目標を語るその姿に……
レイカは本で知っていた。その手の人種を。
(ベルナルドの訪問を待てば良いだけやのに、自分からデカいリスク取りに行く……)
(……ハルカは英雄か、それとも文字通りの神になるかもしれん……)
(けど、それは悲惨な破滅と表裏一体や)
(オマエはどっちになるんや、ハルカ……)
レイカは高っちゃんへ目線を送る。
(……今回はマジで頼んだで、高っちゃん)
(明らかにそこら辺のダンジョンと雰囲気ちゃうからな……)
高っちゃんはサイドチェストで、レイカの目線に答えた。
マジで頭がブッ壊れてるぜこの女。
こんな発想はイチカにもアイカにも出来ない。
そしてハルカの狂的な発想へ、レイカの実務能力が現実性を持たせてる。
イチカというハンドルやアイカというブレーキは無く、
あるのはエレナというおバカセンサーだけです。
でも車体が高っちゃん製で、制御プログラムがレイカだから皆生き残れる……ハズ。
で、エレナも表世界の住人じゃありません。
父親がロシアンマフィアの首領なので、普通に裏世界の住人です。
次期首領なんだよ、このおバカギャル。
感性は割りと常識寄りですが。
ハルカパーティーは純度100%の反社です。
ネジの飛んだ活動家に半グレにマフィア、そしてボディビルダーが揃って狂気100倍なんだ。
頼むぜレイやん。
フロイト先生的な解釈で言えば、
大地は子宮のメタファーで、裂け目はアレで、線路はへその緒です。
このおっさん頭おかしいだろ。
おかしくなってた。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
「面白かった」「次も期待している」「エレナに対する高っちゃんなりの気遣いを感じる」「ヤー!」
「レイやんお笑いのセンスないんだな……」「なんやこのダンジョンこわ……」
「レイやんは本当に気が遣えるお人」「親がマフィアはしんどいな……」「にーげない!」
「発想ブッ飛びすぎ」「ワクワクしてきた(震え声)」「フロイト先生はムッツリスケべ」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します